連携研究プロジェクト

「紫」の糸が繋ぐ日本古来の伝統文化と希少染料植物の保護

2024.07.29

プロジェクト代表者:
矢崎 一史(京都大学生存圏研究所・特任教授)

連携研究員・共同研究員:
・岡田 貴裕(佐賀大学・医学部・助教)
・渡邉 啓一(九州栄養福祉大学・食物栄養学部・教授)
・松川 博一(九州歴史資料館・学芸調査室長)
・中西 浩平(京都大学・生存圏研究所・大学院生(D3))
・近藤 菜友(京都大学・生存圏研究所 ・大学院生(M2))

プロジェクト紹介

 本研究では、和服や法衣の紫根染めにとって重要な国産のムラサキを定義するとともに、外来種で色素含量が低く商業価値のないセイヨウムラサキを遺伝子レベルで区別するのに必要な技術開発を行なっている。実際我が国では、ムラサキの名でセイヨウムラサキが流通し、また誤った認識で栽培されており、交雑種の発生が大きく危惧されている。これまでに、共同研究者である佐賀大学の岡田貴裕博士と九州栄養福祉大学の渡邉啓一教授の協力を得て、両植物種のゲノムデータを解析し、95%以上相同な配列2箇所を挟んでサイズが100〜1000 bp異なる遺伝子領域(プライマー設計部位)を、コンピュータ上で40個絞り込んだ。この配列情報を使って、実際にムラサキとセイヨウムラサキからゲノムDNAを調整し、それを鋳型としてPCRを行った。

 上記40ヶ所のプライマー設計部位から 20種類のPCRを行ったところ、ムラサキとセイヨウムラサキとで、ゲノムDNA断片の増幅にサイズの違いが見られたPCRが複数あった(図)。そこで、その再現性を見るために、全国各地から集めた来歴の異なるムラサキのゲノムDNAを得て、PCRを行ったところ、産地による違いの影響を受けず、同一のDNA断片の増幅が認められた。この年度内には、ムラサキの名で分与された植物の鑑定依頼が新潟県からあって、早速この研究で開発した遺伝子マーカーを用いたPCRを行ったところ、セイヨウムラサキであることが判明した。実際、形態からもセイヨウムラサキであることが強く疑われていたため、それを遺伝子レベルで実証する成果となった。

これ以外に、ムラサキの葉緑体ゲノムの解析に関して、共同研究者の佐賀大学の岡田博士より、関連する内容の学会発表を行った。PCRによる植物種判別のためのマーカー遺伝子の開発とその応用に関しては、データをさらに積み上げてから論文化する予定である。

本研究の成果は、以下にて発表、情報発信を行なった。

・日本新薬第6回山科植物資料館セミナー 2023年10月29日(京都)
「植物が支える日本の文化と人の健康 ―薬と色素としてのムラサキを例に ―」
 矢崎一史(京都大学生存圏研究所)
・プレスリリース「日本の伝統文化と植物科学を結ぶ「紫」の糸 ―絶滅危惧植物ムラサキをめぐる昔と今―」矢崎一史、棟方涼介、伊藤瑛海(京都大学生存圏研究所、お茶の水大学理系女性育成啓発研究所)
・加美町薬用植物研究会 講演会 2023年11月11日(宮城県加美町)
・「日本のムラサキに隠された秘密を先端科学から読み解く」矢崎一史(京都大学生存圏研究所)
・クオリア塾 2023年第7回京都クオリア塾 2023年12月16日「プラネタリーヘルス~地球の健康を支える“植物”の力」
・日本農芸化学会 2024年度大会 2024年3月27日(東京)
「葉緑体ゲノム情報に基づくムラサキ在来種の母系の理解」
 岡田貴裕(佐賀大医)、 矢崎一史(京都大生存研)、 佐々木 健郎(東北医科薬科大)、 渡邉 啓一(九州栄養福祉大)