出版・論文 アーカイブ
『ミネルヴァ通信「究」』に河合俊雄教授の連載第27回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2018年11月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「現代の夢と解釈」です。
これまでの連載で、夢との関わり方の歴史的変化が説明されてきましたが、今回は、現代の夢の捉え方がテーマになっています。
著者はまず、現代、多くの人は夢を特に重要とは思っておらず、夢は何の意味もない荒唐無稽なものとみなされているのが通常であろうと述べ、この見方の背景に、西洋の合理主義の影響を指摘します。そしてこれに対し、心理療法では、フロイトやユングが、夢が有用であり、意味を持つことを示したことを取り上げ、著者自身も、「長年心理療法において夢を扱っていると、夢がことばのやり取りによるのと全く異なる次元を開いてくれることが実感できる」と述べています。
ただ一方で、現代の心理療法においても、古代や中世と同じように夢が扱われているわけではなく、ユングもフロイトも、「夢が直接的なものではない」という認識を共通して持っており、夢が示すものを解きほぐすために「解釈」を必要とすることが、指摘されています。
このように夢を解釈する方法が必要となったのは、前近代では、夢の世界と直接的につながることが可能だったのに対して、近代の意識が、夢の世界から断ち切られているためだろう、と著者は考えています。この変化については、こころの現象の自明性や直接性が失われ、解釈が必要になったために心理学が誕生した、ということとの重なりも指摘されています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
こころの最前線と古層(二七)「現代の夢と解釈」河合俊雄
これまで、夢との関わり方の歴史的変化について述べてきて、特に前回は日本の中世における夢の扱われ方について紹介した。中世において、夢は古代と同じように現実に強い影響力を及ぼすものであったけれども、夢を人々がどう受けとめ共有するかが重要になってきていた。その意味で夢は一方的に与えられるメッセージでなくなり、夢に対する覚醒時の意識の関与が強まってきていたとも言える。
それに対して現代において夢はどのようにみなされているのであろうか。...
(論考より)
出版社のページ(こちらから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b378552.html
河合俊雄教授が監訳を務めた『危機介入の箱庭療法 極限状況の子どもたちへのアウトリーチ』が出版されました
河合俊雄教授が監訳をおこなった『危機介入の箱庭療法 極限状況の子どもたちへのアウトリーチ』が、2018年10月、創元社より出版されました。
本書は、ユング派分析家であるパティスが、自身の考案した「箱庭表現法」について、その理論と実践をまとめたドイツ語版の翻訳書です。パティスは、「緊急性の危機状況に非常に適したもの」として、箱庭表現法を子どもたちに行ってきましたが、本書では、南アフリカ、中国、コロンビアでのプロジェクトが報告され、いくつもの事例が取り上げられています。翻訳書では、河合教授が監訳をつとめ、まえがきを執筆しています。
「箱庭表現法」(Expressive Sandarbeit)というのは、今回はじめて定訳を試みたものであり、日本の読者にはなじみがないことばかもしれない。普通の箱庭療法と根本的な考え方にはあまり違いがないものの、戦争、災害、社会的貧困などの極限状況におかれている人(子ども)に対して、危機介入的に集団で継続的に行われるものである。8人とか12人とかの集団に施行されるといっても、個々の子どもには少し訓練を受けたボランティアの見守り手がそれぞれに立ち会うという意味ではあくまで個別のもので、箱庭もやや小ぶりの砂箱と簡素化されたミニチュアを用いてなされる。本書を読めばわかるように、ボランティアでなくて専門家が立ち会えればそれもよいし、本物の大きさの砂箱があればそれに越したことはなく、かなりフレキシブルである。
著者たちの活動については、これまで分析心理学会の様々な大会で発表されたのを聴いて、そのたびに目覚ましい成果に驚かされ、深い感銘を受けてきた。...
(「監訳者まえがき/河合俊雄」より)
○書籍データ
『危機介入の箱庭療法 極限状況の子どもたちへのアウトリーチ』
著:エヴァ・パティス・ゾーヤ
監訳:河合俊雄
訳:小木曽由佳
出版社:創元社(2018年10月)
単行本: 292ページ
ISBN-13: 978-4-422-11690-7
出版社の書籍ページ https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=3925
出版社の書籍ページでは、著者による序文、訳者解題を こちら から読むことができます。是非ご覧ください。
『ミネルヴァ通信「究」』に河合俊雄教授の連載第26回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2018年10月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「中世と夢」です。
前回の連載では、夢の捉え方の歴史的変化が説明されました。今回、著者は、日本におけるこころの歴史的変化を考える上で、前近代の心性を受け継ぎつつ、近代的なあり方の基礎が作られた「中世」が重要であると考え、中世において夢がどのように理解されていたのか、をテーマに論じています。
著者は、中世に書かれた物語や日記を取り上げる中で、近代人の理解では、個人のこころの中だけのことと捉えられる夢が、中世では、他者と共有され、また、現実と繋がっているものでもあったことを、特徴として指摘しています。
しかし一方で、そのように夢が信じられていたことを利用して、夢によって人々を操作しようとしたり、夢見手は困難な状況にある時だけ、夢に関心を持ち、日記に夢を記述していたことにも、著者は注目しています。このような傾向から、中世では、夢は、古代のように現実と直結する側面を持ちつつも、すでに現実と対立するものとして捉えられ、また意識からの働きかけも強まってきていたのではないか、と著者は述べています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
こころの最前線と古層(二六)「中世と夢」河合俊雄
前回において、夢の捉え方がいかに歴史的に変化してきたかを、中国の例を用いて説明した。古代において現実に直結していて、恐るべきものであった夢は、むしろ現実に脅威を与えずメタファー的で、楽しいものに変化していき、それは日本の宝船の例などからしても、普遍的な歴史の流れのように思われる。またこれは、子どもから大人へとこころが成長していく過程にも似ているところがある。小さい頃から繰り返し見ていた悪夢のような夢が、いつしかあまり脅威的なものではなくなり、むしろ楽しみになっていったという報告はしばしば聞くことである。
以前にも取り上げたが、...
(論考より)
出版社のページ(こちらから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b377300.html
『ミネルヴァ通信「究」』に河合俊雄教授の連載第25回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2018年9月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「夢と歴史性」です。
前回から、こころの古層の現象を違和感なく体験できるものとして、夢がテーマに取り上げられています。
今回の連載では、時代の変遷にも関わらず、夢にはこころの古層が変わらずに保たれていると考えられる一方で、夢に対する態度は、時代とともに大きく変化してきたことが指摘されています。
著者は、夢に対する態度の歴史的変化が、科学技術の進歩を遂げた西洋だけに限らないことに着目し、中国古代の、史書や小説に記述された夢や、夢占いについて論じています。
古代中国の史書や小説の記述には、よい夢はほとんどなく、人々も夢を恐れていましたが、時代が下ると、夢を語り、夢の世界を詩や文章に描くことが、楽しまれるようになっていきます。夢は、現実に直結したもの、否定的なもの、との捉え方が変化するプロセスは、日本古代にもうかがわれ、ある程度普遍的なものではないかと、著者は指摘しています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
こころの最前線と古層(二五)「夢と歴史性」河合俊雄
前回において、自分と違う人格になったり、それどころかあの世と行き来したりするようなこころの古層の現象は、現実にはありえないように思われるけれども、夢では違和感なく体験できることを指摘した。その意味で、夢においては時代の変遷にもかかわらず、こころの古層が変わらずに保たれていることになる。しかし昔に比べて意識が変化していっても、夢の内容は変化せずに全く昔のままである、あるいは夢の捉え方や見方は昔と同じであるというわけではない。特に夢に対する態度は、時代とともに大きく変化してきて、西洋では啓蒙主義や科学主義の台頭とともに、夢のもつ意味は歴史的に小さくなってきている。それに対抗して、再び夢を重視しようとした運動がロマン主義であり、またその延長線上にある深層心理学であるといえよう。
興味深いのは、...
(論考より)
出版社のページ(こちらから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b377301.html
阿部修士特定准教授、柳澤邦昭特定助教らの執筆した論文が『PsyPost』,『Psychology Today』で紹介されました
上田竜平・オフィスアシスタント(文学研究科大学院生・日本学術振興会特別研究員)、柳澤邦昭特定助教、阿部修士特定准教授らの執筆した論文が人間行動、認知、社会に関する最新研究を報告する心理学、神経科学の海外ニュースサイト『PsyPost』(3月14日付)と、心理学、神経科学、人間関係、等のトピックを一般読者にもわかりやすく発信する海外心理学専門誌『Psychology Today』(7月11日付)で紹介されました。
『PsyPost』には、「どうすれば親密な恋愛関係を保つことが出来るのかというのは進化という観点からもとても大切なことです。しかし、その神経機構を調査しようとした研究は少ない。」と上田竜平氏がコメントしています。
尚、同論文は学術誌『 Experimental Brain Research 』Vol.236 に掲載されました。
『 Executive control and faithfulness: only long-term romantic relationships require prefrontal control 』
本研究は「浮気」に対する興味関心の制御に関わる認知基盤に焦点を当てた研究です。機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた実験から、交際関係にある男性がパートナー以外の女性に対する興味関心を制御するには、先行研究同様、前頭前野による行動制御の機構が必要であることが示されました。ただしこの関係性は、一般的にはパートナーへの愛着やコミットメントが薄れるとされる長期間の交際関係になってはじめて観察されることが示唆されました。
なお、本研究はこころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRI装置を用いて行われました。
Ueda R, Yanagisawa K, Ashida H, Abe N (2018)
Executive control and faithfulness: only long-term romantic relationships require prefrontal control
Experimental Brain Research 236: 821-828
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00221-018-5181-y
○Abstract
Individuals in the early stages of a romantic relationship generally express intense passionate love toward their partners. This observation allows us to hypothesize that the regulation of interest in extra-pair relationships by executive control, which is supported by the function of the prefrontal cortex, is less required in individuals in the early stages of a relationship than it is in those who are in a long-term relationship. To test this hypothesis, we asked male participants in romantic relationships to perform a go/no-go task during functional magnetic resonance imaging (fMRI), which is a well-validated task that can measure right ventrolateral prefrontal cortex (VLPFC) activity implicated in executive control. Subsequently, the participants engaged in a date-rating task in which they rated how much they wanted to date unfamiliar females. We found that individuals with higher right VLPFC activity better regulated their interest in dates with unfamiliar females. Importantly, this relationship was found only in individuals with long-term partners, but not in those with short-term partners, indicating that the active regulation of interest in extra-pair relationships is required only in individuals in a long-term relationship. Our findings extend previous findings on executive control in the maintenance of monogamous relationships by highlighting the role of the VLPFC, which varies according to the stage of the romantic relationship.
Keywords : Monogamy fMRI Self-control Prefrontal cortex Romantic relationship
阿部修士特定准教授らの執筆した論文が心理学、神経科学の海外ニュースサイト『PsyPost』で紹介されました
阿部修士特定准教授らの執筆した論文が、人間行動、認知、社会に関する最新研究を報告する心理学、神経科学の海外ニュースサイト『PsyPost』(8月11日付)で紹介されました。
『PsyPost』には「認知神経科学のアプローチを使用して、嘘の神経基盤についての研究を続けてきました。最近は、人が正直、不正直な行動をする意思決定の脳メカニズムに焦点をおいた研究をしています。本研究では、サイコパス傾向が高い個人ほど嘘をつく際の反応時間が速く、また葛藤の検出などの心理過程に関わるとされる前部帯状回の活動が低いことが明らかになりました。」などの阿部特定准教授のコメントもあります。
尚、同論文は7月、国際学術誌『Social Cognitive & Affective Neuroscience』オンライン版に掲載されました。
『 Reduced engagement of the anterior cingulate cortex in the dishonest decision-making of incarcerated psychopaths 』
「サイコパス」は反社会性パーソナリティ障害として分類されており、良心の呵責や罪悪感、共感性の欠如といった特徴が指摘されています。サイコパスは平然と嘘をつく、ともされていますが、その背景にある心理学的・神経科学的メカニズムは解明されていませんでした。
本研究では、米国ニューメキシコ州の刑務所に収監中の囚人を対象に、移動可能なmobile MRI装置を用いた脳機能画像研究を実施しました。嘘をつく割合を測定する心理学的な課題を実施中に機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で脳活動の測定を行ったところ、嘘をつく割合が高い囚人の群において、サイコパス傾向が高いほど嘘をつく際の反応時間が速く、また葛藤の検出などの心理過程に関わるとされる前部帯状回の活動が低いことが明らかになりました。
これらの実験結果は、サイコパスがためらうことなく、半ば自動的に嘘をついてしまう傾向があることを示唆する、世界でも初の知見です。
Abe N, Greene JD, Kiehl KA (2018)
Reduced engagement of the anterior cingulate cortex in the dishonest decision-making of incarcerated psychopaths
Social Cognitive and Affective Neuroscience
『ミネルヴァ通信「究」』に河合俊雄教授の連載第24回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2018年8月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「夢とこころの古層」です。
著者は、これまでの連載で取り上げてきた、様々なこころの古層の特徴を振り返った上で、そうした「現実では起こりえないような、こころの古層の現れのような現象が、身近に感じられ、体験できるのが夢であると思われる」と述べ、今回の連載から、夢をテーマに上げています。
夢をどのように理解するかは、それぞれの時代・文化において、ある種の共有がなされていたものの、科学的な傾向の強まる現代では、そうした夢の理解の仕方は失われ、夢の重要性がわかってもらいにくくなっていることを、著者は指摘しています。
その上で、近代の深層心理学が、夢をもう一度大切なものとして捉え直し、評価しようとしたことに触れ、特に、ユングは「個人の体験を超えた無意識が存在していて、それが夢などにイメージとして生じてくるという仮説」を持つため、ユング派の心理療法においては、こころの古層の現れとしての夢が、非常に重視されることを取り上げています。
今後、数回の連載は、「夢とこころの古層」をテーマに進んでいきます。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
こころの最前線と古層(二四)「夢とこころの古層」河合俊雄
これまでの連載において、たとえば動物霊や死者の霊が憑依し、いつもとは全く異なる人格になってしまう、ものに魂があるというアニミズム的な感覚をもつ、イニシエーションにおいて魂が身体を離れて浮遊し、天空をさまようことができる、同一律、矛盾律、排中律というわれわれの現実を支えるアリストテレス的論理が通用しないなど、様々なこころの古層の特徴を取り上げてきた。そうすると、それらは特殊な人だけに出現する異常で病的なこころのあり方に思われたり、現実にはありえないことのように感じられたりしたかもしれない。
ところが、...
(論考より)
出版社のページ(こちらから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b372968.html
『〈こころ〉はどこから来て、どこへ行くのか』が韓国語に翻訳され出版されました
阿部修士特定准教授らの執筆した論文が国際学術誌『Social Cognitive & Affective Neuroscience』に掲載されました
阿部修士特定准教授らの執筆した論文が、国際学術誌『Social Cognitive & Affective Neuroscience』オンライン版に7月3日に掲載されました。
「サイコパス」は反社会性パーソナリティ障害として分類されており、良心の呵責や罪悪感、共感性の欠如といった特徴が指摘されています。サイコパスは平然と嘘をつく、ともされていますが、その背景にある心理学的・神経科学的メカニズムは解明されていませんでした。
本研究では、米国ニューメキシコ州の刑務所に収監中の囚人を対象に、移動可能なmobile MRI装置を用いた脳機能画像研究を実施しました。嘘をつく割合を測定する心理学的な課題を実施中に機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で脳活動の測定を行ったところ、嘘をつく割合が高い囚人の群において、サイコパス傾向が高いほど嘘をつく際の反応時間が速く、また葛藤の検出などの心理過程に関わるとされる前部帯状回の活動が低いことが明らかになりました。
これらの実験結果は、サイコパスがためらうことなく、半ば自動的に嘘をついてしまう傾向があることを示唆する、世界でも初の知見です。
Abe N, Greene JD, Kiehl KA (2018)
Reduced engagement of the anterior cingulate cortex in the dishonest decision-making of incarcerated psychopaths
Social Cognitive and Affective Neuroscience
こちらから論文をご覧いただけます https://academic.oup.com/scan/advance-article/doi/10.1093/scan/nsy050/5048611
上田祥行特定講師らの研究が英国の国際学術誌『Scientific Reports』のオンライン版に掲載されました
上田祥行特定講師、京都大学大学院生の藤野正寛さんらの研究が英国の国際学術誌『Scientific Reports』のオンライン版に掲載されました。
健康や幸福感を高めるマインドフルネス実践法への注目が高まっています。マインドフルネス実践法は、特定の対象に意図的に注意を集中する集中瞑想と、今この瞬間に生じている経験にありのままに気づく洞察瞑想から構成されています。従来、「意図的に注意を集中する」ことの心理メカニズムや神経基盤の解明は進んでいましたが、「 ありのままに気づく」ことの心理メカニズムや神経基盤は解明されていませんでした。
上田特定講師、京都大学大学院生の藤野正寛さんらの研究グループは、瞑想実践者の洞察瞑想時の脳活動を MRI 装置で測定し、脳領域間の関係を調べる機能的結合性解析を実施しました。その結果、洞察瞑想時に、自分の過去の経験に関する記憶に捉われる程度と関係していると考えられる、腹側線条体と脳梁膨大後部皮質の結合性が低下することを発見しました。この結果は、今この瞬間に生じている経験に「 ありのままに気づく」際に、自分の過去の経験に関する記憶に捉われる程度が低下していることを示唆しています。
今後は、洞察瞑想によって自分の過去の経験から自由になれるという観点から、マインドフルネス実践法が日々の健康や幸福感を高めるメカニズムを解明することが期待されます。
本研究は、こころの未来研究センター連携MRI研究施設の実験装置および防音室を用いて実施されました。
Masahiro Fujino, Yoshiyuki Ueda, Hiroaki Mizuhara, Jun Saiki, & Michio Nomura
Open monitoring meditation reduces the involvement of brain regions related to memory function
Scientific Reports DOI 10.1038/s41598-018-28274-4.
こちらから論文をご覧いただけます
京都大学のサイトで研究成果をご覧いただけます http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2018/180702_1.html
阿部修士特定准教授らの執筆した論文が学術誌『 Frontiers in Neurology 』Vol.9 に掲載されました
阿部修士特定准教授らの執筆した論文が、学術誌『 Frontiers in Neurology 』Vol.9 に掲載されました。
本研究は、脳の報酬系のはたらきと嘘をつく行為に関わる認知機能との関連に焦点を当てた研究です。認知症を伴わないパーキンソン病患者群及び健常対照群を対象とした行動実験から、嘘をつくことが可能な状況において、患者群では嘘をつく割合が有意に低下することが明らかになりました。パーキンソン病における報酬系の機能的変化が、嘘をつくかどうかの意思決定に影響を与える可能性が示唆されました。
Abe N, Kawasaki I, Hosokawa H, Baba T, Takeda A (2018)
Do patients with Parkinson's disease exhibit reduced cheating behavior? A neuropsychological study
Frontiers in Neurology 9: 378
こちらから論文をご覧いただけます https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fneur.2018.00378/full
河合俊雄教授の著書『村上春樹の「物語」夢テキストとして読み解く』が中国語(簡体字)に翻訳され中国で出版されました
河合俊雄教授の『村上春樹の「物語」夢テキストとして読み解く』(新潮社/2011年)が、中国語(簡体字)に翻訳され、2018年4月に中国で出版されました。
本書 『村上春樹の「物語」夢テキストとして読み解く』は、村上春樹のベストセラー『1Q84』(新潮社/2009年)を中心とする一連の作品を、夢分析の手法から内在的に捉えたユニークな書です。日本で出版された2011年以降、ユング派分析家が独自の視点で論じる村上春樹小説論として、話題を集めています。今回、中国語(簡体字)に翻訳され、中国での出版となりました。
本書は、中国語(繁体字)にも翻訳され、2014年12月に台湾でも出版されています。また、河合教授の書籍は各国で出版されており、2001年には『ユング ― 魂の現実性(リアリティー)』(講談社/1998年)が、中国にて翻訳出版されています。
中国語(簡体字)での翻訳版は、大手の通販サイト「博客來」をはじめとする、書店のサイトで試し読みが可能です。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
『ミネルヴァ通信「究」』に河合俊雄教授の連載第23回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2018年7月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「解離と古層の交錯」です。
前々回の連載から、現代の解離現象、解離性症状がテーマとなっていますが、今回の連載では、村上春樹の作品がとり上げられ、「近代意識によって抑えられていたこころの古層」との交錯について、論じています。
論考では、現代において、この世とあの世、現実と超越などの連関が失われたため、現代の問題として「大きな連関の喪失」が生じている、とのユングの指摘が着目されています。そして、村上春樹の作品においても、「個人の意識が解離し、人々がつながらないのは、世界が解離しているためであるというモチーフ」が強く感じられる、との言及がなされています。
著者は、現代において喪失した連関を、イメージを通して回復しようというのが、ユングの試みであったと述べた上で、この解離した世界とどう関わることができるかは、現代に生きるわれわれにとって、重要な課題であると指摘しています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
こころの最前線と古層(二三)「解離と古層の交錯」河合俊雄
前回において、前近代の憑依というあり方の復活とも捉えることのできる解離性症状の現代性について指摘した。しかしこれは近代意識によって抑えられていたこころの古層が、近代意識によるコントロールの弱まりによって再び姿を現したとも考えられる。解離の前近代性と現代性、あるいは表現を変えればポストモダン性の交錯するところをうまく描き出しているのが村上春樹の作品であると思われる。
たとえば・・・
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b371954.html
内田由紀子准教授らの共著論文が学術誌『 Frontiers in Psychology』 に掲載されました
内田由紀子准教授、元センター滞在研究者Matthias S Gobelさん、京都大学大学院生の伊藤篤希さんの共著論文がFrontiers in Psychologyに掲載されました。
本研究は大学生サークルのリーダー・メンバーの非言語行動を分析・比較することで、日本におけるリーダー像を検討しました。
日本においては他者指向的な人物がリーダーとして好まれることが先行研究で明らかにされていましたが、 こうした特徴はリーダーがメンバーよりも抑制的な非言語行動(例えば、腕を後ろで組んでジェスチャーを使わないなど) を用いるという部分に反映されていました。また、こうした特徴は強いリーダーシップが必要とされる課題指向的なサークルでのみ見られたことから、 本研究で扱った社会的地位のような集団構造を反映するトピックを研究する際は、集団文化の影響を考慮することが重要であることを実証するものでもありました。
Ito, A., Gobel, M.S., & Uchida, Y. (2018). Leaders in interdependent contexts suppress nonverbal assertiveness: A multilevel analysis of Japanese university club leaders' and members' rank signaling.
Frontiers in Psychology, 9:723.doi: 10.3389/fpsyg.2018.00723
こちらから論文をご覧いただけます https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2018.00723/full
『NHK 100分de名著』7月号で河合俊雄教授の「河合隼雄スペシャル こころの構造を探る」が出版されました
NHKテキストの発行する月刊誌『100分de名著』2018年7月号として、河合俊雄教授の「河合隼雄スペシャル こころの構造を探る」が出版されました。
NHK Eテレで放送されている"100分de名著"は、様々なジャンルの"名著"と呼ばれる書籍を取り上げ、講師による解説を基に、その名著の世界に迫ろうとする番組です。
河合俊雄教授は、「河合隼雄スペシャル こころの構造を探る」とのテーマで、7月の放送に出演します。
河合俊雄教授は、河合隼雄先生の著作から、『ユング心理学入門』『昔話と日本人の心』『神話と日本人の心』『ユング心理学と仏教』の4作を番組で取り上げ、河合隼雄先生の思索の足跡を辿る、と述べています。
本テキストは、その放送に際してまとめられたものです。河合俊雄教授は、「こころの問題に寄りそう」「人間の根源とイメージ」「昔話と神話の深層」「「私」とは何か」の各テーマで、上述の書籍4作について解説をしています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
清家理特定講師らが執筆した『Q&Aでわかる専門職のための認知症の家族等介護者支援ガイドブック』が刊行されました
清家理特定講師らが執筆した『Q&Aでわかる専門職のための認知症の家族等介護者支援ガイドブック』が刊行されました。
認知症の人にやさしい地域づくりを推進していくためには、在宅で共に暮らす家族の支援を欠かすことはできません。しかし、現状では、認知症の人の増加に伴い介護する家族も増加していたり、家族等介護者等による高齢者虐待の相談通報件数が毎年2万件以上あったり、少子高齢化と世帯数の増加、共働きや晩婚化により、通い介護、遠距離介護、介護と仕事の両立など新たな介護のあり方が問われたりと様々な課題があります。
在宅で、認知症の人を介護する家族等がよいケアをするためには、専門職による支えは欠かすことはできません。本ガイドブックは、認知症の人の家族等介護者1人ひとりに、必要なときにいつでも必要な支援が行き届くための、専門職による家族支援の指針となる手引書としてまとめられたものです。
第1章 本人の状況による家族支援方法には「専門職が本人や家族に病院の受診を勧める際にはどのような助言をするのか」など22の問いに対する回答(推奨)と解説、第2章 家族等介護者の状況に応じた家族支援方法には「高齢者同士の介護者への支援にはどのようなものがあるか」など20の問いに対する回答(推奨)と解説、第3章 サービス利用時の家族支援方法には「通院や通所を拒む要介護者を介護する家族への支援にはどのようなものがあるか」など4つの問いに対する回答(推奨)と解説、第4章 地域における家族等介護者の支援方法には「中山間地域で医療福祉機関や社会資源が少ない場合の家族支援はどのように行うか」など12の問いに対する回答(推奨)と解説がされています。
ガイドブック最後の索引では、キーワードから、その問題についての回答を探すことができるようになっていて、とても便利に使えます。
厚生労働省のウェブサイトから本ガイドブックをダウンロードしてご覧いただけます。
〇目次
はじめに
本ガイドブックの作成の目的と活用方法
本ガイドブックの作成過程
第1章 本人の状況による家族支援方法
第2章 家族等介護者の状況に応じた家族支援方法
第3章 サービス利用時の家族支援方法
第4章 地域における家族等介護者の支援方法
索引
執筆者一覧
委員一覧
河合俊雄教授が編集を務めた『河合隼雄語録 カウンセリングの現場から』が文庫本として出版されました
河合俊雄教授が編集を務めた『河合隼雄語録 カウンセリングの現場から』が、文庫本として出版されました。
本書『河合隼雄語録 カウンセリングの現場から』は、2010年、岩波書店より刊行された『生きたことば、動くこころ 河合隼雄語録』を改題したものです。
本書は、京都大学の臨床心理学教室における心理療法の事例検討会での、河合隼雄先生のコメント(1974-76年)がまとめられたものです。岩波現代文庫化に際し、河合俊雄教授による解題が、「現代文庫版によせて」と「解題」の二つの部分に分け、本書の前後に付されています。
河合俊雄教授は、本書の成立の経緯を述べた上で、「実際に心理療法に関わっている専門家なら、自分の日頃の臨床に照らし合わせて様々なことが考えられるであろうし、専門家でない人でも、人のこころの動きや人間関係について、様々な示唆やヒントが得られるのではないか」と述べています。
また、河合俊雄教授は、「解題」で、河合隼雄先生のコメントについて、「様々なコメントを尽くす中で、伝えたいのはむしろ根本的な姿勢であったり、こころの動きやはたらきであったりするのである」と指摘しています。そして、先生のコメントから伝わることとして、「どれだけこころをはたらかせているかが、セラピストにとっていかに大切であるか」や「基本的にどこまでもこころを深めていこうという姿勢」に、言及しています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
河合隼雄 (2018). 河合隼雄語録 カウンセリングの現場から. 河合俊雄 (編) 岩波現代文庫.
-構成-
『河合隼雄語録』現代文庫版によせて...河合俊雄
河合隼雄語録-事例に寄せて
はしがき
Ⅰ 面接場面の具体的問題
Ⅱ クライエントの内的力動
Ⅲ クライエント-セラピスト関係
Ⅳ セラピストとしての問題
Ⅴ 治療観から人間観へ
『河合隼雄語録』解題...河合俊雄
〔解説〕読むたびに新しい『語録』のことば...岩宮恵子
岩波現代文庫『河合隼雄語録 カウンセリングの現場から』のページです。https://www.iwanami.co.jp/book/b369927.html
清家理特定講師らの編著『「認知症介護教室」企画・運営ガイドブック』(中央法規)が刊行されました
清家理特定講師と国立長寿医療研究センターもの忘れセンターの櫻井孝センター長の編著『「認知症介護教室」企画・運営ガイドブック』が中央法規から刊行されました。
認知症施策推進総合戦略『新オレンジプラン』では、認知症の人や家族の視点を重視した地域活動や支援の方向性が示され、「共生社会」を視野に入れたコミュティづくりが求められています。その中で、認知症カフェ、認知症介護教室、介護サロン等、地域でさまざまな集団形式の支援活動が実施されています。
しかし、意気揚々と活動を始めても、「運営を担う人や時間がなくて長続きしない」、「参加者が固定してしまう」という悩みはないでしょうか。一方で、「活動を始めたいけど、何から手をつけたらいいのだろうか」、「私だけでやっていけるのだろうか」という悩みを有している方もおられるかもしれません。
この本は、ぶれることなく、長続きする活動を企画・運営するためのノウハウをギュッとつめこんでみました。
今のあなたの悩みに合うところから、読み進めていくことができるようにも工夫しています。
認知症の人や家族のための地域での活動を企画・運営している方をはじめ、これから始めたい方、地域づくり・地域看護・コミュニティソーシャルワークに興味関心がある方々まで、幅広い読者層を想定した1冊です。
(編著者、清家理特定講師による書籍紹介)
〇書籍情報
『「認知症介護教室」企画・運営ガイドブック 続けられる!始め方・進め方のノウハウ』
監修 :鳥羽研二
編著 :櫻井孝 清家理
編集 :国立長寿医療研究センターもの忘れセンター
定価 :2,592円(税込)
B5判168ページ
2018年4月1日 発行
ISBN978-8058-5657-4
〇目次
はじめにー本書を手にした方へ
本書の活用方法
第1章 家族向け認知症介護教室とは
第2章 家族向け認知症介護教室の企画
第3章 家族向け認知症介護教室プログラムの実例 ―国立長寿医療研究センター版
第4章 家族向け認知症介護教室の運営
第5章 参加者をフォローするために必要なこと
第6章 活動の評価
第7章 持続可能な活動のために
第8章 事例でみる家族向け認知症介護教室の効果と課題
おわりに
執筆者一覧
広井良典教授の著書『持続可能な医療――超高齢化時代の科学・公共性・死生観』(ちくま新書)が刊行されました
広井良典教授の著書『持続可能な医療――超高齢化時代の科学・公共性・死生観』(ちくま新書)が刊行されました。
本書は、科学の前線が生命科学にシフトするとともに、高齢化が急速に進展する中で社会における医療分野の比重が大きく高まっている状況を受け、かつ医療費が年間40兆円を超える規模に達する一方で1000兆円に及ぶ借金を将来世代に先送りしているという日本の現状を踏まえながら、科学、ケア、社会システム、コミュニティ、死生観、エコロジー等の幅広い視点からこれからの医療のあり方を論じる内容となっています。全体の構成は以下の通りです。
第1章 サイエンスとしての医療 ――医療技術の意味するもの
1.アメリカの医学・生命科学研究政策と日本
2.医療におけるイノベーションと医療費
3.「持続可能な医療」と「持続可能な社会」
第2章 政策としての医療 ――医療費の配分と公共性
1.医療費の配分
2.医療における公私の役割と公共性
3.医療政策の目的ないしゴールは何か
第3章 ケアとしての医療 ――科学の変容と倫理
1.ケアと経済社会
2.再生医療と生命倫理・公共哲学
3.ケアとしての科学
第4章 コミュニティとしての医療 ――高齢化・人口減少と地域・まちづくり
1.コミュニティへの視点
2.コミュニティとまちづくり・地域再生
3.地域の持続可能性とローカライゼーション
第5章 社会保障としての医療 ――「人生前半の社会保障」と持続可能な福祉社会
1.資本主義の進化と「予防的社会保障」
2.社会保障の根底にあるもの――公共性・税・国家
3.福祉思想の再構築
第6章 死生観としての医療 ――生と死のグラデーション
エピローグ:グローバル定常型社会と日本の位置
出版社のページ
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480071477/
箱庭療法学研究第30号に河合俊雄教授の講演の記録が掲載されました
河合俊雄教授が講演を行った2017年度第1回 日本箱庭療法学会研修会全大会講演(2017年7月9日/大正大学)の記録が、箱庭療法学研究 第30号に掲載されました。
河合俊雄 (2018) 世界のなかの日本の箱庭療法 伝統的背景と可能性. 箱庭療法学研究. 30 (3). 95-114.
-構成-
はじめに
Ⅰ. 日本の箱庭療法の発展
Ⅱ. 箱庭と前近代・子どもの心性
Ⅲ. 日本の箱庭の特殊性
Ⅳ. ものの魂:草木国土悉皆成仏
Ⅴ. 曼荼羅と自然
Ⅵ. ミニチュア化という内面化
Ⅶ. 象徴という中間のない分節と芸能
講演は、「世界のなかの日本の箱庭療法 伝統的背景と可能性」というテーマで行われました。
日本のユング派の多くは、イメージをそのまま捉える点で、中国・韓国などの象徴性に準拠する捉え方と異なり、アジアの中で比べてもユニークなことが指摘されます。その中でも、特に、日本の箱庭療法にはどのような特徴があるのか、どういった伝統的背景があるのかに、講演では焦点があてられています。
箱庭療法は、日本に限らず、子どもの心性や、前近代的な心性を持つクライエントに馴染むものであり、箱庭の内容や変化は、クライエントにもセラピストにも見える形で非言語的に共有されることや、実際に触ることができるというリアリティが、非常に大事な特徴と述べられます。
一方で、日本の箱庭には、象徴的な解釈のみでは何か捉えそこねる感じがあり、それが、それぞれのイメージをそのまま大切にする見方に繋がっているのではないかと考えます。日本には、こころの古層が残っているため、すべてのものに魂がある世界として感じるところがあり、それが独特な箱庭をつくっているのではないかと考えます。
また、日本での箱庭療法の普及の背景には、自然でこころを表す日本人に、箱庭療法がとても合っていたからではないか、とも指摘されます。
日本人は、自然を内面化するために、生け花や盆栽のように自然をミニチュア化していったこと、巡礼のような自然の中での宗教体験の大事さに触れ、箱庭療法は、こうした日本の伝統にフィットするものであり、箱庭のミニチュアの中にも、巡礼的な意味が込められているのではないかと、述べられています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
『ミネルヴァ通信「究」』に河合俊雄教授の連載第22回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2018年6月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「解離と現代性」です。
前回の連載では、なぜ憑依現象や解離現象が1990年代に多発し、そしてまた下火になったのか、との問いが立てられましたが、その答えとして、個人のこころの統合性の揺らぎがあげられています。
著者は、解離性障害の増加の背景として、ハンドルネームやアカウントの使い分けに見られるように、自分の人格の連続性や、個々の対象の重要性がなくなり、また、ブログやインスタグラムとして、個人の「内面」が世界に向けて開かれているような、現代の意識のあり方の変化に言及しています。
そして、解離現象が再び下火となった理由の一つには、様々な場面で異なる自分であることが、社会に受け入れられ、病理化する必要がなくなったからではないかと考えます。一方で、もう一つの理由として、個人のこころの統合性の弱まりが更に進んでいる可能性にも触れ、それは主体が欠如し、選べないという発達障害の増加といった、新しい事態に反映されていることを指摘しています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
前回において、意識の統合性の高まりで消えてしまったように思われた憑依現象や解離現象はなぜ一九九〇年代に多発するようになり、そしてなぜまた下火になってしまったのであろうかという問いを立てた。その答えを先取りしておくと、それは個人のこころの統合性、クローズドシステムなどの特徴をもつ近代的主体の、揺らぎの進行の程度によると思われるのである。
一九九〇年代に・・・
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b369912.html
仁愛大学附属心理臨床センター紀要第13号に河合俊雄教授の講演録が発刊されました
河合俊雄教授が講演を行った第11回 児童・生徒の理解を深める会(2017年10月15日/福井県越前市)での講演録が、仁愛大学附属心理臨床センター紀要 第13号に掲載されました。
河合俊雄(2018) 発達障害と現代における発達の非定型化. 仁愛大学附属心理臨床センター紀要vol.13. 1-18.
