萩原 広道『子どもとめぐることばの世界』
2024.10.22
著者:萩原 広道(大阪大学大学院人間科学研究科)
出版社:ミネルヴァ書房
発行年月日:2024年3月22日
書籍紹介
こんにちは。大学で「子どもの発達」について研究している萩原広道と申します。現在は、「ことば」を中心に発達の基礎研究をしています。また、作業療法士・公認心理師として子どもの発達支援にも携わってきました。
私たちは、ふだん当たり前のように使っている「ことば」を、いったいどのように身につけてきたのでしょうか。かつては子どもだったはずなのに、その道のりは記憶の彼方。思い出すのは至難の業です。しかも、ことばの発達は「いつの間にか」「あっという間に」次の展開へと移ろいでしまうので、子どもと日々接している方でも、ことばの発達のなかで起こるさまざまなハイライトシーンを、ついつい見逃してしまうことも多いのではないでしょうか。
本書は、そんな「ことばの発達」に目を向けて、その過程に詰まったさまざまな不思議や魅力に迫るツアーガイドブックになります。子どもの小さな頭と身体、そしてその周囲でなにが起こっているのか、ことばの発達の「舞台裏」をめぐることで、子育てや保育・教育・療育にきっと新しい楽しさとおもしろさが見つかります。また、ことばの発達という、読者のみなさんがかつて辿ってきた旅路がいかにスゴイもので、興味深いものだったかを再発見するきっかけにもなるはずです。メイキング動画などで舞台裏を知っていると、映画や絵画を鑑賞するのがもっと楽しくなります。同じように、ことばの発達の意識されない舞台裏を知ることで、子育てや保育・教育・療育に少しでも「楽しさ」「おもしろさ」を添えられたらいいな。そんな願いを込めて、本書を執筆しました。
ひとくちに「ことばの発達」といっても、実はいろんな側面が含まれています。母語の音を聞き分ける、口や手を使ってことばを発する、単語同士をつないで文をつくる、相手や状況に合わせて適切に表現を選ぶ、などなど……。これらを体系的・網羅的に紹介しようとすると、きっと教科書や辞書のような本になってしまうでしょう。本書の主眼はむしろ、多くの人が当たり前のように身につけている「ことば」の不思議に、発達という視点から改めて向き合ってみることで、そのおもしろさを読者のみなさんと気軽に分かち合うという点にあります。そこで、本書ではあえて、取り上げるトピックをググッと絞って、筆者自身の研究や関心、体験に寄せながら、ことばの発達の「舞台裏ツアー」を企画してみました。その方が、筆者自身の熱量や「これっておもしろくない?」という気持ちが読者のみなさんにも伝わりやすく、そのぶん本書をより楽しんでいただけるのではないかと考えたからです。
本書は、3つのツアーで構成されています。ひとつめは、ことばの発達の全体像をおおまかにつかむための「ことばの発達を広く眺めてみよう」です。ひとくちにことばの発達といっても、その内容は実に多岐にわたります。このツアーでは、それらをいくつかの切り口に整理しながら、それぞれの切り口に関連する具体的な知見を紹介します。ふたつめは、「子ども独自のことばの世界に飛び込んでみよう」です。このツアーでは、ことばの発達をめぐる切り口のなかでも、特に筆者の研究や関心に寄せて、大人とは違う子どもの独特なことばのとらえ方や、その発達的な変化に迫ります。そしてみっつめは、「ひらかれたことばの発達研究を目指して」です。ことばの発達をめぐる学術的な知見は、発達研究全体のなかでどのような位置を占めるのか、また、それらは実践とどのように結びつくのかといった事柄について、対談を通して考えていきます。
子どもという身近な他者がくり広げている大冒険を、そして、あなた自身がかつて辿ってきた発達の軌跡を、ぜひ楽しくめぐってみてください。「研究者が書いた本だから」と気を張らずに、ぜひ肩の力を抜いて、気軽にお読みいただければと思います。本書では、トピックごとのまとめポイントとして「案内ボード」を提示したり、イラストをたくさん使ったりして、少しでも読むことへの負担が少なくなるように、気軽に読み進めていただけるように配慮したつもりです。また、さしあたり学術的知見だけを知りたいという方のために、知見そのものと、その知見のベースになった研究手法の話とを区別して記載するようにしました。研究手法は「どうやって調べたの?――研究の舞台裏」という形で囲み記事になっているので、時間がなくてとにかく結果だけ知りたいという方は、この部分は読み飛ばしていただくことも可能です。
子どもがことばを身につけるなかで見られる隠れたクライマックスやハイライトシーン、そして、子どもに関わる他者が提供する知られざるファインプレーなど、ことばの発達をめぐる不思議が次々と浮き彫りになり、読者のみなさんに楽しんでいただけますように!