松葉 類『飢えた者たちのデモクラシー レヴィナス政治哲学のために』

松葉 類『飢えた者たちのデモクラシー レヴィナス政治哲学のために』

著者:松葉 類
同志社大学非常勤講師
京都大学文学研究科思想文化学専攻宗教学専修後期博士課程修了

出版社:ナカニシヤ出版
発行年月日:2023年3月25日

https://www.nakanishiya.co.jp/book/b623534.html

書籍紹介

われわれは社会において、多様な人々と暮らしている。彼らは誰で、どういう利害を分かちあい、どういう関係にあるのか。これらを問うために本書が助けとするのは、フランスで活動したリトアニア出身の哲学者、エマニュエル・レヴィナス(Emmanuel Levinas, 一九〇六-一九九五年)の思想である。彼の思想は多岐にわたって豊かな広がりをもつが、とくに根本的な仕方で倫理学を提示しようとした思想家である。本書が主に読解するのは彼の倫理学と、その裏面をなす政治哲学である。

レヴィナスによれば「他者」は、既存の秩序のなかではその意味を捉えることのできない声で私に呼びかける。ここでいう秩序とは、人が意識的に、もしくは無意識に用いている言語、学問、道徳、法律などのさまざまなルールのことだ。私がこの他者に対して応答するためにはいったんもとある秩序を差し止めて応答する手立てを探らなければならない。結果として普段通りの秩序を用いることになったとしても、差し止められた秩序はもとどおりとはいかず、今後はその外側にある例外としての他者を認めざるをえない。レヴィナスは、あらゆる秩序がこのような呼応の関係に支えられていると論じる。そこで考えられなければならないのは、このとき既存の秩序と、秩序の担い手にはどのようなことが起きているのかという問題である。秩序は定義上、暗黙のものであれ、明示的なものであれ、担い手の間で、ある程度の同一性をもって共有されていなければならない。この秩序をいったん差し止め、新しく作り変えるということが、いかにして可能なのだろうか。

レヴィナスはこの点について、「第三者」という語を用いて考えようとした。現実の社会において、私と他者との呼応の関係とは別に、あるいはその関係のなかにすでに、私や他者とは別の誰かが存在している。この誰かこそが第三者である。私は他者、第三者たちとともに社会とその秩序を担っている。この第三者をめぐる議論において、レヴィナスは他者との関係――「倫理」――と、秩序の担い手同士の関係――「政治」――とを結びつけようとしていた。問うべきは、他者との関係が、政治と第三者に何をもたらすかである。現実にそくして社会を考えようとする場合、第三者と政治は、他者と倫理という主題の裏側につねに付きまとう。そうするとレヴィナスは、倫理学の思想家であると同時に、政治の意味を問う政治哲学の思想家でもあることになる。本書は彼のこうした側面から当初の問いに向きあおうとする。

(本書「はじめに」より)

同志社大学非常勤講師
松葉 類