お知らせ
こころの未来講演会『死別悲嘆を巡る』を開催しました
2013.12.09
こころの未来講演会『死別悲嘆を巡る』が、12月2日と5日、稲盛財団記念館大会議室でおこなわれました。
高齢化や自然災害、突然の出来事などで愛する人と死別したとき、その悲嘆からどうすれば立ち直れるのか?2011年に起こった東日本大震災を機に、いま「グリーフケア」(悲嘆のケア)の重要性が見直され、注目されています。今回の講演会は、長年、日本人の「生老病死」を見つめ続け、終末期医療や臨死体験、グリーフケアなどの研究に取り組んでいるカール・ベッカー教授が企画し、アメリカからの講師を招いての講義と、9.11同時多発テロをテーマにした映画の上映を含んだ講演会の二本立で2日間にわたって開催されました。
第1日目は、「薬品で悲嘆を癒せるか?縲廛SM-5の悲嘆研究」というテーマでカリフォルニア州チコ市のソーシャル・ワーカー、Susan McCue先生が講演をおこないました。米国の「精神障害の診断と統計の手引き」と言われる「DSM-5」が十数年ぶりに再編され、「死別悲嘆」が新たに精神疾患として薬物療法の対象となった経緯と実態について、McCue先生はDSM-5を研究し議論に関わってきた立場から報告すると共に、悲嘆の病理学と症例について解説しました。
第2日目は、「9.11からの回復過程」をテーマに、アメリカ同時多発テロで肉親や婚約者を失った遺族や現場で負傷した被害者ら5人のそれぞれの9.11以降の9年間を記録した映画『Rebirth』(リバース)を上映しました。『ロビン・フッド』等の代表作を持つジム・ウィテカー監督による『Rebirth』は、想定不可能な悲劇を体験した5人を9年間にわたって定期的に撮影し、彼らの変化と悲しみを受容してゆく過程を記録したドキュメンタリー映画です。現場で同僚を失った消防士、愛するフィアンセを失った女性、母を失った少年、ビル倒壊に巻き込まれ重度の火傷を負った中国系の女性、弟を失ったニューヨーク自治体の工事現場担当という5人の人物がそれぞれに喪失の悲嘆に襲われ、激変した人生と向き合う姿はあまりに過酷で生々しいものですが、歳月という時間の助けをかりながらRebirth(再生)していく姿は、観る者に強い感動と問いかけを与えてくれます。本作は、東京国際映画祭で注目を浴び、数々の映画賞を受賞しましたが、今回、監督の教育的配慮により、本学で無料上映する許可を受け、講演会のプログラムに加えることができました。
参加者には事前に登場人物の名前とプロフィール、それぞれの「感情の変容」「考え・思いの変容」「記憶や希望の変容」「何が要因で何を学んだ」かを書き込む用紙が配られ、映画を観ながらそれらをメモし、参加者自身の感情もどう変化し、どのような気付きや教訓を得たかを書き記しました。それをもとに上映後、ディスカッションがおこなわれました。
上映後の討論で、参加者からは「悲しい出来事を”忘却”するのではなく、人生の一部として取り込んでゆくことが癒しと再生につながることが分かった」「自分では体験しなかったことを映画で教えてもらえたことで、今後、同じ体験をした人にどう対処すべきか、自分がどう受けとめるべきかを教えてもらえた」「悲嘆を乗り越えた5人の背後には、数えきれない無言の被害者がいることも考えるべき」「9年経って、自分は幸せだと言った登場人物の言葉に救われた。しかしまだ完全に悲嘆を乗り越えたわけではないのでは?」といった感想や問いが寄せられました。ベッカー教授は、「忘却が悲嘆を乗り越える方法ではない。9年間という長い歳月のなかで、それぞれが自分の人生で経験を消化し、自分の人生の一部へと受け入れていったことが回復に繋がったといえる。この映画は9年間の撮影期間がかかっている。喪失経験をした人に対して『もう一年経ったから大丈夫でしょう』と言うことはできない。それだけ悲嘆を乗り越えるには長い時間がかかることも、ケアやサポートの中で考えていかなければいけない」と話し、講演会を締めくくりました。
[DATA]
「こころの未来講演会『死別悲嘆を巡る』」
▽ 日時:(Part1)2013年12月2日(月) 15:00-17:30(Part2)12月5日(木) 15:00-17:30
▽ 場所:京都大学 稲盛財団記念館3F大会議室
▽プログラム
Part1 薬品で悲嘆を癒せるか?~DSM-5の悲嘆研究
講師:Susan McCue先生(カリフォルニア州チコ市ソーシャル・ワーカー)※通訳無しの英語講演。概要と質疑応答は邦訳。
Part2 9.11からの回復過程「Rebirth」上映を参考に
講師:カール・ベッカー教授(京都大学こころの未来研究センター)
▽参加者数:約30名
[開催ポスター]