お知らせ
第3回 為末大 vs.下條信輔 対談セミナーを開催しました
2014.03.06
第3回 為末大 vs.下條信輔 対談セミナー「自分の知らない自分:潜在意識と感情」が、2014年2月22日(土)、稲盛財団記念館大会議室で開催されました。
3回シリーズの最終回となった今回も、前回に続いて京大内外からの参加者が数多く集まりました。体育会系のジャージに身を包んだ学生から年配の男女まで多彩な顔ぶれで、セミナーの人気をうかがわせるものでした。はじめに挨拶に立った吉川左紀子センター長は、「今日のテーマは為末さんが下條先生と話したいと思うきっかけとなった下條先生の著書にもある『サブリミナルマインド』、潜在意識についてです。また、オリンピックをめぐるトピックについても話が聞けそうです。前回、前々回と同様、参加者の皆さんからの質問をたくさん受けながら、盛り上がりたいと思います」と話しました。
折しも当日はソチオリンピック最終日の前日。下條教授は、「こんなタイムリーな時期に為末さんと対談できるのだから」と、前半はオリンピックについて話すことを提案。「今回のオリンピックは競技そのものも面白かったが、メディアやインターネットを賑わした話題が多かれ少なかれ人間の心理、社会、政治に対して新たな提案をしてくれたのではないか」と話し、ソチオリンピックでのエピソードを幾つか取り上げ、為末氏のコメントに対して心理学的見知からの考察を加えて分析しました。為末氏は、オリンピックという環境の特殊性にふれながら「これまでの(下條教授との)対談をふりかえると、潜在意識が周辺環境から多分に影響を受けるとすれば、どこまでが自分の潜在意識と判断すべきなのか。フィギュアでの浅田真央選手の2度の演技も、オリンピックという特殊な舞台だったからこそ、あの滑りになったのではないか」と、環境が潜在意識に及ぼす影響の大きさについて話しました。下條教授は、「心の顕在課程に対して潜在課程はより生理的。人間は外部の価値観をインプットして自分の価値観に転化する。潜在的な価値観は、突き詰めると文化、環境につながってくる」と話し、心と身体と環境が一体であることを強調しました。
その後の為末氏による単独のレクチャーでは、オリンピックの話題に続く形で、潜在意識とスポーツの現場での経験を関連づけながら「勝負強さ」をめぐって考察。「”ついやってしまう”という見えない自分とのコンフリクトにどう対処するか、スポーツの世界ではその葛藤が如実に表れる。自分を律してコツコツと努力する人がいる一方で、自分との”取引”ではなく単に”好き”でトレーニングし、勝負に挑む人が勝ったりする。他人の期待値が自分の期待値より下回っている選手は強い。今回のオリンピックでメダルを取った人は、オリンピックを知らなかった人か、オリンピックを知り尽くした人のどちらかではないか」と、話しました。
セミナー中盤には、下條教授が潜在意識に関する研究のこれまでの取り組みと研究事例を紹介。「海面から見える氷山の一角のように、顕在化された意識はごく一部であり、水面下の巨大な氷のように潜在意識が隠れている」と話し、「潜在的なものの一部が顕在化してはいるが、境目は揺れ動いている。心は統合されていない」と、認知心理学的観点から見た脳機能と心の有りようをスライドで解説。「加えて、心の潜在課程は身体的であると同時に社会的。蓮の花の根っこ同士が池の底でつながっているように、自分と他者は意外とつながっている」と、ニューラルネットワークの考え方やユング心理学の集合的無意識などを紹介しながら、人の感情や行為が文化や環境の影響を多分に受けることの裏付けを多角的に解説しました。
後半には過去2回の対談を総括する形で、参加者から反響の大きかったリベットの「自由意志」や「直感の後付け再構成」と呼ばれる予感の書き換えなどの話題をまとめながら、潜在意識と勝負強い人との関係について、対話が進みました。為末氏が「いざ本番のときに何かから離れられない人は弱い。夢中な状態では自分がいなくなる。あるべき自分からあきらめたとき、人は強くなるのではないか」と考察すると、下條教授は「fMRIを用いた研究データを見ても、報酬の高さを意識すると難しい課題へのパフォーマンスが下がることが明らかになっている」と事例を紹介しながら、「損失回避傾向が大きくない人ほど、”つぶしがきく”のだろう」と応じました。参加者からの質問時間では、これまで同様に活発に手が挙がり、「目標設定時に気をつけるべきポイントは?」「女子選手の話題に指導者がよく出てくる背景は」「自由意志はそもそもコントロール不可能?」といった多彩な問いが投げられました。
3回に渡った対談セミナーを終えるにあたり、為末氏は「自身の経験を振り返るなかで、潜在意識という関心にぶつかった。経験を後付けで解釈し、今を幸せに生きるための方法論がまだまだ少ないなか、こうして下條先生の学術的バックグラウンドを得ながら心へのアプローチができてよかった」と感想を述べました。下條教授は「為末さんが関心を持って投げかけてきた心の問いと、研究者が持つ心への関心との間には、まだ広大な前人未到のフィールドがある。勝負強い選手の心理メカニズムや、人の限界は一重底ではなく環境によってさらに超えられるという説も、新たな実験で解明できるかもしれない」と、今後の研究への可能性と期待感を示してセミナーを締めくくりました。
[開催ポスター]
[DATA]
▽日時:2014年2月22日(土)
▽場所:稲盛財団記念館3階大会議室
▽プログラム
第3回 為末大vs.下條信輔 対談セミナー「自分の知らない自分:潜在意識と感情」
13:20 挨拶 吉川左紀子 こころの未来研究センター長
13:30 – 17:00 対談・講演・参加者とのディスカッション:
為末大(元陸上競技選手 株式会社R.project取締役)
下條信輔(米国カリフォルニア工科大学教授・こころの未来研究センター特任教授)
▽参加者数:102名