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アジア的伝統文化の影響を受けた資本主義社会と今後のヴィジョン ―タイでの実証研究を基に
2024.12.12
プロジェクト代表者:
今村 都(京都大学人間・経営管理大学院・特定助教)
プロジェクト紹介
本研究はタイでのフィールドワークを中心として取り扱いながら、タイ的な文化が資本主義社会の在り方にいかに影響を与えるか、また、アジア的な文化の影響を受けた資本主義社会で幸福な生活を営むために必要な社会的ヴィジョンとは何かを考察することを目的としている。このため、本プロジェクトにおいては以下の2つの観点で活動を行った。
【タイ的な生死と家族観に関する調査】
2023年12月にタイで展開されているKid Mai Death Awareness Caféを訪れ、エキシビションの視察およびタイ人キュレーターとの対話を行った。本カフェ名のKid Maiとはタイ語で「新たに考える・考え直す」を意味する。ここでは、生まれてから死ぬまでの人生の変化をエキシビション内で経験することにより、死を身近に感じ、現在の生き方を考え直すことを推奨している。キュレーターの話によると、人生に悩んだ若者の訪問も多いが、老齢の親とともに来訪するケースも多い。また、本エキシビションを通して、死を身近に感じ、なんとなく生きていた日常を考え直す人も多いという。キュレーターの説明の中でも特に印象的だったのが、意外な経験が家族と関連付けて語られるところである。例えば、エキシビションの最後には訪問者自らが棺桶に入って死を経験するしかけがあるが、そこでは、「いつか必ず死が訪れる、人間だれしもいつ死ぬかわからない、まだ許していない家族がいるなら、早めに許した方がよい」という説明がなされ、「家族を許す」ことは今世でやりとげることの中でも重要な位置を占めていることが伺える。
タイ人の家族観に関しては、申請者のこれまでの研究においても、農村出身の工場労働者にとって、家族の生活を支えるというPhara(重荷、責務)が彼らの労働観の中心にあることが分かっている。2023度は、哲学研究者との共同研究会も行っており、申請者の上述の研究内容に関するディスカッションも行った。このディスカッションの成果からも、後述するタイ人の宗教観に加え、家族を中心とした集団主義的な自己観が彼らを理解する上でひとつ重要なポイントであることが示された。
【タイ的な宗教観と資本主義社会に関する調査とセミナー】
タイ的な宗教観に関して、2023年12月にタイ国内のハラール食品の流通と、仏教徒のタイ人におけるハラール食品に関する認識の調査を行った。タイの宗教というとマジョリティである仏教をイメージすることが多いが、タイは最大の仏教国でありながらイスラム教徒が共住し、この二つの宗教の日常が混ざり合って存在している稀有な場所でもある。例えば、大学内の屋台群にもハラルフードを売る店が必ずあり、それをイスラム教徒だけではなく仏教徒の学生も違和感なく購入し消費しているという実態がある。他方で、仏教徒のタイ人はハラール自体への認識はさほど持っていない。ハラールという言葉も浸透しておらず、他の宗教に対しては「無関心かつ寛容」という受動的な共生の在り方が観察された。
また、タイ人の仏教観と資本主義化に関しては、2024年3月に、タイ・チュラロンコン大学のSasin Business SchoolよりHee Chan Song氏を招き、セミナーを行った。ここでは、タイの仏教寺院におけるフィールドワークにより、宗教的に熱心な人ほど、資本主義的な活動(仕事をしたり、金を稼いだりすること)に対して消極的になるという、宗教活動と資本主義活動の反比例的な研究成果が発表された。ただし、その後のQ&Aでは、因果の在り方に関して、「経済的に恵まれない状況にある人を、宗教が救いにいっているという側面はないだろうか」という質問があり、タイの仏教と資本主義活動の間の関係についての議論を行った。