-構成-
【講演】
1. はじめに
2. 発達障害の増加と現代性
3. 発達障害の増大と診断史
4. ASDという診断・見立ての増加
5. ASDと「主体」
6. ASDと心理療法:主体の発生
7. ASD的臨床像の増加と社会構造
8. 発達の非定型化
【質問・感想】
講演は、「発達障害と現代における発達の非定型化」というテーマで行われました。
講演では、まず「発達障害の増加」をとり上げ、ASDのように見える症状・人が増えていること、発達の非定型化が起こっていることを指摘しています。
このASD的臨床像が増加した背景については、個人の主体性の弱まり、現代の社会構造や意識の変化との関連が言及されています。また、発達の非定型化へのセラピーや対応には、ASDへのものと似てくるところがあるとの見方から、ASDの心理療法のポイントを取り上げると共に、主体性をどう促進するかが重要となることも指摘しています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
河合俊雄教授が共同編集を務めた『思想家 河合隼雄』が、文庫本として復刊されました
河合俊雄教授が共同編集を務めた『思想家 河合隼雄』が、岩波現代文庫で復刊されました。
本書は、先月復刊された『臨床家 河合隼雄』とともに、2009年に河合隼雄先生を追悼して刊行されたものです。先生は心理療法を専門とされていましたが、臨床からつかんだこころの本質、日本人のこころのあり方についても、神話や昔話などを用い、多くの著作を残されました。
河合教授は、本書の試みとして、「思想家」という観点から河合隼雄先生を捉え、心理学という枠を超えて、広く読みやすく書かれた先生の著作の底流にある、思想の深みを捉えることを述べています。
本書では、中沢新一氏、鷲田清一氏、赤坂憲雄氏、養老孟司氏など、多彩なジャンルの識者により、河合隼雄先生の思想が読み解かれています。
加えて、復刊に際し、2015年に第3回河合隼雄学芸賞を受賞された大澤真幸氏による「河合隼雄の『昔話と日本人の心』を読む、河合俊雄教授による「読書案内-河合隼雄の思想を知る一〇冊」も、新たに収録されました。
河合教授は、「中空と鬼っ子-河合隼雄の臨床の思想」で、河合隼雄先生が、自身の臨床の姿勢を自覚的に捉え直したものとして、「日本神話における中空構造」を挙げています。教授は、この「中空構造論」を、河合隼雄先生の臨床の思想の中核とする一方、先生の「鬼っ子」に対する関心や、「ヒルコの読み直し」にも触れ、先生の思想は、この「中空構造」だけでなく、「それからはみ出す鬼っ子」をも抱え込んでいたことに言及しています。そして、先生のこうした思想の手がかりとなったものとして、物語とともに、明恵の発見や、華厳経・華厳哲学との出会いの重要性も指摘しています。
また、河合俊雄教授は、「読書案内-河合隼雄の思想を知る一〇冊」でも、河合隼雄先生の思想を知ることに焦点を絞り、先生の思想のキーワードとして、ユング心理学・心理療法、物語、仏教、子どもを挙げ、著作を紹介しています。加えて、河合隼雄先生の思想を語る上で、先生の人柄や生涯を知ることも重要とし、先生の自叙伝、連載、対談にも触れています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
中沢新一・河合俊雄 (編) (2018). 思想家 河合隼雄. 岩波現代文庫
-構成-
〔序論〕
対談 河合隼雄は思想家である・・・中沢新一×河合俊雄
〔記録〕
アッシジの聖フランチェスコと日本の明恵上人・・・河合隼雄(田中康裕・高月玲子訳)
〔論考〕
あいまいの記憶・・・中沢新一
落としどころについて-河合隼雄における≪臨床≫と≪対話≫・・・鷲田清一
昔話と夜、または数をめぐる冒険・・・赤坂憲雄
中空と鬼っ子-河合隼雄の臨床の思想・・・河合俊雄
河合隼雄の『昔話と日本人の心』を読む・・・大澤真幸
河合隼雄と言葉・・・養老孟司/河合俊雄(聞き手)
〔資料〕
読書案内-河合隼雄の思想を知る一〇冊...河合俊雄
岩波現代文庫『思想家 河合隼雄』(中沢新一・河合俊雄編)のページです https://www.iwanami.co.jp/book/b358694.html
『ミネルヴァ通信「究」』に河合俊雄教授の連載第21回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2018年5月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「憑依と解離性障害」です。
著者は、19世紀末から20世紀始めのフロイトやユングの時代に、頻繁に取り上げられた解離性障害が、一度はほぼ消失したにもかかわらず、1990年代に世界中で復活し、日本でも多く見られるようになったことに着目します。
近年に流行現象のように頻発したこの解離性障害は、憑依と似た現象ではあるけれども、その背景は全く異なっているのではないかと、著者は考えます。なぜなら、前近代の世界における憑依は、狐、死者の霊など、個人の外から憑依してきていたものであり、近年の解離性障害は、そうしたこころの古層から出てきたものではないからです。
ではなぜ、様々な形での解離性障害が1990年代に多発し、そしてまた下火になったのか、これについては次回に検討されます。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
こころの最前線と古層(二一)「憑依と解離性障害」河合俊雄
本連載でも心身症、発達障害などを取り上げてきたが、久しぶりに症状に焦点を当ててみたい。それは解離性障害で、現実感のなくなる離人症、一時期や全ての記憶が失われる解離性健忘、自分のなかに別の人格(多重人格)が存在して出現する解離性同一性障害などの様々な形のものが含まれ、ICD-10による分類では、ヒステリー(転換性障害)も含まれている。
一八九九年にクレペリンによって近代精神医学による診断分類が確立され、ほぼ同時期にフロイトによる精神分析がはじまって、近代の精神医学と心理療法の枠組みが決まった。・・・
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b358533.html
河合俊雄教授が共同編集を務めた『臨床家 河合隼雄』が、文庫本として復刊されました
河合俊雄教授が共同編集を務めた『臨床家 河合隼雄』が、文庫本として復刊されました。
本書『臨床家 河合隼雄』は、河合隼雄先生の没後二年の2009年に刊行されましたが、今回、先生の生誕九十年を記念する意味もあり、岩波現代文庫で復刊されることとなりました。
復刊に際し、『生きたことば、動くこころ(河合隼雄語録 カウンセリングの現場から)』(岩波現代文庫から復刊予定)に含まれるものと、専門的な論考が一つ割愛され、河合俊雄教授の講演「河合隼雄との三度の再会」が、新たに収録されました。
河合俊雄教授は、序論「臨床家・河合隼雄」で、河合隼雄先生の臨床について述べていますが、本書では、「臨床家としての河合隼雄の姿」を浮かび上がらせようと、事例への河合隼雄先生のコメント、河合隼雄先生に分析を受けた臨床家の体験などが集められています。また、谷川俊太郎さん、佐渡裕さんと、河合隼雄先生との出会いや交流も描かれています。河合隼雄先生の最初の分析家、シュピーゲルマン先生へのインタビューからは、「クライエント側に立った河合隼雄の姿を描き出す」との試みもされています。
「河合隼雄との三度の再会」で、河合俊雄教授は、自身の在学・留学時期の河合隼雄先生とのエピソードとともに、河合隼雄先生の没後、先生の著作の編集にたずさわる中での体験についても述べています。また、河合隼雄先生のいくつかの著作に触れ、特に、先生の思想の根幹である「物語」や「「じねん」に従う」ことにも、言及しています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
谷川俊太郎・河合俊雄 (編) (2018). 臨床家 河合隼雄. 岩波現代文庫
-構成-
〔序論〕
臨床家・河合隼雄・・・河合俊雄
〔記録〕
家を背負うということ-無気力の裏に潜むもの・・・河合隼雄/岩宮恵子(事例提供・編)
〔河合隼雄の分析〕
臨床家 河合隼雄-私の受けた分析経験から・・・山中康裕
分析体験での箱庭・・・川戸圓
河合隼雄という臨床家・・・皆藤章
スーパーヴィジョンの体験から・・・角野善宏
〔河合隼雄という体験〕
対談 河合さんというひと・・・谷川俊太郎×山田馨
物語を生きる人間と「生と死」・・・柳田邦男
河合先生との対話・・・佐渡裕
私の「河合隼雄」・・・中鉢良治
河合隼雄との三度の再会・・・河合俊雄
〔インタビュー〕
ユング派河合隼雄の源流を遡る・・・J・M・シュピーゲルマン/河合俊雄(聞き手)
〔資料〕
河合隼雄年譜
岩波現代文庫『臨床家 河合隼雄』(谷川俊太郎・河合俊雄編)のページです https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b355587.html
阿部修士特定准教授、柳澤邦昭特定助教らの論文が『Experimental Brain Research』に掲載されました
上田竜平・オフィスアシスタント(文学研究科大学院生・日本学術振興会特別研究員)、柳澤邦昭特定助教、阿部修士特定准教授らの執筆した論文が、学術誌『Experimental Brain Research』Vol.236 に掲載されました。
本研究は「浮気」に対する興味関心の制御に関わる認知基盤に焦点を当てた研究です。機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた実験から、交際関係にある男性がパートナー以外の女性に対する興味関心を制御するには、先行研究同様、前頭前野による行動制御の機構が必要であることが示されました。ただしこの関係性は、一般的にはパートナーへの愛着やコミットメントが薄れるとされる長期間の交際関係になってはじめて観察されることが示唆されました。
なお、本研究はこころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRI装置を用いて行われました。
Ueda R, Yanagisawa K, Ashida H, Abe N (2018)
Executive control and faithfulness: only long-term romantic relationships require prefrontal control
Experimental Brain Research 236: 821-828
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00221-018-5181-y
○Abstract
Individuals in the early stages of a romantic relationship generally express intense passionate love toward their partners. This observation allows us to hypothesize that the regulation of interest in extra-pair relationships by executive control, which is supported by the function of the prefrontal cortex, is less required in individuals in the early stages of a relationship than it is in those who are in a long-term relationship. To test this hypothesis, we asked male participants in romantic relationships to perform a go/no-go task during functional magnetic resonance imaging (fMRI), which is a well-validated task that can measure right ventrolateral prefrontal cortex (VLPFC) activity implicated in executive control. Subsequently, the participants engaged in a date-rating task in which they rated how much they wanted to date unfamiliar females. We found that individuals with higher right VLPFC activity better regulated their interest in dates with unfamiliar females. Importantly, this relationship was found only in individuals with long-term partners, but not in those with short-term partners, indicating that the active regulation of interest in extra-pair relationships is required only in individuals in a long-term relationship. Our findings extend previous findings on executive control in the maintenance of monogamous relationships by highlighting the role of the VLPFC, which varies according to the stage of the romantic relationship.
Keywords : Monogamy fMRI Self-control Prefrontal cortex Romantic relationship
河合俊雄教授の英語論考が科研研究年報誌『身心変容技法研究』第7号に掲載されました
鎌田東二先生(上智大学グリーフケア研究所特任教授・京都大学名誉教授/宗教哲学・民俗学)が研究代表を務める身心変容技法研究会の科研研究年報誌『身心変容技法研究』第7号に、河合俊雄教授の英語論考が掲載されました。
この論考では、エラノス会議での講義を参照しながら、東アジアの精神性について述べるため、大乗仏教の中でも、特に華厳経に焦点が当てられています。
華厳経の思想は、西インドで生まれたものですが、インドの人々の瞑想時の体験とともに、中央アジアの光の神秘主義からも、影響を受けています。
さらに、華厳経の思想は中国に渡ると、哲学としても体系化されます。華厳経の本質は、「相即相入(全てのものは互いに溶け合っている)」の考えであり、それは壮大な曼荼羅として表されます。こうした華厳経の哲学は、錬金術の「融合」「死と再生」のイメージとも重なり、ユング心理学の「象徴」「元型」「共時性」といった概念について考える上でも意味をもつことを、著者は指摘しています。
このように発展してきた華厳経ですが、それは日本に渡ると、自然や芸術とのつながりの中で展開していきました。日本独自の、全てのものに魂が宿るといったアニミズム思想や、神道の影響から、日本では、自然の景色を描いたものが曼荼羅となり、自然の中で巡礼を行うことも、修行として非常に重要な役割を占めていきます。
また、こうした自然を、より小さく、より美的なものにして、心の内に取り入れた形として、日本の庭造りや生け花、盆栽などが発展していきました。ユング心理学や箱庭が日本で受け入れられたことには、日本文化に浸透した華厳経の思想も、深く関連しているのではないかと言及されています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
『身心変容技法研究』第7号
Toshio Kawai. (2018). Transformation of East Asian spirituality: with the reference to Eranos lectures. Investigation of Arts and Principles of Body-Mind Transformation, 7, 267-272.
〔構成〕
1. Hua Yen sutra between nothingness and fullness
2. India and meditation
3. Central Asia and Light
4. Chinese philosophy and pragmatism
5. Japan: nature and aesthetics
河合俊雄教授が『臨床心理学概論 (公認心理師の基礎と実践) 第3巻』に5章「分析心理学的アプローチ」を執筆しました
河合俊雄教授が公認心理師の教科書『臨床心理学概論 (公認心理師の基礎と実践) 第3巻』に5章「分析心理学的アプローチ」を執筆しました。
今年度から国家資格化された公認心理師の、カリキュラムがスタートしたことに伴って出版された教科書 『臨床心理学概論 (公認心理師の基礎と実践) 第3巻』に、河合俊雄教授が5章「分析心理学的アプローチ」を執筆しました。
本章では、臨床心理学におけるユング心理学の理論を、特に「自己関係」という視点から概説しています。
『臨床心理学概論 (公認心理師の基礎と実践) 第3巻』
河合俊雄. (2018). 5章 分析心理学的アプローチ. 野島一彦・岡村達也 (編). 臨床心理学概論(公認心理師の基礎と実践)第3巻. 遠見書房.
『ミネルヴァ通信「究」』に河合俊雄教授の連載第20回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2018年4月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「仏教と古層の論理」です。
著者は、心理療法や神話において、アリストテレス的な論理でない"こころの古層の論理"が現れてくることを指摘した上で、仏教はこの"こころの古層の論理"を自覚的に発展させてきた、と解説しています。
さらに、こうした仏教の論理は、"こころの古層"に属するだけでなく、現代の最先端の科学や、現代社会におけるこころのあり方にも、通じるところがあると考えています。そのため、こころを捉え直し、新しいこころの科学を構築する上でも、仏教の論理は意味を持つ可能性が言及されています。
(解説:粉川尚枝 特定研究員)
心理療法や神話において、アリストテレス的な論理でないこころの古層の論理が現れてくることを指摘したが、前回に親鸞の例を引いたように、これを自覚的に発展させたのが、仏教であると思われる。たとえば鈴木大拙は大乗仏教の本質として「即非の論理」を強調したが、これはまさに「Aは非Aであり、ゆえにAである」となって、アリストテレス的論理を超えている。その意味で日本に伝わってきた仏教は、これまでの日本のこころの古層を駆逐したり覆い隠したりというよりは、むしろそれにフィットする哲学や論理を提供したといえよう。
中沢新一は、大乗仏教における論理をロゴスに対立する「レンマの論理」や「レンマ学」として探求している。・・・
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b355911.html
内田由紀子准教授らが執筆した論文が学術誌『心理学研究』に掲載されました
内田由紀子准教授らが執筆した論文が学術誌『心理学研究』に掲載されました。
メンタルヘルス不調を伴い休職した就業者が 仕事の中で持つ自己価値のあり方について、実証的に検討した論文です。 休職につながるようなメンタルヘルスの不調においては、 競争に勝つことや他者から評価されているかどうかが 自己価値を左右すると考えられがちでした。また、職場の価値観と 自己の価値観がずれているとも捉えられていることも示されました。 このように本論文では職場のメンタルヘルスについて職場要因と 個人要因双方の関係から検討しています。
笹川果央理・中山真孝・内田由紀子・竹村幸祐
「メンタルヘルス不調による休職者の自己価値の随伴性」
心理学研究 2017年 88巻 431-441
〇この論文は「科学技術情報発信・流通総合システム」(J-STAGE)のサイトからPDFでご覧いただけます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/88/5/88_88.15066/_article/-char/ja
『ミネルヴァ通信「究」』に河合俊雄教授の連載第19回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2018年3月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「中世と論理」です。
本稿ではまず、ユングが神話と近代をつなぐものとして中世の錬金術に注目したことを指摘します。 錬金術師がそれを「通常の金ではない」というように、 それは心の中でつくられるものであるからこそ、心理学的プロセスを読み取ることができるということです。
そしてここには、神話の世界にはなかった「否定」の作用が働きます。 これまでの連載で示唆されてきたように、日本文化ではその作用は比較的弱いのですが、 日本の中世においても、マイルドな形ではあれ、「否定」の作用を導入することによってさまざまな芸術が発展し、 さまざまな仏教の宗派が成立したとして、親鸞の論理と近代性についても言及しています。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
神話の論理においては、「Aは非Aでない」という矛盾律が超えられていて、だからこそ人間が非―人間である動物と交わる異類婚が成立したり、この世とあの世の境界を超えていったりすることが可能になる。またこれは、ユングが夢にイメージとして現れてくる異性像などとの結合を追求したことにも通じると考えられる。
ユング派の心理療法において、最初は不気味な人物や、どう猛な犬などとして箱庭や夢に登場したものが、面接を重ねるうちにクライエントにとって受け入れられるイメージに変容していくプロセスがしばしば報告されている。するとユング派の心理療法では、まさにこころの古層にある神話の論理が現代においても現実していると考えられるのであろうか。
これはそう簡単に言い切れないと思われる。....
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b353343.html
内田由紀子准教授らが執筆した論文が日本農業普及学会誌『農業普及研究』に掲載されました
内田由紀子准教授らが執筆した論文が日本農業普及学会誌『農業普及研究』に掲載されました。
農業者グループと漁業者グループにおける 幸福感や他者とのつながりの状況ならびに そこに関わる普及指導の効果について、実証的に 検討した研究です。2012年~2013年の間に 農業・漁業の関係者のご協力のもと実施した調査の 分析に基づき、地域の社会関係資本と普及事業との関わり について論じています。
竹村幸祐・内田由紀子・福島慎太郎
「生業グループの社会関係資本と普及指導員の活動:農業者グループおよび漁業者グループのリーダー調査による検討」
農業普及研究 2017年 第45号22巻 p79-92
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第18回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2018年2月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「神話の論理」です。
著者はまず、神話では我々が普段生きている、いわゆるアリストテレス的な論理は神話のなかではやすやすと超えられることを指摘します。
その論理のもとでは、異質の他者との出会いがあったとしても、単に排除されるのではなく、それとつながることになって豊かになっていこうとする動きが生まれるといいます。
ただしそれは当然、簡単なことではなく、矛盾律を超えるためにはまずはっきりとした矛盾が必要であることも指摘されています。
こうした神話の論理が、今を生きる私たちのこころにも生きていることがおもしろいところです。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
われわれの現実、特に法的な現実を支配しているのはアリストテレス的な論理である。しかし統合失調症者の妄想に関する中村雄二郎の「述語的論理」という解釈は、心理療法の直面する様々な現象が、論理からの逸脱や崩壊として理解されるべきではなくて、むしろ別の論理として捉えられる可能性を示唆している。そこにこころの古層の論理が関係しているのである。
中沢新一は、科学が二頂対立によるアリストテレス的な論理によって成り立っているのに対して、神話の思考は二頂対立を用いつつも、異なる論理に基づいていることを指摘している(『対称性人類学』、講談社)。たとえば人間と山羊は区別されているはずであるのに、神話の中ではその区別が超えられ、「A(人間)は非A(山羊)ではない」という矛盾律がくつがえされる。(中略)
これは神話の中だけの前近代の世界における話であって、現代においては通用しない論理と思われるかもしれない。しかしそれはこころの古層として生きていて、心理療法の現実に現れてくる。....
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b351542.html
阿部准教授、内田准教授、上田助教らが執筆した『Memory in a Social Context: Brain, Mind, and Society』が出版されました
阿部修士准教授、内田由紀子准教授、上田祥行助教、中山真孝連携研究員(執筆当時はセンター研究員)らが執筆した書籍『Memory in a Social Context: Brain, Mind, and Society』(英語)が出版されました。人間の記憶について、心、脳、社会というより広い視点から捉えた最新の研究知見をまとめたものです。
センターの研究者が担当した各章の内容は以下の通りです。出版社、Amazon.co.jp の書籍ページでは試し読みが可能です。下記リンク先にてご覧ください。
Kikuchi H, Abe N (2017)
Voluntary suppression and involuntary repression: Brain mechanisms for forgetting unpleasant memories, In: Memory in a Social Context: Brain, Mind, and Society, pp 147-164, T. Tsukiura, S. Umeda, Eds. Springer, Tokyo
◯この章について
ヒト記憶機能については、能動的な抑制の過程がはたらく場合があり、意図的な記憶抑制と非意図的な記憶抑制の存在が示唆されています。本チャプターでは、これら二種類の記憶抑制に関わるこれまでの神経科学的な知見を、著者らの研究も含めまとめています。これまでの研究から、主に前頭前野によるトップダウン的処理が、内側側頭葉における記憶処理を妨げている可能性が明らかとなっています。(紹介文:阿部修士准教授)
Nakayama, M., Ueda, Y., Taylor, P.M., Tominaga, H., & Uchida, Y. (2017).
Cultural Psychology as a Form of Memory Research. In T. Tsukiura & S. Umeda (Eds.). Memory and the Social Context. Tokyo: Springer Japan.
◯この章について
文化と記憶の関連にして概観しています。記憶の研究領域において文化差を直接的に示唆する実証研究は数多いわけではありませんが、一定数存在しており、それらの結果は認知や注意における文化差と整合的であることが示されています。たとえば日本において他者との関係性に基づいた記憶が促進されていることなどが知られており、こうした研究知見を紹介しています。(紹介文:内田由紀子准教授)
出版社(Springer)の書籍ページ
http://www.springer.com/jp/book/9784431565895
Amazon.co.jp の書籍ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4431565892
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第17回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2018年1月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「こころと論理」です。
こころ、という言葉から「論理」は遠いように思われるかもしれません。
この連載では、こころにおける「論理」ということを論じていくようですが、今回はまず、こころには我々が一般的に思う「論理」が通用しないということをわかりやすく示しています。
たとえば、「私はこの商品を買うけど買わない」ということがあり得ない一方で、こころには「私は私であって私ではない」という論理は簡単に通用してしまう、というわけです。ただし、こころの「論理」とはそうした日常のものとは異なる次元に存在しているものと思われます。
次回の連載が楽しみです。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
論理(ロゴス)は、しばしば感情的(パトス)と対立し、こころの介入する余地のない世界を構築している要素や原理とみなされがちである。もちろん子どもがどのように認知機能や論理を獲得していくかという視点からは心理学にとって重要かもしれない。しかしここで問題にしてきているようなこころの古層や深層とは無縁のものとして通常は考えられている。ただしそれは、われわれのロゴスの理解が狭く、西洋哲学や近代の論理だけに限られているためであって、広い意味で捉えられたロゴスは、まさにこころの古層と歴史に関わっているいることをこれから示していきたい。
その前にまず、近代の論理の特徴とさらにはそれの限界を示しておくことが必要であろう。....
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b341482.html
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第16回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』12月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは前回の「こころと共生」に続いて「個と共生」というテーマです。
今年9月に行われた「第1回京都こころ会議国際シンポジウム」での講演を例にあげながら、個別のものと集合的なものがどのように関連し合っているのかについて興味深い視点を示しています。
『遠野物語拾遺』にみられるように、山で道に迷った父親が子どもの名前をよんでいくと、家で熟睡している息子が驚いて目を覚ますといったようなつながり方は
前近代のものと考えることもできますが、意外にも最新の科学理論からしても理解可能なものであるといいます。
つまり、我々が生きている「自然」とは、個々が動いているようでありながら実は非常に共生的であることを示唆しているのかもしれません。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
前回は、九月に開催された「第一回京都こころ会議国際シンポジウム」で扱われた「共生(symbiosis)」という概念について、共同体、自然、宇宙、さらにはあの世と、どこまでも同心円状に広がっていくようなこころの古層にあると考えられるもの、そして近代における個人や人間を中心とした考え方の限界と反省として生じてきているエコロジー的なものとの違いについてふれた。
今回は「個と共生」という切り口で考えてみたい。これは確かに西洋近代における個人の確立とそれによる共同体や自然との葛藤が生み出したテーマであるけれども、広井良典の講演は、人類史にとどまらず、生命史も共生と個体化の二つの方向の間のダイナミクスとして理解できることを示してくれていて興味深い。....
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b253540.html
阿部准教授、柳澤助教らの論文が『Cognitive, Affective, and Behavioral Neuroscience』に掲載されました
上田竜平・オフィスアシスタント(文学研究科大学院生・日本学術振興会特別研究員)、柳澤邦昭助教、阿部修士准教授らの執筆した論文が、学術誌『Cognitive, Affective, and Behavioral Neuroscience』Vol.17 に掲載されました。
本研究は「浮気」に対する興味関心の制御に関わる認知基盤に焦点を当てた研究です。機能的磁気共鳴画像法 (fMRI)を用いた実験から、特定のパートナーと交際している恋愛中の男性が、魅力的な女性に対する興味関心を制御するには、1) 浮気を是としない潜在的な態度と、2) 前頭前野による行動制御の機構、の両者が必要であることが示されました。
なお、本研究はこころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRI装置を用いて行われました。
Ueda R, Yanagisawa K, Ashida H, Abe N (2017) Implicit attitudes and executive control interact to regulate interest in extra-pair relationships. Cognitive, Affective, and Behavioral Neuroscience 17 (6): 1210-1220
https://link.springer.com/article/10.3758/s13415-017-0543-7
○Abstract
Do we actively maintain monogamous relationships by force of will, or does monogamy flow automatically? During functional magnetic resonance imaging (fMRI), male participants in a romantic relationship performed the Implicit Association Test (IAT) to evaluate implicit attitudes toward adultery and a go/no-go task to measure prefrontal activity implicated in explicit executive control. Subsequently, they were engaged in a date-rating task in which they rated how much they wanted to date unfamiliar females. We found that the individuals with higher prefrontal activity during go/no-go task could regulate the interest for dates with unattractive females; moreover, the individuals with both a stronger negative attitude toward adultery and higher prefrontal activity could regulate their interest for dates with attractive females, and such individuals tended to maintain longer romantic relationships with a particular partner. These results indicate that regulation of amorous temptation via monogamous relationship is affected by the combination of automatic and reflective processes.
Keywords : Monogamy fMRI Dual-process theory Implicit social cognition Self-control
河合教授の論文が『Journal of Analytical Psychology』に掲載されました
河合俊雄教授の論文が、『Journal of Analytical Psychology』(Vol62, 5)に掲載されました。
2017年3月にイギリスで最も大きなユング派の組織である Society of Analytical Psychology の年次講演会に登壇し、アンドリュー・サミュエル氏のメインレクチャーのレスポンデント(respondent)として講義した「The historicity and possibility of Jungian analysis: another view of SWOT(ユング派心理療法の歴史性と可能性:SWOTのもうひとつの見方)」をまとめたものです。
Kawai,T.(2017) The historicity and potential of Jungian analysis: another view of 'SWOT'. Journal of Analytical Psychology, 62 (5), 650-657.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1468-5922.12352/full ※認証有り
◇講演会の報告記事:
河合教授が英国エセックス大学で開催されたSociety of Analytical Psychology年次講演会に登壇しました
佐藤准教授らの論文が『Human Brain Mapping』に掲載されました
佐藤弥准教授が義村さや香助教(京都大学大学院医学研究科)らと執筆した論文が、学術誌『Human Brain Mapping』に掲載されました。
感覚処理の個人差が初期感覚野により実現されることを報告する論文です。
論文は下記リンク先にて閲覧いただけます(認証有り)。
Yoshimura, S., Sato, W., Kochiyama, T., Uono, S., Sawada, R., Kubota, Y., & Toichi, M. (2017). Gray matter volumes of early sensory regions are associated with individual differences in sensory processing. Human Brain Mapping, 38, 6206-6217.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/hbm.23822/full
○Abstract
Sensory processing (i.e., the manner in which the nervous system receives, modulates, integrates, and organizes sensory stimuli) is critical when humans are deciding how to react to environmental demands. Although behavioral studies have shown that there are stable individual differences in sensory processing, the neural substrates that implement such differences remain unknown. To investigate this issue, structural magnetic resonance imaging scans were acquired from 51 healthy adults and individual differences in sensory processing were assessed using the Sensory Profile questionnaire (Brown et al.: Am J Occup Ther 55 (2001) 75-82). There were positive relationships between the Sensory Profile modality-specific subscales and gray matter volumes in the primary or secondary sensory areas for the visual, auditory, touch, and taste/smell modalities. Thus, the present results suggest that individual differences in sensory processing are implemented by the early sensory regions. Hum Brain Mapp 38:6206-6217, 2017. © 2017 Wiley Periodicals, Inc.
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第15回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』11月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「こころと共生」です。
これは本年9月に公益財団法人・稲盛財団のご支援を受けて行われた第1回京都こころ会議国際シンポジウムのテーマでもありました。
「こころの共生」というと、どうしても西洋近代に代表されるような、心身二元論的な発想との対比になりがちですが、本文ではそのような対立を超えて「こころ」を森羅万象に広がっているものと捉える日本的な見方のおもしろさについて論じられています。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
私の務める京都大学こころの未来研究センターに、「京都こころ会議」というプロジェクトがある。「こころ」という日本語には、mind や psyche などに比べて、より広くて深いニュアンスがあり、それを大切にしながら「こころ」とは何かを問うていこうというものである。稲盛財団の支援を受けて三年前にスタートして、第一回は「こころと歴史性」(『こころはどこから来て、どこへ行くのか』岩波書店)、第二回は「こころの内と外」をテーマとしたシンポジウムを開催してきた。この九月に開催された三回目は、日英二カ国語での「第一回京都こころ会議国際シンポジウム」として、「こころと共生」(Kokoro and symbiosis)をテーマとした。
この共生という考え方は、まさにこころの古層の最前線にも関わっていると思われる。....
(論考より)
[関連ページ]
第1回京都こころ会議国際シンポジウム「こころと共生」を開催しました(報告記事)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b329812.html
佐藤准教授らの論文が『BMC Research Notes』に掲載されました
佐藤弥准教授らが執筆した論文が、学術誌『BMC Research Notes』に掲載されました。
身体ホメオスタシス状態が食物への無意識の感情反応を調整することを報告する論文です。
論文は下記リンク先にて無料で閲覧いただけます。
Sato, W., Sawada, R., Kubota, T., Toichi, M., & Fushiki, T. (2017).
Homeostatic modulation on unconscious hedonic responses to food.
BMC Research Notes, 10, 511.
https://bmcresnotes.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13104-017-2835-y
○Abstract
Objective
Hedonic/affective responses to food play a critical role in eating behavior. Previous behavioral studies have shown that hedonic responses to food are elicited consciously and unconsciously. Although the studies also showed that hunger and satiation have a modulatory effect on conscious hedonic responses to food, the effect of these homeostatic states on unconscious hedonic responses to food remains unknown.
Results
We investigated unconscious hedonic responses to food in hungry and satiated participants using the subliminal affective priming paradigm. Food images or corresponding mosaic images were presented in the left or right peripheral visual field during 33 ms. Then photographs of target faces with emotionally neutral expressions were presented, and the participants evaluated their preference for the faces. Additionally, daily eating behaviors were assessed using questionnaires. Preference for the target faces was increased by food images relative to the mosaics in the hungry, but not the satiated, state. The difference in preference ratings between the food and mosaic conditions was positively correlated with the tendency for external eating in the hungry, but not the satiated, group. Our findings suggest that homeostatic states modulate unconscious hedonic responses to food and that this phenomenon is related to daily eating behaviors.
○Keywords
Dutch eating behavior questionnaire (DEBQ) Food Hungry-full homeostatic states Subliminal affective priming Unconscious hedonic responses
河合教授らの編著書『発達の非定型化と心理療法』の書評が『心理臨床学研究』に掲載されました
河合俊雄教授と教育学研究科の田中康裕准教授が編者を務め、畑中千紘助教(上廣寄付研究部門)らと執筆し、2016年10月に刊行された『発達の非定型化と心理療法』(創元)の書評が、日本心理臨床学会の発行する『心理臨床学研究』第35巻第3号に掲載されました。
書評は武庫川女子大学の西井克泰教授によるもので、2頁に渡って紹介されています。「発達の非定型化」という視点から数々の事例を検討しながら時代的・社会的要因を探り、「主体」を明らかにあるいは確立するための心理療法の大切さと有効性を提示する本書について、「時代精神に応じたセラピーのあり方を問い」「セラピーの本質を問う試みの書」と評しています。
なお本書は、「子どもの発達障害への心理療法的アプローチ」および「大人の発達障害への心理療法的アプローチ」プロジェクト(2016年まで上廣こころ学研究部門、現・上廣寄付研究部門)での研究成果等をまとめたものです。
書評:発達の非定型化と心理療法 河合俊雄/田中康裕 編
評者 西井克泰 武庫川女子大学
本書は, 「こころの未来選書」として創元社から発刊されているシリーズの第4弾である。これまでの3冊は, 『発達障害への心理療法的アプローチ』(2010年), 『話の聴き方からみた軽度発達障害』(2011年), そして『大人の発達障害の見立てと心理療法』(2013年)と, 発達障害者への心理療法的アプローチを扱ったものである。それが本書に至り, 発達の非定型化に注目した心理療法のあり方へとシフトしている。発達の非定型化の特徴が本書には理論編, 事例編において各所に指摘されており, 筆者が児童養護施設児へのプレイセラピーにおいて長年疑問を抱いてきたことが, それらの指摘によって氷解したことが, 本書の書評を認めるきっかけとなっている。
本書によると, 編者らは京都大学こころの未来研究センターにおいて, 「発達障害への心理療法的アプローチ」というプロジェクトを2008年から実施している。....
河合教授らの論文が『甲状腺ホルモンと関連疾患』(日本甲状腺学会雑誌増大号)に掲載されました
河合俊雄教授らの共著論文「甲状腺ホルモンと精神疾患」が、『甲状腺ホルモンと関連疾患』(日本甲状腺学会雑誌 増大号)に掲載されました。日本甲状腺学会創設60周年を記念したもので、日本語版と英語版それぞれが刊行されています。
深尾篤嗣・高松順太・伊藤充・有島武志・横山博・田中美香・河合俊雄・岡本泰之・宮内昭・今川彰久(2017)甲状腺ホルモンと精神疾患. 日本甲状腺学会誌vol.8(2), 48-59.
[構成]
・はじめに
・精神疾患に影響する甲状腺ホルモン
・精神疾患に影響するメカニズム
・甲状腺機能低下症と精神疾患
・甲状腺機能亢進症と精神疾患
・診断治療
・おわりに
○論文について
論文は、これまでチームで研究を進めてきた成果のひとつです。
甲状腺疾患にはうつ状態や不安障害などの精神疾患、症状が合併することが多く、それにはセロトニンやノルアドレナリンの調節作用をもつ甲状腺ホルモンの関連が指摘されています。
一方、甲状腺機能が治療により正常化してからも精神症状は残存することが多く、こうした心理社会的要因の影響は見過ごすことはできません。このような症例に対してはbio-psycho-social medical modelに基づく心身医学的アプローチが重要であるということを本論文は指摘しています。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
英語版の紹介記事
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/en/News-en/2017/10/1710_kawai_THhormones.php
雑誌情報と目次(出版社のサイト)
http://www.m-review.co.jp/book/detail/978-4-7792-1969-6
河合教授の第39回日本精神病理学会大会での講演録が『臨床精神病理』に掲載されました
河合俊雄教授が教育講演を行った第39回日本精神病理学会大会(2016年10月7・8日/静岡県浜松市)での講演録が、日本精神病理学会の発行する『臨床精神病理』第38巻第2号に掲載されました。
河合俊雄(2017) 自閉症スペクトラム障害への心理療法の試みと時代性. 臨床精神病理vol.38(2). 166-174.
[構成]
Ⅰ. 自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断史
Ⅱ. ASDと「主体」
Ⅲ. ASDと心理療法
Ⅳ. ASDという診断・見立ての増加
Ⅴ. ASD的臨床像の増加と社会構造
Ⅵ. ASDとは見立てられない非定型化の例
Ⅶ. 発達の非定型化と心理療法
Ⅷ. セラピストの個性・偶然の作用
講演では、自閉症スペクトラム障害の増加について時代背景から読み解くと共に、社会構造の変化と発達の「非定型化」について指摘しました。また、自閉症スペクトラム障害あるいはそれに近い状態の子どもに対する心理療法的アプローチについて、「子どもの発達障害への心理療法的アプローチ」(2016年度まで上廣こころ学研究部門、現在も上廣寄付研究部門で実施)プロジェクトの成果から論じました。
教育講演の模様は、下記リンク先の報告記事をご覧ください。
内田准教授が講師を務めた大阪大学COデザインセンターの連続講座が書籍化されました
内田由紀子准教授が2017年3月16日、グランフロント大阪で開催された「ナレッジキャピタル超学校「対話で創るこれからの『大学』」(2017年3月16日/グランフロント大阪北館ナレッジキャピタル1F カフェラボ)第8回に講師として登壇、その連続講座が一冊の本にまとまり発刊されました。
(写真: 大阪大学COデザインセンターのサイトより)
「ナレッジキャピタル超学校」は、大阪大学COデザインセンター、一般社団法人ナレッジキャピタル、株式会社KMOが開いた講座で、一般生活者と研究者が一緒に考え対話する開かれたプログラムです。内田准教授は、最終回にあたる第8回「つながりを研究する:『つなぐ人』がもたらす価値」に講師として千葉大学教授の神里達博氏と共に登壇。大阪駅に直結したグランフロント1Fのオープンカフェを舞台に、「つながり」をテーマに44人の参加者と対話しました。
当日のレポートが大阪大学COデザインセンターのサイトで公開されています。
佐藤准教授らの執筆した論文が『Scientific Reports』に掲載されました
佐藤弥准教授らが執筆した論文が、学術誌『Scientific Reports』に掲載されました。 自閉症スペクトラム障害および高レベルの自閉症傾向を持つ個人において、笑顔の検出が障害されていることを報告する論文です。
論文は下記リンク先にて無料で閲覧いただけます。
Sato, W., Sawada, R., Uono, S., Yoshimura, S., Kochiyama, T., Kubota, Y.,Sakihama, M., & Toichi, M. (2017). Impaired detection of happy facial expressions in autism. Scientific Reports, 7, 13340.
http://www.nature.com/articles/s41598-017-11900-y
○Abstract
The detection of emotional facial expressions plays an indispensable role in social interaction. Psychological studies have shown that typically developing (TD) individuals more rapidly detect emotional expressions than neutral expressions. However, it remains unclear whether individuals with autistic phenotypes, such as autism spectrum disorder (ASD) and high levels of autistic traits (ATs), are impaired in this ability. We examined this by comparing TD and ASD individuals in Experiment 1 and individuals with low and high ATs in Experiment 2 using the visual search paradigm. Participants detected normal facial expressions of anger and happiness and their anti-expressions within crowds of neutral expressions. In Experiment 1, reaction times were shorter for normal angry expressions than for anti-expressions in both TD and ASD groups. This was also the case for normal happy expressions vs. anti-expressions in the TD group but not in the ASD group. Similarly, in Experiment 2, the detection of normal vs. anti-expressions was faster for angry expressions in both groups and for happy expressions in the low, but not high, ATs group. These results suggest that the detection of happy facial expressions is impaired in individuals with ASD and high ATs, which may contribute to their difficulty in creating and maintaining affiliative social relationships.
