現代美術による地域活性化:人物トラッキングと表情識別AIを用いた効果測定

プロジェクト代表者:
伊勢 武史(京都大学フィールド科学教育研究センター 准教授)

連携研究員・共同研究員:
・藏田 典子(京都大学大学院人間・環境学研究科 博士後期課程)
・高屋 浩介(京都大学大学院農学研究科 博士後期課程)

プロジェクト紹介

本研究課題は、美術展示やそれを実施する施設がもたらす心理的効果をAIを用いて可視化することを目的としている。現代美術による古民家の活用と地域再活性化を目的として活動を行っている団体「Do A Front(山口県山口市)」の協力を受け、古民家美術展示施設の来訪者に与える効果を、AIを用いて定量推定した。

AIを活用することには以下のメリットがある。(1)自動的にデータ解析を実施できるため、人手による調査では扱えない大量のデータを取得することができる。(2)アンケート調査と比較して、来場者の負担が少なく、また来場者自身が意識していない反応を発見することも可能となる。(3)調査者によるバイアスが生じないため、安定して長期間のデータを取得し、法則性を議論することが可能となる。

本研究課題では、第一段階として、対象物を鑑賞する被験者の表情に現れる感情を、AIプログラムPy-featにて推定した。Py-featは深層学習による表情認識技術(Deep Facial Recognition: DFR)を利用しており、本研究課題では本プログラムをGoogle Collaboratory上で実装した。男女それぞれ1名の被験者の協力を受け、モニター上で日本美術(本阿弥光悦「舟橋蒔絵硯箱」)、西洋美術(ギュスターヴ・モロー「サロメ」)、スポーツ(アメリカンフットボール)を表示し、閲覧した際の表情を記録して解析した(図1)。その結果、美術作品を観た際には複数の感情の入り混じった表情が記録された一方、スポーツを観た際はhappinessの表出のみが記録された(表1)。

図1.西洋美術を鑑賞した際の表情の例。
表1.対象物を鑑賞した際の表情のAI識別結果。数値は%。

第二段階では、実際の美術展示施設における鑑賞者の表情データの取得および感情の推定を行った。その結果、美術展示施設においては、作品そのものの持つ心理的効果に加えて、周囲に存在する他の鑑賞者の挙動や会話が、鑑賞者の感情に大きな影響を与えることがわかった。本研究課題において、美術展示や、それをきっかけとして生じる他者との交流が人の心理に与える影響が定量化されたため、地域活性化などに活用する際の客観的な根拠が得られた。今後は、これらの心理的効果を活用した展示などにより、来訪者のウェルビーイング向上に資する実装が期待される。