お知らせ

  • HOME
  • >
  • お知らせ
  • >
  • 嶺本和沙特定研究員、上田祥行准教授、吉川左紀子教授の研究が「Psychological Research」に掲載されました

嶺本和沙特定研究員、上田祥行准教授、吉川左紀子教授の研究が「Psychological Research」に掲載されました

2025.04.08

嶺本和沙特定研究員(筆頭・責任著者)、上田祥行准教授(責任著者)、吉川左紀子教授(京都芸術大学)の研究が「Psychological Research」に掲載されました。

本研究では、悲しみ表情と恐怖表情が他者に伝える「援助が必要である」という社会的シグナルについて、悲しみ表情を見たときにはこのシグナルが自動的に知覚される一方で、恐怖表情ではそういった事象が生じないことを、順応という手法を用いて示しました。

<詳細>
私たちの知覚は、先行して提示された顔刺激を見るだけで、後続の顔刺激の知覚が鈍くなることが知られており、この現象は「順応」と呼ばれています。顔が持つ様々な情報(表情や人物情報など)が順応による影響を受けることは多くの研究で示されており、先行刺激と後続刺激の関係性を操作することで、各情報の処理が独立している(順応の影響を受けない)か、そうでない(順応の影響を受ける)かが検討されてきました。しかし、表情と社会的シグナルの関係については検討が不十分でした。

本研究では、悲しみ表情と恐怖表情がいずれも「援助が必要である」と評価されることに着目しました。この2つの表情カテゴリの処理は独立している、すなわち一方の表情への順応が他方の表情の知覚に影響を与えないことが先行研究で示されています。実験では、悲しみ表情もしくは恐怖表情への順応の前と後に、それぞれの表情に対して「援助が必要であるか」(援助必要性)と「援助してあげたいと思うか」(援助動機)の評価を行いました。その結果、悲しみ表情を見た後だと、悲しみ表情に対してだけでなく恐怖表情についても、援助必要性が低く評価されました。この結果は、悲しみ表情を見るだけで表情カテゴリと援助必要性の処理が自動的に行われ、順応によってその後の処理が鈍くなったことを反映していると考えられます。一方で、恐怖表情を見た後では、恐怖表情に対する援助必要性のみが低く評価され、悲しみ表情には影響がありませんでした。この結果は、恐怖表情の知覚が順応によって鈍くなったことによると考えられます。また、援助動機の評価には影響が見られず、悲しみと恐怖表情に対するこれらの認識は、より複雑な意思決定過程を経ていることが示唆されました。

本研究は、社会的シグナルである「援助必要性」について順応が起こることを示しただけでなく、順応現象によって特定の表情カテゴリを見たときに自動的に知覚される社会的シグナルを検討できるという、順応研究の新たな有用性を示したものとなります。

本論文は以下のページよりどなたにもご覧いただけます(オープンアクセス)。
https://link.springer.com/article/10.1007/s00426-025-02094-4

論文情報
Minemoto, K., Ueda, Y., & Yoshikawa, S. (2025). Facial expression adaptation impairs perceived social signal across expressions. Psychological Research, 89(2):73. doi: 10.1007/s00426-025-02094-4.