阿部准教授らの論文が『Scientific Reports』に掲載されました
阿部修士准教授らの論文が、学術誌『Scientific Reports』に掲載されました。
本研究は柔軟な行動に関わる脳機能について、fMRIを用いて調べた研究です。これまでの研究では、柔軟な行動は、背外側前頭前野が主体的役割を担っていると考えられていました。本研究では、より柔軟な判断をするほど、背外側前頭前野と側頭頭頂接合部の活動が共に上昇している事を報告し、これらが視野(判断基準)の切替えを促進する可能性について推測しました。この研究はこころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRIを用いて行われました。
Tei S, Fujino J, Kawada R, Jankowski KF, Kauppi J, van den Bos W, Abe N, Sugihara G, Miyata J, Murai T, Takahashi H (2017). Collaborative roles of temporoparietal junction and dorsolateral prefrontal cortex in different types of behavioural flexibility. Scientific Reports 7 (1): 6415
http://www.nature.com/articles/s41598-017-06662-6 ※認証有り
○Abstract
Behavioural flexibility is essential for everyday life. This involves shifting attention between different perspectives. Previous studies suggest that flexibility is mainly subserved by the dorsolateral prefrontal cortex (DLPFC). However, although rarely emphasized, the temporoparietal junction (TPJ) is frequently recruited during flexible behaviour. A crucial question is whether TPJ plays a role in different types of flexibility, compared to its limited role in perceptual flexibility. We hypothesized that TPJ activity during diverse flexibility tasks plays a common role in stimulus-driven attention-shifting, thereby contributing to different types of flexibility, and thus the collaboration between DLPFC and TPJ might serve as a more appropriate mechanism than DLPFC alone. We used fMRI to measure DLPFC/TPJ activity recruited during moral flexibility, and examined its effect on other domains of flexibility (economic/perceptual). Here, we show the additional, yet crucial role of TPJ: a combined DLPFC/TPJ activity predicted flexibility, regardless of domain. Different types of flexibility might rely on more basic attention-shifting, which highlights the behavioural significance of alternatives.
広井教授の論文が掲載された共著書『科学知と人文知の接点――iPS細胞研究の倫理的課題を考える』が刊行されました
広井良典教授の論文が掲載された、iPS細胞研究の倫理的課題に関する共著書『科学知と人文知の接点――iPS細胞研究の倫理的課題を考える』が弘文堂より刊行されました。
本書は京都大学iPS細胞研究所・山中伸弥所長監修、同研究所上廣倫理研究部門編によるもので、iPS細胞研究に関する倫理的課題を、自然科学および人文社会科学の双方の知見を踏まえて幅広く考究する内容となっており、上廣倫理財団設立30周年記念論集としての性格も持ち合わせています。
全体の構成は、「特別対談 幹細胞研究の倫理的課題(山中伸弥所長、島薗進東京大学名誉教授)」に始まり、「第1部 幹細胞研究の現場から」、「第2部 iPS細胞研究所上廣倫理研究部門から」、「第3部 オックスフォード大学の応用倫理学者から」、「第4部 国内の人文学者から」、「第5部 政府・国際的視点から」となっており、広井教授の論文「iPS細胞が高齢化社会に及ぼす影響――公共政策の観点から」は第4部に収められています。
□書籍情報
『科学知と人文知の接点――iPS細胞研究の倫理的課題を考える』
山中 伸弥 監修・ 京都大学iPS細胞研究所上廣倫理研究部門 編
出版社:弘文堂
判型・ページ数:A5 上製 368ページ
定価:本体3,500円+税
発行日:2017年10月刊
ISBN-10:433575017X
ISBN-13:978-4335750175
出版社の書籍ページ(詳しい目次が載っています)
Amazon.co.jp の書籍ページ
佐藤准教授らの執筆した論文が『Brain topography』に掲載されました
佐藤弥准教授が魚野翔太准教授(京都大学大学院医学研究科)らと執筆した論文が、学術誌『Brain topography』に掲載されました。表情認識能力の個人差の構造的神経基盤を調べた研究です。
論文は下記リンク先にて閲覧いただけます。
Uono, S., Sato, W., Kochiyama, T., Kubota, T., Sawada, R., Yoshimura, S., & Toichi, M. (2017). Putamen volume is negatively correlated with the ability to recognize fearful facial expressions. Brain Topography, 30, 774-784.
http://link.springer.com/article/10.1007/s10548-017-0578-7
○Abstract
Findings of previous functional magnetic resonance imaging (MRI) and neuropsychological studies have suggested that specific aspects of the basal ganglia, particularly the putamen, are involved in the recognition of emotional facial expressions. However, it remains unknown whether variations in putamen structure reflect individual differences in the ability to recognize facial expressions. Thus, the present study assessed the putamen volumes and shapes of 50 healthy Japanese adults using structural MRI scans and evaluated the ability of participants to recognize facial expressions associated with six basic emotions: anger, disgust, fear, happiness, sadness, and surprise. The volume of the bilateral putamen was negatively associated with the recognition of fearful faces, and the local shapes of both the anterior and posterior subregions of the bilateral putamen, which are thought to support cognitive/affective and motor processing, respectively, exhibited similar negative relationships with the recognition of fearful expressions. These results suggest that individual differences in putamen structure can predict the ability to recognize fearful facial expressions in others. Additionally, these findings indicate that cognitive/affective and motor processing underlie this process.
○Keywords
Basal ganglia, Emotion recognition, Fearful face, Structural magnetic resonance imaging, Putamen
畑中助教の論考が『心理療法の広場』に掲載されました
日本心理臨床学会が発行している広報誌『心理療法の広場』第10巻第1号通巻19号(2017年8月発行)に畑中千紘助教(上廣倫理財団寄付研究部門)の論考が掲載されました。
本誌は臨床心理士の活動や心理臨床の仕事を一般の方たちに広く知ってもらうための雑誌で、全国の公立図書館、大学・高校の図書館などでも読むことができます。畑中助教は、「現代社会と心理臨床」という特集の中で「発達障害と現代的意識」と題し、次のような論考を寄稿しました。
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
○論考について
近年、発達障害がとても注目され、自分が発達障害ではないかと不安になったり、周りの人が発達障害なのではないかと思えてきたりしている人がとても多くいます。
しかし、こころや精神は時代の影響を受けているもので、発達障害という概念もそのような流れの中で見てみると、少し見え方が変わってくるかもしれません。
臨床心理士の仕事は、個々の人たちに関わりサポートすることが基本にありますが、発達障害への理解の仕方を発信することで社会が発達障害というものとどのように関わっていけばよいかについての視点を示していくことも重要な仕事だと思っています。(解説:畑中)
発達障害と現代的意識
京都大学こころの未来研究センター/上廣倫理財団寄付研究部門 畑中千紘
こころには、どんな時代にも変わらないところと、時代に応じて少しずつ変わっていくところがあります。源氏物語を読んで、平安時代の人の恋心に共感できるのは時代を経ても変化しないこころの働きがあるからということができるでしょう。しかし一方で私たちは、三〇年前の服装を見るとどこか古くさく感じます。このような感じ方の変化は、こころが変わっていく部分をもっているからです。そのような変化は私たちが特に意識していなくても起こっています。私は流行には流されない、見た目なんかどうでもいいと思っている人でも、一世代前の服装が古く見えることには変わりがないでしょう。時代の変化に敏感な人もそうでない人も、多かれ少なかれ時代の影響を受けているものなのです。
こころのもっているこのような仕組みは、こころの問題や症状にも表れてきます。この五〇年ほどの歴史を振り返ると、精神的・心理的な症状の流行はどんどん変わってきていると言われています。そうした流れの中で二〇〇〇年以降に注目されるようになったのが発達障害です。....
(論考より)
河合教授が登壇した日本箱庭療法学会第30回大会ケースシンポジウム講演録が『箱庭療法学研究』に掲載されました
河合俊雄教授が指定討論者として登壇した日本箱庭療法学会第30回大会(帝塚山学院大学/2016年10月16日)のケースシンポジウムの記録が『箱庭療法学研究』第30巻第1号に掲載されました。
高野 祥子, 前川 美行, 東山 紘久, 河合 俊雄, 森田 慎(2017), 事例から見る箱庭療法の30年, 箱庭療法学研究, 30(1), 121-146.
ケースシンポジウムは、日本箱庭療法学会が30回の記念大会を迎えたことを記念して企画されたもので、約30年前の事例と最近の事例を比較しながら検討することによって、箱庭療法の歩んだ30年を振り返ると共に、箱庭療法の未来を考えることを主旨としたものです。
詳しくは、下記リンク先の報告記事をご覧ください。
河合教授の基調講演が『第34回いのちの電話相談員全国研修会なら大会 報告書』に掲載されました
河合俊雄教授が2016年9月15日に天理大学で開催された「第34回いのちの電話相談員全国研修会なら大会」で行った基調講演の講演録が、主催者の一般社団法人日本いのちの電話連盟と一般社団法人奈良いのちの電話協会がまとめた報告書に掲載されました。
○第34回いのちの電話相談員全国研修会なら大会 報告書
基調講演「アウトリーチとしての心理療法と現代のこころ」
京都大学こころの未来研究センター 副センター長 河合俊雄氏
[構成]
1. 心理療法といのちの電話
2. アウトリーチの増加
3. 心理療法におけるセッティングと主体
4. 主体の喪失
5. 新しい心理療法とスーパーヴィジョンの大切さ
講演では、いのちの電話がある種のアウトリーチであるという前おきのもと、近年、心理療法、カウンセリングで増えているアウトリーチの様々なかたちやこころの変化、ターミナルケアの現場における興味深い事例とスーパーヴィジョンの重要性などが約2時間に渡って論じられました。
基調講演の模様は、下記リンク先の報告記事をご覧ください。
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第14回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』10月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「イニシエーションの喪失」です。
ここ2回にわたって、現代におけるイニシエーションについて論じられてきましたが、今回は、個人の内面においてもそれは失われつつあるということについて述べています。この世とこの世ならざる世界が決定的に分断されていてこそ、イニシエーションは成立しますが、現代の特徴はその境界がなくなってきているということです。
発達障害の方の夢が例としてあげられていますが、そもそも、発達障害という概念や状態こそが現代の境界とイニシエーションの喪失を象徴しているものかもしれないということが指摘されています。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
こころの最前線と古層(一四)
「イニシエーションの喪失」 河合俊雄
イニシエーションは、近代社会においてもはや伝統的な儀式としては失われているかもしれないけれども、心理療法の中で夢などにイメージとして登場して、大いに意味を持つことを強調してきた。これはイニシエーションが共同体の中では重要ではなくなっても、個人の内面やこころの古層ではまだ生きていることを意味する。
しかしながら、イニシエーションは個人の内面においてもむずかしくなってきているかもしれない。イニシエーションにおいては人格の全面的な変容が生じ、それはしばしば死と再生のイメージで示される。シャーマンのイニシエーションにおける解体のヴィジョンはその典型である。(中略)
ところが、近年において増えている発達障害で典型的に認められるように、絶対的な境界の向こうの異世界というイメージは、現代においてむずかしくなってきている。....
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b317294.html
阿部准教授らの論文が『Neuroreport』に掲載されました
阿部修士准教授らの論文が、学術誌『Neuroreport』に掲載されました。
本研究は正直な行為に関わる脳機能について、fMRIを用いて調べた研究です。本研究では特に、ズルをすることで報酬を獲得できる条件と罰を回避できる条件を設定し、そういったズルをしない際の正直な行為の選択に関わる脳のはたらきを調べました。その結果、正直な行為の選択はどちらの条件においても、前頭前野による行動制御を必要としない自動的なプロセスに基づいている可能性が示唆されました。この研究はこころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRIを用いて行われました。
Yoneda M, Ueda R, Ashida H, Abe N(2017). Automatic honesty forgoing reward acquisition and punishment avoidance: a functional MRI investigation. Neuroreport 28: 879-883
https://goo.gl/sYKwfv ※認証有り
○Abstract
Recent neuroimaging investigations into human honesty suggest that honest moral decisions in individuals who consistently behave honestly occur automatically, without the need for active self-control. However, it remains unclear whether this observation can be applied to two different types of honesty: honesty forgoing dishonest reward acquisition and honesty forgoing dishonest punishment avoidance. To address this issue, a functional MRI study, using an incentivized prediction task in which participants were confronted with real and repeated opportunities for dishonest gain leading to reward acquisition and punishment avoidance, was conducted. Behavioral data revealed that the frequency of dishonesty was equivalent between the opportunities for dishonest reward acquisition and for punishment avoidance. Reaction time data demonstrated that two types of honest decisions in the opportunity for dishonest reward acquisition and punishment avoidance required no additional cognitive control. Neuroimaging data revealed that honest decisions in the opportunity for dishonest reward acquisition and those for punishment avoidance required no additional control-related activity compared with a control condition in which no opportunity for dishonest behavior was given. These results suggest that honesty flows automatically, irrespective of the concomitant motivation for dishonesty leading to reward acquisition and punishment avoidance.
○Keywords
functional MRI; honesty; prefrontal cortex; punishment; reward
河合教授が解説を執筆した『こころとお話のゆくえ』(河合隼雄著)が出版されました
河合俊雄教授が解説を執筆した『こころとお話のゆくえ』(河合隼雄著)が2017年3月、河出書房新社より出版されました。河合隼雄京大名誉教授が生前、京都新聞で連載したコラムがまとまった『平成おとぎ話』(潮出版社/2000年)が復刊したものです。
河合隼雄財団のウェブサイトでは、河合教授の解説を引用しながら、あたたかい言葉で紹介しています。あわせてお読みください。
河合隼雄「こころとお話のゆくえ」が河出文庫より発刊されました! | 河合隼雄財団ウェブサイト
◇本の紹介(出版社ウェブサイトより)
科学技術万能の時代に、お話の効用を。悠長で役に立ちそうもないものこそ、深い意味をもつ。深呼吸しないと見落としてしまうような真実に気づかされる五十三のエッセイ。
『こころとお話のゆくえ』(河出文庫)
著者:河合隼雄
解説:河合俊雄
発行:河出書房新社/2017年8月
価格:691円(本体価格640円)
ISBN-10: 430941558X
ISBN-13: 978-4309415581
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第13回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』9月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回は「心理療法におけるイニシエーション」がテーマとなっています。
現代におけるイニシエーションの意味を論じた前回に引き続き、今回はある心理療法事例をとりあげて、具体的にどのように内的なイニシエーションが生じてくるのかについて示しています。
シャーマンの脱魂のように、自分を上から見るという体験は現実からとても離れているようにも思われますが、実は、自分を離れてみるということは大事なことで、私たちも成長の過程で通ってきているものなのかもしれないということが示唆されています。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
こころの最前線と古層(一三)
「心理療法におけるイニシエーション」 河合俊雄
前回において、近代社会において失われたり、形骸化したりしているイニシエーションが、こころの古層では未だに働いている可能性を指摘した。そして社会から隔離されたところで守秘義務を伴って行われる心理療法自体が、イニシエーションの構造を持っており、その特徴が夢にも示されてくることを述べた。
今回は、ある事例を取り上げて、イニシエーションが心理療法のなかに生じてくることを明らかにしたい。シャーマンのイニシエーションにおいて、動物霊などによってシャーマンの頭が切り離され、それが樹木の上などのような少し高いところに置かれ、残された自分の身体がバラバラに解体されるところを見守るというヴィジョンが生じることがしばしば報告されている。これは根源的な変容であるイニシエーションに欠くべからざる死という体験を示しており、またシャーマンが自分の身体を離れて脱魂する能力の獲得にも関係している。(中略)
このような体験は、極端なもののように思われるかもしれないけれども、発達的には自意識の獲得にも関係している。....
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b310349.html
梅村研究員、畑中助教の共著論文が『箱庭療法学研究』に掲載されました
梅村高太郎研究員、畑中千紘助教の共著論文が、『箱庭療法学研究』第30巻第1号(発行:日本箱庭療法学会)に掲載されました。
これは、2016年度までに行われた上廣こころ学研究部門のプロジェクト「子どもの発達障害への心理療法的アプローチ」の成果です。数年にわたるプロセスを追うことで子どものこころがどのように変わっていくのかを示したもので、研究部門での継続的な取り組みが形になったものといえます。このプロジェクトは上廣寄付研究部門でも引き続き実施されています。
梅村高太郎・畑中千紘(2017), プレイセラピーが発達障害にもたらす効果の事例的・実証的検討―融合・分離の契機と破壊・対立を生み出す悪の意義―, 箱庭療法学研究, 30(1), 3-16.
○論文について
これは、発達障害へのプレイセラピー(子どもの心理療法)の有効性と意義を示すため、プレイセラピーのプロセスと、6ヶ月ごとに実施した発達検査の変化を検討したものです。
セラピーの中で、「悪」のイメージが出てくることは一般にはよくないと思われがちですが、ネガティブな心の働きが起こってくることはこころの発達に大きな意味をもつこと、そして、発達指数は全体として伸びていく中で、一度停滞し、崩れるプロセスがあることがその後のさらなる発達につながっていくことを示しています。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
吉岡教授らが編集、執筆した『「美少女」の記号論』(日本記号学会 編)が刊行されました
吉岡洋教授が所属する日本記号学会が編集した『「美少女」の記号論: アンリアルな存在のリアリティ』(叢書セミオトポス12)が、2017年8月、新曜社より刊行されました。吉岡教授が学会会長を務めていた2015年に開催された日本記号学会第35回大会「美少女の記号論」での対話、発表を中心に、美少女を巡る様々な考察をまとめたユニークな書籍です。
◆美少女の記号論に向けて 吉岡洋
このような状況のなかで「美少女の記号論」を提起する意味とは何だろうか?二〇一五年の日本記号学会大会のテーマとして、「美少女」という言葉がなぜ心に響いたのだろうか?それはたぶん「美少女」が、ポピュラーな文化的アイコンのなかでは、とりわけ「神聖性」と「非現実性」を強く保持した、特殊な記号だと思えたからではないか。「美少女」とは、そもそも触れることができないもの、捕獲すること(把握=理解すること)が不可能なものという意味を持っているように感じられる。そして「美少女」という記号についてどう考えるにせよ、この非現実性や把握不能性が、とりあえずは美少女に関して共有されたひとつの「意味」であるということは、多くの人が同意するのではないだろうか。それでは、それをひとつの出発点として、どうやってその先に進めばいいか?それが、この大会の議論を通して話し合いたかったことである。
私は、「美少女」とは虚構世界の表象であるばかりではなく、同時に私たち自身の人生に直接影響を与えるような、ある生のモデルでもあるのではないかと考えている。美少女というイメージを仮託される現実の少女たちはもちろんだが、より深いレベルにおいては、年齢や性別の異なった多くの人々にまで、自分自身の内的な理想像として、美少女は影響を及ぼしているように思えるのである。そこに、美少女に救済的な意味が与えられる、もうひとつの理由があるのかもしれない。別な言い方をするなら、「美少女」とはいわば、この世界に関与しながらも、つねに半分くらいしか関与していないような生き方を示す記号だとも言える。(中略)
いずれにせよ、「美少女」という記号を退廃的な幻想やファンタジー、虚構性の牢獄からなんとか救い出したいというのが、私がこの大会を企画した主要な動機のひとつだった。さまざまな分野の方々による「美少女」解読を、ぜひお楽しみいただきたい。
(「はじめに」より)
A5判並製242頁 定価:本体2,800円+税
発売日 2017.8.31
ISBN 978-4-7885-1535-2
北山特任教授、柳澤助教、内田准教授、阿部准教授の共著論文が『PNAS』に掲載されました
北山忍特任教授、柳澤邦昭助教、内田由紀子准教授、阿部修士准教授らの共著論文 "Reduced orbitofrontal cortical volume is associated with interdependent self-construal" が、『PNAS (Proceedings of the National Academy of Sciences)』に掲載されました。
本研究では、他者との人間関係の中に埋め込まれた存在として自己をとらえる「相互協調的自己観」とよばれる東アジア圏で優勢な文化的自己観と、脳構造との対応関係を調べたものです。脳構造の解析では、灰白質の容量を評価可能なvoxel-based morphometry(VBM)の手法を用いました。解析の結果、相互協調的自己観が強い個人ほど、眼窩前頭皮質とよばれる領域の灰白質量が低いことがわかりました。さらにこの関係性は、物体の視覚的特徴をもとにした情報処理である「物体イメージ型」の認知スタイルが強い場合に顕著でした。この研究はこころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRIを用いて行われました。
Kitayama S, Yanagisawa K, Ito A, Ueda R, Uchida Y, Abe N (2017)
Reduced orbitofrontal cortical volume is associated with interdependent self-construal
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 114 (30): 7969-7974
http://www.pnas.org/content/114/30/7969.abstract ※認証有り
●Abstract
Interdependent self-construal refers to a view of the self as embedded in relationships with others. Prior work suggests that this construal is linked to a strong value placed on social obligations and duties. Interdependent people are therefore cognitively attuned to others and various social events in their surroundings while down-regulating their personal goals. In the present work, we examined whether structural properties of the brain predict interdependent self-construal. We performed a structural magnetic resonance imaging on 135 Japanese young adults while assessing (i) independent and interdependent self-construals and (ii) the degree to which individuals form vivid images of external objects (object imagery). The cortical volume of the orbitofrontal cortex (OFC) (a core cortical region responsible for value-based decisionmaking and, thus, inherently involved in personal goals and desires) inversely predicted interdependent self-construal. Further analysis found that the highest level of interdependent self-construal is achieved when those who are relatively low in the OFC volume are simultaneously high in object imagery, consistent with previous evidence that interdependence, as realized via obligation and duty, requires both the reduced self-interest and vigilant cognitive attunement to environmental context.
KEYWORDS: interdependence, orbitofrontal cortex, self-construal, voxel-based morphometry
内田准教授らの執筆した論文が『Frontiers in Psychology』に掲載されました
内田由紀子准教授が、大学院生(富永仁志・日本学術振興会特別研究員/人間・環境学研究科)や国内外の共同研究者らと実施した論文が、学術誌『Frontiers in Psychology』に掲載されました。
日本では中心物の周囲の情報に注意を向ける「包括的認知傾向」がよりよくみられることが知られていますが、本論文では特に他者と共同で行う課題時に経験されるネガティブ感情が強いほど包括的認知傾向が高くなることを実証的に示しました。実験では鉄琴合奏をペアの実験参加者に行ってもらうという共同課題を実施するなど、ユニークな方法がとられました。
論文は下記リンク先にて無料で閲覧いただけます。
Tominaga, H., Uchida, Y., Miyamoto, Y., & Yamasaki, T. (2017).
Negative affect during a collective (but not an Individual) task is associated with holistic attention in East Asian cultural context.
Frontiers in Psychology, 8:1283. doi: 10.3389/fpsyg.2017.01283
http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fpsyg.2017.01283/full
河合教授が登壇した日本遊戯療法学会第22回大会シンポジウム講演録が『遊戯療法学研究』に掲載されました
河合俊雄教授がシンポジストとして登壇した日本遊戯療法学会第22回大会(天理大学/2016年8月20日)の公開シンポジウムの記録が『遊戯療法学研究』第16巻第1号に掲載されました。
河合俊雄, 木部則雄, 滝川一廣, 山中康裕, 伊藤良子, 千原雅代 (2017), シンポジウム「発達障害と遊戯療法」, 16(1), 69-96.
公開シンポジウムは、センターでこれまで行ってきた子どもの発達障害への心理療法的アプローチプロジェクトでの成果をもとに、発達障害に対するプレイセラピー(遊戯療法)からのアプローチの有効性、またその際のポイントなどについて、発達障害が専門の精神科医などの専門家と議論を行ったものです。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
詳しくは、下記リンク先の報告記事をご覧ください。
河合教授が登壇したシンポジウムの記録が『ユング心理学研究第9巻』に掲載されました
河合俊雄教授が指定討論者として登壇したシンポジウム 「海の彼方より訪れしものたち」(基調講演 赤坂憲雄学習院大学教授)の記録が『ユング心理学研究第9巻』(p.31-48)に掲載されました。
◻︎基調講演「海の彼方より訪れしものたち」 赤坂憲雄
被災地を歩きながら考えてきたこと
東日本大震災の被災地の風景/泥の海/潟化する世界/二つの墓/生と死を織りなす風景
海の彼方からやって来るもの
無意識を象徴する海/海から寄り来るもの/二つの海
日本人と海のイメージ
日本人と航海技術/日本人と太平洋/海と山の間/ユングと沖縄の津波伝承/私たちが問われていること
◻︎討論――基調講演を受けて 指定討論者 川戸 圓・河合俊雄
大いなる母なる水
海と山に違いはあるのか/川を通じた循環/穢れを流す川の神様/命を生み出し、奪うもの
日本人の心と境界
境界線とは何か/境界がない日本人
今後の日本人の心のあり方
山と海の捉え方の違い/ゴジラが表しているもの/これから向き合っていかなければならないこと/海の向こうに想像力を/太陽の象徴/排除された男性の太陽神
このシンポジウムでは、赤坂教授が東日本大震災の後、被災地を歩きながら考えてきたことについて、泥の海と創造神話、潟化する世界という視点、海と陸、生と死、などの境界について等の視点から講演したものです。
震災によって我々につきつけられた人間と自然にまつわる講演でしたが、これに対して河合教授は、日本人にとっての境界の意味や、自然と人間を区別する西欧に対して日本人のもつ自然との融合的な関わりについて言及しました。
また、同じ巻には河合教授が通訳をつとめた講演「分析という場 対人的および元型的側面」(ジョセフ・ケンブレイ氏)の講演録も収録されています。
ジョセフ・ケンブレイ先生は、2017年9月18日に行われる第1回京都こころ会議国際シンポジウムにも登壇します。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第12回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』8月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
今回のテーマは「イニシエーション」です。
たとえば現在では成人式に参加しなくても社会的に大きな問題となることはありませんが、そのように人生の節目に行われる儀式は形骸化してきている側面があります。
しかし、「社会の表面ではイニシエーションが無意味になってしまっていても、こころの古層ではそれが未だに働いている」と著者は指摘します。そして、歯医者や美容院、心理療法などが現実的にもイメージのレベルでも、現代におけるイニシエーションのモチーフとなりやすいことについて述べています。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
こころの最前線と古層(一二)
「イニシエーション」 河合俊雄
前回までに何度か「象徴」をテーマに取り上げたが、それと密接に関連しているのが「儀式」である。たとえばキリスト教におけるミサという儀式においては、パンとワインの象徴性が非常に重要になる。仏式のお葬式におけるお焼香など、儀式において使われるもの、決まった動作には、ふだんは意識されていない場合でさえ、極めて高い象徴性が含まれているのである。
さて、そのような儀式のなかで、「イニシエーション」というのが心理療法の過程を理解する上でしばしば重要となる。イニシエーションは「通過儀礼」とも訳されていて、出生、成人、結婚、死などの人生の節目を超えるための儀式で、特に子どもから大人になる儀式が、ファン・へネップをはじめとする文化人類学者によって取り上げられて有名になった。(中略)
それでは文化人類学を通じて再発見されたイニシエーションは、近代社会にとっても意味を持っているのであろうか。....
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b308359.html
熊谷教授が編著者の『ブータン:国民の幸せをめざす王国』が刊行されました
熊谷誠慈准教授(上廣倫理財団寄付研究部門)が編著者の『ブータン:国民の幸せをめざす王国』が2017年7月、創元社より刊行されました。
日本では2011年にブータン国王ご夫妻が来日されブータンブームが起こり、2017年には、秋篠宮眞子さまがブータンを訪問され、ニュースとなっています。
ブータンは物質的繁栄とともに国民の幸福を追求する国として知られ、同国の国民総幸福(GNH)政策は国連も注目、日本では東京都荒川区を中心に、全国100近くの自治体が参加して「幸せリーグ」が設立されるなど、地方行政にも大きな影響を与えています。
しかし、ブータンの国民は本当に幸福度が高いのか、仏教王国だが紛争はないのか、近代化との兼ね合いはどうなっているかなど、これまでほとんど伝えられなかったブータンの実像を様々なエピソードを交えながら紹介し、経済と幸福との関係、指導者のあり方など、日本の進路を考える上でも示唆に富む内容となっています。
全体は以下の4部、計10章から構成され、上廣倫理財団寄付研究部門の熊谷准教授が第1章を、また、今枝由郎特任教授が第3章、4章を執筆しています。
<目次>
第1部 ブータンの歴史
第1章 ブータンの歩みをたどる(熊谷誠慈)
第2章 日本とブータンの交流史―京都大学を中心に(栗田靖之)
第2部 ブータンの文化
第3章 仏教と戦争-第四代国王の場合(今枝由郎)
第4章 ブータンの仏教と祭り-ニマルン寺のツェチュ祭(今枝由郎)
第5章 イエズス会宣教師の見たブータン-仏教とキリスト教(ツェリン・タシ)
第6章 ブータンの工芸品(ラムケサン・チューペル)
第3部 ブータンの社会
第7章 輪廻のコスモロジーとブータンの新しい世代(西平直)
第8章 ブータンの魅力とGNHの現在-世界はGNH社会を求めるのか(草郷孝好)
第9章 「関係性」から読み解くGNH(国民総幸福)(上田晶子)
第4部 ブータンの自然・環境
第10章 東ブータンの自然と農耕文化(安藤和雄)
<書籍情報>
『ブータン:国民の幸せをめざす王国』
編著:熊谷誠慈
出版社:創元社 (2017/7/13)
価格:1,800円+税
単行本:240ページ
ISBN-10: 4422360027
ISBN-13: 978-4422360027
出版社 書籍ページ (より詳しい目次が掲載されています)
Amazon.co.jp 書籍ページ
河合教授の解説文が収められた『臨床心理学』100号記念特集号が刊行されました
雑誌『臨床心理学』第17巻第4号(発行:金剛出版/2017年7月号)に河合俊雄教授の解説文が掲載されました。
これは、雑誌「臨床心理学」の通巻100号を記念した特集号で、臨床心理学の学問と実践の発展を一望するものとして発刊されました。「臨床心理学実践ガイド」と題した本特集で、河合教授は「精神分析(ユング/分析心理学)」について寄稿し、その基礎的な枠組みや対象、訓練のあり方などについて解説しています。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
「精神分析(ユング/分析心理学)」河合俊雄 京都大学こころの未来研究センター
ユング心理学, あるいは分析心理学は, CG Jung(1875-1961)にはじまったものである。技法的には夢や箱庭などのイメージを重視し, また理論的には過去の生活史に基づく個人的無意識を超えた集合的無意識を前提にしているところが特徴的である。
イメージ
ユング派の心理療法では, 夢, 箱庭, 描画などのイメージを重視する。心理療法は, こころという目に見えないもの, あるいは主体を何かに映して扱う方法を取っている。たとえば精神分析ではそれは自由連想や治療関係である。....
(解説文より)
出版社の雑誌紹介ページ(目次が掲載されています)
http://kongoshuppan.co.jp/dm/8100.html
Amazon.co.jp の雑誌ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4772415734
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第11回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』7月号に河合俊雄教授の連載「象徴性と直接性」が掲載されました。
今回のテーマは「象徴性と直接性」です。
前回の連載では、一般的に象徴が貧困化してきていることが指摘されましたが、そのように象徴が機能しなくなると、象徴のつなぐ機能が失われることになるため、直接の噴出を引き起こす可能性が高まります。
今回の連載では、そのことを村上春樹の作品や時代の病理を例にとって指摘すると共に、無の次元に至ることを通じた新たな可能性についても示唆されています。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
前回では、現代において一般的に象徴性が貧困化していて、また発達障害などのように象徴性の機能が弱いと考えられるクライエントが増えていることを指摘した。これはある意味でユングが象徴と対比させていた記号の世界であり、デジタル化された世界であるとも言える。つまりあるものの意味が一義的に決まっていて、そこに比喩や象徴が働く余地がないのである。
それでは世界は、完全に一義的で曖昧さのないものになるように進んでいるのであろうか。こころの興味深いところは、ある方向に一面的に進むのではなくて、必ずそれへの反作用が生まれることである。近年におけるグローバリズムについても、それが一方的に進むのではなくて、民族主義や、保守的な原理主義による反動が生じている。一九六〇年代、七〇年代には、学生運動をはじめとする支配階級や世代に対する反発の力や暴力が社会の表面では吹き荒れたけれども、その背後で無気力の学生が増えていたことが指摘されている。
同じようなことは象徴の貧困化についても言え、それは画一的で静的な世界に至るのではない。....
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b302200.html
上田助教の共著論文が『精神科治療学』に掲載されました
上田祥行助教が教育学研究科の藤野正寛日本学術振興会特別研究員と共同執筆した論文が、『精神科治療学』第32巻05号に掲載されました。「マインドフルネス─精神科治療への導入と展開」というテーマの特集において、マインドフルネス瞑想における集中瞑想と洞察瞑想それぞれの神経基盤の違いについて、研究成果および今後の展望を紹介しています。
藤野正寛・上田祥行 (2017). マインドワンダリングの低下に関わる集中瞑想と洞察瞑想の神経基盤. 精神科治療学, 32(5), 645-650.
http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo01/bo0102/bn/32/05index.html
○抄録
今この瞬間に生じている経験以外のことを考えるマインドワンダリングが高まると幸福感は低下する。マインドフルネス瞑想を構成する集中瞑想と洞察瞑想は,どちらもマインドワンダリングやその神経基盤であるデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)の活動を低下させるが,その方法が異なっている。本稿では,マインドフルネスとマインドワンダリングの概念を整理した上で,仏教心理学や認知神経科学の観点から,集中瞑想と洞察瞑想がDMN の活動を低下させる方法やその神経基盤の違いについて論じた。集中瞑想では,注意をとどめる対象を設定することで,DMN に対する注意関連領域の関与が高まる。洞察瞑想では,反応したり判断したりする態度を低下させる際に,DMN において記憶関連領域や,特に記憶に対する感情的な修飾に関わる領域の関与が低下する。マインドフルネスと幸福感の関係を解明するためには,特に洞察瞑想の神経基盤について検討を進めることが重要である。
□関連情報
上田助教らの研究(「集中瞑想と洞察瞑想の神経基盤:線条体とデフォルトモードネットワーク間の機能的結合性の違い」)が日本マインドフルネス学会で最優秀賞を受賞しました
阿部准教授、柳澤助教の共著論文が 『Social Neuroscience』に掲載されました
上田竜平・オフィスアシスタント(文学研究科大学院生・日本学術振興会特別研究員)、柳澤邦昭助教、阿部修士准教授らの執筆した論文が、学術誌『Social Neuroscience』Vol.12 に掲載されました。
特定の個人とすでに交際関係にある異性に恋をしてしまう「略奪愛」は、人間の社会では制限されているにもかかわらず、日常茶飯事に見られます。本研究では機能的磁気共鳴画像法 (fMRI)を用いた実験を通し、異性の顔写真を処理する際の眼窩前頭皮質と呼ばれる報酬の処理に関わる領域の活動が高い個人ほど、「略奪愛」の関心が高いことが示されました。
なお、本研究はこころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRI装置を用いて行われました。
Ueda R, Ashida H, Yanagisawa K, Abe N (2017). The neural basis of individual differences in mate poaching. Social Neuroscience, 12 (4): 391-399
http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/17470919.2016.1182065 ※認証有り
●ABSTRACT
This study tested the hypothesis that individual differences in the activity of the orbitofrontal cortex, a region implicated in value-based decision-making, are associated with the preference for a person with a partner, which could lead to mate poaching. During functional magnetic resonance imaging (fMRI), male participants were presented with facial photographs of (a) attractive females with a partner, (b) attractive females without a partner, (c) unattractive females with a partner, and (d) unattractive females without a partner. The participants were asked to rate the degree to which they desired a romantic relationship with each female using an 8-point scale. The participants rated attractive females higher than unattractive females, and this effect was associated with ventral striatum activation. The participants also indicated lower ratings for females with a partner than for females without a partner, and this effect was associated with parietal cortex activation. As predicted, the participants characterized by higher orbitofrontal activity demonstrated a greater willingness to engage in a romantic relationship with females who have a partner compared with females who do not have a partner. These results are the first to provide a possible neural explanation for why certain individuals are willing to engage in mate poaching.
KEYWORDS: fMRI, individual differences, love, orbitofrontal cortex, reward
吉川教授のエッセイ「心理学からみたユマニチュード」が『総合診療』に掲載されました
吉川左紀子教授のエッセイ「心理学からみたユマニチュード」が、医学書院が発行する『総合診療』2017年5月号に掲載されました。
東京医療センターの本田美和子総合内科医長が企画した本号の特集「コミュニケーションを処方する」では、医師と患者による「よいコミュニケーション」のための技術を多角的に取り上げ、昨今注目されている「ユマニチュード」や「オープンダイアローグ」等について専門家が紹介しています。吉川教授は、ユマニチュードの専門的技法の巧みさについて心理学者の視点から解説し、今後、科学的なアプローチからユマニチュードの真髄に迫りたい、と伝えています。
「心理学からみたユマニチュード」吉川左紀子 京都大学こころの未来研究センター
私はケアの専門家ではないが、心理学者として「人と人が心を通わせる技術」には強い関心がある。2016年6月以降、数回にわたって東京医療センターで研修を受け、ユマニチュードの初歩を体験した。(中略)
「自分が高齢になってケアが必要になったら、ぜひユマニチュードを実践する介護者のいるところでケアを受けよう」
研修を受けたあと、強く私の心に残ったのは、この思いだった。なぜ、自分はそうした願望をもったのか?今も、その理由を考え続けている。そして、「心理学」の立場から、この問いに答えてみたいと思う。おそらく、その手がかりは、次のようなところにあるのではないだろうか。
ケアする人の視線・表情・声・仕草のすべてが、安心や信頼を伝える持続的メッセージとして機能するようにケアが組み立てられていること。そのことによって、ケア自体が心地よいコミュニケーションの時間として経験されること。そして、それらがすべて、「自ら立ち上がって歩く」という、生きる意欲の回復につながっていることである。....
