映像から考えるableism (健常主義/障がい者差別) 研究

プロジェクト代表者:
ミツヨ・ワダ・マルシアーノ(京都大学大学院文学研究科教授)

連携研究員・共同研究員:
・久保田 翠(認定NPOクリエイティブサポートレッツ・理事長)
・立岩 真也(立命館大学大学院先端総合学術研究科・教授)
・谷本 拓郎(京都光華女子大学健康科学部心理学科・講師)
・角尾 宣信(和光大学表現学部総合文化学科・専任講師)
・出口 康夫(京都大学文学研究科・教授)
・吉田 寛(東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻美学芸術学講座・准教授)

プロジェクト紹介

【研究紹介・概要】

本研究は、障がいのある人々の置かれた日常生活空間を観察し、このような現実空間と、「オンライン配信映像(例えばYouTube画像)」といった仮想空間とを並置させながら、暮らしの中に浸透している〈健常主義〉—障害者差別—に対して、どのように学習棄却(unlearn) をすることができるのか、その方法を模索する。

【分析対象】

社会にはいろいろな障がいが溢れており、一概に「障がい者」をひとつのグループに括ることはできない。そこで本プロジェクトでは、研究対象として、静岡県浜松市にある認定NPOクリエイティブサポートレッツという重度知的障がい者を対象とする福祉施設と、そこから発信される200本以上のYouTube画像『のヴァてれび』とを分析対象とした。昨年8月から、4回に渡り浜松を訪れ、利用者たち、スタッフの人々、そこで映像を作り発信しているメンバーからヒアリングを重ねながら、二つの空間——生活空間(現実)と映像空間(仮想)——の交差から、現代の〈健常主義〉に何が見えてくるのか、またどういった新しい知識を取り込み、何かを変えて行くことはできるのかについて話し合ってきた。

【領域・方法論】

このプロジェクトは、異なる学術領域の専門家たちと、現場にいるスタッフたちとの各々の領域を越境するメンバーによって構成されている。映像学(ワダ・マルシアーノ、角尾)、哲学(出口)、福祉心理学(谷本)、障害学(立岩)といったアカデミックの立場から〈健常主義〉の問題性を考えるだけではなく、実際の福祉の現場の声を聴きながら(久保田+スタッフ+利用者)、社会において無意識化されている非障害者優先主義の問題に対し、どのようなアプローチが可能かを話し合った。いわば、前年度は、新しい学術領域での研究成果を導き出すための可能性について語り合う、実験的な期間であったといえよう。

いまだコロナの影響が色濃かった昨秋は、プロジェクト代表者と各研究員とのオンライン・ミーティングやオンライン合同ワークショップ(以下WS)を重ね、2023年1月25日には京都大学にて対面でのWSを行った。また、そこでは、それぞれの研究員がどのようなスタンスでこのプロジェクトに参加することができるかについて、各自20分の発表が行われた。

本プロジェクトは、人文社会科学の領域において非常に新しい分野である。社会のニーズと、大学内で築かれたさまざまな知力とが、融合することの可能な研究であるからだ。分析対象である『のヴァてれび』画像を通した、〈障がい〉と〈映像〉との交差から、多くの疑問が生まれた:「健常な身体性とはどういったものなのか?」「機能制限、活動の喪失や制約(impairment)を抱える人々にとって、身体性は何を意味するのか?」「障かいのある人々に〈居場所のある社会〉——経済的に満たされるだけでなく、自分が必要とされていると感じられる社会——は作れるか?」、「こういった疑問は彼らから配信される映像とどのように結びついているのか?」。このような疑問に対する安易な解答はいまだ出されていない。しかし、本プロジェクトを今後も継続させることにより、引き続きこれらの疑問に取り組んでいきたい。 

映像から考えるableism (健常主義) 研究は、現代社会の中で問題視されながらも、一つの回答に集束されることのない問い—答えのない問い—に取り組もうとしている。一つ明らかなことは、健常主義問題が、現在社会においていまだ支配的な重層的な無意識の抑圧、例えば男性中心主義、異性愛規範、年齢差別、人種差別といったものと不可分であるということだ。本プロジェクトは、社会におけるオータナティブな選択肢の可能性を追求することを主眼としている。

【2022年度成果報告】

  • 2022年8月 第1回目クリエイティブサポートレッツ訪問(ワダ・マルシアーノ)。
  • 2022年9月 第2回目クリエイティブサポートレッツ訪問(ワダ・マルシアーノ、角尾)。
  • 2022年10〜11月 プロジェクト代表者が各共同研究員と個別オンライン・ミーティング。
  • 2022年12月 第1回目Workshop オンライン。
  • 2023年1月 「ともにいるだけで学びになる〜福祉とアートの現場から〜」シンポジウムに参加(ワダ・マルシアーノ)。
  • 2023年1月 第2回目Workshop 対面@京都大学。
  • 2023年3月 「ケアする映画をたどる」上映会参加@大阪中之島映像劇場(ワダ・マルシアーノ、角尾、出口)。
  • 2023年4月 第3回目クリエイティブサポートレッツ訪問(ワダ・マルシアーノ、出口)。