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2025年度こころの科学集中レクチャー「心・論理・法にみる文化」を開催しました(2025年12月17日〜19日)

2026.02.26

人と社会の未来研究院では、2025年12月17日から12月19日にかけて、「心・論理・法にみる文化」と題して、2025年度のこころの科学集中レクチャーを開催しました。

こころの科学集中レクチャーは国内外で活躍する一流のこころの科学の研究者が3日間にわたって集中的にレクチャーと受講生も交えたディスカッションを行うユニークなイベントです。

2025年度は、ミシガン大学の北山忍先生、名古屋大学大学院の渡邉雅子先生、京都大学大学院の稲谷龍彦先生を講師陣にお迎えし、「文化」「論理」「法」という異なる切り口から、人間の心と社会の関係について多角的に探求しました。文化と認知の形成過程、論理や合理性の文化差、法制度やAI規制における価値観の違いなど、各分野の最前線に基づく講義と活発なディスカッションを通じて、心・社会・制度の相互関係への理解を深める機会となりました。また、学生・研究者に加えて産業界からも参加者を迎え、産学の視点を交えた議論が展開されるなど、充実したプログラムとなりました。

◆一日目

一日目は、北山忍先生による「文化と認知」をテーマとした講義が行われました。

午前の部では、相互協調性の概念について詳しい説明が行われました。東アジア、中東、ラテンアメリカ、南アジア、サブサハラアフリカなどの文化圏は、いずれも近代西欧文化とは異なる相互協調性をもつものの、その内実は地域ごとに大きく異なることが明らかにされました。こうした文化差が生み出される背景として、「二相再帰ループモデル」が紹介されました。進化心理学の観点からは、敵対的外集団に適応できた集団ほど生き残りやすく、その生態環境に応じて特有の心理特性が形成されることが示されました。集団成員の志向がそれと一致するほど生存確率は高まり、敵対集団との共進化が進むと説明されました。
午後の部では、二相再帰ループモデルについて、さらに詳しい説明が行われました。集団は「危機状態」と「通常状態」を循環しながら適応し、危機時には防御や攻撃の戦略選択が重視され、通常時には互恵的な協力関係を通じてフリーライダーを排除する仕組みが働くことが示されました。こうした過程を通じて、主観的満足度や集団レベルでの成功との関係のなかで、集団の心理特性が形成・固定化されていくことが説明されました。さらに、多くの文化では協調性が重視されてきた一方で、西欧では近代化前後に何らかの転換過程を経て、自己独立性を重視する文化へと転換していった可能性についても言及されました。

◆二日目

二日目は、渡邉雅子先生による「論理と合理性の文化差:作文教育と思考法の国際比較」をテーマとした講義が行われました。

午前の部では、「論理的であること」とは形式論理の無矛盾性ではなく、レトリックの問題であることが示されました。渡邉先生の経験をもとに、文化によって評価される論理形式が異なることが紹介されました。続いて、4コマ漫画を用いた作文実験により、日本では時系列型、アメリカでは結論先行型の構成が重視される傾向が示されました。また、カプランの論理性概念を踏まえ、日米では子ども時代から異なる論理様式が形成されていることが明らかにされました。さらに、学校教育における潜在的カリキュラムの重要性についても説明がありました。潜在的カリキュラムとは、授業方法や評価のあり方などを通じて、意図せず伝えられる価値観や思考様式のことであり、教育を通じて社会ごとの合理性が形成されていることが指摘されました。
午後の部では、デュルケームの知識社会学をもとに、論理や合理性が共同体の実用的必要から形成されることが説明されました。また、「型」は知識を能力へと変換する装置であり、各文化の型に適応しなければ学習が困難になることが示されました。続いて、アメリカ、フランス、イラン、日本の小論文構造の比較を通じて、それぞれの社会が育成しようとする人間像や価値観の違いが具体的に示されました。さらに、討論形式や歴史教育との関連にも触れ、教育全体を通じて文化固有の合理性が形成されていることが確認されました。

◆三日目

三日目は稲谷龍彦先生による「AI規制の文化差とそれを生む心のメカニズム:相互尊重できる法の実現を目指して」をテーマとした講義が行われました。

午前の部では、まず「法は何をしているのか」という問いから議論が始まりました。法は対立を裁くためだけでなく、人々の行動や期待を調整し、社会の協調を支える仕組みとして機能してきたことが説明されました。また、人が環境との相互作用を通じて理解や判断を更新していくという考え方(集合的能動的推論)が紹介され、法も同様の調整機能をもつことが示されました。さらに、近代西洋法が「自律的な個人」や「契約」を前提に構築されてきたことが整理され、日本法については、抽象的な条文や関係性重視の実務慣行、社会的評価による補完などの特徴が、具体例を交えて解説されました。
午後の部では、AIやロボットの普及が、従来の責任論や規制の枠組みに与える影響が中心テーマとなりました。機械学習システムの不確実性により、事故や不具合の原因や責任の所在を従来通りに整理することが難しくなる点や、相互作用としてリスクを捉える視点が示されました。各国のガバナンス観の違いを踏まえつつ、日本における「アジャイルガバナンス」の考え方が紹介され、運用を通じて評価と改善を繰り返す重要性が強調されました。講義の終盤では、「不完全に理論化された合意」や「生成法学」といった概念を通じて、文化差を超えて合意を更新し続ける法制度のあり方が提示されました。


(学生・研究者・産業界から多くの方にご参加いただきました)


(ディスカッションの様子)


(集合写真)