(エッセイより)
『総合診療』2017年5月号 | 医学書院(特集紹介と目次が掲載されています)
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第10回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』6月号に河合俊雄教授の連載「象徴性と現代」が掲載されました。
10回目の今回は「象徴性と現代」がテーマです。
最近では象徴性から遠い人が増えていると言われますが、それは個人的な要因だけではなくて、現代においてすでに象徴性そのものが失われているのではないかということをユングを引きながら論じています。
次回はこうした現代的課題の実像とアプローチについてがテーマとなるようで楽しみです。
(解説:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
この連載でも何度か指摘しているように、近年において悩みや葛藤を持たなかったり、発達障害的であったりするクライエントが増えてきている。田中康裕が指摘しているように、そのような人たちの夢やイメージは「象徴性のなさ」を特徴としている(『大人の発達障害の見立てと心理療法』創元社)。
たとえば極端な場合は、自分の訪れた場所をそのまま箱庭に再現したり、現実で生じたことがそのままに夢に現れたりする。象徴性とは、字義通りのものや意味と区別されたメタファー的な次元である。それをユングは、未知のものを指し示すと表現した。あるいは現実と区別されたファンタジーの次元と呼んでもよいかもしれない。それに対して現実の全くの繰り返しであるものには字義通りの意味しかなくて、それを超えた何の象徴性も認めることができない。現実そのままというのは極端であっても、象徴的意味が見出しにくいイメージをもたらすクライエントは増加しているように思われる。
このような人が増えているということは、単に現代において象徴性に開かれていない人が増えているということだけではなくて、現代における象徴性そのものの喪失を示唆していると考えられないだろうか。....
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b286197.html
◆関連書籍
『大人の発達障害の見立てと心理療法 (こころの未来選書)』(創元社/2013年)
書籍の紹介記事は こちら
阿部准教授の論考が『月報司法書士』に掲載されました
阿部修士准教授の論考「感情と意思決定」が、日本司法書士連合会の発行する機関誌『月報司法書士』2017年2月号に掲載されました。
同誌の「感情と意思決定〜紛争の解決にあたって」と題した特集に寄せたもので、認知神経科学を専門とする研究者の視点から、幅広い研究知見をもとに感情がいかに意思決定に影響するか、そのメカニズムについて概観し、後半では特集テーマである紛争との関連についても考察しています。
本誌はPDFで公開されています。下記リンク先のページよりダウンロードしてお読みください。
月報司法書士 2017年2月号(No.540)| 日本司法書士連合会
阿部修士 (2017)
感情と意思決定
月報司法書士 No. 540: pp. 4-12
感情について議論をする場合、まず感情についての基本的な定義や、感情の発現に関わる様々な古典的理論を紹介するのが一般的であるかもしれない。ただし、本稿の趣旨が感情のみならず意思決定を含むこと、また紛争というテーマへの展開を考慮すると、ともすれば退屈になりがちな基礎知識の説明に紙面を割くのはあまり得策ではない。そこで本稿では、感情が意思決定に与える影響を示した代表的な研究事例をいくつか取り上げながら、 感情が意思決定の際にどのような役割を果たしているかを紹介していきたい。 最初に取り上げるのは、意思決定に関する 研究の中でも、極めてインパクトの大きかったエイモス・トベルスキーとダニエル・カー ネマンによる一連の研究である。....
(論考より/つづきを読む→ PDF)
広井教授の論文「ケアとしての科学」が『学術の動向』に掲載されました
広井良典教授の論文「ケアとしての科学――科学哲学・公共政策の立場からみたケアサイエンスの必要性」が『学術の動向』2017年5月号に掲載されました。
論文は、「これからの社会におけるケアサイエンスの構築をめざして」と題する特集の一環をなすもので、日本学術会議健康・生活科学委員会看護学分科会・ケアサイエンス班の企画によるものです。
広井教授の論文は、近代科学の枠組みでは「科学(サイエンス)」と「ケア」が分裂する方向に進んでいったが、今後は対象との相互作用や出来事の個別性・一回性も重視した「ケアとしての科学」という姿が重要になってくるとし、ケアという視点が今後の科学全体のあり方やそこでの新たな自然観・人間観を先導していく位置にあることを論じる内容となっています。
『学術の動向』最新号 | 日本学術協力財団 ※当該号の目次が掲載されています
http://www.h4.dion.ne.jp/~jssf/doukou_new.html
吉岡教授の論考が収められた『辺境芸術最前線』(秋田公立美術大学)が出版されました
吉岡洋教授の論考「芸術と道徳をめぐって」が収められた『辺境芸術最前線〜生き残るためのアートマネジメント』が秋田公立美術大学より出版されました。
秋田公立美術大学に所属する教員らが、県内4つの地域と連携して実施するアートマネジメント人材育成のためのプロジェクトをまとめたもので、各章に内外の美術関係者の論考が掲載されています。吉岡教授は第5章「芸術と道徳 領域横断の実験」において、芸術と道徳というふたつの概念の関係性について、幾つかの事例と共に考察しています。
書籍は一般での販売は行われていませんが、同大学のウェブサイトでPDFが公開されており、誰でも無料で読むことができます。
芸術と道徳をめぐって 吉岡洋
芸術と道徳とは、そもそもどんな関係にあるのだろうか?
誰にとっても、これはきわめて重要な問いである。と同時に、それ自体としてはひとつの抽象的な問いでもある。「芸術」そして「道徳」という一般概念がいったい何を意味するのか、この問いだけからは分からないからである。現実性を重んじる人は、このような「抽象的な問い」を無力だと感じるかもしれない。それはあまりに漠然とした、何とでも答えられる問いのように響くからである。だが、本当にそうだろうか?....
(論考より)
『辺境芸術最前線 生き残るためのアートマネジメント』 (PDF 16MB)※タイトル・画像クリックでPDF閲覧可能
編者 AKIBI plus事務局/岩井成昭、石川真由子、伊藤美生
発行者 公立大学法人秋田公立美術大学
2017年2月28日初刷
河合教授が登壇した日本ユング心理学会ケースシンポジウム講演録が『臨床ユング心理学研究』に掲載されました
河合俊雄教授が司会・指定討論者として登壇した日本ユング心理学会第4回大会(京都文教大学/2015年6月7日)の大会企画ケースシンポジウムの記録が『臨床ユング心理学研究』2(1)に掲載されました。
陳麗美・申荷永・金宝愛・河合俊雄(2016)「東アジアのユング派心理療法―故樋口和彦先生の貢献を偲ぶ」
臨床ユング心理学研究2(1), pp.55-63.
ケースシンポジウムは、ユング派分析家の樋口和彦先生の三回忌にあたる2015年に、その貢献を偲ぶ意味で企画されたものです。樋口先生が中国、台湾、韓国などアジア各国でユング心理学を広めるための活動をされていたことから、台湾ユング派グループの陳氏が発表した事例をもとにしたシンポジウムでした。
(報告:畑中千紘助教・上廣倫理財団寄付研究部門)
河合教授が編集、解説を書いた『定本 昔話と日本人の心』(河合隼雄著)が出版されました
河合俊雄教授が編集した『定本 昔話と日本人の心』(河合隼雄著)が、2017年4月、岩波書店より出版されました。岩波現代文庫の「〈物語と日本人の心〉コレクション」第6巻目、完結編となります。編者である河合教授の解説と、1982年出版時の鶴見俊輔氏による解説が収められています。
河合隼雄財団のウェブサイトでは、本作が著者の代表作とされる所以について、丁寧に解説された記事を読むことができます。下記リンク先の記事をお読みください。
〈物語と日本人の心〉コレクションⅥ『定本 昔話と日本人の心』が発刊されました! | 河合隼雄財団
◇本の紹介(出版社ウェブサイトより)
「浦島太郎」「鶴女房」など日本人に古くから親しまれてきた昔話には,西洋近代流の自我の意識とは異なる日本人独特の意識が現われている! 心理療法家河合隼雄が「女性の意識」に着目し,日本昔話を世界の民話や伝説と比較しながら読み解く.著者自身による解題「序説 国際化の時代と日本人の心」を収録し,定本とした決定版.
『定本 昔話と日本人の心』(岩波現代文庫〈物語と日本人の心〉コレクションⅥ)
著者:河合隼雄
編者:河合俊雄
発行:岩波書店/2017年4月
価格:1,512円(本体価格1,400円)
判型:A6・432頁
ISBN-10: 4006003498
ISBN-13: 978-4006003494
河合教授、畑中助教との対談が収められた『臨床哲学対話 いのちの臨床 木村敏対談集1』が出版されました
2017年3月、青土社より刊行された木村敏京大名誉教授の対談集『臨床哲学対話 いのちの臨床 木村敏対談集1』に、河合俊雄教授、鎌田東二センター元教授、畑中千紘助教との対談が収録されました。
収録された対談は、センターの広報誌『こころの未来』第3号(2009年9月発行)に掲載されたものです。木村名誉教授をゲストに迎え、「変化するこころ、変化しないこころ」をテーマに、「あいだ」の時間性と空間性、「もの」と「こと」の多義性といった日本独自のこころにまつわる概念やこの50年のこころの変化について議論しています。
「座談会:変化するこころ、変化しないこころ」は、PDFが公開されています。下記のリンク先ページをご覧ください。
学術広報誌「こころの未来」第3号
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/jp/kokoronomirai/2009/11/post.html
『臨床哲学対話 いのちの臨床 木村敏対談集1』(青土社)
http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3021
(本の紹介:畑中千紘助教・上廣こころ学研究部門)
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第8回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』4月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
連載第8回目のテーマは「心身症と心理療法」です。
前回に引き続き、こころと身体の間とも言える心身症を扱っています。
ここでは、心身症といっても心理的な要素のみに原因をみるのでも、身体にのみ要因を絞るのでもなく、スペクトラムとしてみると述べられているところがポイントになっています。
また、純粋な身体病よりもこころに近いものが心身症であるのですが、心身症の人たちは葛藤や内省といった視点が弱い(=こころからの距離が遠い)といった矛盾も指摘されています。
デカルト的に言えば心身は二分されますが、心身症はそのようにはっきりと分けることへの疑念を呈しているといえるのかもしれません。
(解説:畑中千紘助教・上廣こころ学研究部門)
前近代の癒しの技法が、こころの病と体の病の区別をせず、いわば全ての病を心身症として扱っていたことからすると、心身症というアプローチには、こころの古層が関わっていると言えよう。ところで、一口に心身症と言っても、その中には様々なものがあり、そもそも心身症ということを認めるかどうかも問題である。実際のところ、現代医学の標準的な診断基準であるICD-10やDSM-5には心身症と言うカテゴリーはない。そこでまず簡単に心理療法と心身症の関わりの歴史を振り返りつつ、心身症について考えたい。
心身症の歴史において、ハンガリー出身の精神分析家であるフランツ・アレクサンダーの仕事は一九五〇年代頃の趨勢を考える上で重要であろう。....
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b283985.html
広井教授が編著者の『福祉の哲学とは何か』が刊行されました
広井良典教授が編著者の『福祉の哲学とは何か――ポスト成長時代の幸福・価値・社会構想』が2017年3月、ミネルヴァ書房より刊行されました。
社会的孤立や格差・貧困をめぐる諸課題が顕在化し、他方において経済成長ないしパイの拡大の時代が終焉しつつある現在、人と人の支え合いや分配の原理を律する福祉の哲学が求められています。
同時に物質的な豊かさが飽和する中で、人々の関心は「幸福」をめぐる問いや内的・精神的な充足に向かっており、根源的な意味での「福祉」の意味やそのありようが問われています。こうした関心をベースに、「生命」や自然も視野に入れつつ福祉の哲学について多様な角度から考察し、新たな提言を行うのが本書の内容となっています。
全体は以下のような4章から構成され、広井教授が第1章を、また上廣倫理財団寄付研究部門の松葉ひろ美連携研究員が第4章を担当しています。
第1章 なぜいま福祉の哲学か(広井良典)
第2章 福祉哲学の新しい公共的ビジョン(小林正弥)
第3章 福祉と「宗教の公共的役割」(稲垣久和)
第4章 「生命」と日本の福祉思想(松葉ひろ美)
○書籍情報
『福祉の哲学とは何か――ポスト成長時代の幸福・価値・社会構想』
編著:広井良典
出版社:ミネルヴァ書房 (2017/3/20)
価格:3,000円+税
単行本:332ページ
ISBN-10: 4623077888
ISBN-13: 978-4623077885
出版社 書籍ページ (より詳しい目次が掲載されています)
Amazon.co.jp 書籍ページ
広井教授が共著者の一人である『科学をめざす君たちへ――変革と越境のための新たな教養』が刊行されました
広井良典教授が共著者の一人である『科学をめざす君たちへ――変革と越境のための新たな教養』が2017年3月、慶応義塾大学出版会より刊行されました。
本書は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センターの編集によるもので、同センターにおいて14回にわたって行われた政策セミナー「21世紀の科学的知識と科学技術イノベーション政策」がベースとなっています。
本書の序文では、同センター長の野依良治氏が「今やむしろ、自らの倫理観や人生観、さらに文明観を糺(ただ)すための、『価値観のイノベーション』こそが決定的に大切だと思います」と述べています。広井教授は最終章の「定常型社会を迎え、日本は何をめざすのか?――成熟と幸福のための科学技術考」を担当しています。
(広井教授担当の章)
第14章 定常型社会を迎え、日本は何をめざすのか?
―― 成熟と幸福のための科学技術考 広井 良典
はじめに
1 現在という時代をどう捉えるか?
2 「持続可能な福祉社会」をめざす
3 ポスト成長時代の世代間配分
4 ポスト成長時代の科学・技術像
おわりに
○書籍情報
『科学をめざす君たちへ――変革と越境のための新たな教養』
編集:国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター
出版社:慶應義塾大学出版会 (2017/3/31)
価格:1,620円
単行本:396ページ
ISBN-10: 4766424034
ISBN-13: 978-4766424034
広井教授が共編者を務め、センターの研究者らが執筆を務めた『2100年へのパラダイムシフト』が刊行されました
広井良典教授が共編者の『2100年へのパラダイムシフト』が作品社より2017年2月に刊行されました。
本書は、2100年を基本的な視野に入れて、これからの世界や人間のありようを幅広い角度から探究するもので、2013-14年に毎日新聞文化面に連載された企画記事がベースとなっており、それを再編・増補したものです。「国家と紛争の行方」「脱〈成長〉への道」「〈核〉と人類」「新しい倫理」「変貌する学と美」という5部構成で、文理にわたる多様な分野の約50名の研究者等が寄稿しています。
広井教授が冒頭の「総論 超長期の歴史把握と現在――2100年を考える」を執筆しているほか、センターからは佐伯啓思特任教授、河合俊雄教授、内田由紀子・熊谷誠慈・阿部修士の各准教授が寄稿しています。
『2100年へのパラダイム・シフト ー日本の代表的知性50人が、世界/日本の大変動を見通す』
編集:広井良典、大井浩一
出版社:作品社 (2017/2/25)
価格:1,800円+税
単行本:224ページ
ISBN-10: 4861825970
ISBN-13: 978-4861825972
○目次
総論 超長期の歴史把握と現在ー2100年を考える 広井良典
第Ⅰ部 国家と紛争の行方
[討議]21世紀の世界システムとは? 田中明彦 x 広井良典
論考:村田晃嗣、園田茂人、遠藤乾、酒井啓子、西谷修、西崎文子、原田泉、水島司、三宅芳夫
第Ⅱ部 脱〈成長〉への道
[討議]豊かさの変質と定常化 神野直彦 x 広井良典
論考:佐伯啓思、中野佳裕、セルジュ・ラトゥーシュ、内田由起子、熊谷誠慈、玄田有史、水野和夫、渡辺靖、西川潤、田中洋子、青木保、広井良典
第Ⅲ部 〈核〉と人類
[討議]21世紀世界と〈核〉 加藤尚武 x 広井良典
論考:梅本哲也、武田徹、藤垣裕子、米本昌平、吉岡斉、加藤哲郎
第Ⅳ部 新しい倫理
[討議]変容の時代における倫理 伊東俊太郎 x 広井良典
論考:橋爪大三郎、阿部修士、西垣通、西研、吉原直樹、松原隆一郎、鶴見太郎、河合俊雄、広井良典、中村桂子
第Ⅴ部 変貌する学と美
[討議]大停滞後の文明と知識・教育・芸術 山崎正和 x 広井良典
論考:中島琢磨、管啓次郎、佐藤卓巳、黒川創、猪木武徳、建畠哲、三浦雅士
あとがき 大井浩一
編者紹介
総論ー2100年を考える 超長期の歴史把握と現在 広井良典
本書は、「2100年」を基本的な視野において、おれからの世界や人間のありようを幅広い角度から探究するものである。
それは言い換えれば、トランプ現象、イギリスEU離脱、各地で頻発するテロ・民族紛争、中国・インドそしてアフリカの台頭......等々といった個々の事象の根底にある潮流を明らかにし、2100年に向けた超長期の歴史の展望を探る試みでもある。(中略)
ところで、本書は通常の意味での"未来予測"の本ではない。つまり、2100年における新たな科学・技術の個別の姿とか、国際情勢とか、地球環境をめぐる状況等々を細かく分析し予測すること自体を目的とするものではなくーそうした内容に関連する記述もある程度含まれるがー、むしろそうした現象の底流にある、大きな次元での思想や観念、人間の行動様式や社会の構造変化等に注目し、その未来を(2100年という時点を導きの糸としつつ)展望するという内容のものである。
しかしながら他方、「2100年」という時点における世界や人間のありようを考えるとき、ある程度の正確さをもって「予測」できるものがある。
それはまず「人口」に関する予測である。......
(「はじめにー2100年を考えることの意味」より)
上田助教の共著論文が「Cognitive Science」に掲載されました
上田祥行助教、齋木潤人間・環境学研究科教授、北山忍ミシガン大学教授(センター特任教授)、ロナルド・レンシンク ブリティ ッシュコロンビア大学教授らによる論文がアメリカの学術誌「Cognitive Science」に掲載されました。
上田助教ら国際共同研究チームは、文化が視覚情報処理に与える影響について、視覚的注意に関する課題を用いて、思考や推論、誤差が関与する可能性を極力排除し、モノの見方に環境がどういった影響を与えるのかを調査しました。北米と日本で実験を行った結果、基礎的な視覚処理もその人が属する文化、環境による影響を受けていることがわかりました。
日本語による研究成果の概要が京都大学の公式ウェブサイトに掲載されています。下記リンク先のページをお読みください。
日本の人と北米の人ではものの探し方が違う:Cultural Differences in Visual Search for Geometric Figures
Yoshiyuki Ueda, Lei Chen, Jonathon Kopecky, Emily S. Cramer, Ronald A. Rensink, David E. Meyer, Shinobu Kitayama, Jun Saiki. (2017). Cultural Differences in Visual Search for Geometric Figures. Cognitive Science.
【DOI】 https://doi.org/10.1111/cogs.12490 (認証有り)
河合教授が解説を執筆した『私が語り伝えたかったこと』(河合隼雄著)の文庫版が出版されました
河合俊雄教授が解説を執筆した『私が語り伝えたかったこと』(河合隼雄著)の文庫版が2017年3月、河出書房新社より出版されました。河合隼雄京大名誉教授が生前に行った講演、インタビュー、論考等から選りすぐられたものが一冊になり、河合教授が解説を寄せています。
河合隼雄財団のウェブサイトでは、本書にあるおすすめの論考を河合教授の解説の引用と共に紹介し、本の魅力を伝えています。あわせてお読みください。
河合隼雄『私が語り伝えたかったこと』が文庫になりました | 河合隼雄財団ウェブサイト
◇本の紹介(出版社ウェブサイトより)
これだけは残しておきたい、弱った心をなんとかし、問題だらけの現代社会に生きていく処方箋を。臨床心理学の第一人者・河合先生の、心の育み方を伝えるエッセイ、講演、インタビュー。没後十年。
『私が語り伝えたかったこと』(河出文庫)
著者:河合隼雄
解説:河合俊雄
発行:河出書房新社/2017年3月
価格:734円(本体価格680円)
ISBN-10: 4309415172
ISBN-13: 978-4309415178
広井教授の『ポスト資本主義』の韓国語版が刊行されました
広井良典教授の著書『ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来』(岩波書店、2015年)の韓国語版が刊行されました。訳者はパクジェイ氏で、AKコミュニケーションズ(ソウル)より2017年1月20日の刊行となりました。韓国語版ウェブサイトは こちら。
『ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来』は、2015年に岩波新書として出版されました。資本主義の歩みを人類史的なスケールから俯瞰し、国家、コミュニティ、社会の変遷と現状の課題について論じ、「定常型社会」をキーワードに、持続可能な社会を実現させるための具体的な提言を盛り込んだ書です。
なお同書は中国語版も刊行予定です。
『ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来』(広井良典)
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第7回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』3月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
連載第7回目のテーマは「身体の病と心理療法」です。
こころとからだの関係はふしぎなもので、どこかでつながっていると思われることが多いけれど、そのつながりは一定ではありません。
河合教授は、心理療法がデカルトに代表されるような心身を峻別する考え方に基づいて始まったものであることを指摘しつつ、そのプロセスの中では心と身体の関連が見えてくることがあると述べています。
心理療法からのアプローチで、身体症状がよくなったり、あるいは逆に、体が緩んでそれまで風邪など引かなかった人が
風邪を引くということもあるというので不思議です。
そして、「心理」療法といいながらも、身体がかかわってくるからこそ、イメージを通じたアプローチも重要であると指摘しました。
(解説:畑中千紘助教・上廣こころ学研究部門)
こころの最前線と古層(七)
「身体の病と心理療法」 河合俊雄
近代の心理療法は、一九世紀末におけるフロイトによるヒステリーの治療ではじまった。手足の麻痺、目が見えなくなることをはじめとした様々な感覚器官の障害などの、一見すると身体的な症状を示す人に対して、フロイトはそれが身体的な原因によるのではなくて、その人の無意識的な葛藤による心理学的な原因があることを明らかにしていった。またそれを睡眠による想起、後には自由連想の方法を用いて解決しようとした。
その際に、身体の麻痺などが神経的や筋肉的な問題によるのではないことが重要で、もしそうであれば身体的な治療を行うことになるし、心理療法は有効な試みでないことになる。心理療法はこころの問題にアプローチする方法である。その意味で心理療法は身体的原因が除外されてから、消去法的に浮かび上がることが多い。
特に病院でカウンセラーとして仕事をしていると、様々な他科から、身体の不調を訴えて訪れたけれども、いろいろな検査を行っても問題がないし、精神的なものではないかということでリファーされてくる患者さんに会うことが多い。
ところが、前近代の癒しの技法では、こころの病と体の病の間に区別はなかった。....
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b281136.html
河合教授の論考が『精神療法』に掲載されました。
河合俊雄教授の論考が、精神療法専門誌『精神療法』第43巻第1号(発行:金剛出版)に掲載されました。
特集「サイコメトリー(Psychometry)の治療的利用」において、河合教授は「WAT(Jung 言語連想)の治療的利用」を執筆しています。
サイコメトリーとは、いわゆる心理テストのことですが、さまざまな心理検査が、治療関係の中でどのような力を発揮するのかについての論考が集められた号となっています。
河合教授はユングが発展させた言語連想検査について、無意識的な感情的引っかかりを科学的な手法で明らかにしたことにその特徴があると述べ、そこにユングの治療的で臨床的な発想があったことを指摘しています。
(解説:畑中千紘助教・上廣こころ学研究部門)
河合俊雄(2017)「WAT(Jung言語連想)の治療的利用」精神療法, 32-35.
Jung の言語連想検査については, 実際の効用よりも, むしろその発想や, 歴史的な意味の方が大きいように思われる。ユング派の訓練において, 言語連想検査の習得が重視されているけれども, それは治療者の訓練にとって意味があると考えられているようである。
連想については、Jung もレビューしているように, 19世紀の心理学においてすでに注目されていて, 特に Wundt が観念連合を実験的に証明しようとしていた。しかしこれらの連想研究は, さまざまな反応内容を分類することに重きを置いていた。
それに対して, Jung の連想へのアプローチが画期的であったのは, 連想の内容ではなくて, まずは形式に着目したことである。つまりある言葉から別の言葉が反応として出てくるときの意味内容ではなくて, 反応時間が遅れたり, 後から反応が再生できなかったり, 反応に余計な動作が伴ったりするなどの, 連想形式の失敗や障害に注目したのである。‥‥
(論考より)
精神療法 第43巻第1号 特集 サイコメトリー(Psychometry)の治療的利用 | 金剛出版
http://kongoshuppan.co.jp/dm/5218.html
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第6回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」が掲載されました。
連載第6回目のテーマは「心理療法と巡礼」です。
心理療法においては、たとえば妄想という症状が主観的な体験として生じてくるように、主観的体験が眼目となります。
しかし、時には「巡礼」という形で現実の外へ出る動きが大切に感じられることがあります。それには、単に主観的に何が感じられるかだけではなくて、その場所がもつパワーや神秘の力を借りられるところがあるからかもしれません。河合教授はそのことを以下の引用部分のように指摘しています。
残念ながら絶版になってしまいましたが、鎌田東二先生との共著『京都、「癒しの道」案内』はそのような意味で、非常にユニークで魅力的な案内所でもありました。
(解説:畑中千紘助教・上廣こころ学研究部門)
こころの最前線と古層(六)
「心理療法と巡礼」 河合俊雄
心理療法においては、あくまで主観的体験が眼目である。妄想や症状も、主観的体験だからこそ生じてくる。だからお寺にしろ神社にしろ、それ自体が持つ意味ではなくて、それをどのように主観的に感じられるかが重要である。時にはそれの歴史的、宗教的意味と全く異なるかもしれない。それに対して巡礼においては、その聖地が実際に持っているパワーや神秘が重要である。それは主観的なもので汲み尽くせない。近年においてパワースポットブームが生じたり、聖地を訪れることが流行したりしているのは、場所の持つ力というのが見直されているのかもしれない。われわれのこころの古層には、場所の持つパワーを感じる能力がまだ生きているのであって、歴史的に伝わってきた聖地というのは依然として重要なのであろう。
(論考より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b279516.html
阿部修士准教授の著書『意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策』が出版されました
阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)の著書『意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策』が2017年1月、講談社より出版されました。
本書は、認知神経科学を専門とする阿部准教授が、人間の意思決定の仕組みについて、心理学、脳科学における研究成果をもとに興味深い事例の数々と分かりやすい言葉で綴った、人の「こころ」を様々な角度から知ることのできる一冊です。
講談社のWebメディア クーリエ・ジャポンには、書籍誕生のエピソードや執筆に至った経緯を阿部准教授みずからが執筆したエッセイが掲載されています。こちらもぜひお読みください。
「理性と感情、どちらが優位か?」ハーバードで気づいたこと|話題の新刊『意思決定の心理学』著者書き下ろしエッセイ - クーリエ・ジャポン
『意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策』
著者:阿部修士
発売日:2017年01月11日
出版社:講談社
価格:本体1,300円(税別)
判型:四六 208ページ
ISBN-10:4062586452
ISBN-13:978-4062586450
《目次》
はじめに
第一章 二重過程理論--「速いこころ」と「遅いこころ」による意思決定
第二章 マシュマロテスト--半世紀にわたる研究で何がわかったのか?
第三章 「お金」と意思決定の罠――損得勘定と嘘
第四章 「人間関係」にまつわる意思決定――恋愛と復讐のメカニズム
第五章 道徳的判断の形成――理性と情動の共同作業
第六章 意思決定と人間の本性――性善か性悪かを科学的に読む
第七章 「遅いこころ」は「速いこころ」をコントロールできるのか?
あとがき
引用文献
索引
意思決定の間違いと限界
わたしたち人間にとって、生きているということは不断の意思決定の連続です。あなたが今この本を読んでいるのは、あなたの意思決定の結果であり、これからどこまで読み進めるのかもあなたの意思決定によって左右されます。わたしたちはこうした意思決定を、自分の思考や信念に基づいて行っていると思いがちです。ところが、わたしたちの意思決定は意識の外で自動的に起こるこころのはたらきに大きく影響を受けています。
実際、自分の決断や判断の理由を、うまく説明することはそう簡単ではありません。昨日は我慢できた食後のデザートを、今日は我慢できなかったのはどうしてでしょうか?仕事を早く終わらせなければいけないとわかっているのに、友人から飲みに誘われてお店をはしごしてしまったのはどうしてでしょうか?
頭ではやめた方が良いとわかっているのに、ついやってしまった、そんな経験は誰にでもあることでしょう。二度と同じ失敗をしないと誓ったはずなのに、また繰り返してしまうことも決して珍しくはありません。お金の損得を考える、他人との付き合いを考える、道徳的な善悪を考える、こうした様々な日常生活の行為や判断の中で、わたしたちは意思決定の間違いやすさや限界と常に隣り合わせです。そしてこうした意思決定を生み出しているのは、わたしたちの脳です。
(中略)
本書の目的は、過去の心理学の研究成果を踏まえた上で、①主に脳科学の視点から、「速いこころ」と「遅いこころ」のはたらきを理解すること、②そういった脳のはたらきが、人間の道徳性や社会性などに関わる、きわめて高度な意思決定をも支えていること、この二点を解きほぐしていくことにあります。....
(「はじめに」より)
出版社の書籍ページ (冒頭を試し読みできます)
Amazon.co.jp の書籍ページ
河合教授のインタビューが『Studi Junghiani』に掲載されました
河合俊雄教授のインタビューがユング派心理学の学術雑誌『Studi Junghiani』43号(発行:FrancoAngeli s.r.l.)に掲載されました。
Leggere un romanzo è come fare un sogno. Toshio Kawai, Murakami e la Psicologia Analitica, intervista etraduzione dall' inglese di Chiara Tozzi. Studi Junghiani 43 2016 113-121.
○インタビューについて
記事のタイトルは、日本語に訳すると「小説を読むことは夢を見ること:村上春樹と分析心理学についてのインタビュー」という意味になります。
村上春樹の小説を夢を分析するような視点から読み解いた河合教授の著書『村上春樹の「物語」―夢テキストとして読み解く』のように、村上春樹の作品のようなすぐれた小説は、夢と同様に現実とは独立したひとつのイメージの世界として見ることができ、そこには現代人のこころがあらわれている、ということなどが語られています。
インタビュアーは、イタリアの作家・脚本家・心理学者のChiara Tozzi氏です。
(解説/畑中千紘・上廣こころ学研究部門)
STUDI JUNGHIANI | FrancoAngeli s.r.l.
http://www.francoangeli.it/riviste/sommario.asp?IDRivista=85
畑中助教の論文が『Psychologia』に掲載されました
畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)の論文 "The Apparent Lack of Agency, Empathy, and Creativity among Japanese Youth: Interpretations from Project Test Responses" が、国際心理科学誌『Psychologia』第58巻4号(発行:プシコロギア会)に掲載されました。
Hatanaka, C.(2015)"The Apparent Lack of Agency, Empathy, and Creativity among Japanese Youth: Interpretations from Project Test Responses" Psychologia, Vol. 58, No.4, 176-188.
○論文について
現代の大学生の主体性について、心理検査の分析から検討したものです。
2003年と2013年のデータを比べてみると、反応に要する時間が長くなり、想像力に関わる指標は少なくなり、感情に関する指標はより間接的に表現されるようになっていました。また、2013年の大学生は10年前の学生に比べて主体的に決定・判断する力が弱くなっているかのような結果が得られましたが、さらにデータを検討してみると、2013年の大学生は「あえて判断しない」という態度をとる傾向をもっていることが明らかになりました。
これは、自らが判断を下さなくても環境側がデータを提供してくれたり自己主張することをよしとしない文化との関連で興味深い結果と思われます。(畑中千紘)
国際心理科学誌『Psychologia』(プシコロギア会)ウェブサイト
http://cogpsy.educ.kyoto-u.ac.jp/psychologia/index.htm
上廣こころ学研究部門「発達障害の子どもへの心理療法的アプローチ」プロジェクトの研究成果となる2つの論文が『箱庭療法学研究』に掲載されました
上廣こころ学研究部門の臨床心理学領域「発達障害の子どもへの心理療法的アプローチ」研究プロジェクトの研究成果となる2本の論文が、『箱庭療法学研究』第29巻第2号(発行:日本箱庭療法学会)に掲載されました。
1つは、畑中千紘助教が筆頭著者である「発達障害のプレイセラピーにおける保護者面接の意義と可能性」、もう1つは近年注目されているトピックを扱った「診断を受けながらも発達障害とは見立てられない事例の特徴」です。
1. 「発達障害のプレイセラピーにおける保護者面接の意義と可能性」
畑中千紘、田中崇恵、加藤のぞみ、小木曽由佳、井芹聖人、神代末人、土井奈緒美、長谷川千紘、高嶋雄介、皆本麻実、河合俊雄、田中康裕(2016)発達障害のプレイセラピーにおける保護者面接の意義と可能性. 箱庭療法学研究 第29巻2号 1-12.
○論文について
本論文は、発達障害の子どものプレイセラピーを行う際に、その保護者についても正しく見立てを行い、子どもの見立てとの組み合わせを理解した上で面接を行うことの重要性を示したもので、原著として掲載されています。
2. 「診断を受けながらも発達障害とは見立てられない事例の特徴」
皆本麻実・畑中千紘・梅村高太郎・田附紘平・松波美里・岡部由茉・粉川尚枝・鈴木優佳・河合俊雄・田中康裕(2016)診断を受けながらも発達障害とは見立てられない事例の特徴. 箱庭療法学研究 第29巻2号 43-54.
○論文について
近年、発達障害の診断を受けていても実際に会ってみるとそうとは見立てられない事例が増えていることを受け、なぜ発達障害と診断を受けたと思われるかによって4つの群に分け、その子どもの特徴の理解につなげようとするものです。
これは、単純に誤診が多いということではなくて、発達障害らしいエピソードがあっても、それが器質的な要因に由来しないと思われるグレーゾーンのケースが増えていることと関連し、注目されているトピックを扱っています。
(報告:畑中千紘助教・上廣こころ学研究部門)
上廣こころ学研究部門・臨床心理学領域
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/jp/uehiro/p3.php
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第5回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』2017年1月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層 第5回 心理療法と占い」が掲載されました。
5回目を迎えるこの連載のテーマは、なかなか正面から語られることのない、心理療法と占いにみられる意外な共通点についてです。心理療法と占いには「コンステレーション」(星の配置)の重視、対象を限る方法論、タイミングが重要であることなどが共通している、と著者は述べています。
「占い」「占星術」は非科学的と思われがちですが、実際には私たちのすぐそばにあり、多くの人がそれを参照しているように思います。科学的視点が絶対ではなく、多くのものの見方のなかのひとつと考えてみると、「非科学的」「迷信めいた」もののおもしろさが実感されるかもしれません。(解説:畑中千紘助教・上廣こころ学研究部門)
こころの最前線と古層(五)
「心理療法と占い」 河合俊雄
ユングは、易や占星術を著作のなかでしばしば取り上げて、そこに本質的なものを認めていた。それは易にしてもホロスコープにしても、宇宙についての一つ一つのイメージの表現であり、象徴的な意味があること、さらにはその表現とこころの状態や実際の世界との対応関係が生じてくることが大切だと考えていたからである。
‥‥‥‥
クライエントが占い師に言われたことを聞いているとなかなかおもしろい。何を根拠に言われたのかはわからなくても、当たっていると思うことも多く、非常に適切なアドヴァイスを受けている場合もある。(本文より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b272870.html
河合教授が編集した『神話の心理学』(河合隼雄著)が出版されました
河合俊雄教授が編集した『神話の心理学』(河合隼雄著)が、2016年12月、岩波書店より出版されました。岩波現代文庫の「〈物語と日本人の心〉コレクション」第4巻目となります。解説は、哲学者、宗教学者の鎌田東二上智大学グリーフケア研究所特任教授・京大名誉教授(2016年春までセンター教授)が執筆しています。
河合隼雄財団のウェブサイトでは、本書が神話をテーマとしながらも現代人が生きる上での知恵やヒントにつながる一冊であることを紹介しています。下記リンク先の記事をお読みください。
〈物語と日本人の心〉コレクションⅣ『神話の心理学』が発刊されました! | 河合隼雄財団
◇本の紹介(出版社ウェブサイトより)
神話の中には,生きるための深い知恵が詰まっている! 生き方の選択肢が増え,物質的に豊かになった現代,それに対応する心の豊かさを身につけるために神話が役に立つのではないか.思春期の悩み,男女の恋愛,親と子の葛藤など誰もが直面する人生の問題について,世界の様々な神話の中にヒントを読み解く「神々の処方箋」.
『神話の心理学』(岩波現代文庫〈物語と日本人の心〉コレクションⅣ)
著者:河合隼雄
編者:河合俊雄
発行:岩波書店/2016年12月
価格:1,080円(本体価格1,000円)
判型:A6・240頁
ISBN-10: 4006003471
ISBN-13: 978-4006003470
吉川教授の共著論文が『Journal of Cognitive Psychology』に掲載されました
布井雅人聖泉大学講師と吉川左紀子教授の共著論文が、学術誌『Journal of Cognitive Psychology』Vol.28に掲載されました。
本研究は、図形の好み判断が、図形に対する知覚頻度と処理の深さによってどのように影響を受けるかを調べたものです。好み判断は、知覚頻度が増えるほど好意度が上昇することが知られています(「単純接触効果」)。浅い処理(位置判断)と深い処理(連想判断)の後の好み判断の評定値を比較したところ、深い処理をしたほうが好意度が上昇し、6週間後でもその効果は消えないことが分かりました。
Masato Nunoi & Sakiko Yoshikawa (2016). Deep processing makes stimuli more prefereable over long duration. Journal of Cognitive Psychology, 28, 756-763
http://dx.doi.org/10.1080/20445911.2016.1189917 ※認証有り
●ABSTRACT
The purpose of the current study was twofold. First, we investigated whether the type of stimulus processing (e.g. levels of processing) influenced preferences for novel objects. Second, we examined whether the influence of levels of processing on preferences was long lasting (e.g. longer than a day/week). Results showed that levels of processing affected preferences whereby more deeply processed stimuli were preferred over those that were shallowly processed. This effect was more robust for stimuli that were presented multiple times. Additionally, this levels of processing effect lasted for up to 6 weeks, suggesting stability in preferences for information that was more deeply processed. We discuss these results in terms of theories predicting the role of stimulus properties and exposure on the development of preferences.
