大江 將貴『学ぶことを選んだ少年たち――非行からの離脱へたどる道のり』

大江 將貴『学ぶことを選んだ少年たち――非行からの離脱へたどる道のり』

著者:大江 將貴
京都大学大学院教育学研究科研究員
2022年教育学研究科博士後期課程修了

出版社:晃洋書房
発行年月日:2023年2月20日

http://www.koyoshobo.co.jp/book/b621086.html

書籍紹介

2016年に再犯防止推進法が施行されたように、犯罪・非行からの離脱は、現代日本社会において重要な政策的・社会的課題である。2017年に策定された「再犯防止推進計画」における7つの重点課題の1つとして「学校等と連携した修学支援の実施等」が挙げられていることからも、非行少年の矯正施設退所後における修学は、犯罪・非行からの離脱プロセスにおいて重要な役割を担うことが期待されている。しかし、このような政策的・社会的な関心の高まりはありながらも、非行少年の学び直しへのプロセスは十分に明らかにされているとはいえない。このような問題関心のもと、本書は犯罪・非行からの離脱過程における教育機関への移行過程を元非行少年に対する縦断的なインタビュー調査から明らかにしようとするものである。

本書では、矯正施設入所以前の学校経験、少年院入院時の経験、矯正施設退所後における教育機関への移行過程という3つの分析を行った。

まず、矯正施設入所以前における少年たちの学校経験について分析を行った結果、以下の2点が明らかになった。1点目に、少年たちは、対教師や生徒間同士といった学校内で対人関係にかかわるトラブルを経験していた。彼らからは、教師への指導に対する反発心があったことや、同級生からのいじめなど対人関係に関わるトラブルがあったことが語られた。2点目に、その一方で、このような経験を持っていながらも、彼らは学校を肯定的に評価している部分も同時に有していた。その背景には、環境の変化に伴う人間関係の変化や、対人関係から得られる即自的な満足感があることが見出せた。

次に、少年院における経験と出院後の進路希望の形成過程について分析を行った結果、以下の2点が明らかになった。1点目は、少年たちは少年院への入院経験を肯定的にも否定的にも解釈していたということである。語りからは、少年院を自身が成長するための転機の場と意味づける一方で、緊張を生じていることが示唆された。そして2点目は、少年たちは少年院に入院している早い時期から、自身の希望進路を明確にしていたということである。しかしながら、少年院内で自身の進路希望を保持し続けることで生じる緊張があることも示唆された。

最後に、少年院などの矯正施設退所後における修学への移行過程について分析を行った。まず、教育機関へ移行する目的と移行に伴う障壁について確認した。教育機関へ移行する目的としては、親孝行や将来の目標のための「手段」、「普通」の高校生への憧れがあることが見出せた。なお、教育機関へ移行する障壁としては、少年院出院時と受験のタイミングの不一致、入試の不合格が挙げられる。続いて、少年たちの教育機関移行後の経験を分析した。一定期間修学を継続している少年たちは、再非行をせずに生活しており、修学することは、再非行を抑止する可能性が一定程度あることが示唆された。彼らが修学を継続できている要因として、修学することの楽しさや、将来の目標の実現、自身と似た経験を持つ友人の存在といったことが挙げられる。その一方で、調査を継続していくと、少年たちは葛藤を経験していることがわかった。その背景には、再非行への誘いと、教育機関に対する評価の転換があった。彼らが経験する葛藤は、少年たちの生活を安定的なものから不安定なものへと変化させるものの、少年たちは自身の持つ資源を活用し対処しようとしていることが見出せた。

本書を通じて、犯罪・非行からの離脱研究における新たな離脱プロセスを検討してきた。従来の先行研究では、矯正施設を退所後に、就労に従事することが犯罪・非行からの離脱プロセスと考えられてきた。しかし、本研究の分析を通じて、矯正施設退所後における修学が、少年たちの非行からの離脱に対して有効に作用する可能性があることを示した。

京都大学大学院教育学研究科研究員
大江 將貴