エリベルト・ルイス・タフォヤ “Packaged Food, Packaged Life: Corporate Food in Metro Manila’s Slums”

Heriberto Ruiz Tafoya “Packaged Food, Packaged Life: Corporate Food in Metro Manila’s Slums”

著者:Heriberto Ruiz Tafoya

出版社:京都大学学術出版会、アテネオ・デ・マニラ大学出版局
発行年月日:2023年2月28日

https://www.kyoto-up.or.jp/books/9784814004751.html?lang=en

書籍紹介

本書は、都市部の貧困層における食品消費の重要なカテゴリーとして、企業の加工食品(corporate packaged food: CPF)が出現した歴史的・現代的状況を取り上げたものである。研究のフィールドはマニラ首都圏のスラム街で、執筆と読書の指針となる主な問いは次の通りである: なぜ、マニラ首都圏のスラム街やその周辺のサリサリストアで、小袋やボトル、缶などの包装をした数十種類の食品ブランドが売られているのか?

一般的な説明では、人々は単に余裕があるから消費しているのだと主張する。対照的に、Packaged Food, Packaged Lifeでは、スラム街における企業ブランドの豊富な消費は、単に所得や個人のライフスタイルの選択によるものではなく、歴史的状況の結果――つまり、生活条件の制約や、人々が人格的成長を遂げるための機会の制約により、企業の加工食品がスラム街で広く普及することにつながった――であると論じている。

本書がユニークであるのはおそらく、著者自身がメキシコで都市貧困層であったという来歴から生まれた消費活動への観察眼であろう。具体的には、メキシコとラテンアメリカの倫理的・政治的アプローチであるBuen Vivir(よく生きる、または充実した人生・満ち足りた生活)という多要素的な概念から消費を見ることで、フィリピンのGinhawa(幸福を生み出す生命力)という対応する概念を見出すことができた。メキシコ(もしくはラテンアメリカ)とフィリピンの倫理観を統合的に解釈した視座から情報を詳細に整理、分析、解釈することで、貧困層が地域で人格的成長を遂げるための生活条件や機会の制約と、企業の加工食品の消費との間に、切っても切れない関係があることを示した。

2014年から2021年までにさまざまな貧困地域で収集された広範な経験的データと根拠のある情報に基づき、本書は「パッケージ化された生活」を特徴づける制約と、同時にそれが決定的な状態ではなく進行中のプロセスであることを明らかにする。このプロセスは本書の初頭で解説した。第2章では19世紀後半から現在に至るまでの企業の加工食品の拡大を時系列で説明し、続く第3章から第4章では企業ブランド名やコロナ禍における人々の食習慣などに触れつつ、現代の都市貧困層の食品消費について露呈している。本書の第2部にあたる第5章、第6章では、企業の加工食品がスラムの個々の過程にまで届くまでの経路、特にサリサリストアの戦略的役割やスラムで自社ブランド製品を宣伝・供給する政府・企業の戦略を明らかにした。

第3部のPackaged Lifeでは、マニラ首都圏の住民が着実に移行している、企業の加工食品の消費へ至る惨憺たる道を明らかにする。台風、洪水、地震、火災、パンデミックといった貧困層に深刻な影響を与える環境面での危機が頻発する現在、スラムの人々にとってパッケージ食品は必要不可欠である。本書はこの事実を受け入れつつも、企業が独占的に生産・供給することを否定している。企業への継続的な依存から脱却するためには、国家機関(例えば、メキシコの政府機関である LICONSA)や協同組合によるパッケージ食品の生産といった、他の可能性がある。

本書では、Ginhawa(ギンハワ)やBuen Vivir(ブエン・ヴィヴィール)のように、農村部の先住民が実践している食のオルタナティブを、都市の貧困の文脈での可能性として提案している。こうしたアイデアは「Unpacking life」と題した本書の最後部分として議論しており、政策立案者、NGO、財団、社会活動家等に参照してもらえれば嬉しい。

社会科学に携わる研究者であればどのような分野であれ、ベテランから若手まで、本書を異なる国や地域間の比較研究の参照にしていただけるかもしれない。本書のフィールドはフィリピンのマニラであるが、メキシコ、ラテンアメリカ、そして日本へ頻繁に言及している。 日本が重要な役割を果たしているのは、マニラのスラムでさまざまな日本の食品や飲料が流通しているからだけでなく、ヤクルトやコンビニエンスストアなど、ビジネスモデルが都市貧困層へ向けてビジネスモデルを大きく適応してきたからである。

まとめると、本書はスラムにおけるパッケージ食品の消費に関する先駆的な研究であり、加工食品の販売や消費、都市の貧困層の生活状況に関する議論や、異なる大陸の先住民の倫理や実践に基づく代替案を求めることに関心のあるさまざまな聴衆にとって、信頼できる参考資料となるであろう。

エリベルト・ルイス・タフォヤ