KEYWORDS: Preference, levels of processing, delay
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第4回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』12月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層 第4回 発達の非定型化」が掲載されました。
今回の連載では発達の非定型化というテーマを通じて、現代の社会構造のゆるみが私たちのこころ、主体性にどのような現状をもたらしているのかについて論じています。(紹介コメント:畑中千紘助教・上廣こころ学研究部門)
こころの最前線と古層(四)
「発達の非定型化」 河合俊雄
現代において発達障害と思われるものには、「発達の非定型化」とも言うべきものが生じているのではないかと考え、最近一書を編集して出版した(河合俊雄・田中康裕編『発達の非定型化と心理療法』創元社)。そしてこのような発達の非定型化が生じているのは、親子関係をはじめとして、社会構造の緩みと揺らぎが関係していると思われる。
つまりある年齢においてなすべきことへの社会的なコンセンサスが緩んできていて、自由度が増してきているのが、発達の非定型化に関係していると考えられるのである。たとえば何歳まで親と一緒に寝るか、親が付き添うかは、近年年齢が高くなってきている。また登校をしぶる子どもについても、学校に来ないといけないという原理が明瞭でなくなってきて、別室登校、フリースクールなど、様々なバイパスが存在している。....
(本文より)
出版社のページ(ここから『究』の講読が可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b253540.html
□関連書籍
『発達の非定型化と心理療法(こころの未来選書)』(創元社、2016年)
編集:河合俊雄、田中康裕、著:河合俊雄ほか
内田准教授の論考が『生活協同組合研究』に掲載されました
内田由紀子准教授の論考「幸福感研究と指標活用」が、公益財団法人生協総合研究所の発行する『生活協同組合研究』2016年11月号 Vol.490に掲載されました。
「幸福について考える」というテーマに対して社会保障、労働、少子化など様々な視点から考察した論考が集まった特集において、内田准教授は文化心理学者の立場から、幸福度を指標化して活用するための施策およびこれまでの研究知見を紹介し、今後の社会システムのあり方について考察しています。
「幸福感研究と指標活用」京都大学こころの未来研究センター 内田由紀子
幸福とは何かを問う
人々は日々の暮らしの中で、幸福に暮らすことを求めている。政治や経済など生活の基盤に関わる意思決定や, 様々な製品・サービスの開発なども, 本来的にはそこに暮らす人々の豊かで幸せな暮らしを実現するためになされるものである。(中略)
幸福は主観的なものであるため, 「測定」を行い、さらに「比較」すること, そして何らかの「指標」として用いることについては長らく懐疑的な意見が先行していた。むしろ国の豊かさを示す指標として先進国・発展途上国の双方で用いられてきたのは, 経済指標のGDPであった。しかし現在では経済学や政治学, 社会工学など, より客観的な視点を用いた分析を好む分野の研究者からも, 「幸福」はその国や社会のあり方を示す重要な指針の一つとして注目されている。21世紀に入り, 経済成長の停滞, 少子高齢化, 地域の消失など, 高度経済成長期には見られなかった問題が顕在化し, 目指すべき方向性について問われ始めたのだといえる。
そして幸福度指標を活用し, 社会制度や政治のあり方を評価してみようとする動きがあちこちで見られるようになった。幸せや不幸せという言葉は私たちにとって身近であるが故に, その中身を議論することは忘れられがちである。しかし何らかの「測定」が行われた結果に対して, どのようにして測定されたのか我々はしっかりと理解せねばならない。
筆者の専門は「文化心理学」である。人の心の働きーたとえばものの考え方, 意思決定の仕方, 他者とのつながり方, 自分自身のとらえ方, 感情の経験の仕方など, 多岐にわたる心理活動が, 「文化」という現象とどのように関わっているかを実証的に研究する分野である。多数の研究知見から, 物の見方や人間関係についての理解, 他者の行動の原因の考え方などが, 文化を切り離しては理解できないということが示されてきた。幸福も国や時代によって, 異なるのかもしれない。‥‥
(論考より)
生活協同組合研究 2016年11月号 Vol.490 |公益財団法人生協総合研究所
(詳しい目次、特集の紹介が読めます)
河合教授が編集した『神話と日本人の心』(河合隼雄著)が出版されました
河合俊雄教授が編集した『神話と日本人の心』(河合隼雄著)が、2016年10月、岩波書店より出版されました。岩波現代文庫の「〈物語と日本人の心〉コレクション」第3巻目となります。河合教授は、既に刊行されている「〈心理療法〉コレクション」「〈子どもとファンタジー〉コレクション」を含む全コレクションの編者を務めています。
河合隼雄財団のウェブサイトでは、日本神話をテーマにした本書の持つ意味について、中沢新一氏の解説文の引用と共に分かりやすく紹介されています。あわせてお読みください。
〈物語と日本人の心〉コレクションⅢ 河合隼雄『神話と日本人の心』が発刊されました | 河合隼雄財団
◇本の紹介(出版社ウェブサイトより)
河合隼雄が,ユング派分析家資格取得論文のテーマであった,日本神話の意味と魅力を,日本人読者に向けわかりやすく語る.太陽神アマテラスはなぜ女性なのか? ツクヨミの日本神話における役割とは? 世界の神話・物語との比較の中で日本人独特の心性の深層にせまるとともに,現代社会の課題を探る.晩年の主著,初の文庫化.
『神話と日本人の心』(岩波現代文庫〈物語と日本人の心〉コレクションⅢ)
著者:河合隼雄
編者:河合俊雄
発行:岩波書店/2016年10月
価格:1,534円(本体価格1,420円)
判型:A6並製・400頁
ISBN-10: 4006003463
ISBN-13: 978-4006003463
吉川教授の共著論文が『心理学研究』に掲載されました
布井雅人聖泉大学講師と吉川左紀子教授の共著論文「表情の快・不快情報が選好判断に及ぼす影響―絶対数と割合の効果―」が、学術誌『心理学研究』第87巻第4号(発行:日本心理学会/2016年10月)に掲載されました。
ものの好み(選好判断)は周囲にいる他者の表情によって影響を受け、同じものであっても、周囲の人がにっこり笑って見ている場合にはその対象の好意度が上がり、嫌そうな表情で見ていると低下することが知られています。本研究では、周囲にいる人の数や、表情を表す人の割合が、対象の好みに及ぼす影響について検討しました。3つの実験を行った結果、喜び表情を表す人の割合が増えるほど好意度が上昇し、嫌悪表情では、(割合ではなく)嫌悪の表情を浮かべる人がいるかどうかが好意度の低下をもたらすことが分かりました。「表情を表す人の数」が対象の好意度に影響すること、さらに影響の仕方が表情によって異なることを示したのは本研究が初めてです。
論文のPDFが公開されています。下記の画像もしくはリンク先をクリックしてお読みください。
広井教授の論文が収められた書籍『21世紀の豊かさ』が出版されました
広井良典教授の論文が収められた中野佳裕編訳・ジャン=ルイ・ラヴィル、ホセ・ルイス・コラッジオ編『21世紀の豊かさ――経済を変え、真の民主主義を創るために』(コモンズ)が出版されました。
本書は、ラテンアメリカ、ヨーロッパ・北米、日本から各4名の計12名の研究者の論文を収録したもので、スペイン語版〔ラテンアメリカ版〕、フランス語版に次ぐ日本オリジナル編集版です。経済成長至上主義を批判的に乗り越えるとともに、「共=コモンズ」の領域の再構築を通じた21世紀型の豊かさを幅広い視点から構想する内容となっています。広井教授はこのうち第9章「「脱成長の福祉国家」は可能か――ポスト資本主義とコミュニティ経済」を執筆しています。
『21世紀の豊かさ――経済を変え、真の民主主義を創るために』
編集・訳:中野佳裕
編集:ジャン=ルイ・ラヴィル、ホセ・ルイス・コラッジオ
出版社: コモンズ(2016年10月)
判型:四六判/420ページ
定価:3,300円+税
ISBN-10:4861871379
ISBN-13:978-4861871375
<内容紹介>
経済成長至上主義への根底的批判と、共=コモンズの再構築を通じた21世紀型の豊かさの構想。南米・ヨーロッパ・米国・日本の精鋭12名が各地の社会運動を踏まえながら、オルタナティブな経済・政治・社会への道筋を多角的に展開。
<目次>
序 章 二一世紀の豊かさと解放──北と南の対話へ向けて 中野佳裕
第Ⅰ部 ブエン・ビビールと関係性中心の哲学――ラテンアメリカの革新
第1章 開発批判から〈もうひとつの経済〉の考察へ――多元世界、関係性中心の思想 アルトゥロ・エスコバル
訳者解説 ラクラウ理論の読解のために 中野佳裕
第2章 政治的構築の論理と大衆アイデンティティ エルネスト・ラクラウ
第3章 ラテンアメリカにおける国家の再建 ボアベンチュラ・デ・ソウサ・サントス
第4章 発展に対するオルタナティブとしてのブエン・ビビール――周辺の周辺からの省察 アルベルト・アコスタ
第Ⅱ部 社会民主主義の隘路から抜け出す――ヨーロッパ・北米の挑戦
第5章 ヨーロッパの左派――その歴史と理論を振り返る ジャン=ルイ・ラヴィル
第6章 生態学的カオスの脅威と解放のプロジェクト ジュヌヴィエーヴ・アザム
第7章 生産力至上主義との決別、解放の条件 フロランス・ジャニ=カトリス
第8章 社会のすべてが商品となるのだろうか?
――資本主義の危機に関するポスト・ポランニー的省察 ナンシー・フレイザー
第Ⅲ部 コミュニティの再構築を目指して――日本の課題
第9章 「脱成長の福祉国家」は可能か――ポスト資本主義とコミュニティ経済 広井良典
第10章 コミュニティの社会学から社会史へ 吉原直樹
第11章 民主政治の試練の時代──民主主義の再生のために 千葉眞
第12章 〈南型知〉としての地域主義──コモンズ論と共通感覚論が出会う場所で 中野佳裕
あとがき
(書籍情報より)
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第3回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』11月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」第3回が掲載されました。
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
《概要》
今回のテーマは、「箱庭療法と内面化」です。
箱庭療法を日本に導入した河合隼雄が、
日本人にぴったりだと直観したというが、それはどのような機序によるのでしょう?
箱庭によって、「内面が表現される」からなのでしょうか?
なんでもマイルドにミニチュア化したり自然を否定するのではなくて、
自然であって自然でないものとして関わっていくという日本人の心性について述べています。
(畑中千紘助教・上廣こころ学研究部門)
こころの最前線と古層(三)
「箱庭療法と内面化」 河合俊雄
箱庭療法とは、内側を青く塗った浅い木箱に砂を入れたものに、ミニチュアを用いて世界を作っていく心理療法の技法の一つである。砂を掘って青い底を見せると、海や川も表現できる。ユングの影響を強く受けて、ドラ・カルフによってはじめられた。
心理療法は、基本的にこころや内面を表現することによって治療を進めていこうとする。悩みや気持ちを言葉にするというのは一番わかりやすい表現の仕方であるが、それに対してユング派の心理療法では、イメージで表現することが重視される。その意味では箱庭も、クライエントの内面をイメージで表現したものと言えよう。
この技法を知った河合隼雄が、日本人に合っていると直感したように、箱庭は一九六〇年代後半から日本において爆発的に受け入れられ、ユング派の心理療法は箱庭療法として日本に導入され、広まったとしても過言ではない。それでは箱庭療法は、なぜ日本人に合っているのかを少し考えてみたい。
箱庭を作っていると、もちろん最初は私が対象としての砂箱の中に何かを作っている。‥‥
(ミネルヴァ通信「究」11月号より)
出版社のページ(ここから購入可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b245686.html
□関連書籍
『河合隼雄と箱庭療法 (箱庭療法学研究 第21巻特別号) 』(創元社、2009年)
編集:日本箱庭療法学会編集委員会、著:河合俊雄ほか
『〈こころ〉はどこから来て,どこへ行くのか』(岩波書店、2016年)
著者:河合 俊雄, 中沢 新一, 広井 良典, 下條 信輔, 山極 寿一
河合教授の講演録が『箱庭療法学研究』に掲載されました
2015年10月10日に東北福祉大学でおこなわれた日本箱庭療法学会第29回大会シンポジウムに登壇した河合俊雄教授の講演録が、『箱庭療法学研究』第29巻第1号(発行:日本箱庭療法学会)に掲載されました。
同大会の一般公開シンポジウム「"ゆらぎの物語"を創る」に、河合教授は教育学研究科の田中康裕准教授と共にシンポジストとして登壇しました。田中准教授は、日本箱庭療法学会・日本ユング心理学会の合同震災対策ワーキンググループの発足経緯と被災地での活動の歩みを紹介。河合教授は、それぞれの登壇者の話題に光を当てながら、「人の生死にまつわること」「震災から見えてきた人間の心の複雑さ」「心と時間」という三つを軸に話し、講演者の笹原留似子氏(復元納棺師)、千葉久美子氏(前宮城県石巻高校養護教諭)、宇田川一夫東北福祉大学教授らと対話を行いました。
「"ゆらぎの物語"を創る」『箱庭療法学研究』2016 Vol.29 No.1 p.121-145
[講師]
・笹原留似子 復元納棺師・株式会社「桜」代表
[シンポジスト]
・千葉久美子 前宮城県石巻高校養護教諭
・河合俊雄 京都大学こころの未来研究センター
・田中康裕 京都大学
[司会]
・宇田川一夫 東北福祉大学
人の生死と心の複雑さ
体という接点
宇田川:‥‥それでは最後に, 河合先生, どうぞよろしくお願いいたします。
河合:私は, 田中先生とずっと一緒に石巻の支援に行っていましたので, 話すことが田中先生とほぼ同じになってしまうのではないかと思います。そこで, 田中先生とは違うことを三つほどお話しさせていただきたいと思います。
一つは, 笹原さんのお話にもありましたが, 「人の生死にまつわること」というのは, 震災に関連して出てきているものもあると思いますが, それだけではないと思いますので, そのことについて。もう一つは, 「震災から見えてきた心の複雑さ」ということについて, それから, 三つめには, 「時間」についてもお話しできればと思っています。
笠原さんのお話を伺いながら, これまでに私が見てきたお棺の中の顔が思い浮かんできていました。みなさんはどうでしたか。私の場合, バイク事故でトラックにはねられて亡くなった, 高校2年生のときの同級生でした。笹原さんのようにお上手ではなかったようで, 面影があまり感じられないご遺体でした。あるいは, 最近亡くなった精神科医の加藤清先生は, 本当に仏様のようなお顔だったな, などといろいろな方の顔を思い出していました。
宇田川先生も先ほどおっしゃっていましたが, 笹原さんのお話は, 非常に心理療法に通じるところがあって, みなさんもそのように感じて聞いておられたのではないでしょうか。
では, われわれとはどこが違うのかと考えると, われわれ心理療法家は, 体に触れることは原則できない。それに対して, 笹原さんは体に触れる。そしてそれによって浮かび上がってくるものがある。そこが違うところではないかと思いました。
面白いなと思ったのが, われわれは直接体には触れませんが, 箱庭や夢を扱っているというのは, 体を扱っていることにかなり近いのではないかとも思うわけです。‥‥
(講演録より)
河合教授が編集し、畑中助教らと執筆した『発達の非定型化と心理療法(こころの未来選書)』が出版されました
河合俊雄教授と教育学研究科の田中康裕准教授が編者を務め、畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)らと執筆した『発達の非定型化と心理療法』が2016年10月、創元社から出版されました。上廣こころ学研究部門の「子どもの発達障害への心理療法的アプローチ」および「大人の発達障害への心理療法的アプローチ」プロジェクト等の成果としての書籍です。
河合教授は第Ⅰ部の概説と、第Ⅲ部の研究編を執筆しました。研究編では、非定型的な発達をする子どもたちの心理療法ではどのような特徴がみられ、またどのようなアプローチが有効なのかについて具体的に解説しています。畑中助教は、研究編で現代の若者の意識の非定型化について考察しました。2000年以降、ほとんどみられなくなったと言われていた対人恐怖症状が昨今になって若い世代から訴えられることがみられるようになりました。しかしながら、これは1960年代に典型的にみられた神経症とは異なり、アグレッションをどこかで「スルー」しながら適応しようとしている若者世代の意識の反動のような動きと考えられるとして、事例や調査研究を題材に検討を行っています。
なお、創元社の書籍ページでは詳しい目次に加えて、河合教授の第Ⅰ部第1章「発達障害の増加と発達の「非定型化」」の一部と「あとがき」の全文が、立ち読み機能を使って閲覧可能です。下記リンク先にアクセスしてご覧ください。
「あとがき」(本文より)
本書は、前著『発達障害への心理療法的アプローチ』と『大人の発達障害の見立てと心理療法』を受けて、われわれのチームでの発達障害の心理療法についての第三作である。しかしこれはタイトルからもわかるように、単に発達障害に関する研究や検討の延長ではない。
発達障害という診断を受けたり、そのように周囲の人に言われて心理療法を受けにきたりする人はますます増えている。しかしながら近年の臨床において、純粋な発達障害の子どもや大人は減っているのではないかというのが実感である。われわれの行っている発達障害のプレイセラピーについてのプロジェクトでも、申し込まれた約50名のうち、あまり発達障害であると見立てられない子どもが、40名近くに達するぐらいである。そのような人たちは、発達障害ではないとしても、これまでの心理的な問題や症状のカテゴリーには入りにくく、そこにある種の発達の弱さや偏りのようなものが認められる。「発達の非定型化」ということを考えはじめたのには、そのような背景がある。これに該当するクライエントたちは、主体の弱さがあるけれども、発達障害のクライエントのような主体のなさとは区別された方がよいように思われる。主体がはっきりしないのは、社会構造が緩んできて、当然とされてきた段階どおりにこころが発達していかないことにも関係がありそうである。それは、発達障害とはっきり区別すべきなのか、発達障害がスペクトラムとして考えられるなら、それの非常に軽症のものなのか、それともほぼ10年ごとに流行する症状が変化することからすると、発達障害の次に支配的となる症状なのか、今後も注目していきたい。
第Ⅰ部の概説では、河合俊雄が上記のようなことを解説した。第Ⅱ部の事例編は、4つの事例研究から成る。....
『発達の非定型化と心理療法(こころの未来選書)』
編集:河合俊雄、田中康裕
出版社:創元社
出版年月日:2016/10/19
ISBN-10:4422112295
ISBN-13:978-4422112299
判型・ページ数:A5判 上製 208頁
定価:3,024 円
吉岡教授とアーティスト・光島貴之氏の対談が載った『ソーシャルアート 障害のある人とアートで社会を変える』が出版されました
吉岡洋教授とアーティスト・光島貴之氏の対談が載った書籍『ソーシャルアート 障害のある人とアートで社会を変える』が、学芸出版社より刊行されました。
10歳で視力を完全に失い、現在は美術家、鍼灸師として活動する光島氏と吉岡教授は、第1章「障害のあるアーティストはなぜ表現するのか」の巻頭対談として、「見えない世界を面白くするアート」をテーマに語り合っています。
◇内容紹介
障害のある当事者、福祉施設スタッフ、アーティスト、プロデューサー、音楽家、ダンサー、演出家らが実践する「アート×福祉×コミュニティ×仕事」25の現場。
アーティストの原動力、スタッフによる創作のサポート、表現の魅力を発信する仕掛け、新しいアートの鑑賞法、創造的で多様な仕事づくりなど多彩に紹介。
◇目次
1章 障害のあるアーティストはなぜ表現するのか
2章 日常がアートになる場のつくり方
3章 違いの共存から生まれる身体のアート
4章 新しい関係を生みだすアート
5章 地域とつながるサードプレイスの運営
6章 自由な感性でアートを見る
7章 アートで新しい仕事をつくる
『ソーシャルアート 障害のある人とアートで社会を変える』
編集:たんぽぽの家
出版社:学芸出版社
出版年月日:2016/10/01
ISBN-10: 4761526300
ISBN-13: 978-4761526306
判型:四六判・304頁
定価:本体2400円+税
内田准教授が編集・執筆し、阿部准教授、柳澤助教らが執筆した『社会心理学概論』が出版されました
内田由紀子准教授が北村英哉関西大学教授と編纂に携わり、阿部修士准教授、柳澤邦昭助教らと執筆した『社会心理学概論』が2016年9月、ナカニシヤ出版より刊行されました。
20章、398頁からなる同書は、古典的研究から進化、脳科学を含めた最新のトピックスまでを網羅し、社会心理学の全貌を学ぶことができる「社会心理学の決定版の書」といえる一冊です。
内田准教授は第14章「文化」を、阿部准教授と柳澤助教は第20章「社会神経科学」を執筆しました。
はじめに (本文より)
学問は日進月歩だ。そうでなければ学問ではないし, 日々の研究は必要ではなくなる。
世界中に数多く存在する「研究者」と呼ばれる人びとは, 新しい発見をしたり, 独自の視点を見つけたりすることを目指して学問に取り組んでいる。研究者たちは, それぞれ切磋琢磨し, 議論しながら, 少しでも新たな知見を提示しようと日々努力している。
そのため, 多くの研究者が情報収集するのは, 新しい知見が掲載されている「学術論文」である。新しい実験パラダイム。新しい結果。新しい仮説。
社会心理学も, 社会科学というサイエンスの一翼を担う学問分野として, 「新しさ」の追求を行っている。実際, 人の心の社会的機能についての新たな研究知見は, 社会が複雑化していくにつれ, ますます重要になっており, 社会的ニーズはきわめて高い。
では最新の知見ではなく, これまでの, 幾分古典的な知見も含めて掲載されている教科書的な概論書の役割とは何だろう?(中略)
概論書には, その分野の歴史的積み重ねが紡ぎ出されている。限られたページ数の中, それぞれのトピックスの中で, 特に重要だと思われるものが紹介されている。私たちはそこから多くのことを知ることができる。それらを知ったうえでなければ, これまでのところ何がわかっていて, 何がわかっていないのか, 何をこれからやるべきなのかを見つけることができない。概論書は道しるべであり, 私たちが行き当たりばったりにならないように導いてくれる。
さて, 温故知新と豊かな教養に資するような社会心理学の書籍を編むにあたり, 今回筆者たちには, 長年社会心理学の書籍を手がけてこられたナカニシヤ出版の宍倉由高さんより, 一つの大きな使命が与えられた。それは「社会心理学の, しっかりした決定版の書籍を」というミッションであった。......
<内田由紀子・北村英哉>
『社会心理学概論』
編集:北村 英哉、内田 由紀子
出版社:ナカニシヤ出版
出版年月日:2016/09/20
ISBN-10: 4779510597
ISBN-13: 978-4779510595
判型・ページ数:B5・404ページ
定価:本体3,500円+税
『ミネルヴァ通信「究」』に河合教授の連載第2回が掲載されました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』10月号に河合俊雄教授の連載「こころの最前線と古層」第2回が掲載されました。今回のテーマは、「発達障害と中世のこころ」です。
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
《概要》
発達障害の特徴を一口で言うと、「主体のなさ」や弱さということになるが、
心理療法が前提としていた「主体」とは西洋近代に登場した非常に特殊なものと言える。
現代は個人の主体性は再び揺らぎつつあることを考えれば、前近代の世界観が参考になる。
日本の中世の説話などを読むと、自他の区別が曖昧で、現実と夢、この世とあの世の区別も明瞭でなく、
ましてや個人の主体性など問題にならなかったことがわかる。 (解説:畑中千紘助教)
こころの最前線と古層(二)
「発達障害と中世のこころ」 河合俊雄
近年、家族やまわりの人に「発達障害だと言われた」という訴えで心理療法を受けにくる人が増えている。実際のところ、二〇〇〇年以降に発達障害、あるいは自閉症スペクトラム障害と診断される人の数は爆発的に増加している。私が大学で心理療法を学びはじめた一九八〇年頃に猛威を振るっていたのが「境界例」である。元々は、神経症と精神病との境界という意味であったのだが、後には特異な人格として捉えられるようになった。二者関係への執着、無制限の自己主張を特徴としていて、そのためにセラピストにも愛憎の両極の感情を向け、極端な要求と非難を向けた。
ところがそれはいつのまにか下火になり、一九九〇年代の解離性障害を経て、今は発達障害が最も流行している。そもそも「自閉症」がようやく第二次世界大戦中にアメリカのカナーとオーストリアのアスペルガーによって独立に発見されたことも時代性を示唆している。重要の場合に対人関係や言語能力が全く成立しないこともあるので、以前は早期母子関係の問題とみなされていたけれども、近年は脳中枢神経系の障害と考えられ、教育や訓練による対応が中心になっている。また重症だけでなく、軽症まで連続してスペクトラムで捉える見方が支配的である。
発達障害の特徴を一口で言うと、「主体のなさ」や弱さということになる(河合俊雄編『発達障害への心理療法的アプローチ』創元社、二〇一〇年)。‥‥
(ミネルヴァ通信「究」10月号より)
出版社のページ(ここから購入可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b245686.html
□関連書籍
『発達障害への心理療法的アプローチ』(創元社、2010年)
著・編集:河合俊雄、 著:田中康裕、畑中千紘、竹中菜苗
上田助教の共著論文が『Attention, Perception, & Psychophysics』に掲載されました
上田祥行助教の共著論文が、米国の学術雑誌『Attention, Perception, & Psychophysics』に掲載されました。情報学研究科・樋口洋子特定研究員らとの共同研究による論文です。
京都大学のウェブサイト内「研究成果」のページには、詳しい論文の概要が日本語で紹介されています。リンク先をご参照ください。
■研究成果|京都大学ウェブサイト
「ヒトは無意識に何を選び学ぶのか -課題に左右される膨大な視覚情報からの取捨選択-」
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2016/160826_1.html
Task-relevant information is prioritized in spatiotemporal contextual cueing
Yoko Higuchi & Yoshiyuki Ueda & Hirokazu Ogawa & Jun Saiki
Attention, Perception, & Psychophysics
○Abstract
Implicit learning of visual contexts facilitates search performance-a phenomenon known as contextual cueing; however, little is known about contextual cueing under situations in which multidimensional regularities exist simultaneously. In everyday vision, different information, such as object identity and location, appears simultaneously and interacts with each other. We tested the hypothesis that, in contextual cueing, when multiple regularities are present, the regularities that are most relevant to our behavioral goals would be prioritized. Previous studies of contextual cueing have commonly used the visual search paradigm. However, this paradigm is not suitable for directing participants' attention to a particular regularity. Therefore, we developed a new paradigm, the "spatiotemporal contextual cueing paradigm," and manipulated task-relevant and task-irrelevant regularities. In four experiments, we demonstrated that task-relevant regularities were more responsible for search facilitation than task-irrelevant regularities. This finding suggests our visual behavior is focused on regularities that are relevant to our current goal.
DOI: http://dx.doi.org/10.3758/s13414-016-1198-0 ※認証有り
『ミネルヴァ通信「究」』で河合教授の連載が始まりました
ミネルヴァ書房の発行する月刊誌『ミネルヴァ通信「究」(きわめる)』で、河合俊雄教授による新連載「こころの最前線と古層」が始まりました。9月号の第1回は、「変わるこころ、変わらないこころ」です。
新連載 こころの最前線と古層(一)
「変わるこころ、変わらないこころ」 河合俊雄
私が曲がりなりにも心理療法でクライエントに会い始めたのは、大学院一年生の一九八〇年であるから、もう三十数年が経とうとしている。学ぶ立場から教える立場に変わったとはいえ、スポーツなどと違って、心理療法では指導者が、現役を退くわけではない。その意味では常に最前線に立ち続けることになる。だからいくら訓練を受け、経験を積んだとしてもうまくいかないこともあるし、これまでに通用していたことが通用しなくなることもある。それは心理療法が一期一会的なものであるだけにとどまらず、こころが時とともに変化していくことにもよる。
自分が心理療法に関わる職場も、形態も変わっていったので、単純な比較は許されないかもしれないけれども、症状や悩みの変化をはじめとして、私の経験した四〇年に満たない期間であっても、時代とともに人のこころが変わっていったことに驚かされる。こころの最前線は常に変化しているのである。
たとえば、私が大学生のころに、一番ポピュラーな心理的な症状と言えば対人恐怖であった。....
(ミネルヴァ通信「究」9月号より)
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
《この連載について》
こころは時代が進むにつれ、常に変化している。
一方で、現代においても「こころの古層」といえるような深層に触れることは多い。
特に危機に際したときには、普段とは異なる次元をたずねることが重要になることがある。
この連載では、時代に沿って変化するこころの新しい側面と、時代を経ても変わることのないこころの古層との両方に触れながら、日本人のこころのあり方について探求していくことになると思われる。 (解説:畑中千紘助教)
出版社のページ(ここから購入可能です)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b244415.html
河合教授の論考が『ユング心理学研究 第8巻 世界における日本のユング心理学』に掲載されました
日本ユング心理学会が発行する『ユング心理学研究 第8巻 世界における日本のユング心理学』に、河合俊雄教授の論考「世界の中での日本のユング心理学」が掲載されました。
「世界の中での日本のユング心理学」河合俊雄
○構成
1. 衰退と発展:近代意識とこころの古層
2. アウトリーチと社会・環境
3. 新しい訓練モデル
4. 新しい理論モデル
5. 日本のユング派心理療法の特徴
○論考の紹介
2016年8月28日から9月2日にかけて、アジアで初めての国際分析心理学会の大会が開催されました。
本稿は、大会の開催にさきがけ、本年まで3年間、国際分析心理学会の副会長を務め、6年間に渡りプログラム委員と執行委員を務めた著者が、世界におけるユング心理学の動向と、それに照らしての日本のユング心理学の現状を位置づける目的で執筆しています。 現代社会におけるユング心理学あるいはユング派心理療法の果たしうる役割と意義について、新たな視点からの提言を行っています。
自身のこころについて反省・内省するという「内面化」を基本に発展してきたユング心理学ですが、今や、社会へ出て行くアウトリーチの形への転換を余儀なくされています。
しかしながら、日本人はもともと、こころを閉じた狭いものとしてではなく、自然ともつながったオープンなものとして体験してきたところがあり、その意味ではユング心理学には大きな可能性があると言えます。
今回、初めて京都で大会が行われたことについて、アジア的なこころのあり方はユング心理学の未来にも親和的なものといえるのではないかと思われます。 (解説:畑中千紘助教)
出版社のウェブサイトでは、本稿を2章の途中まで読むことができます。下記リンク先にアクセスし、ご参照ください。また、本誌は一般にも販売されています。
出版社の書籍ページ(本文途中まで閲覧可能)
http://www.sogensha.co.jp/booklist.php?act=details&ISBN_5=11498
Amazon.co.jp の書籍ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4422114980
阿部准教授の総説が『老年精神医学雑誌』に掲載されました
阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)の総説"アルツハイマー病における記憶錯語"が、学術誌『老年精神医学雑誌』vol. 27(August 2016)に掲載されました。
○書誌情報
阿部修士(2016)
アルツハイマー病における記憶錯誤
老年精神医学雑誌 27 (8): 840-845
http://184.73.219.23/worldpl/17_seisin_igaku_zassi/28-8.htm#4
○論文の概要
アルツハイマー病における認知機能障害の中でも、とりわけ顕著に発現するのが記憶障害です。記憶障害は典型的には、過去の記憶が抜け落ちてしまう症状に特徴づけられます。しかし、実際には経験していない事象についての誤った記憶を想起する「記憶錯誤」を呈することも少なくありません。本稿では、特に「虚再生」と「虚再認」という二種類の記憶錯誤に焦点を当て、阿部准教授が以前に行っていたアルツハイマー病の虚再認に関する研究を紹介しながら、その背景にあるメカニズムについて論じています。
阿部准教授、中井研究員の共著論文が『Neuroimage』に掲載されました
阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)、中井隆介研究員らの論文 "Causal relationship between effective connectivity within the default mode network and mind-wandering regulation and facilitation" が、学術誌『Neuroimage』Vol.133(June 2016)に掲載されました。
Kajimura S, Kochiyama T, Nakai R, Abe N, Nomura M (2016)
Causal relationship between effective connectivity within the default mode network and mind-wandering regulation and facilitation
Neuroimage 133: 21-30
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053811916002056 ※認証有り
○論文の概要
先行研究より,非侵襲脳刺激法の一つである経頭蓋直流刺激法を用いて,注意散漫をもたらすマインドワンダリング(思考のさまよい)を低減可能であることが示されていました(Kajimura & Nomura, 2015)。本研究ではfMRIを用いることで,それがデフォルトモードネットワークと呼ばれるヒト脳の中核的ネットワークを調節することによって生じる可能性を示しました。本成果は,デフォルトモードネットワークの機能理解に貢献するのみならず,非侵襲脳刺激法による注意散漫状態の低減といった臨床応用につながる神経科学的根拠を提供するものです。なお,この研究はこころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRIを用いて行われました。
○Abstract
Transcranial direct current stimulation (tDCS) can modulate mind wandering, which is a shift in the contents of thought away from an ongoing task and/or from events in the external environment to self-generated thoughts and feelings. Although modulation of the mind-wandering propensity is thought to be associated with neural alterations of the lateral prefrontal cortex (LPFC) and regions in the default mode network (DMN), the precise neural mechanisms remain unknown. Using functional magnetic resonance imaging (fMRI), we investigated the causal relationships among tDCS (one electrode placed over the right IPL, which is a core region of the DMN, and another placed over the left LPFC), stimulation-induced directed connection alterations within the DMN, and modulation of the mind-wandering propensity. At the behavioral level, anodal tDCS on the right IPL (with cathodal tDCS on the left LPFC) reduced mind wandering compared to the reversed stimulation. At the neural level, the anodal tDCS on the right IPL decreased the afferent connections of the posterior cingulate cortex (PCC) from the right IPL and the medial prefrontal cortex (mPFC). Furthermore, mediation analysis revealed that the changes in the connections from the right IPL and mPFC correlated with the facilitation and inhibition of mind wandering, respectively. These effects are the result of the heterogeneous function of effective connectivity: the connection from the right IPL to the PCC inhibits mind wandering, whereas the connection from the mPFC to the PCC facilitates mind wandering. The present study is the first to demonstrate the neural mechanisms underlying tDCS modulation of mind-wandering propensity.
上田助教の論文が収められた『児童心理学の進歩 2016年版』が出版されました
上田祥行助教の論文が収められた『児童心理学の進歩 2016年版』が、金子書房より出版されました。同書は、発達心理学の最新の動向と将来を展望し、領域ごとに執筆者の視点から重要と思う研究論文を紹介したレビュー論文集です。第1章「顔の認識」において、上田助教と教育学研究科の野村理朗准教授が共同執筆した「顔の認識――個別から関係性の中へ」が収録されました。
『児童心理学の進歩 2016年版』
監修:日本児童研究所
編集:斉藤 こずゑ、 高橋 知音
出版社: 金子書房 (2016/6/17)
定価:8,800円+税
判型・頁数:A5・364頁
ISBN-10: 4760899561
ISBN-13: 978-4760899562
○目次
1章 顔の認識 上田祥行・野村理朗
2章 実行機能の初期発達 森口佑介
3章 教科学習 岡本真彦
4章 社会科教育と社会認識の発達 長谷川真里
5章 乳幼児の保育所経験と発達 高辻千恵
6章 親の養育行動 坂上裕子
7章 社会的アイデンティティ 池上知子
8章 協調運動から見た神経発達障害 中井昭夫
9章 ソーシャルスキルトレーニング 嶋田洋徳・石垣久美子
10章 自閉症スペクトラム障害のある人の就労 望月葉子
11章 子どものエスノメソドロジー・会話分析 高木智世
[特別論文]
Neuroimagingからみた発達研究 守田知代・内藤栄一
コメント 心理学徒が脳科学的研究に素朴に思うこと 遠藤利彦
[書評シンポジウム]
山極寿一著『家族進化論』(2012年・東京大学出版会)
山極寿一・平石 界・小嶋秀夫・村本邦子・信田さよ子
広井教授の論文「ケアの倫理と公共政策」が『社会保障研究』に掲載されました
広井良典教授の論文「ケアの倫理と公共政策」が『社会保障研究』第1巻第1号に掲載されました。本機関誌は、国立社会保障・人口問題研究所がこれまで刊行してきた『季刊社会保障研究』及び『海外社会保障情報』の二誌を統合し、新たに『社会保障研究』として創刊するものです。今回の創刊号は「ケアの社会政策」を特集テーマとし、現代社会におけるケアをめぐる多様なテーマに学際的な視点からアプローチする内容となっています。
「ケアの倫理と公共政策」 Ethics of Care and Public Policy
○要旨(和文)
「ケア」は広義から狭義まで多義的な意味をもつコンセプトである。本稿では、まず「ケア」という問題設定をめぐる議論が近年の日本においてどのように行われてきたかを概観した上で、ケアの倫理について考える視点を、特に日本社会における「社会的孤立」の高さやそこでの関係性の特質にそくしながら示す。続いて「ケアの倫理」をめぐるギリガンの議論などに言及しつつ、ケアについての二つの異なった理解(リベラリズム的な理解とコミュニタリアニズム的な理解)に関する概念整理を行い、その根底にある人間における「関係の二重性」という把握を提起する。さらにこうした原理的考察を踏まえ、「ケアの経済的評価」という視点から、市場経済とケアの関わりや「生産性」概念の見直しとケアなどを含め、ケア・コミュニティ・自然の関係性の新たな把握に依拠した公共政策のあり方を論じる。
○要旨(英文)
The Concept of "Care" has wide-ranging meanings. In this article, how this concept has been discussed in the last decades in Japan is broadly reviewed first. Then a perspective is presented regarding the ethics of care, paying attention to the situation of 'social isolation' in the current Japanese society and the characteristics of its human relationship. And the two contrasting views about the meaning of care are examined drawing on the discussion by Carol Gilligan and the different political philosophies of liberalism and communitarianism. Lastly, based upon these arguments and from the viewpoint of 'economic evaluations of care,'the relationship between care and market economy and the reexamination of the concept of productivity are discussed, and the relevant public policy is presented having the comprehensive understandings of care, community and nature in perspective.
