人を対象とする非医学系研究の倫理審査に係る課題と研究者ニーズの導出

プロジェクト代表者:
渡邉 卓也(京都大学医学部附属病院 倫理支援部特定講師)

連携研究員・共同研究員:
森 拓也(京都大学医学部附属病院 倫理支援部・特定助教)

プロジェクト紹介

人を対象とする研究を実施する際には、研究対象者への倫理的配慮が不可欠です。欧米では、第二次世界大戦中や戦後に行われた非人道的な研究の反省に基づいて、早くから研究規制の整備と、当該規制に依拠した倫理審査の仕組みづくりが進められてきました。そうした潮流を受けて、今日ではわが国でも、人を対象とする研究の倫理審査が行われるようになっています。しかしながら、現状では、医学系研究を規制の対象とした倫理審査のルールづくりが進展している(行政が主導する形での倫理委員会の運用規準の策定;たとえば、2023年現在「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」がある)一方で、同じ人を対象とする研究であっても、非医学系研究(人文・社会科学系,自然科学系を含む)を規制の対象としたルールは明確になっていません。

人を対象とする研究である以上、非医学系研究においても特質に応じた倫理面の配慮が必要であり、それを担保する役割を担う倫理委員会が果たす意義は大きいといえます。質の高い倫理審査は、研究者が(研究対象者やその家族、さらには社会からの信頼と負託に応えた)質の高い研究を遂行するうえで、きわめて重要な機能を果たしますが、必ずしも踏み込んだ議論が行われていない状況にあります。そこで本申請プロジェクトでは、現行の非医学系研究の倫理審査の内実を明らかにし、その課題や改善策を検討することで、非医学系研究の倫理審査の質の向上に資する倫理審査の枠組みを検討することを目的としました。

まずは先行研究(渡邉, 2018)の結果を受けて、非医学系研究の倫理審査を行っていることが確認できた大学の中から、機縁法により関西圏の4つの大学を選定し、当該大学の倫理委員会事務局のスタッフを対象としたヒアリング/予備調査を実施しました(本稿では本申請プロジェクトのうち、現在までに結果をまとめ終えた部分についてのみ、かいつまんで報告することにします)。ヒアリングの結果、A大学、B大学、C大学における倫理審査では、非医学系研究を医学系研究とは異なる運用規準で取扱っていました。たとえば、非医学系研究については、倫理的妥当性の精査に特化した倫理審査を行い、医学系研究については、行政による研究規制に則してその適合性の観点からも審査を行うといった具合でした。一方で、D大学における倫理審査では、1つの倫理委員会の中で非医学系研究と医学系研究の両方を審査し、非医学系研究を医学系研究と同じ運用規準で(行政による研究規制に則して)取扱っていました。

現状、非医学系研究を審査する倫理委員会の運用規準はさまざまです。先に述べたとおり、非医学系研究の倫理審査のルールは行政によって規定されていません。したがって、多様な倫理審査の形があることは理解できます。しかしながら、運用規準はさまざまであっても、倫理審査の質までさまざまであっては本末転倒といえます。倫理委員会ごとに審査の質がばらついていると、たとえ倫理委員会で承認された研究であっても、当該研究が高い倫理性を備えているかどうか判断することも難しくなります。しかしながら、非医学系研究に対して単純に医学系研究と同じ研究規制を適用することには慎重になる必要もあります。医学系研究の倫理審査の枠組みの模倣ではなく、非医学系研究の特質とそれに応じた倫理的配慮のあり方を検討するような倫理審査の視点を醸成することが必要といえるでしょう。