連携研究プロジェクト

認知天文学の創出:天文景観情報の認知から人類の宇宙観を探る

2026.01.28

プロジェクト代表者:
上田 祥行(京都大学人と社会の未来研究院・准教授)

連携研究員・共同研究員:
高田 裕行(国立天文台天文情報センター・専門研究職員)

プロジェクト紹介

本研究では、これまでヒトが宇宙をどのように認知・解釈してきたのかを、天文と地上景観の織り成す複合的視覚情報(以下、天文景観情報)を手掛かりとして読み解くことで、天文景観の認知とその利用、さらにはヒトが持つ宇宙観の全体像を描き出す「認知天文学」の創出を目指す。これを実現するための基本的な問いは二つである。一つ目は、天文景観が「どう見えた」のか、二つ目は「なぜそう見えた」のかである。一つ目の問いは、客観的な天体配置と地上景観の物理的関係を問うもので、過去に見られた天文景観を正確に再現することでその解答が得られると考えられる。二つ目の問いは、天文景観を知覚し認知し解釈する人間の心理的反応を問うもので、さまざまな心理的・認知科学的処理を経て個々人の、あるいはコミュニケーションを通じて集団の認知を調べることで解答が得られる。これら二つの問いを照合して、物理的な天文景観情報と心理的な認知の対応関係を追うことで、両者の間にどのような相互作用や因果関係が生じ、そこからいかなる宇宙観が形成されるようになったのかを実証的に探究する。

本年度の研究プロジェクトでは、星空の認知と星座の創出に焦点をあて、星と星との空間関係性の理解について検討した。現在の日本の初等教育で習う星座は複数の星を大きく結んでイメージの骨格とするという西洋文化に根付いた考え方であるが、文化人類学的観点から、日本では従来ごく少数あるいは一つの星に注目して、時間や方角などを把握してきたことが知られている。そこで、既知の星座を再現させるのではなく、天文景観を自由に認知しようとするときに、観察者が持っているデフォルトの認知方略がどのようなものかを検討した。

実験では、オープンソースプラネタリウム(Stellarium)で作成した星空の見えの景観(24枚)を参加者に呈示し、星と星を結んで星座を作るように教示した。この際、知っている星座を探すのではなく、星空で再認識が可能だったり、他の人も認識できたりするようにという制約の下で星座を自由に創出することを求めた。実際に作成された星座を図1に示す。

図1. 実験で同じ星空に対して4名の参加者が作成した星座

これらの結果から同じ星空に対しても、異なる星座が見出されていたことがわかる。しかしながら、完全にランダムに創出されているのではなく、ある程度共通したいくつかの規則があることも示唆された。一つ目の規則は、星座の区切りが比較的同じ場所にある点である。この傾向は点(星)のグルーピングやクラスタの知覚に依拠していると考えられる。二つ目の規則は、描かれた事物にはいくつかのバリエーションが存在するものの、何らかの生き物を模していると思われるものが多くあった。この傾向は「星座とはこういうものである」という事前知識の影響も考えられるが、特定の形を模さない模様でも生物に見えることが多いという先行研究とも一致する(パレイドリア現象:高橋, 2023)

本研究の結果から、自由に星座を創作するとき、必ずしも同じ星座が創られるわけではないが、その生成物にはいくつかのパターンがあることがわかった。また、こうしたパターンはこれまで知られている心理学的現象とも一致しており、星座に生物やその物語が付与され、それが共有されるのはこうした心理特性に依拠していると考えられる。今後は、時間や方位を知るといった目的を付与した際にこれらの傾向がどのように変わるかなどを検討し、天文景観の認知に反映されている世界観についても検討を進める。