【キーワード】
和文 ー ケアの倫理、社会的孤立、政治哲学、ケアの経済的評価、コミュニティ・自然
英文 ー ethics of care, social isolation, political philosophy, economic evaluation of care, community and nature
論文PDF
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/sh20185003.pdf
『社会保障研究』目次ページ
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/kikanshi/0101.htm
上記論文に関連する広井教授のおもな著書は次の通りです(全ての参考文献は論文巻末に掲載)。
『ケアを問いなおす―「深層の時間」と高齢化社会』(筑摩書房/1997年)
『ケアとは何だろうか (講座ケア―新たな人間‐社会像に向けて) 』(ミネルヴァ書房/2013年)
(著書一覧は「スタッフページ:広井良典」の業績欄に掲載)
広井教授が座長を務めた東京・荒川区の「自然体験を通じた子どもの健全育成研究プロジェクト」の中間レポートが公表されました
広井良典教授が座長を務めた「自然体験を通じた子どもの健全育成研究プロジェクト」(東京都荒川区自治総合研究所)の中間レポートが公表されました。
東京都荒川区では2005年に独自の地域幸福度指標「GAH(グロス・アラカワ・ハピネス)」を提唱し、2009年には荒川区自治総合研究所を設立して幸福度指標に関する研究・政策を進めるとともに、その関連で「子どもの貧困」に関する調査等をおこなってきました。今回の研究はそうした流れの一環として、子どもの成長や現役世代、高齢者を通じて「自然」との関わりが人々の幸福にとって重要な意味をもつのではないかとの問題意識の下、関連の実証的調査や政策提言をおこなったものです。
具体的には、荒川区の実施する小学生向けの自然体験に関する移動教室の前後で調査を実施し、生きる力や幸福度実感の変化を分析するほか、現行の自然体験関連施策や人材育成をめぐる課題等を吟味する内容となっています。
アメリカで2005年に出された『あなたの子どもには自然が足りない』(著者リチャード・ルーヴ)という著作が多くの国でベストセラーとなり、そこでは「自然欠乏障害(Nature Deficit Disorder)」というコンセプトが提起されるとともに、子どもあるいは広く現代人は自然とのつながりが根本的に不足しており、それが様々なマイナスの影響を及ぼしているとの議論が展開されるなど、自然との関わりのもつ意味や重要性は新たな文脈で注目されてきています。
一方、幸福度指標を含めて「幸福」をめぐるテーマへの関心が高まっていますが、以上の二者、つまり「自然」と「幸福」の両者の関わりを、政策を含めて正面から主題化した調査研究はこれまであまり見られず、本レポートはそうした面での独自の意義をもっていると言えます。
中間レポートは概要、全文がそれぞれPDFで公開されています。下記画像をクリックして閲覧ください。また、冊子版の有償販売もおこなわれています。荒川区自治総合研究所のサイトをご参照ください。
中間レポート概要版PDF ※クリックすると開きます
中間レポート前文PDF ※クリックすると開きます
河合教授が編集、解説を執筆した『源氏物語と日本人 紫マンダラ』(河合隼雄著)が出版されました
河合俊雄教授が編集、解説を執筆した『源氏物語と日本人 紫マンダラ』(河合隼雄著)が、2016年6月、岩波書店より出版されました。岩波現代文庫の「〈心理療法〉コレクション」「〈子どもとファンタジー〉コレクション」に続く「〈物語と日本人の心〉コレクション」第1巻目となります。河合教授は、全コレクションの編者を務めています。
解説では、臨床心理学者の著者が源氏物語をテーマに取り組んだ意味と意義についてふれ、「1.女性の物語とマンダラ」「2.中空と女性の意識」「3.個としての女性」に分け、作品で描かれた女性たちの意識を筆者がどのように読み解いたのか、心理療法の知見と共に紹介しています。
河合隼雄財団のウェブサイトでは、本の魅力と味わい方が分かりやすく紹介されています。あわせてお読みください。
河合隼雄『源氏物語と日本人 紫マンダラ』が岩波現代文庫より発刊となりました | 河合隼雄財団ウェブサイト
臨床家の読んだ『源氏物語』 河合俊雄
本書は電子版ではまだ流通していたものの、しばらく紙ベースでは絶版になっていたので、この<物語と日本人の心>コレクションの一冊目として復刊されることを非常にうれしく思う。この解説は、国文学者に書いていただいた方がよかったかもしれない。それによって河合隼雄による「源氏物語」の大胆な読みが国文学の専門家から見てもどの程度画期的なものであり、また逆にどのあたりに限界や問題があるのかがわかったかもしれない。筆者は赤坂憲雄氏や三浦佑之氏をはじめとする民俗学者・古代学者と臨床心理学者が一緒に『遠野物語』を読む研究会を長年開いてきて、その成果は『遠野物語:遭遇と鎮魂』という書籍になった。研究会の中で、臨床心理学や心理療法の立場からの読みが時には民俗学者や古代学者に新鮮な視点と全く新しい読みを提供することもあれば、逆に初歩的な誤りや文献学的に反証されているのを指摘されることもあった。この復刊を機会として、本書についての国文学の専門家からの評価も待ちたいところである。
同じ臨床心理学者の筆者が解説を書くことになったので、長い間『源氏物語』を読んだことがなかったと冒頭で告白している河合隼雄の文献学的に不十分なところには気づくことはできないかもしれない。しかし臨床家がクライエントの語りを聴くように物語に耳を傾け、また夢幻的な源氏物語の世界をまるで夢を聴くように読み解いたところは、クローズアップできよう。.... (解説より)
『源氏物語と日本人 紫マンダラ』(岩波現代文庫〈物語と日本人の心〉コレクション)
著者:河合隼雄
編者:河合俊雄
発行:岩波書店/2016年6月
価格:1,404円(本体価格1,300円)
判型:A6並製・336頁
ISBN-10: 4006003447
ISBN-13: 978-4006003449
○目次
はじめに
第一章 人が「物語る」心理
第二章 「女性の物語」の深層
第三章 内なる分身
第四章 光の衰芒
第五章 「個」として生きる
あとがき
解説 臨床家の読んだ『源氏物語』 河合俊雄
〈物語と日本人の心〉コレクション 刊行によせて
人名索引
河合教授がIAAPのカンファレンスに登壇。発表論文が収められた書籍が出版されました
河合俊雄教授が国際分析心理学会(IAAP: International Association for Analytical Psychology)のカンファレンスで発表をおこない、発表論文が収められた書籍『Analysis and Activism: Social and Political Contributions of Jungian Psychology』が2016年5月、イギリスの出版社・Routledge社から出版されました。
IAAPでは、2014年から分析心理学(ユング心理学)の社会・政治への積極的関与をテーマにした国際カンファレンス「Analysis and Activism」を開催しており、河合教授は、第1回('14年12月/イギリス・ロンドン)、第2回('15年12月/イタリア・ローマ)それぞれで発表をおこなっています。
第1回大会において、河合教授は大会のテーマにあるような活動の心理的な影の側面を、震災でのこころのケア活動での経験を元に指摘しました。
震災を受けても、人間には自然な回復力があるのに、下手な心理的な介入や援助は、それを妨害することがあること、また政府などの大きな組織からの援助は、被害者・被災者のニーズとのミスマッチが起こりがちなことなどです。さらにはボランティアで支援することにより、支援される人がそれに安住してしまいがちな問題点と、支援する人がどのような動機で自分たちが支援活動をおこなっているのか振り返りが必要であることを指摘しました。
Kawai,T. "Psychological relief work after the 11 March 2011 earthquake: Jungian perspectives and shadow of activism." Kiehl, E., Saban, M. Samuels, A. (Eds.) In: Analysis and Activism: Social and Political Contributions of Jungian Psychology. Routledge: London, Pp. 193-199.
○About the Book
Jungian psychology has taken a noticeable political turn in the recent years, and analysts and academics whose work draws on Jung's ideas have made internationally recognised contributions in many humanitarian, communal and political contexts. This book brings together a multidisciplinary and international selection of contributors, all of whom have track records as activists, to discuss some of the most compelling issues in contemporary politics.
Hardcover: 254 pages
Publisher: Routledge (May 11, 2016)
Language: English
ISBN-10: 1138948098
ISBN-13: 978-1138948099
河合教授の論考が収められた『宗教とこころの新時代 (岩波講座 現代 第6巻) 』が出版されました
河合俊雄教授の論考「現代社会における物語」が収められた書籍『宗教とこころの新時代 (岩波講座 現代 第6巻) 』が2016年5月、岩波書店より出版されました。
○論考について
グローバルな現代社会のゆくえを多角的な視点から考察する「岩波講座 現代」シリーズ6巻目は、「宗教」と「こころ」がテーマです。
第2章「『こころ』の変化は何を問いかけるか」に収められた河合教授の「現代社会における物語」は、物語というパラダイムが通用しなくなってきた現代における物語の意義を問い直す論考となっています。
20世紀の心理療法においては物語が中核的な役割を果たしてきましたが、近年は、自分のことを振り返る視点のないクライエントが増えています。
しかし、震災後のこころのケアの活動から見えてきたように、人のこころは一見、大きな出来事の枠組みとは関係のないように見える小さな物語を作り出すことで大きなショックからの回復を試みることがあります。
また一方で、戦争など、世代を超えて引き継がれる大きな問題に対しては、語らずに抱え続け、長い時間を経て生み出された大きな物語の中に解決がみられることがある、ということを指揮者・佐渡裕の事例と心理療法での事例から示しています。
「大きな物語の終焉」と言われた後の現代において、物語の意義を改めて考える論考となっています。(畑中千紘 助教・上廣こころ学研究部門)
『宗教とこころの新時代 (岩波講座 現代 第6巻) 』
大澤 真幸 編
出版社:岩波書店 (2016/5/28)
定価:3,400円 + 税
体裁:A5判・上製・カバー・288頁
ISBN-10:4000113860
ISBN-13:978-4000113861
○目次
総説 宗教の現代性 大澤真幸
I. 世界の伝統宗教が映し出す「現代」
1 「世界標準」としてのキリスト教 山内志朗(慶應義塾大学)
2 イスラーム主義・宗派主義と暴力化 酒井啓子(千葉大学)
3 中華の復興――中国的な普遍をめぐるディスコース 中島隆博(東京大学)
4 宗教性からみたインド――存在の平等性にもとづく多様性の肯定 田辺明生(東京大学)
5 仏教のアクチュアリティ――伝統思想をどう捉え直すか 末木文美士(仏教学者)
II. 「こころ」の変化は何を問いかけるか
6 現代社会における物語 河合俊雄(京都大学)
7 精神の病が映す「こころのゆくえ」――統合失調症と自閉症 内海 健(東京藝術大学)
8 幸福な社会とよい社会 古市憲寿(社会学者)
9 成熟社会における宗教のゆくえ――宗教復興か世俗化か 芳賀 学(上智大学)
10 オウム真理教事件――21世紀からの再考 島田裕巳(宗教学者)
広井教授が研究代表者を務めた『コミュニティ経済に関する調査研究』が公刊されました
広井良典教授が研究代表者を務めた全労済協会の公募委託研究『コミュニティ経済に関する調査研究』が公刊されました。
公募研究シリーズ(49)『コミュニティ経済に関する調査研究』
研究代表者 広井良典 京都大学こころの未来研究センター 教授
本調査研究は、タイトルの「コミュニティ経済」という言葉が示すように、「コミュニティ」と「経済」を現代社会のニーズにそくして新しい形でつないでいくという問題意識を起点とするものです。
たとえば地域の商店街や農漁村などの例に見られるように、「コミュニティ」と「経済」の二者は本来互いに深く結びついていましたが、近代社会以降の市場経済の急速な拡大あるいは資本主義システムの展開の中で、こうした「コミュニティ」と「経済」の不可分の関係は次第に分離していきました。
こうした中、「コミュニティ」と「経済」を現代の新たなニーズに合わせて再び結びつけることを通じて、ローカルな地域を出発点にヒト・モノ・カネがうまく循環し、そこにコミュニティ的な紐帯や雇用も生まれ、かつまた若者や高齢者など様々な主体が包摂されるような社会を構築していくことが可能となるのではないか、という発想から本報告書はまとめられたものです。
全体は大きく第Ⅰ部(総論)と第Ⅱ部(各論)に分かれ、第Ⅱ部は、コミュニティ経済が具体的に発展していく場合の内容や課題、今後の展望などを、7つのテーマ領域――①自然エネルギー、②鎮守の森/伝統文化、③農業、④福祉/ケア、⑤商店街、⑥都市/農村、⑦若者――にそくして考察する内容となっています。
報告書は広井教授のほか、小池哲司、宮下佳廣(以上共同研究者)、大和田順子、飯田大輔、大浦明美、大川恒、武田伸也(以上研究協力者)という多様なバックグランドの研究者・実践者によって分担執筆されています。
【全体構成】
第Ⅰ部 総論:コミュニティ経済とは何か
第Ⅱ部 各論:コミュニティ経済の諸領域と具体的展開
1.【自然エネルギー】コミュニティ経済的視座から見る自然エネルギーの可能性
2.【鎮守の森/伝統文化】 鎮守の森とコミュニティ循環経済
3.【農業】 「里山コミュニティ経済」で拓く地域創生の新しい道
4.【福祉/ケア】 クリエイティブなケア実践と「ケアの6次産業化」
5.【商店街】 ローカルな定常型社会の商店街モデル
6.【都市/農村】 「地域おこし」におけるホールシステム・アプローチの活用
7.【若者】 ストリートからコミュニティ経済へ
報告書全文(PDF 3.6MB)
http://www.zenrosaikyokai.or.jp/thinktank/library/lib-invite/koubo49.pdf
公募研究シリーズ | 全労済協会ウェブサイト(報告誌の郵送申込リンク有り)
http://www.zenrosaikyokai.or.jp/thinktank/library/lib-invite/
報告書は、PDFにて全文公開されています。上記リンク先か表紙画像をクリックすると閲覧できます。また、全労済のウェブサイトから申し込めば、報告書冊子を郵送にて入手可能です(無償)。
阿部准教授の論文が『Neuroscience』に掲載されました
阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)と、2014年度までこころの未来研究センターに日本学術振興会特別研究員として在籍していた伊藤文人東北福祉大学特任講師らの執筆した論文が、学術誌『Neuroscience』Vol.328 に掲載されました。
本研究は機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、老若男女様々な人物の顔に対する価値判断の神経基盤を調べた研究です。腹内側前頭前野と呼ばれる報酬の処理に関わる領域の活動が、男性参加者と女性参加者では異なっており、男性では顔の性別や世代の違いを顕著に反映することが明らかとなりました。
Ito A, Fujii T, Abe N, Kawasaki I, Hayashi A, Ueno A, Yoshida K, Sakai S, Mugikura S, Takahashi S, Mori E (2016)
Gender differences in ventromedial prefrontal cortex activity associated with valuation of faces
Neuroscience 328: 194-200
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0306452216301324 ※認証有り
○Abstract
Psychological studies have indicated that males exhibit stronger preferences for physical attributes in the opposite gender, such as facial attractiveness, than females. However, whether gender differences in mate preference originate from differential brain activity remains unclear. Using functional magnetic resonance imaging (fMRI), we investigated the patterns of brain activity in the ventromedial prefrontal cortex (vmPFC), a region critical for the valuation of faces, in response to elderly male, elderly female, young male, and young female faces. During fMRI, male and female subjects were presented with a face and asked to rate its pleasantness. Following fMRI, the subjects were presented with pairs of faces and asked to select the face that they preferred. We analyzed the vmPFC activity during the pleasantness-rating task according to the gender of the face stimulus (male and female) and the age of the face stimulus (elderly and young). Consistent with the results of previous studies, the vmPFC activity parametrically coded the subjective value of faces. Importantly, the vmPFC activity was sensitive to physical attributes, such as the youthfulness and gender of the faces, only in the male subjects. These findings provide a possible neural explanation for gender differences in mate preference.
広井教授の共著『田園回帰がひらく未来――農山村再生の最前線』が出版されました
広井良典教授が共著者の一人である『田園回帰がひらく未来――農山村再生の最前線』(岩波ブックレット)が2016年5月、岩波書店より刊行されました。
本書は2015年11月に全国町村会と地域活性化センターの主催で開かれた「都市・農村共生社会創造全国リレーシンポジウム」での報告とディスカッションを書籍化したものです。広井教授の「人口減少社会から希望の定常化社会へ――田園回帰の背景」という基調スピーチのほか、小田切徳美・明治大学教授、大江正章・コモンズ代表の基調スピーチ、「田園回帰のススメ」と題する各地域での実践報告等がまとめられた内容となっています。
『田園回帰がひらく未来 ―― 農山村再生の最前線 ――』
著者:小田切徳美、広井良典、大江正章、藤山浩
出版社: 岩波書店 (2016/5/10)
定価:本体 580円 + 税
A5判・並製・72頁
ISBN-10: 4002709507
ISBN-13: 978-4002709505
東京シンポジウムのテーマは「田園回帰と日本の未来」.「田園回帰」とは,都市の住民が農山村に移住する現象を指しています.最近は,テレビや新聞,雑誌等のマスメディアでもしばしば取り上げられ,東京などの大都市では,地方への移住相談や関連イベントに参加者が溢れるほど,人々の関心も高まっています.
東京のシンポジウムがこのテーマを取り上げたのは,こうした現実があるからに他なりません.なぜ都市の人々,特に若者が農山村に向かうのか.農山村は受け入れる準備はあるのか.この現象にはいかなる多様性があるのか.この動きを定着させる戦略とは――「田園回帰」をめぐる論点はまだまだ残されています.
当日は,基調講演とパネルディスカッションで,「背景」「本質」「諸相」「戦略」の視点から,「田園回帰」が多面的に論じられたと言えます.さらに,「田園回帰」を単なる人口移動と捉えるのではなく,リレーシンポジウムの大きなテーマである「都市・農村共生社会」にとって,どのような意味と課題があるかを追求し,その視野と射程を拡げているのです.「田園回帰がひらく未来」という本書のタイトルは,そのことを反映しています.
当日の会場には,約300席が用意され,ほほ満席となりました.国や地方の行政,学界関係者だけでなく,農山村や都市の地域レベルで活動されている方々の参加も多く,実に多様な皆さんが参加されていました.
本書が,ともすれば政治的,経済的に閉塞状況になりがちな現状から脱し,「都市・農村共生社会」が創造される素材の一つとなれば幸いです.
(「報告者を代表して」小田切徳美 ー 岩波書店ウェブサイト more info より)
河合教授の共著論文が『日本甲状腺学会雑誌』に掲載されました
河合俊雄教授の共著論文「甲状腺専門病院における心理臨床」が、2016年4月、『日本甲状腺学会雑誌 Vol.7 No.1』に掲載されました。
田中美香・金山由美・河合俊雄・桑原晴子・山森路子・長谷川千紘・深尾篤志・窪田純久・伊藤充・宮内昭(2016) :「甲状腺専門病院における心理臨床」.日本甲状腺学会雑誌, 7(1), 12-15.
○論文の概要
バセドウ病をはじめとする甲状腺疾患は、身体疾患でありがなら発症時のライフイベントなどの心理的ストレスとの関連も深いとされ、身体的な治療に加えて心理療法的なアプローチの有効性も指摘されてきました。
この論文は、甲状腺専門病院において心理療法を行っているチームが、①甲状腺疾患の患者さんの心理的な特徴について、②甲状腺専門病院での心理臨床が身体的な治療におよぼす効果、③心理的アプローチにおける課題について検討を行ったものです。
その結果、身体疾患の患者さんへ心理的アプローチをすることの難しさが示唆されると同時に、長期間のカウンセリングを受けたグループでは、短期間のグループよりも寛解率が高いことが示され、じっくりと心理的なアプローチに取り組んでいくことが身体的状態の改善にもつながると考えられました。
この研究成果は、センターの「身体疾患・症状に関する心理療法の研究」プロジェクトにも関わるものです。
【教員提案型連携研究プロジェクト】身体疾患・症状に関する心理療法の研究
http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/jp/project/2016/04/H28-14-1-04.html
日本甲状腺学会ウェブサイト
http://www.japanthyroid.jp/
センターの教授、准教授による共著『こころ学への挑戦』が出版されました
こころの未来研究センターの教授、准教授らが執筆した共著『こころ学への挑戦(こころの未来選書)』が、2016年3月、創元社より出版されました。
本書は、吉川左紀子センター長をはじめ、2016年3月末までセンターに勤務した船橋新太郎教授と鎌田東二教授(肩書きは当時)、河合俊雄教授、カール・ベッカー教授、内田由紀子准教授、阿部修士准教授、熊谷誠慈准教授ら8人が、各自の専門領域をふまえて「こころ」と「こころ学」の定義に挑みながら、センター設立から今日までに取り組んでいる「こころ」を巡る研究活動の成果を紹介しています。巻末には8人全員が集まり「こころの未来研究センターと『こころ学』の創生」というテーマで、これまでの歩みを振り返り、次なる「こころ学」の展開に向けて語り合った座談会の記録も収められています。
『こころ学への挑戦(こころの未来選書)』
編著者:吉川左紀子、河合俊雄
著者:船橋新太郎、鎌田東二、カール・ベッカー、阿部修士、内田由紀子、熊谷誠慈
出版社: 創元社
価格:3,024円(税込)
言語: 日本語
判型:A5判 272頁
ISBN-10: 4422112287
ISBN-13: 978-4422112282
○目次
はじめに 吉川左紀子
1章 脳の働きを通してこころを探る 船橋新太郎
2章 こころ学の実現に向けて――脳研究の視点から 阿部修士
3章 こころのワザ学と日本文化 鎌田東二
4章 「心」と「こころ」――文献学的手法に基づくこころ学の構築 熊谷誠慈
5章 「こころ学」を考える――3つの側面と3つの研究プロジェクト カール・ベッカー
6章 実践とリフレクションとしてのこころ学 河合俊雄
7章 文化とこころ――こころへの社会科学的アプローチ 内田由紀子
8章 こころ学の効用 吉川左紀子
座談会 こころの未来研究センターと「こころ学」の創生 全員
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
はじめに
吉川左紀子
広くこころについての学際的研究を行うことを目的に設置された京都大学こころの未来研究センターは、二〇〇七年にスタートした。
本書『こころ学への挑戦』は、センターが誕生してから一〇年の節目を前に、これまでのセンターでの研究活動を振り返り、センターがめざす「こころ学」創生のイメージについて、各研究者がそれぞれの視点から提示することを目的に企画された。
「挑戦」という少し勇ましいタイトルは、「こころ」について、その全体像を描き出すために息の長い取り組みを進める研究者の心構えを表わしている。
*
こころの未来研究センターは、二〇〇三年からの五年間、「地球化時代を生きるこころを求めて」をメインテーマに京都大学で実施されたシンポジウムとワークショップ「京都文化会議」の趣旨を引き継いで誕生した。センターのミッションは、さまざまな学問的アプローチでこころについて研究を進め、広く「こころの知」を発信することである。
こころを研究する新しいセンターなのだから、ワクワクするような場所にしたい。名称はとても大事だと考えた。研究はすでに起きた現象を分析し考察し、「こんなことがわかりました」と示す仕事なので、過去・現在・未来という時間の流れでみると、過去と現在である。だが、私たちがめざしているのは、人が未来に向かってよりよく生きるヒントになるような「こころの知」を発信することであり、そのメッセージは未来に向けて送りたい。そこで、「こころの未来に向けて研究をする、こころの未来研究センター。これがいい」と意見が一致した。
スタートした当初は、大学の組織名称にひらがなや「未来」といった単語を使うことに反対もあった。しかし最近は批判の声も聞かれなくなって、「いい名前のセンターですね」と言われることも多い。「こころの未来」という名称のもつ柔らかく明るい雰囲気は、未来の社会に向けて、こころをめぐる多彩な研究を発信するセンターにふさわしいと思う。
センターでは、「こころとからだ」「こころときずな」「こころと生き方」という三つの領域を設定して、研究者が相互のつながりや連携を意識しながら研究プロジェクトに取り組んできた。異なる専門領域をつなぐ学際研究を行うことや、基礎研究の成果を実践の場に役立てること、あるいは逆に、実践の場での経験から、新たな研究課題を見つけて研究を開始すること。日頃こうしたさまざまな取り組みを行っている研究者の、こころ学への思いや研究成果の一端が本書で語られている。
本書の1章と2章では、神経生理学、脳科学と心理学の学際研究からみた「こころ学」「こころ観」が論じられる。3章では、聖地、言霊、芸能という三つの文化的側面から人文学的アプローチによるこころ観が語られる。4章ではアジア地域の古文書にあらわれる「こころ」概念をめぐって、人文学の方法によるこころ学の構築が試みられる。5章では、医療倫理学およびストレス軽減の実践研究を通してみた「こころ」について論じられる。6章は、クライアントや身体疾患の患者のケアを通して心理臨床という実践からみた「こころ」が語られる。7章では、日本と欧米の幸福感の比較を通してみた、文化心理学のアプローチによる「こころ」が論じられる。8章では、対話の映像分析を通してみた学際研究を中心に、実験心理学のアプローチによる「こころ」について論じられる。
こうした多様な角度から「こころ」に迫る試みは、まだ始まったばかりである。異分野の研究者が一つの組織に集い、さまざまなアプローチでこころについて研究する。そうした環境で日頃ディスカッションを重ねて研究することに慣れてくると、異分野という境界を意識した遠慮はなくなり、忌憚のない意見交換が日常的に行われるようになる。本書の最期に収録した、本書執筆者による座談会から、そうしたセンターの闊達な雰囲気を感じていただければ幸いである。
(「はじめに」より)
河合教授、梅村研究員らの論文が『心理臨床学研究』に掲載されました
河合俊雄教授、梅村高太郎研究員らの論文「甲状腺疾患患者のバウムと人格特徴」が、2016年2月、日本心理臨床学会の発行する『心理臨床学研究 』(Vol.33 No.6 2016)に掲載されました。
金山由美・田中美香・河合俊雄・山森(卯月)路子・桑原晴子・梅村高太郎・長谷川千紘・鍛治まどか・西垣紀子 (2016) : 「甲状腺疾患患者のバウムと人格特徴」. 心理臨床学研究, 33(6), 591-601.
○論文の概要
代表的な甲状腺疾患であるバセドウ病は,精神的ストレスとの関連が指摘され,心身症の一つに数えられます。この論文では,そのバセドウ病をはじめとする甲状腺疾患患者の心理的特徴を,バウムテストと呼ばれる描画技法を用いて検討しました。
まず,バセドウ病患者のなかでも,医師から心理的問題を疑われてカウンセリングを依頼される者と,心理的問題はないとされ身体治療のみを受けている者とのあいだで,どのような人格の違いがあるのかを調べました。その結果,身体治療のみを受けている群のなかには,カウンセリングを受けている群より,病態水準としてはより重い状態にある者が少なくないことが明らかになりました。さらに,バセドウ病の他に,甲状腺機能低下症・結節性甲状腺腫という2つの甲状腺疾患も加え,この3群のあいだで人格特徴の比較を行いました。その検討から,バセドウ病の患者以上に,これまで心理的な観点からはあまり関心を向けられてこなかった甲状腺機能低下症と結節性甲状腺腫が重篤な心理状態にある可能性が示唆されました。
この研究によって,甲状腺疾患患者の心理的特徴の一端が明らかにされたことで,言語的には表現されにくい患者の問題に対する理解や心理的援助の手がかりが得られたと言えます。
広井教授の論文が収められた『ライフサイエンスをめぐる諸課題』が公刊されました
広井良典教授の論文「医療分野における科学技術と医療政策」が、国立国会図書館の「科学技術に関する調査プロジェクト」平成27年度調査報告書『ライフサイエンスをめぐる諸課題』(発行:2016年3月)に掲載されました。同論文は日本と米国の医療技術政策の比較を踏まえ、「持続可能な医療」という観点から医療資源の配分や医療における研究開発政策の望ましいあり方を議論する内容となっています。
○論文の要旨
高齢化の進展に伴う医療費の増加等を背景に、医療における科学技術政策の重要性がきわめて大きくなっている。本稿では、まずアメリカにおける医学・生命科学研究政策を日本との対比においてとらえることを通じて医療における科学技術政策を考える基本的な視点を提示し(Ⅰ)、続いて医療における技術革新の意味を主に医療技術革新と医療費の関係に注目しつつ論じ(Ⅱ)、さらに医療における研究開発と医療費配分のあり方を「持続可能な医療」という観点から考察し(Ⅲ)、これらを踏まえて今後の日本における医療技術政策の基本的課題を明らかにする(Ⅳ)。
○Abstract
Science and Technology in Medical Field and Healthcare Policy
Against the backdrop of increases in healthcare expenses associated with the aging of population, science and technology policy in healthcare has become more important. This article, i) first shows a basic viewpoint of biomedical research policy by describing the health technology policy of the United States as compared with that of Japan, ii) discusses the meaning of technological innovation in medical care by focusing mainly on the relationships between medical technology innovation and health care costs, iii) considers the relevant allocations and distributions of health care expenses from the perspective of "sustainable healthcare", and iv) as a conclusion, clarifies the basic agenda in medical technology policy of Japan.
国立国会図書館プレスリリース
http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2015/1214995_1830.html
論文PDF
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9913626_po_20150304.pdf?contentNo=1
吉川教授のコラムが収められた『教育認知心理学の展望』が出版されました
吉川左紀子教授のコラム「こころの未来」が収められた書籍『教育心理学の展望』(ナカニシヤ出版/2016年3月)が出版されました。
本書は、教育心理学という新たな学術分野を学ぶ人たちのために、京都大学大学院教育学研究科の子安増生教授(2016年3月に定年退職)、楠見孝教授、齊藤智准教授、野村理朗准教授らによって編集されました。吉川教授は、第1章「心のモデルのデザイン」に収められたコラムを担当し、「こころ」を総合的、学術的に研究してその成果を広く社会に発信することをミッションとして設立したこころの未来研究センターのあらましを紹介。心理学研究の成果を用いて現代社会に貢献するために取り組んでいる活動について綴っています。
『教育認知心理学の展望』
著者:子安増生、楠見孝、 齊藤智、 野村理朗
出版社:ナカニシヤ出版 (2016/3/30)
定価:本体 2,800円+税
A5・312頁
ISBN-10: 477951049X
ISBN-13: 978-4779510496
複雑化する21世紀の社会の中でこころの問題も多様になり、人間のこころに関する科学の知は、ますますその必要性を増している。「こころ」に関心をもつ様々な分野の研究者が、柔軟な思想と行動力を発揮しつつ、恊働して新しい課題に取り組むアクティヴな研究の場が求められている。
京都大学こころの未来研究センターは、「こころ」を総合的、学術的に研究して、その成果を広く社会に発信することをミッションとして2007年4月に設置された。心理学を中心に多様な専門分野の研究者が集い、こころとからだ、こころときずな、こころと生き方、という3つの領域を設定して、20を超す研究プロジェクトや子どもの療育実践など多彩な活動を行っている。
学問の世界がどんどん専門家、細分化されてゆく流れの中にあって、こころの未来研究センターはあえてその流れとは逆に、「つなぐ」という発想を大事にしながら活動を広げてきた。
(コラム1「こころの未来」吉川左紀子 より)
第1回京都こころ会議シンポジウムを書籍化した『〈こころ〉はどこから来て、どこへ行くのか』が出版されました
第1回京都こころ会議シンポジウム「こころと歴史性」(於:京都ホテルオークラ/開催日:2015年9月13日)の内容が書籍化され、『〈こころ〉はどこから来て、どこへ行くのか』というタイトルで岩波書店より出版されました。
書籍は、河合俊雄教授、山極寿一京大総長、中沢新一明治大学野生の科学研究所長、広井良典千葉大学教授、下條信輔カリフォルニア工科大学教授ら5名のシンポジストによる講演とディスカッションが一冊にまとめられています。臨床心理学、霊長類学、人類学、公共政策、認知神経科学など、それぞれのアプローチから「こころ」のこし方とゆく末に切り込んだ知の探求録です。
『〈こころ〉はどこから来て、どこへ行くのか』
著者:河合俊雄、中沢新一、広井良典、下條信輔、山極寿一
出版社: 岩波書店 (2016/3/17)
定価:本体 2,100円 + 税
四六判・並製・224頁
ISBN-10: 400022946X
ISBN-13: 978-4000229463
科学技術の進歩、グローバル化による大きな経済圏の出現、さらには近年の地球環境の変化が加わって、人々の生活や関係は大きく変わってきています。そしてそれらはおのずから人々の「こころ」に影響を及ぼし、ときにはこれまでの世界観を揺るがそうとしています。
それに対しては、科学技術や経済などそれぞれの分野での個別的な対応も必要ですが、それに直面し、またそれに適応できるはずの人の「こころ」に焦点を当てることが重要なのではないでしょうか。つまり人類がこれまで「こころ」をどのように捉えてきたのかを踏まえつつ、「こころ」とは何かを探究し、さらに何がこれからの「こころ」の拠り所となるのかを明らかにすることが必要になってくると思われます。
京都大学は、公益財団法人稲盛財団より支援を受けて、こころの未来研究センターを中心として「京都こころ会議(Kokoro Initiative)」を二〇一五年四月に立ち上げました。「京都こころ会議」は、さまざまな学問から「こころ」の過去、現在、未来を問い、またその際に日本語の「こころ」という言葉に含蓄されている広くて深いニュアンスから、こころの新しい理解を「Kokoro Initiative」として世界に向けて発信しようとするものです。
初年度である二〇一五年九月一三日には、「こころと歴史性」という題で「第一回京都こころ会議シンポジウム」が開催されました。本書はそこでの五つの講演、「「もの」と「こころ」の統一へ」(中沢新一)、「こころの歴史的内面化とインターフェイス」(河合俊雄)、「ポスト成長時代の「こころ」と社会構造」(広井良典)、「こころの潜在過程と「来歴」ー知覚、進化、社会脳」(下條信輔)、「こころの起源ー共感から倫理へ」(山極寿一)、および最後のディスカッションの要約を収録したものです。
二年目は、「こころの内と外」をテーマに予定しています。
(「はじめにー京都こころ会議について」河合俊雄 より)
鎌田教授のインタビュー記事が掲載された『没後20年 司馬遼太郎の言葉2 この国のかたち』が出版されました
2016年3月、鎌田東二教授のインタビュー記事が掲載された『没後20年 司馬遼太郎の言葉2 この国のかたち』が朝日新聞出版より刊行されました。「私と司馬さん」というコーナーにて、鎌田教授は司馬氏の著作や言葉を振り返りながら、宗教哲学者としての自身の活動と、司馬氏も訪れたアイルランドでのエピソードなどを紹介し、日本の神々に寄り添い生きる様子をいきいきと語っています。
『没後20年 司馬遼太郎の言葉2 この国のかたち』
出版社: 朝日新聞出版 (2016/3/28)
定価:994円(税込)
A5判 300ページ ムック
ISBN-10: 4022770384
ISBN-13: 978-4022770387
出版社 書籍ページ
Amazon.co.jp 書籍ページ
「私と司馬さん」鎌田東二さん 宗教哲学・民族学者
司馬さんの文章には、印象に残る言葉やセンテンスがあちこちにちりばめられています。『この国のかたち 五』の最初の1行、「神道に、教祖も教義もない」もいいですね。私は"フリーランス神主"を自称してきました。神職の資格を持ち、お祓いや地鎮祭をしたこともあります。しかし、どこの神社にも属さず、フリーな立場で神を敬いながら、神道などを研究する宗教哲学が専門です。(中略)
私は、ダブリン大学の客員研究員になったこともあり、『愛蘭土紀行』も読みました。司馬さんのようにゴールウェイやアラン島にも行っています。私は修験道のほら貝や、縄文の石笛を吹くのが趣味。早朝にアラン島の断崖に行き、ほら貝を吹いていると、野良犬が寄ってきて「うぉ〜」と遠吠えを始めました。あの犬はフェアリー(精霊)だったのか、思わぬセッションを楽しみました(笑)。
両国の共通点はアニミズム的な信仰があることと、ユーラシア大陸の東西の果てにあることです。
(掲載ページより)
『いま知りたい、私たちの「現代アート」―高松市美術館コレクション選集―』に鎌田教授の論考が掲載されました
高松市美術館のコレクションを紹介した『いま知りたい、私たちの「現代アート」―高松市美術館コレクション選集―』(発行:青幻舎、監修:高松市美術館/2016年3月26日)に鎌田東二教授の論考が掲載されました。
『いま知りたい、私たちの「現代アート」―高松市美術館コレクション選集―』
編集:廣瀬歩(青幻舎)
発行元:青幻舎(2016年3月26日)
サイズ:250mm×187mm、重量:565g
ページ数:208ページ
価格:¥2,592
○内容
はじめに=高松市美術館/「高松市美術館コレクションを新しみつつ振りかえる」篠原資明(高松市美術館アートディレクター)/
図版・作品解説(高松市美術館=石田智子、川西弘一、牧野裕二、毛利直子)/
chapter1=実験工房、アンフォルメル、具体―1945-50年代、
chapter2=ネオダダ、反芸術、ポップアート―1960年代、
chapter3=コンセプチュアルアート、ミニマルアート、スーパーリアリズム―1960・70年代、
chapter4=もの派、ポストもの派―1970・80年代、chapter5=絵画の復権、ニューウェーブ、ネオポップ―1980・90年代、
chapter6=イズムを超えて―1990・2000年代/
column1=「神秘参入~シャーマン/修験者/芸術家としての岡本太郎」鎌田東二、
column2=「正直、ピンと来ないですか?」片桐仁、column3=「身振りのエクリチュール」松井茂、
column4=「もの派は揶揄語だった」中ザワヒデキ、column5=「多様性と国際性」建畠哲、
column6=「芸術の原風景」福永信/高松市美術館プロフィール/展覧会アーカイブ/作家略歴/作品リスト
鎌田教授の著書『世阿弥―身心変容技法の思想』が出版されました
鎌田東二教授の著書『世阿弥―身心変容技法の思想』が、2016年3月、青土社より出版されました。
世阿弥に対して多大な関心を寄せていたという鎌田教授は、2009年より世阿弥の著作を輪読する研究会を始め、以来、世阿弥の世界を探究する旅を続けてきました。
本書は、宗教哲学者、民俗学者として鎌田教授が長年に渡って取り組んだ研究をベースに「身心変容技法」をキーワードとして世阿弥の世界に踏み込んだ、鎌田流「世阿弥論」です。
『世阿弥―身心変容技法の思想』
鎌田東二
出版社: 青土社 (2016/2/24)
定価 本体2600円+税
四六型上製/348頁
ISBN-10: 4791769139
ISBN-13: 978-4791769131
これまで、世阿弥や能楽については、つとに能勢朝治、表章、天野文雄、松岡心平らを始め、近年には梅原猛や大谷節子や高桑いづみや西平直など、優れた先行研究が多々ある。その中で、世阿弥や能について専門的で確実な何ほどのことが言えるのか心もとないが、しかし世阿弥の巧みな誘発や挑発に乗ってみることで、思いもかけない展望と日本文化の深層が露わになってくることも期待できる。混迷する時代であればあるほど、「乱世」の中で格闘を続けた能作者兼能役者兼能思想家(能哲学者)の世阿弥と格闘し続ける意味は大きい。恐れずにその中にわが身を投じて格闘してみたい。(中略)
本書『世阿弥』では、「乱世」における新しい救済や安心を生み出す一つの神事演劇的「身心変容技法」として、南北朝の動乱期を経て世阿弥が「申楽」(能)を編み出したことに焦点を当てながら、この文化イノベーションを単に過去の世阿弥時代の問題としてではなく、現代の主要なる課題として時代を串刺しにする「身心変容技法」の問題として縦横に論じてみたい。世阿弥は、「申楽」(能)を「魔縁」を退け、「福祐」をもたらすワザだと繰り返し強調した。また、『申楽談義』では、神事の奉仕こそが能役者の根本の務めであり、旅興行は生活手段なので、くれぐれも本末転倒してはならないと戒め、神事などをおろそかにするものには「神罰がくだる」とか「死後に地獄に落ちる」とまで言っている。とすれば、この能がいかに神聖な神事的呪術的なものであるかは明白であろう。
とはいえ、そもそも世阿弥の言うその「魔縁」の「魔」が何であり、「福祐」の「福」が何であるかも見定め難いのが「乱世」のならいではある。だとしても、「身心変容技法」を修行者が目ざすべき理想の状態に近づけるための諸ワザであると捉えるならば、「乱世」を生きぬいていくための「身心処方」として参照し、学ぶところ大であろう。世阿弥と「身心変容技法」に焦点を当てながら、まずはじっくりとわれらの「身心」を遊動させてみることにしよう。
清家助教の論文が『Journal of the American Geriatrics Society』に掲載されました
清家理助教、櫻井孝国立長寿医療研究センターもの忘れセンター長、鳥羽研二国立長寿医療研究センター理事長らによる共同研究をまとめた論文が、『Journal of the American Geriatrics Society』Vol.64 Issue 3 (2016 Mar) に掲載されました。
本研究は、 著者らが取り組んでいる認知症をもつ人および家族介護者に対する教育的支援プログラムの分析データからその効果を検証し、今後のプログラムについて展望した論文です。
Aya Seike, Takashi Sakurai, Chieko Sumigaki, Akinori Takeda, Hidetoshi Endo and Kenji Toba (2016). Verification of Educational Support Intervention for Family Caregivers of Persons with Dementia. Journal of the American Geriatrics Society 64 (3): 661-663
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.14017/full ※認証有り
Since 2012, the authors have provided an educational support program for persons with early-stage dementia and their family caregivers. It has been determined that information about the diagnosis and treatment of dementia is important for persons with early-stage dementia and their caregivers.[1] As the condition of the person with dementia worsens, behavioral and psychological symptoms of dementia and increasing problems with activities of daily living (ADLs) can create greater care burdens for caregivers.[2] Dementia-related stigma[3]and confusion and anxiety about the unknown can exacerbate caregivers' burdens, so it was felt that caregivers needed coping strategies in addition to skills for managing dementia symptoms and ADL disorders. The aim of this research was to verify the effects of a trial program of educational support intervention for caregivers of persons with progressive dementia.
畑中助教の論文が『臨床ユング心理学研究』に掲載されました
畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)の論文が、日本ユング心理学会の発行する機関誌『臨床ユング心理学研究』1(1)に掲載されました。
畑中千紘(2015) 象徴性の弱い夢をみる中学生との面接-深みから出ることについての考察
臨床ユング心理学研究1(1), 49-60.
○論文の内容
この論文では、現実をそのままうつしたような夢やイメージのもつ意味について、臨床心理学的に検討しています。
象徴性とは、現実に見えている文字通りの意味とは別の次元に生じる意味のことですが、最近ではそれが一見わかりにくかったり、弱かったりする夢やイメージがしばしばみられます。では、そのような時代において、夢やイメージを中心的に扱うユング心理学や心理療法がどのような意義をもつのでしょうか。
本研究では、夢の構造へ着目するということや身体とのつながりという視点から考察をおこなっています。
梅村研究員の論文が『臨床ユング心理学研究』に掲載されました
梅村高太郎研究員の論文が、日本ユング心理学会の発行する機関誌『臨床ユング心理学研究』1(1)に掲載されました。
梅村高太郎(2015) 思春期における神殺しとアニマとの恋愛を通じた主体的生への転換――小説創作によって生きる意味を模索した思春期男子との心理療法
臨床ユング心理学研究, 1(1), 35-47.
○論文の内容
思春期の年代では、自分の生を基礎づけていた絶対的存在を相対化し、自立した個人として世界との新たな関係を結び直すことが必要となります。この課題は誰にとっても簡単なことではなく、時にそれに取り組むなかで、それまで当たり前だった日常を失い、"なぜ生きるのか"という問いに突き当たってしまうこともあります。
本論文では、この問いの答えとなる"自分の物語"を心理療法を通じて模索したクライエントとの心理療法過程を報告し、彼の作成した小説や夢において重要だったと考えられる"神殺し"と"アニマとの恋愛"という2つのテーマに注目して考察を行っています。
鎌田教授の著書『世直しの思想』が出版されました
鎌田東二教授の著書『世直しの思想』が、2016年1月、春秋社より出版されました。
宗教哲学、民俗学、日本思想史、比較文明学を専門とする鎌田教授は、2008年4月にこころの未来研究センター教授に着任し、「楽しい世直し」を信条に研究活動をおこなってきました。本書は、センター着任以降に執筆した論考やエッセイを「世直し」というテーマに沿って改変し、書き下ろしの論考を加えたもので、2016年3月の定年退職までの鎌田教授の研究成果を凝縮した一冊です。
『世直しの思想』
鎌田東二
出版社: 春秋社 (2016/2/24)
単行本: 264ページ
ISBN-10: 439333342X
ISBN-13: 978-4393333426
いつごろからか、自分の一番やりたいことは「世直し」であると公言するようになった。たぶん元号が「平成」になった頃からだ。
その理由は、「平成」という元号にあった。昭和六十四年(一九八九)一月七日、第一二四代昭和天皇(一九〇一 - 一九八九)崩御の翌日の一月八日、小渕恵三内閣官房長官(当時)が記者会見で、「只今終了しました閣議で元号を改める政令が決定され、第一回臨時閣議後に申しました通り、本日中に公布される予定であります。新しい元号は『平成』であります」と宣言した報道を聞いて、わたしはすぐさま「平治の乱」(一一五九年)が起こる「乱世」に突入するのではないかという嫌な予感を持ったのである。(中略)
前著『現代神道論ー霊性と生態智の探究』(春秋社、二〇一一年)の冒頭で、わたしはおおむね次のようなことを書いた。〈元号が「平成」(一九八九年一月八日)になった時から、それまでも主張していた「現代大中世」論(現代は中世の課題をいっそう拡大再生産したような困難の中にあるという時代認識)をさらに強く主張するようになった。慈円が言うように、世の中が「乱世」となり「武者の世」となっていくと直覚し、そのことを『朝日ジャーナル』での論文(一九八九年)や拙著『異界のフォノロジー』(河出書房新社、一九〇〇年)や音楽家の喜納昌吉氏との共著『霊性のネットワーク』(青弓社、一九九九年)などで強調してきた。そこで、日本中世には律令体制が大きく崩れ、征夷大将軍という令外の官が権力の中心となって二重権力構造が生まれたが、現代は米国という「征夷大将軍」に制圧され守護された二重権力構造の中に日本はあると主張してきたのだった。(中略)
本書『世直しの思想』は、東日本大震災や巨大台風や御嶽山噴火を踏まえて、「災害と宗教と世直し」をつなげながら、過去・現在・未来の問題として論じたい。「世直し」は綺麗事ではないのだ。もう後はないところまで来ている。そんな切羽詰まった心境であるが、この二十年来、「楽しい世直し」を提唱して来た身として、どんな苦境にあっても、「楽しさ」の創造と探究とユーモアの表現を忘れてはならないと、いつも思っている。
(「序章 『世直し』への希求と実践」より)
鎌田教授の講演論文が収められた『霊性と東西文明 日本とフランス「ルーツとルーツ」対話』が出版されました
鎌田東二教授の講演論文が収められた『霊性と東西文明 日本とフランス「ルーツとルーツ」対話』が出版されました。
伊勢神宮の第六十二回遷宮を機に開催された日仏シンポジウム《ルーツとルーツの対話》(2014年3月11〜14日/於:皇學館大学・三重)の「第一部 自然とサクレ」において、鎌田教授は「神道とは何か?ーユーラシア・環太平洋交響楽としての神道」というタイトルにて発表しました。本書には12人の発表者の講演録および討議、総括が508頁に渡って収められています。
『霊性と東西文明 日本とフランス「ルーツとルーツ」対話』
竹本忠雄 監修
出版社: 勉誠出版 (2016/2/18)
ISBN-10: 458521030X
ISBN-13: 978-4585210306
「神道とは何か?ーユーラシア・環太平洋交響楽としての神道」鎌田東二
その「神道」とは何か、という質問に明確に語ることは容易ではない。その理由の第一は、神道には明確な教え・教義がないからだ。そのために、「神道は教義なき宗教である」という言い方がなされる時がある。それは間違いではないが、だからと言って何もないわけではない。神社はあるし、祭りもある。『古事記』や『日本書紀』や『古語拾遺』や『先代旧事本紀』などの神話や家伝を記した古典もある。明確な教義こそないが、そこには顕在化しない「隠れた意味世界」がある。(中略)
哲学も倫理も教理もない「神道」。だが、その「ない」ことによって「西洋の宗教思想の侵略に対抗」でき、独自のプレゼンスを高めることができた。逆説的にではあるが、仏教や儒教やキリスト教など、そこに確かに体系的に「ある」何ものかとの対峙と対比を通してしか、その存在感を確認できないようなあえかなもの、明示的に摑むことも示すこともできない幽玄なるもの、不明性を存在根拠とする「宗教文化(形態)」としての「神道」。
知られているように、「神道」の語の初出は『日本書紀』だ。そこで「神道」は、「仏法」との対比を通して現われる。『日本書紀』用明天皇の条に「信仏法、尊神道」と初出し、続いて孝徳天皇紀にも「尊仏法、軽神道」と出る。
ここに、神道と仏教との差異の認識が出ている。
(講演論文より)
阿部准教授の論文が『Experimental Brain Research』に掲載されました
阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)の論文が、『Experimental Brain Research』に掲載されました。
ヒトを対象としたエピソード記憶の研究では、source memory とよばれる情報源の記憶(例:ある話を誰から聞いたか)についての研究が盛んにおこなわれてきました。近年では destination memory とよばれる伝達先の記憶(例:ある情報を誰に話したか)についての研究もおこなわれるようになり、両者の異同について議論がなされています。
今回の fMRI を用いた研究では、destination memory の神経基盤にアプローチし、内側側頭葉と destination memory との関連を明らかにしました。
Mugikura S, Abe N, Ito A, Kawasaki I, Ueno A, Takahashi S, Fujii T (2016)
Medial temporal lobe activity associated with the successful retrieval of destination memory
Experimental Brain Research 234: 95-104
http://link.springer.com/article/10.1007/s00221-015-4415-5 ※認証有り
○Abstract
Destination memory is the process of remembering to whom we tell particular things. Although recent behavioral studies have clarified the cognitive nature of destination memory, the neural mechanisms underlying destination memory retrieval remain unclear. We used functional magnetic resonance imaging (fMRI) to determine whether the medial temporal lobe (MTL), a structure that has been implicated in recollection-based memory, is activated during the successful retrieval of destination information. During a study phase before fMRI scanning, the subjects told a series of facts to either a woman or a man. During fMRI scanning, the subjects were asked to judge whether each fact presented was old or new, and if they judged it as old, to indicate, including a confidence rating (high or low), whether the subjects had told that fact to either a man or a woman. We found that successful destination retrieval, when compared to failed destination retrieval, was associated with increased activity in the parahippocampal gyrus. We also found that the confidence level (high vs. low) for destination memory retrieval was associated with increased activity in another (posterior) region of the parahippocampal gyrus. The present study suggests that the successful retrieval of destination information depends highly on MTL-mediated recollection processes.
中井研究員、阿部准教授の論文が『Psychiatry Research: Neuroimaging』に掲載されました
中井隆介研究員、阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)らの論文が『Psychiatry Research: Neuroimaging』に掲載されました。
社会不安障害は、他者からの否定的な評価に対する極度の不安と恐怖を症状の一つとし、脳機能の異常との関連が示されています。一方で、社会不安障害は非臨床群−臨床群のスペクトラム性が示唆されているにもかかわらず、非臨床群における傾向と脳機能との関連については未だ不明でした。そこで本研究では、非臨床群における「他者からの否定的な評価に対する恐怖尺度(FNES)」を主とした心理学的尺度得点と脳機能(機能的結合,グラフ解析指標)との関連について検討しました。その結果、FNES得点と海馬傍回/眼窩前頭皮質の機能的結合および右頭頂葉の情報伝達経路としての関与の程度を示す指標とが負の相関を示すことが明らかとなりました。これらの領域は臨床群においても異常が見られることから、本研究結果は社会不安障害がスペクトラム障害であることを支持するとともに、FNESが社会不安スペクトラムの検出に有用である可能性を示しています。
Kajimura S, Kochiyama T, Nakai R, Abe N, Nomura M (2015)
Fear of negative evaluation is associated with altered brain function in nonclinical subjects
Psychiatry Research: Neuroimaging 234 (3): 362-368
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0925492715301177 ※認証有り
○Abstract
Social anxiety disorder (SAD), which involves excessive anxiety and fear of negative evaluation, is accompanied by abnormalities in brain function. While social anxiety appears to be represented on a spectrum ranging from nonclinical behavior to clinical manifestation, neural alteration in nonclinical populations remains unclear. This study examined the relationship between psychological measures of social anxiety, mainly using the Fear of Negative Evaluation Scale (FNES), and brain function (functional connectivity, degree centrality, and regional betweenness centrality). Results showed that FNES scores and functional connectivity of the parahippocampal gyrus and orbitofrontal cortex and the betweenness centrality of the right parietal cortex were negatively correlated. These regions are altered in SAD patients, and each is associated with social cognition and emotional processing. The results supported the perspective that social anxiety occurs on a spectrum and indicated that the FNES is a useful means of detecting neural alterations that may relate to the social anxiety spectrum. In addition, the findings indicated that graph analysis was useful in investigating the neural underpinnings of SAD in addition to other psychiatric symptoms.
柳澤助教、阿部准教授の論文が『Journal of Experimental Psychology: General』に掲載されました
柳澤邦昭助教、阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)らの論文が『Journal of Experimental Psychology: General』に掲載されました。
本研究は、自尊感情の高さによる死関連刺激に対する認知・情動処理の違いと、死の脅威に対する防衛的反応の違いを報告した研究です。自尊感情の低い人に比べ、自尊感情の高い人では、死関連刺激を処理する際に、情動の認知的制御に関わる右腹外側前頭前野と扁桃体が効果的に相互作用していることが明らかとなりました。加えて、自尊感情の低い人は、死への脅威に対する防衛的反応を示しやすいことが明らかとなりました。なお、この研究は、こころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRIを用いておこなわれました。
Yanagisawa K, Abe N, Kashima ES, Nomura M (2016)
Self-esteem modulates amygdala-VLPFC connectivity in response to mortality threats
Journal of Experimental Psychology: General 145 (3): 273-283
http://psycnet.apa.org/journals/xge/145/3/273/
○Abstract
Reminders of death often elicit defensive responses in individuals, especially among those with low self-esteem. Although empirical evidence indicates that self-esteem serves as a buffer against mortality threats, the precise neural mechanism underlying this effect remains unknown. We used functional magnetic resonance imaging (fMRI) to test the hypothesis that self-esteem modulates neural responses to death-related stimuli, especially functional connectivity within the limbic-frontal circuitry, thereby affecting subsequent defensive reactions. As predicted, individuals with high self-esteem subjected to a mortality threat exhibited increased amygdala-ventrolateral prefrontal cortex (VLPFC) connectivity during the processing of death-related stimuli compared with individuals who have low self-esteem. Further analysis revealed that stronger functional connectivity between the amygdala and the VLPFC predicted a subsequent decline in responding defensively to those who threaten one's beliefs. These results suggest that the amygdala-VLPFC interaction, which is modulated by self-esteem, can reduce the defensiveness caused by death-related stimuli, thereby providing a neural explanation for why individuals with high self-esteem exhibit less defensive reactions to mortality threats. (PsycINFO Database Record (c) 2016 APA, all rights reserved)
内田准教授の2つの論文が『Japanese Psychological Research』に掲載されました
内田由紀子准教授の2つの論文が、日本心理学会の発行する英文学術誌『Japanese Psychological Research』に掲載されました。
「Protecting Autonomy, Protecting Relatedness: Appraisal Patterns of Daily Anger and Shame in the United States and Japan」は、日米における「怒り」と「恥じ」に対する感じ方の違いについて調査研究結果を報告したもので、センターに滞在していたMichael Boiger研究員(Postdoctoral researcher/University of Leuven)、 Vinai Norasakkunkit 特別招へい准教授(Assistant Professor/Gonzaga University)らと共同執筆しています。
「The Happiness of Individuals and the Collective」は、個人の幸福感に主軸を置いた研究から集団レベルでの幸福感研究が始まっている現状について概観し、今後の幸福感研究の方向性や国や組織における幸福感研究の活用について論じたもので、大石繁宏ヴァージニア大学心理学部教授との共同執筆です。
Boiger, M., Uchida, Y., Norasakkunkit, V., & Mesquita, B. (2016). Protecting autonomy, protecting relatedness: Appraisal patterns of daily anger and shame in the United States and Japan.
Japanese Psychological Research, 58, 28-41.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jpr.12096/abstract ※認証有り
○Abstract
The present study tested the idea that U.S. and Japanese participants appraise anger and shame situations in line with the American concern for autonomy and the Japanese concern for relatedness, respectively. Sixty-five U.S. and 72 Japanese students participated in a 7-day diary study of anger and shame. Each day, participants reported their most important anger and shame incident and indicated whether they themselves or others were to be blamed (anger appraisals), and whether they focused on themselves or the opinion of others (shame appraisals). They also indicated whether they had experienced anger toward someone close or distant and whether their shame was publicly seen or privately felt. In line with the Japanese concern for protecting relatedness, Japanese compared to U.S. participants blamed themselves relatively more than others during anger situations with close others and focused on others rather than themselves during shame episodes that were publicly seen. Underlining the U.S. concern for protecting autonomy, Americans blamed others more than themselves during anger situations and focused more on themselves than others during shame situations.
Uchida, Y., & Oishi, S. (2016). The happiness of individuals and the collective. Japanese Psychological Research, 58, 125-141.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jpr.12103/abstract ※認証有り
○Abstract
Happiness and well-being are often defined as internal feelings or states of satisfaction. As such, research on well-being has focused on the long-term happiness and life satisfaction of individuals. But recently, psychological researchers have also begun to examine the effects that group-level functions (e.g., nation-level economic status) have on happiness. The present article: (a) overviews measures of individual and collective happiness and the validity of these measurements; (b) explicates the role of culture in understanding the long-term happiness and life satisfaction of individuals; and (c) explores the possibility and importance of studying the happiness of collectives (e.g., work groups, organizations, cities, nations). We then discuss future directions for happiness research, proposing several methodological and theoretical areas for progress in: (a) cross-temporal analyses to examine historical changes; and (b) multilevel analyses to identify the units of culture that affect happiness. Additionally, this paper argues that policy-making and interdisciplinary approaches can make important contributions to happiness studies.
吉川教授が第5章を執筆した『高校生のための心理学講座』が出版されました
吉川左紀子教授が第5章を執筆した『高校生のための心理学講座 ーこころの不思議を解き明かそう』(監修:日本心理学会、編集:内田 伸子、板倉 昭二)が2016年2月、誠信書房から出版されました。
2014年12月に京都大学で開催された「高校生のための心理学講座」を書籍化したもので、吉川センター長は、第1部「高校生に心理学を教える」第5章を担当。「感情心理学 ー人と人が出会うとき」というタイトルで、感情の変化を表す「顔の表情」に関する研究の研究成果を取り上げ、医療関係者との協力で研究を進めた患者とのコミュニケーション研究の事例などを紹介しています。
第5章 感情心理学 ー人と人が出会うとき
1. 感情の心理学
2. 表れる表情、伝える表情
3. 表情から感情を読み取る
4. 表情の心理実験から分かること
5. 感情の心理学を学ぶ
19世紀の末、イギリスの経済学者マーシャルが学生に向けて語った、「冷静な頭脳と温かい心をもて」という有名なことばがありますが、20世紀後半の心理学は、「冷静な頭脳」、つまり認知のはたらきに関する研究を中心に進んできたといえます。その一方で、私たちが毎日の暮らしの中で経験する悩みや困りごとの多くは、自分や他者の感情に関わることが多いのではないでしょうか。心理学の専門家を除けば、心について知りたいことの多くは、マーシャルの言葉の「温かい心」に関連するところではないかと思います。
認知の研究に比べると少し遅れをとっていた感のある感情の研究ですが、1990年代以後、新しい研究成果が次々に発表されるようになりました。その一番のきっかけは、脳機能イメージング(核磁器共鳴機能画像法 / functional-magnetic resonance imaging fMRI)といった、人の脳の神経活動を明らかにする新しい研究手法が開発されたことです。脳機能イメージングは、人が何かの課題を行っているときの脳内の血流の変化を画像化して、人の認識や運動に関わる脳の部位を調べる研究手法です。それが心の研究に広く利用されるようになったことで、感情心理学の分野にも大きな変化が生まれました。
本章では、感情の変化を表す身体装置である「顔の表情」を取り上げて、感情と表情の関係や、表情とミラーシステムについてお話しします。最近の表情認知の研究から分かってきたことや、病院で実施した、看護師さんの表情コミュニケーション研究についてもお話ししたいと思います。
(「感情の心理学」より)
『高校生のための心理学講座 ーこころの不思議を解き明かそう』
監修:日本心理学会
編集:内田 伸子、板倉 昭二
出版社: 誠信書房 (2016/2/15)
判型・頁数:A5 206ページ
ISBN-10: 4414311152
ISBN-13: 978-4414311150
鎌田教授の論考が収められた『宗教の壁を乗り越える―多文化共生社会への思想的基盤』が出版されました
鎌田東二教授の論考が収められた書籍『宗教の壁を乗り越える―多文化共生社会への思想的基盤』が出版されました。東洋大学国際哲学研究センター第3ユニットが5年間に渡り研究をおこなってきた「多文化共生社会の思想基盤研究」の成果として発行した書籍において、鎌田教授は、第5章「日本における宗教の展開」に「『神と仏の出逢う国』再考」というタイトルにて論考を寄せています。また、第6章「現代日本の宗教状況をどう考えるか」には、鎌田教授が末木文美士国際日本文化研究センター名誉教授、斎藤明東京大学教授、菊地章太東洋大学教授らと多文化共生と宗教をテーマに討論した座談会録が掲載されています。
宗教の壁を乗り越える 多文化共生社会への思想的基盤
宮本久義/編 堀内俊郎/編
○本の紹介
東洋大学国際哲学研究センター第3ユニットでは、多文化共生社会の思想基盤研究を行い、文献研究と国内外での実地調査の両面から、多文化社会の現状把握と多文化「共生」社会へ向けての課題や問題点を浮き彫りにし、新たな哲学の構築へ向けての提言を行ってきた。本書は多文化共生に関する5年の研究成果を取りまとめた書籍である。
[目次]
1 キリスト教社会での共生の可能性と困難さ
2 イスラームと他宗教との共生
3 インドの宗教にみる共生
4 仏教の視点から共生を考える
5 日本における宗教の展開
6 座談会
出版社名:ノンブル社
出版年月:2016年1月
ISBN-10:490347092X
ISBN-13:978-4903470924
税込価格:2,700円
頁数・縦:302P 21cm
東洋大学国際哲学研究センターウェブサイト
『宗教の壁を乗り越える 多文化共生社会への思想的基盤』 | e-hon(全国書店ネットワーク)
鎌田教授の共著『火山と日本の神話──亡命ロシア人ワノフスキーの古事記論』が出版されました
鎌田東二教授の共著『火山と日本の神話──亡命ロシア人ワノフスキーの古事記論』が2016年2月、桃山堂より出版されました。ロシアの革命家で日本亡命後は戦前の早稲田大学で教鞭をとったワノフスキーの古事記研究の全貌とその人物像を多角的に分析した本です。鎌田教授は、第二部「『火山と太陽』を読む」において編者と対話し、ワノフスキーの火山神話論について、自身の古事記研究の知見と火山論を網羅しつつ日本列島やロシアの精神風土について考察しています。
『火山と日本の神話──亡命ロシア人ワノフスキーの古事記論』
桃山堂編 アレクサンドル・ワノフスキー、鎌田東二、野村律夫、保立道久ほか著
○本の紹介
ロシアの革命家で日本への亡命者、早稲田大学の教師ワノフスキーは古事記神話の根幹に火山の記憶を見出し、戦後まもなく『火山と太陽』を出版しました。今回、火山神話論の先駆的論考として密かに注目されていたこの本を復刻したうえで、分野の異なる三人の大学教授に読んでもらい、解説と感想をまとめてもらいました。
加えて、ワノフスキーの評伝「火山と革命」、火山神話論の地質学的背景を探る現地ルポ「火山と神話の現場からの報告」(協力:桜島ミュージアム理事長・福島大輔氏)を掲載。二千万年以上まえの日本列島の形成期にまで視野を広げて、神話研究と地質学の二つのルートから火山列島の神話の謎を探っています。
[第一部]
ワノフスキー著『火山と太陽』ほかの復刻
[第二部]
『火山と太陽』を読む
鎌田東二(京都大教授、宗教哲学) 「火山と黙示録」
野村律夫(島根大教授、地質学) 「地球の時間、人間の時間」
保立道久(東大名誉教授、歴史学)「歴史学からみる火山神話」
[第三部]
評伝ワノフスキー「火山と革命」
[第四部]
「火山と神話の現場からの報告」
単行本:269ページ
出版社:桃山堂
ISBN-10:4905342058
ISBN-13:978-4905342052
発売日:2016/2/1
価格:2,000円+税
河合教授、梅村研究員らの論文が『日本心療内科学会誌』に掲載されました
河合俊雄教授、梅村高太郎研究員らの論文が2015年11日、『日本心療内科学会誌』(Vol.19 No.4 2015)に掲載されました。
長谷川千紘,梅村高太郎,西垣紀子,鍛治まどか,河合俊雄,田中美香,金山由美,桑原晴子,深尾篤嗣,宮内昭:「半構造化面接からみた甲状腺疾患患者の心理的特徴」.日本心療内科学会誌,19(4) : 237-244, 2015.
○概要:
代表的な内分泌・代謝系疾患である甲状腺疾患は,時に精神症状を伴うことで知られています。本研究では,こころの問題も含めたよりよいケアのあり方を検討する一助として,カウンセリング室を併設する甲状腺専門病院において,初診患者を対象に半構造化面接を行い,その心理的特徴やカウンセリングへのニーズを探りました。
面接記録の分析から,甲状腺疾患群には否定的な感情や葛藤を示しにくく,むしろ肯定的な自己関係・他者関係を語る傾向が強いという特徴が見出されました。その一方で,肯定的な語りの背景に自覚のないまま身体症状や精神症状が重症化している事例や,明確な悩みとしては自覚されていないけれども漠然と話を聞いてほしいというニーズを示す事例が報告されました。これらの結果から,甲状腺疾患群においては,心身の苦しみや悩みが"ない"のではなく,語りの次元に現れてきにくい事例群の存在が示唆されました。このような事例群に対しては,治療者側が,表面化しにくい彼らの苦しみや悩みを見通し,必要に応じて適切にカウンセリングに導入することが大切と考えられました。
鎌田教授の論文が『Zygon: Journal of Religion and Science』に掲載されます
鎌田東二教授の論文 "Shintō Research and the Humanities in Japan" が、2016年3月発行の米国の宗教科学誌『Zygon: Journal of Religion and Science』(51(1), March 2016)に掲載されます。
Shintō Research and the Humanities in Japan By Toji Kamata
Abstract
Three approaches to scholarship are "scholarship as a way," which aims at perfection of character, "scholarship as a method," which clearly limits objects and methods in order to achieve precise perception and new knowledge, and "scholarship as an expression," which takes various approaches to questions and inquiry. The "humanities" participate deeply and broadly in all three of these approaches. In relation to this view of the humanities, Japanese Shintō is a field of study that yields rich results. As a religion of awe, shrine groves, community, arts, and entertainment, it is a research field that joins together the study of human beings, nature, society, and expression. While elucidating the characteristics of Shintō and its differences with Buddhism, we draw attention to the seven dimensions of "place, way, beauty, festival, technique, poetry, and ecological wisdom," then finally take up "research on techniques of body and mind transformation" as a comprehensive and creative development in the "humanities."
鎌田教授の発表論文が韓中日国際シンポジウム「生命と平和、治癒と霊性から見た退渓学」論文集に掲載されました
鎌田東二教授が、韓中日国際シンポジウム「生命と平和、治癒と霊性から見た退渓学」(主催:嶺南退渓学研究院、陶山ソンビ文化修練院)に基調発表者として登壇し、大会論文集に掲載されました。
シンポジウムは2015年12月4日から6日に渡り、韓国・安東市の陶山ソンビ文化修練院で開催されました。日韓の研究者が集った学術大会において、鎌田教授は初日に「『古事記』(712年編纂)出雲神話における須佐之男命と大国主神の治癒と平和を生み出す生命思想と霊性」という演題にて基調発表をおこないました。
「『古事記』(712年編纂)出雲神話における須佐之男命と大国主神の治癒と平和を生み出す生命思想と霊性」 鎌田東二(京都大)
はじめに〜スパイラル史観
1、『日本書紀』に記された「和の国」(和国)の原点
2、『古事記』における「和」の実現としての「国譲り」
3、大国主神の癒しのワザ
おわりに〜「平和の術」(arts of peace)の創出と実践をめざして
一般に「平和」とは戦争や紛争や抗争のない状態と考えられている。天下泰平、つまり世の中が平らかで、和楽、つまり人々が和らぎ楽しんで生活している状態を言う、と考えられている。
では、どのようにすれば、そのような「平和」を生み出し、実現させることができるのだろうか?ゴータマ・シッダルタも老子も孔子など、東洋の著名な思想家たちも、それぞれの仕方で「平和」実現の方法と未知を指し示した。
だが、仏教において、正法・像法・末法の歴史観があるように、仏教の教えが正しく伝わらず、歪み、衰退していく時代認識が起こってくる。終末論もそうであるが、一種の悲観主義的な「下降史観」である。
私は、進歩主義的な「上昇史観」も悲観主義的な「下降史観」も、どちらも「歴史」というものの光と影、陰と陽、創造と破壊(破局)というダイナミズムを全体として正しく捉えきれていないと考え、一つの仮説として「スパイラル史観」という歴史観を提唱している。そしてその「スパイラル史観」に基づく今日的状況を「現代大中世論」として問題提起している。
この「スパイラル史観」=「現代大中世論」という歴史観は、古代と近代、中世と現代に共通の問題系が噴出しているとして、近代と現代を古代と中世の問題系の螺旋形拡大再生産の時代と見て取る史観である。
鎌田教授が企画・編集した『講座スピリチュアル学 第5巻 スピリチュアリティと教育』が出版されました
鎌田東二教授が企画・編集をおこない、西平直教育学研究科教授、上田紀行東京工業大学リベラルアーツセンター教授、トマス・ジョン・ヘイスティングスUBCHEA主任研究コンサルタント、奥井遼センター連携研究員(パリ第五大学・日本学術振興会海外特別研究員)らと執筆した『講座スピリチュアル学 第5巻 スピリチュアリティと教育』が、2015年12月、ビイング・ネット・プレスより出版されました。
スピリチュアリティと教育について様々な分野から識者らが論じる第5巻では、両者の定義についての根本的な議論からはじまり、教育現場からの報告やホリスティッック教育におけるスピリチュアリティ、わざを伝えるものとつかむものの実践の場からの考察など、多岐に渡る論考と問いかけがなされています。鎌田教授は、最終章「臨床教育学と霊性的自覚」というタイトルにて執筆しています。
はじめに ー 「教育」の困難と力 鎌田東二
「このスピリチュアル学」全七巻の最初の四巻を「スピリチュアルケア」と「スピリチュアリティと医療・健康」と「スピリチュアリティと平和」「スピリチュアリティと環境」とし、第五巻目を「スピリチュアリティと教育」としたことには理由がある。
第一巻を「スピリチュアルケア」とした理由は、「心のケア」が社会問題となった一九九五年に起こった阪神淡路大震災から一六年を経て二〇一一年に起きた東日本大震災の後の社会を一人ひとりがどう生きぬいていくかという喫緊の深刻な実存的問題にまず取り組むべきだと考えたからである。「心のケア」から「スピリチュアルケア」への展開がこの一六年で具体的に進行していると考えたからだ。そして第二巻「スピリチュアリティと医療・健康」では、その具体的な進行と展開を主として身体の側から検討した。「心のケア」と「霊的なケア」を踏まえて「体のケア」と、「霊・魂(心)・体」全体のケアを考えようとしたのである。こうして次に、第三巻「スピリチュアリティと平和」において、「社会のケア」あるいは「人間関係や集団間のケア」の問題を考察し、「宗教間の対立」と「文明の衝突」を超えていく宗教間対話や地球倫理や共助や公共とスピリチュアリティとの関係を考察した。
こうした問いかけのステップの上に、「スピリチュアリティと教育」を課題にする本巻がある。序章では、「自我」の確立と開放の両義的緊張関係が「主体」と「脱主体」、「教育」と「脱教育」、「教育」と「スピリチュアリティ」の間と往還の中で探られる。続いて、「第一部 教育と超越」では、東京工業大学の新しい教養教育の取り組みや賀川豊彦やホリスティック教育の中での瞑想や敬虔や気づきの問題が掘り下げられる。「第二部 教育と贈与的他者性とわざ」では、教育というありようの中での他者性や他者関係、そこにおける道徳と純粋贈与、伝承的わざが多彩に掘り起こされ、終章では孔子の人間形成論を指標としつつ、鳥山敏子や坂本清治や大重潤一郎やNPO法人東京自由大学の教育実践と事例が取り上げられる。
『講座スピリチュアル学 第5巻 スピリチュアリティと教育』
企画・編・著:鎌田東二
著:鎌田東二、 西平直、上田紀行、トマス・ジョン・ヘイスティングス、中川吉晴、中野民夫、矢野智司、吉田敦彦、奥井遼
出版社:ビイング・ネット・プレス
初版発行: 2015年12月
四六判並製261頁
定価:1,944円(税込)
ISBN-10: 490805505X
ISBN-13: 978-4908055058
Amazon.co.jp の書籍ページ
『講座スピリチュアル学 第1巻 スピリチュアルケア』が出版されました
『講座スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』が出版されました
『講座スピリチュアル学 第3巻 スピリチュアリティと平和』が出版されました
『講座スピリチュアル学 第4巻 スピリチュアリティと環境』が出版されました
鎌田教授、島薗進上智大教授、志村ふくみ氏(染織家)らの講演録が発刊されました
鎌田東二教授、島薗進上智大教授、志村ふくみ氏(染織家)らが登壇した新日本研究所によるシンポジウム「いのちの恵みを識る心 ー 光・食・音 新日本研究所シンポジウム 世界連邦都市『AYABE』からⅡ」(2015年4月29日)の講演録が、発刊されました。
綾部市の大本白梅殿で開催されたシンポジウムには、山崎善也綾部市長、金子啓明新日本研究所副代表らの挨拶のほか、料理家の辰巳芳子氏がビデオメッセージを寄せ、志村ふくみ氏が基調講演をおこないました。鎌田教授は第二部のパネルディスカッションに登壇し、島薗教授の司会のもと、志村氏と共に日本人の魂と精神性を根幹とした「光・食・音」をめぐる多彩な話題で語り合いました。
「いのちの恵みを識る心 ー 光・食・音 新日本研究所シンポジウム 世界連邦都市『AYABE』からⅡ」
【島薗】今日のテーマは「いのちの恵みを識る心」ということで、私は宗教学に取り組んで参りまして、日本の宗教、日本人の宗教心を考えてきたのですが、この言葉でかなり言えるのではないかと思っています。(中略)
【鎌田】光・食・音というテーマでシンポジウムが行われますが、今日は14年経った四代教主様の鎮魂、御霊のお祭りでもありますので、またネパールでたくさんの人が亡くなっている。また、世界中で非常に困難な思いを持っていらっしゃる方がたくさんいる。そういうことを踏まえたうえで、鎮魂の音としてホラ貝と石笛を最初に奉奏させていただきます。(中略)
出雲文化の根幹にあるもの
綾部も出雲も私にとっては特別の場所です。その出雲のなかにあるのは一体何なのか?出雲の文化の根幹に一体何があるのか?
幽世(かくりょ)、隠れるということです。
皇室や伊勢が陽、辰巳の方角(東南)にあって、まさに朝日が昇ってくる。それが陽の地であれば、出雲は山陰、戊亥の方角(西北)にあって、そして日が沈んでいく方向です。日が沈んでいく方向の神様が大国主命、その先祖にあたるのが素戔嗚尊(スサノヲ)。素戔嗚尊、大国主命と繋がっていく霊統が国譲りをすることによって、日本が丸く収まったというのが日本の神話、文化のひとつの型なのですね。
ここ2、3年、毎日のように考えていることは、国譲りはどうやって起こったのだろう?その国譲りを起こした譲りの心、出雲の神の心は何であったのかということです。その譲りの心がなければ、日本の国そして日本の文化はこういう形で生まれていないわけです。戦争ばかりしていたかも知れません。戦いがもっと激烈に行われていたかも知れません。しかし皆が仲良く静まっていく過程で、出雲の神々は譲りの働きとして機能していた。その「幽世」とか「譲り」の文化、この国津神の神々の働きを私は大事に考えます。
それが具体的に何に現れるかというと音なのですよね。
(講演録より)
鎌田教授の編著『身体の知: 湯浅哲学の継承と展開』が出版されました
鎌田東二教授の編著『身体の知: 湯浅哲学の継承と展開』が、2015年11月にビイング・ネット・プレスより出版されました。哲学者であり、ユング心理学や身体論、気の研究において先駆者的存在であった湯浅泰雄が創設した人体科学会が本書を企画し、鎌田教授、黒木幹夫愛媛大学名誉教授、鮎澤聡筑波技術大学准教授(人体科学会会長)らが編集を務めました。湯浅哲学を継承発展させていくべく、11人の研究者が、宗教、心理学、哲学、医学、思想史など様々な立場から論じた一冊で、執筆者には奥井遼センター連携研究員も含まれています。
『身体の知: 湯浅哲学の継承と展開』
企画:人体科学会
編集:黒木幹夫・鎌田東二・鮎澤聡
執筆者:黒木幹夫・倉澤幸久・鎌田東二・桑野萌・杉本耕一・奥井遼・田中彰吾・鮎澤聡・村川治彦・渡辺学・永沢哲
発行:ビイング・ネット・プレス(2015年11月26日)
ISBN-10: 4908055106
ISBN-13: 978-4908055102
Amazon.co.jp の書籍ページ
○内容紹介
倫理学・哲学・日本思想・身体論・気・ニューサイエンスなどの広範な領域に及ぶ湯浅哲学の目指すところは、テオーリア(理論)の知とプラクシス(実践)の知の統合、つまり西洋的知と東洋的知を如何に統合するかということにあった。それはとりもなおさず、二元論の克服であり、哲学が死んだとされる科学技術偏重の現代社会への警鐘と、克服の模索である。この湯浅泰雄の問いかけに答え、湯浅哲学を継承発展させていくべく、11人の研究者が、宗教、心理学、哲学、医学、思想史など様々な立場から論じる。
○目次
まえがき 鎌田東二
第一章 テオーリアの知とプラクシスの知の統合を求めて
「知のあり方」と哲学のありよう ー 黒木幹夫
湯浅泰雄『身体論』を巡って ー 倉澤幸久
湯浅泰雄におけるテオーリアの知とプラクシスの知の統合ー日本思想研究の観点から ー 鎌田東二
第二章 湯浅泰雄と現代思想ー湯浅泰雄の問いを受けて
湯浅泰雄の修行論と身体の知をめぐって ー 桑野萌
湯浅泰雄と近代日本の哲学ー「宗教」への問いをめぐる和辻・西田との対決 ー 杉本耕一
生きられた経験(experience vecue)への道ー湯浅泰雄とメルロ=ポンティ ー 奥井遼
第三章 人体科学の挑戦ー身体の知を掘り起こす
心身問題と他者問題ー湯浅泰雄が考え残したこと ー 田中彰吾
代替医療と身体的実践の知 ー 鮎澤聡
「<気>とは何か」再考ー主体的経験の科学の立場から ー 村川治彦
メタプシキカの探究ー湯浅泰雄のユング受容とその展開 ー 渡辺学
超・身体論ー光の存在論へ ー 永沢哲
あとがき 鮎澤聡
湯浅泰雄 年譜
鎌田教授が大会会長を務めた「人体科学会 第24回大会」が開催されました
人体科学会第25回大会(2015.11.28〜29)ウェブサイト
内田准教授、荻原研究員らの論文が『Frontiers in Psychology』に掲載されました
内田由紀子准教授、荻原祐二教育学研究科研究員らの研究成果が2015年10月22日、『Frontiers in Psychology』に掲載されました。論文は、新生児の名前の経時的な変化を分析することによって、日本文化が個性をより重視し、個人主義化しているかどうかを検討したものです。
研究では、ベネッセコーポレーションと明治安田生命保険が公開している2004年から2013年にかけての新生児の名前ランキングを分析したところ、名前をつける際に人気のある漢字をつかう割合は増加していましたが、人気のある名前の読みをつかう割合は減少しており、人気のある漢字の組み合わせをつかいながらも異なる読み方で名前がつけられる傾向があることが分かりました。これにより、日本文化は個性をより重視する個人主義文化に徐々に変容しつつあることが実証的に示されました。
研究の概要や研究者のコメントは、京都大学のウェブサイトに掲載されています(画像をクリックすると記事に移動します)。また、論文はオープンアクセスですのでウェブで全文をお読みいただけます。
[研究成果] 個性的な名前を与える傾向が増加している -日本文化の個人主義化を示唆- | 京都大学ウェブサイト
○書誌情報
Ogihara, Y., Fujita, H., Tominaga, H., Ishigaki, S., Kashimoto, T., Takahashi, A., Toyohara, K., & Uchida, Y. (2015). Are common names becoming less common? The rise in uniqueness and individualism in Japan. Frontiers in Psychology. 6: 1490. doi: 10.3389/fpsyg.2015.01490
http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fpsyg.2015.01490/abstract
なお、10月22日付の朝日新聞、京都新聞、日本経済新聞、毎日新聞、共同通信ニュースなど多くのメディアで掲載されました。詳しくは下記リンク先の記事をご覧ください。
船橋教授、望月研究員らの論文が『Journal of Neurophysiology』に掲載されました
船橋新太郎教授、望月圭研究員らの研究成果が2015年10月21日、米国生理学会が発行する『Journal of Neurophysiology』の電子版に掲載されました。研究は、自由選択行動の遂行に大脳皮質の前頭連合野が関与する仕組みを明らかにしたものです。
研究の概要や研究者のコメントは、京都大学のウェブサイトに掲載されています(画像をクリックすると記事に移動します)。
[研究成果] 自由選択条件で選択を左右する前頭連合野の神経メカニズムを解明 | 京都大学ウェブサイト
○書誌情報
Kei Mochizuki, Shintaro Funahashi
"Prefrontal spatial working memory network predicts animal's decision-making in a free choice saccade task"
Journal of Neurophysiology, Published 21 October 2015
なお、11月10日付の京都新聞に研究成果を紹介する記事が掲載されました。下記リンク先の記事をご覧ください。
鎌田教授の講演録が『地球システム・倫理学会会報』に掲載されました
鎌田東二教授の講演録が、2015年10月、『地球システム・倫理学会会報』第10号に掲載されました。
第9回地球システム・倫理学会学術大会(於:つくば国際会議場/2013年11月)では、「諸文明における母性的なるもの―地球文明と人類の未来文明創成へ向けて―」というテーマでシンポジウムがおこなわれました。服部英二地球システム・倫理学会会長による司会のもと、中村桂子JT生命誌研究館館長、鶴岡真弓多摩美術大学芸術人類学研究所所長、安田喜憲東北大学大学院教授、伊東俊太郎東京大学名誉教授、青木三郎筑波大学人文社会系教授らと共に登壇した鎌田教授は、神道や神話からみた女性性や母なるものにふれると共に、性差を超えた生命現象としての自然を伝承する「生態智」をあらためて見直していくことを提言しました。
「諸文明における母性的なるもの―地球文明と人類の未来文明創成へ向けて―」
趣旨説明: 服部英二(地球システム・倫理学会会長)
問題提起: 中村桂子(JT生命誌研究館館長)、鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター教授)、鶴岡真弓(多摩美術大学芸術人類学研究所所長)、安田喜憲(東北大学大学院教授)
コメント: 伊東俊太郎(東京大学名誉教授)、青木三郎(筑波大学人文社会系教授)
【趣旨】
地球に38億年前に誕生した一つの生命は、さまざまに姿を変え、数千万種の生物を生み出してきた。
ところが、17世紀以降支配的となる「科学の眼」、それによって、本来地上に生きる一つの生物でしかないはずの人間が自然の支配者として君臨し、産業革命を惹起し飛躍的に物質文明を繁栄させたものの、その結果、21世紀を迎えた今、ついに母なる地球までをも滅ぼそうとするに至っている。
こうした姿は、全人性を歪めた理性至上主義に基づく「父性原理」とそれを原動力とする「力の文明」であり、自らをも破滅に導くものである。
しかし、本来の倫理は、そうした歪んだ姿にはなく、その対極に位置しこれまで未開と軽んじられてきた理性・感性・霊性のすべてを和する全人的倫理、それこそが「母性原理」であり、いのちの継承を至上の価値とすることである。
そこで近代文明の深奥に通底する「母性原理」を見直し、父性と母性のバランスを恢復する処方箋を探り、未来文明創成について考える。
(シンポジウム趣旨より)
鎌田教授の書評が『比較文明』に掲載されました
鎌田東二教授が執筆した書評が、比較文明学会の発行する機関誌『比較文明』第31号に、掲載されました。『聖なる木の下へ アメリカインディアンの魂を求めて』(著:阿部珠理/角川学芸出版/2014年4月)を取り上げた鎌田教授は、インディアンの精神世界を読み解いた書籍の全体像や、比較文明学者である著者の取り組みを紹介しています。
[書評] 阿部珠里 著『聖なる木の下へ アメリカインディアンの魂を求めて』 鎌田東二
本書『聖なる木の下へ アメリカインディアンの魂を求めて』は、一九九四年十一月に日本放送出版協会より上梓された『アメリカ先住民の精神世界』(NHKブックス)の文庫化である。本書にはラコタ族のメディスンマンであるクロー・ドッグのことが折に触れて出てくるが、「第一章 メディスンマンを訪ねる」は一九九二年八月のクロー・ドッグとの出会いから始まり、その章の最後はクロー・ドッグの次の予言で締め括られる。(中略)
「アメリカインディアンの魂」とは、まず何よりも「彼らが崇拝する彼らの偉大なるスピリット、宇宙を形作った大神」(三九頁)である「ワカンタンカ」に対する信仰であろう。著者は言う。「ワカンタンカは原初の存在であり、それから生み出された全てのものに、その魂が宿っている。山、川、大地、風、動物、植物など森羅万象の全ては、ワカンタンカの魂を持つ、タク・ワカン(聖なるもの)である。」(四○頁)と。そして続けてそれを本居宣長の『古事記伝』の「カミ」の定義「常ならず、畏きもの」(正確には「尋常ならずすぐれたる徳のありて可畏きもの」)と繋げて説明する。それにより、日本人の「カミ」観と「アメリカインディアンの魂」の根幹にある「ワカンタンカ」の信仰との間にある親和性に気づかされ、比較文化ないし比較文明論的な示唆を得ることができる。
(書評より)
鎌田教授の論文が『日本研究』16輯(発行:釜山大学)に掲載されました
鎌田東二教授の論文「『人文学』と『日本研究』と和の思想」が、2015年11月、韓国・釜山大学の発行する『日本研究』16輯に掲載されました。
論文は、I.「現代日本の文系学部や『人文学』 の危機的状況と三種の学問」、II.『日本書紀』に記された「和の国」 (和国)の原点」、III.「『古事記』における「和」の実現としての「国譲り」」、IV. おわりに:「人文学」と「日本研究」 の問題と可能性、という構成で、日本国内における人文学をめぐる現状を報告、解説し、『日本書記』や『古事記』に光をあてて日本の「和」の思想を紐解きながら「日本研究」の意味と可能性について考察。今後の人文学および学問全体のあり方について、問いかけと提言をおこなっています。
「人文学」と「日本研究」と「和」の思想 ー 『日本研究』16輯(発行:釜山大学)
それぞれの「国」には「建国」の歴史がある。その歴史はしかしよくわからない。確かに、遺された考古学的遺物や文献史料を通してある程度復元して後追いで歴史の再認識をすることができる。だがそれも、いつも資料的限定を受ける。「正しい歴史」というものは、「一つの見方」であり、それが説得的であるかどうかは、当事者の判断ともなり、歴的時間の淘汰にも委ねられる。
「人文学」は哲学や宗教学を含め、そのような「判断」や「認識」そのものを吟味し、相対化·総体化し、反省する作用を果たす。それは学問全体にとって基礎的な認識作用となる。つまり、「人文学」はあらゆる学問の基礎部分を「修理固成」(『古事記』の中の言葉)する役目を果たしている。そして、その中で「日本研究」は少なくとも東アジアの安定や世界平和の基礎資料ないし基礎認識としての意味と意義と価値と可能性を持ちうると私は考えるものである。
私は「日本研究」としては「神道」を中心に幅広く研究してきたが、「仏教」(仏法とも仏道とも呼ぶ。『日本書紀』には「仏法」と出る)に対比して、 『日本書紀』には「神道」として登場してくる。その呼び名の漢字が、先学が夙に指摘してきたように中国古典の『易経』や『晋書』に由来することも事実であるが、これを「神の道」とか「神ながらの道」と和訓を付けて意味付けしてきた「日本神道」のありようを研究することは、少なくとも東アジア全域の基層的 な宗教文化の研究に加えて、特殊日本的な風土や歴史や生活文化のありよう全般を考察することを促す。(中略)
1995年、オウム真理教事件のあった年の1月17日に「阪神淡路大震災」が起きたが、震源地は淡路島の野島断層であった。この時、私は「淡道島」から起こった大震災を「日本を造り変えよ(新たな「修理固成」【古事記】をせよ)」というメッセージだと受け止めた。その年の3月20日、私の44歳の誕生日に 「地下鉄サリン事件」が起き、私の「日本研究」が次の段階に入った。
「淡道島」は「つなぎ·のりしろ·媒介」の島である。顕幽をつなぎ、天地を 繋ぎ、東西南北をつなぎ、自然と文明社会をつなぐ、ありとあらゆる四方八方をつないでいくのが「淡道島」であるというのがわが「淡道島」論で、日本全体を世界をつなぐ「のりしろ」とできるか、日本を世界の淡道島にできるかどうかが 日本の未来にとって死活問題だと考えている。そしてその時、『日本書紀』の 中の「和」の思想や『古事記』の中の「国譲り」や「言語和平」のありようは、一つのモデルや示唆を与えるものとなると考えている。そのような方向で、今後も日本の「人文学」と「日本研究」の基礎部分をより確かで力強く創造的なものにしていきたい。
(「おわりに:『人文学』と『日本研究』 の問題と可能性」より)
阿部准教授、大塚研究員、中井研究員、吉川教授らの共著論文が『Frontiers in Aging Neuroscience』に掲載されました
阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)、大塚結喜研究員、中井隆介研究員、吉川左紀子教授らによる共著論文が『Frontiers in Aging Neuroscience』(published: 29 September 2015) に掲載されました。
高齢者を対象として、運動機能と認知機能の関係性について、fMRIを用いて調べた研究です。目標志向的な歩行が遅い高齢者では、速い高齢者と比べて、視覚ワーキングメモリ中の小脳や大脳基底核の活動が低下し、前頭前野の活動が上昇していることを報告しました。この研究は、こころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRIを用いておこなわれました。
論文は全文をウェブで読むことができます。下記の画像もしくはリンクにアクセスしてお読みください。
Kawagoe T, Suzuki M, Nishiguchi S, Abe N, Otsuka Y, Nakai R, Yamada M, Yoshikawa S, Sekiyama K (2015)
Brain activation during visual working memory correlates with behavioral mobility performance in older adults
Frontiers in Aging Neuroscience 7: 186
Brain activation during visual working memory correlates with behavioral mobility performance in older adults | Frontiers in Aging Neuroscience
河合教授の講演録が『箱庭療法学研究』に掲載されました
2014年10月4日に東洋英和女学院大学でおこなわれた日本箱庭療法学会第28回大会シンポジウムに登壇した河合俊雄教授の講演録が『箱庭療法学研究』第28巻第1号(発行:日本箱庭療法学会)に掲載されました。河合教授は、同学会の公開シンポジウム「場への信頼―共に在ること、創ること-」に登壇しました。
シンポジウムで河合教授は、西洋子東洋英和女学院大学教授の発表「共創的な身体表現の場ー月と水」、三輪敬之早稲田大学理工学術院教授による発表「Dual interfaceー場がない世界, 場がある世界」に対するコメント提供者として、司会の小坂和子東洋英和女学院大学教授らと共に対話をおこないました。
「場への信頼―共に在ること、創ること-」『箱庭療法学研究』2015 Vol.28 No.1 p.99-130
[シンポジスト]
・早稲田大学理工学術院 三輪 敬之 教授
・東洋英和女学院大学人間科学部 西 洋子 教授
・京都大学こころの未来研究センター 河合俊雄 教授
[司会]
・東洋英和女学院大学 小坂和子 教授
「場」を超える
河合:そして、手合わせ表現での5つのモードについてのお話がありましたが, 最初はやっぱり「手合わせ」で, 二者関係的に見えますが, その段階を超えていっています。心理療法でも, 最初の段階の, 自分の前の鏡を拭くとか, 二者で探り合う関係といったところを超えていかなければならないところがあると思うんです。そう考えると, 例えば精神分析なんかのような, 二者関係もモデルだけでやっていくのは無理があるのではないか, そうした二者関係を超えていかないことには通用しないのではないか, ということが, お二人の話を聞いていてよく表れているように思いました。
それから, 三輪先生のデータをつくるセンス, ポイントには本当に驚かされました。「手合わせ」には5つのモードがあるとか, 自由に動いているということは, 実はブラウン運動と同じなんだとか, 心理療法がサイエンスから見ても意味を成しているということを示してもらえるのはとてもありがたいと思いますし, 心理療法がやっているところをそういう形で捉えることができたらいいな, と思います。(中略)
心理療法がその場だけのものにとどまらず, その人が生きている現実などにつながっていくというのは, その「場」というのがおそらく閉じられていないからだと思います。そうすると, これはデータでとらえられる範囲を超えてしまいますが, すべてのものがつながっているという一つのモデルであると言えるのではないでしょうか。先ほど三輪先生が井筒俊彦の図を引かれていましたが, 井筒さんの論文は英語では "The Nexus of Ontological Events" で, これは「存在論的出来事のネクサス, 錯綜体がある」という華厳の世界を明らかにしています。三輪先生が焦点を当てておられること, あるいは心理療法で生じていることは, すべてのものがつながり合っているレベルにまで及んでいると思われます。
(講演録より)
東洋英和女学院大学のウェブサイトでは、当日の模様が写真付きで報告されています。
日本箱庭療法学会を開催致しました | 東洋英和女学院大学
梅村研究員の論文が『箱庭療法学研究』に掲載されました
梅村高太郎特定研究員の論文が、『箱庭療法学研究』第28巻第1号(発行:日本箱庭療法学会)に掲載されました。
本研究では、ある女性クライエントとの夢分析を中心とした心理療法事例をもとに、"知ること"をめぐる病理として捉えられる神経症の心理療法において、"知っているべきはずの知らないこと"を真に認め、その膠着した世界から出立していくという動きがどのように生じるのかということについて、検討をおこないました。
Umemura, K. (2015). Knowing the Unknown and Leaving Neurosis: Psychotherapy Using Dream Analysis for a Woman Who Wanted to Accept What She Could not Accept. 箱庭療法学研究, 28(1), 69-78.
(邦題:知らないことを知ることと神経症からの出立――認めたくない自分を認めようと来談した女性との夢分析を用いた心理療法)
○Abstract:
The pathology of neurosis is regarded as a problem of "knowing." Therefore, it is important for neurotic clients to know truly the unknown they are supposed to know in order to leave their stalled world. From this viewpoint, this paper examines the psychotherapy using dream analysis for a woman who wanted to accept what she could not accept. Not knowing what she should know enabled her to remain an innocent child in the psychological sense, but also prevented her from maturing and becoming independent. However, paradoxically, her neurotic structure was collapsed by the very neurotic act itself, and she was forced to contact the unknown and to undergo a transformation. With this change, she gradually let go her obsession to remaining innocent and spotless, and accepted the femininity that she had rejected. Finally, she terminated the therapy by resigning herself to a life with defects.
河合俊雄教授の著書『ユング:魂の現実性』が岩波現代文庫から復刊されました
河合俊雄教授の著書『ユング:魂の現実性』が岩波書店から復刊されました。1998年に出版された本書は、「ユングの理論と思想に真正面から取り組んだ知的評伝」として話題となりました。この度、岩波現代文庫として文庫版で登場。復刊にあたり新たな章として「ユング『赤の書』以後――文庫版への補遺」が加えられました。
なお、2015年9月16日の発売以来、岩波書店の出版物の週刊売り上げランキング「岩波ベストテン:岩波現代文庫部門」において1位を継続しています(10月15日現在で3週連続)。
『ユング:魂の現実性』
河合 俊雄
フロイト(1856―1939)から袂を分かって個人を超えた無意識を強調し,独自の心理学・心理療法の理論を打ち立て,文学・宗教・芸術など様々な分野に影響を与えたユング(1875―1961).ユングはなぜ超心理学,錬金術,宗教など,神秘主義的ともいえる対象を取り上げたのか.そのラディカルな思想に真正面から取り組んだ知的評伝.(出版社の書籍紹介より)
出版社: 岩波書店
発行:2015年9月16日
体裁:A6.並製・336頁
定価:本体 1,260円 + 税
ISBN-10: 4006003307
ISBN-13: 978-4006003302
鎌田教授と一条真也氏の往復書簡が収められた『満月交遊 ムーンサルトレター(上・下)』が出版されました
鎌田東二教授と一条真也氏の往復書簡が収められた書籍『満月交遊 ムーンサルトレター(上・下)』が2015年10月、水曜社より出版されました。
冠婚葬祭会社サンレーを経営し、九州国際大学客員教授、こころの未来研究センター連携研究員として鎌田教授と研究活動をおこなっている一条真也氏と鎌田教授は2005年よりウェブ上にて往復書簡を続けています。2011年に『満月交感 ムーンサルトレター(上・下)』として書籍化され、その第二弾として今回は『満月交遊』と冠したタイトルで刊行されました。
『満月交遊 ムーンサルトレター(上・下)』
○内容紹介
語り尽くせぬ夜、再び!
バク転神道ソングライターこと宗教哲学者・鎌田東二、儀礼文化イノベーターこと作家・一条真也、二つの魂が満月の夜に交遊する
往復書簡の続編・全60信を上下巻に収録。
2010年8月25日第61信より始まる本篇は、その約半年後3.11を迎えた。この苦難の局面を経て、人間の生と死とは、信仰、儀礼、愛、縁とは何かを問いつつ、自由に、アクロバティックに「楽しい世直し」を説く。
現代人の傷ついた「こころ」を救ういのちの書!
○書籍情報
発売: 2015年10月
出版社: 水曜社
単行本(ソフトカバー): 上巻326ページ、下巻325ページ
上巻ISBN-10: 4880653705 下巻ISBN-10: 4880653713
上巻ISBN-13: 978-4880653709 下巻ISBN-13: 978-4880653716
(2015.10.15追記)
『サンデー毎日』'15/10/25号に同書について書かれた一条真也氏のコラムが掲載されました。
〔一条真也「人生の四季」〕/連載第2回「秋の夜長は月を見よ、死を想え!」
畑中助教が翻訳に携わった『子どもと親の関係性セラピー(CPRT)』が出版されました
畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)が翻訳に携わった(おもに9章、19章を担当)『子どもと親の関係性セラピー(CPRT)』(著:ゲリー・L・ランドレス、スー・C・ブラットン、監訳:小川裕美子、湯野貴子)ならびにその手引書にあたる『子どもと親の関係性セラピー(CPRT)治療マニュアル』(著:スー・C・ブラットン、ゲリー・L・ランドレス他、訳:小川裕美子、湯野貴子)が2015年8月、日本評論社より出版されました。
プレイセラピーのスキルを親に教え、親自身が子どもとプレイセッションをおこなう「CPRTトレーニング」について解説した書籍です。畑中助教は、「第9章 CPRT トレーニングセッション3 親子プレイセッションのスキルと手順」、「第19章 CPRTの研究成果」の翻訳を担当しました。
『子どもと親の関係性セラピー(CPRT)治療マニュアル 10セッションフィリアルセラピーモデル』| 日本評論社ウェブサイト
『子どもと親の関係性セラピー(CPRT)治療マニュアル』| 日本評論社ウェブサイト
阿部准教授が解説を執筆した『モラル・トライブズ――共存の道徳哲学へ(上・下)』(ジョシュア・グリーン著)が出版されました
阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)が解説を執筆した『モラル・トライブズ――共存の道徳哲学へ (上・下)』(ジョシュア・グリーン 著/竹田円 訳)が、岩波書店より出版されました。
阿部准教授は2010年から12年にかけて、著者のハーバード大学心理学科教授のグリーン氏のもとで研究し、その成果をまとめた論文が2014年、『Journal of Neuroscience』に掲載されました。本書は、日本でも話題となったサンデル(ハーバード大教授)の「正義」に関する一連のレクチャーで登場した道徳ジレンマ、「トロッコ問題」などをいちはやく神経科学と結びつけ、人間の道徳判断の本質解明に挑んだ新たな道徳哲学の本です。
出版社の許可を得て、阿部准教授の解説文(PDF)を掲載します。また、出版社の書籍ページでは、上下巻それぞれの一部を読むことができます。下記リンク先にアクセスしてお読みください。
<内容紹介>
これが,道徳の正体だ. では, どうすればいい?
税制,福祉,中絶,死刑,同性婚,環境規制......何が正義か,誰がどんな権利をもつかをめぐって現代社会は引き裂かれる.人々が自分の考えを心の底から正しいと信じて争うとき,対立を解決する方法はあるのか.今こそ生物学,心理学,哲学,社会科学の知見を統合し,道徳とは何かを徹底的に理解しよう.そこから人類すべてが共有できる普遍的な道徳哲学が生まれる.
<目 次>
【上巻】
序章 常識的道徳の悲劇
第一部 道徳の問題
第1章 コモンズの悲劇
第2章 道徳マシン
第3章 あらたな牧草地の不和
第二部 速い道徳,遅い道徳
第4章 トロッコ学
第5章 効率性,柔軟性,二重過程脳
第三部 共通通貨
第6章 すばらしいアイデア
第7章 共通通貨を求めて
第8章 共通通貨の発見
原注/索引
【下巻】
第四部 道徳の断罪
第9章 警戒心を呼び覚ます行為
第10章 正義と公正
第五部 道徳の解決
第11章 深遠な実用主義
第12章 オートフォーカスの道徳を超えて
著者より/謝辞/解説(阿部修士)
書誌/原注/索引
<解説>
阿部修士(京都大学こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門)
これまでの本とは一線を画する、新たな道徳哲学の本がついに翻訳・出版された。著者のジョシュア・グリーン氏は、若くしてハーバード大学心理学科の教授となった新進気鋭の研究者である。彼は21世紀初頭に、「少数の命を犠牲にしてでも多数の命を救うべきか?」といった人間の道徳判断に関わる脳のメカニズムを、世界に先駆けて報告し、一躍時の人となった。彼の研究は心理学と神経科学、そして道徳哲学を独創的に融合させたものであり、今なお世界中の多くの研究者に多大な影響を与え続けている。本書は彼のこれまでの研究の集大成であり、極めて野心的かつユニークに、科学的な知見-とりわけ心理学や神経科学といった、人間のこころと脳のはたらきに関する最新の知見を織り交ぜながら、道徳哲学を議論する珠玉の一冊である。
『モラル・トライブズ―― 共存の道徳哲学へ(上)』岩波書店
『モラル・トライブズ―― 共存の道徳哲学へ(下)』岩波書店
鎌田教授の講演録が『点から線へ』(発行:西田幾多郎記念哲学館)に掲載されました
鎌田東二教授の講演録「『ほんとうのさいわひ』をさがして ー宮沢賢治と『銀河鉄道の夜』を中心にー」が、石川県の西田幾多郎記念哲学館が発行する雑誌『点から線へ』第64号(2015年3月)に掲載されました。
同館にて2012年11月におこなわれた「幸福について考える」講演会で、鎌田教授は西田幾多郎と同時代を生きた宮沢賢治の足跡をたどり、その作品と思想を紐解きながら、西田哲学との共通点について考察しました。
「『ほんとうのさいわひ』をさがして ー宮沢賢治と『銀河鉄道の夜』を中心にー」
鎌田東二 京都大学こころの未来研究センター教授・NPO法人東京自由大学理事長
今日は、宮沢賢治の「『ほんとうのさいわい』をさがして」というテーマの講演です。西田幾多郎と宮沢賢治は一度も会ったことはありません。西田幾多郎が京都大学の助教授として赴任したのは一九一〇年、明治四十三年八月三十一日です。『善の研究』を出版したのが翌年の明治四十四年一月です。ですから、明治四十三年というのは、西田幾多郎にとって、彼の人生の前半と後半を大きく切り替えていくひとつの節目をなすエポックメイキングな年であります。もちろん、これ以前も学習院などで教鞭を取ってはいますが、哲学者として本格的に「黒板を後にして立った」のはこの一九一〇年からです。この年に、宮沢賢治は十四歳の中学生です。彼は花巻に生まれ育ち、石川啄木も学んだ盛岡中学に進みました。そして短歌を詠み始めました。西田幾多郎との年齢差は二十六歳です。生涯一度も面識がなかったふたりではありますが、同じ時代の空気を吸っていたとうことが言えます。今日は、宮沢賢治に焦点を当てながら、一九一〇年、西田さんが京都に来たころ、彼にとって節目の年に、宮沢賢治は何を感じ取っていたのか、それが『銀河鉄道の夜』という作品にどう結実していったのか、そのあたりのことを中心に話をしてみたいと思います。
(講演録より)
吉川教授、阿部准教授、大塚研究員、中井研究員らの共著論文が『Journal of the American Geriatrics Society』に掲載されました
吉川左紀子教授、阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)、大塚結喜研究員、中井隆介研究員らの共著論文が、『Journal of the American Geriatrics Society』Vol.63 Issue 7 (2015 Jul) に掲載されました。
本研究は、高齢者を対象として12週間の運動介入を実施することで、認知機能の改善、および認知課題遂行中の脳活動の変化がみとめられたことを報告した論文です。この研究は、こころの未来研究センター連携MRI研究施設のMRIを用いておこなわれました。
Nishiguchi S, Yamada M, Tanigawa T, Sekiyama K, Kawagoe T, Suzuki M, Yoshikawa S, Abe N, Otsuka Y, Nakai R, Aoyama T, Tsuboyama T (2015). A 12-week physical and cognitive exercise program can improve cognitive function and neural efficiency in community-dwelling older adults: a randomized controlled trial. Journal of the American Geriatrics Society 63 (7): 1355-1363
○Abstract
Objectives To investigate whether a 12-week physical and cognitive exercise program can improve cognitive function and brain activation efficiency in community-dwelling older adults.
Design Randomized controlled trial.
Setting Kyoto, Japan.
Participants Community-dwelling older adults (N = 48) were randomized into an exercise group (n = 24) and a control group (n = 24).
Intervention Exercise group participants received a weekly dual task-based multimodal exercise class in combination with pedometer-based daily walking exercise during the 12-week intervention phase. Control group participants did not receive any intervention and were instructed to spend their time as usual during the intervention phase.
Measurements The outcome measures were global cognitive function, memory function, executive function, and brain activation (measured using functional magnetic resonance imaging) associated with visual short-term memory.
Results Exercise group participants had significantly greater postintervention improvement in memory and executive functions than the control group (P < .05). In addition, after the intervention, less activation was found in several brain regions associated with visual short-term memory, including the prefrontal cortex, in the exercise group (P < .001, uncorrected).
Conclusion A 12-week physical and cognitive exercise program can improve the efficiency of brain activation during cognitive tasks in older adults, which is associated with improvements in memory and executive function.
鎌田教授が企画・編集した『講座スピリチュアル学 第4巻 スピリチュアリティと環境』が出版されました
鎌田東二教授が企画・編集をおこない、原田憲一至誠館大学学長、田中克京都大学名誉教授、湯本貴和京都大学霊長類研究所教授、小説家・田口ランディ氏らと執筆した『講座スピリチュアル学 第4巻 スピリチュアリティと環境』が、2015年7月、ビイング・ネット・プレスより出版されました。
第4巻の刊行にあたって、鎌田教授は、「『スピリチュアリティと環境』をタイトルテーマとする本巻は、風土や環境と人間との関わりを「スピリチュアリティ」の次元と切り結ばせながら総合的・総体的に捉え、考察しようと意図するものである」とし、地質学、生態学、宇宙物理学、文化人類学など様々な分野のエキスパートを迎え、自身も最終章「環境倫理としての場所の記憶と生態智」というタイトルにて執筆しています。
はじめに ー「くらげなす漂える」自然災害の国・日本からの発信 鎌田東二
「このスピリチュアル学」全七巻の最初の三巻を「スピリチュアルケア」と「スピリチュアリティと医療・健康」と「スピリチュアリティと平和」とし、そして第四巻目を「スピリチュアリティと環境」としたことには理由がある。
第一巻を「スピリチュアルケア」とした理由は、「心のケア」が社会問題となった一九九五年に起こった阪神淡路大震災から一六年を経て二〇一一年に起きた東日本大震災の後の社会を一人ひとりがどう生きぬいていくかという喫緊の深刻な実存的問題にまず取り組むべきだと考えたからである。「心のケア」から「スピリチュアルケア」への展開がこの一六年で具体的に進行していると考えたからだ。そして第二巻「スピリチュアリティと医療・健康」では、その具体的な進行と展開を主として身体の側から検討した。「心のケア」と「霊的なケア」を踏まえて「体のケア」と、「霊・魂(心)・体」全体のケアを考えようとしたのである。こうして次に、第三巻「スピリチュアリティと平和」において、「社会のケア」あるいは「人間関係や集団間のケア」の問題を考察し、「宗教間の対立」と「文明の衝突」を超えていく宗教間対話や地球倫理や共助や公共とスピリチュアリティとの関係を考察した。
こうした問いかけのステップの上に、「スピリチュアリティと環境」を課題にする本巻がある。序章では、「環境」が「地球」の中にあることを踏まえて変化する地球の中での生命と人間の位置とワザを確認し、具体的な固有名を持つ「地域」の中でどのようなかたちを形成し思想を生み出していったかを第一部「地球のかたちと思想」で取り上げ、続いて、第二部「環境の位相とグラデーション」で環境の聖性や超越性の次元をさまざまな角度から考察し、終章では日本の環境思想の根幹にある観念や価値を検証する。
『講座スピリチュアル学 第4巻 スピリチュアリティと環境』
企画・編・著:鎌田東二
著:鎌田東二、原田憲一、田中克、湯本貴和、神谷博、磯部洋明、田口ランディ、津村喬、大石 高典
出版社:ビイング・ネット・プレス
初版発行: 2015年7月
四六判並製256頁
定価:1,944(税込)
ISBN 978-4-908055-04-1 C0310
Amazon.co.jp の書籍ページ
『講座スピリチュアル学 第1巻 スピリチュアルケア』が出版されました
『講座スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』が出版されました
『講座スピリチュアル学 第3巻 スピリチュアリティと平和』が出版されました
河合教授が解説を執筆した『[新版]こころの天気図』が出版されました
河合俊雄教授が解説を執筆した『[新版]こころの天気図』(著/河合隼雄)が2015年7月、PHP研究所より出版されました。1990年に毎日新聞社から刊行された『こころの天気図』を再編集し、新版として復刊した一冊です。
河合隼雄財団のウェブサイトには、以下のように本の内容と共に河合教授の解説を引用した紹介記事が公開されています。
「「こころの天気図」というのは、言い得て妙なタイトルだと思われる。
こころというのは、第4章の「こころ 晴れたり曇ったり」という章題からもわかるように、
とても移ろいやすく、また「あるのかないのか、わからないのが心」という節があるように、
捉えどころがないものである。
著者は、そのこころの捉えがたさ、わからなさを巧みに伝えてくれる。
しかし「天気」でなくて「天気図」であるように、
そこにはある程度の構造や原理が見えてくるのであって、それを本書は示してくれている。」
(河合俊雄 〈解説〉「「こころの天気図」とこころの師としての河合隼雄」より引用)
* * *
こころを考える諸作品の引用も入っていますので
ぜひご一読ください。
( 河合隼雄『新版 こころの天気図』が発刊されました | 一般社団法人河合隼雄財団 )
『新版 こころの天気図』
著者:河合隼雄著
発行:PHP研究所/2015年7月
価格:1,296円(税込)
判型:新書230頁
ISBN-10: 4569826296
ISBN-13: 978-4569826295
河合教授が解説を執筆した『河合隼雄自伝―未来への記憶―』が出版されました
河合俊雄教授が解説を執筆した『河合隼雄自伝―未来への記憶―』が新潮社より出版されました。2001年に岩波新書より発刊された『未来への記憶―自伝の試み』を改題し、その後の話がインタビュー形式でまとめられた「未来への記憶のつづき」(『私が語り伝えたかったこと』河出書房新社所収)も収められています。河合教授の解説では、自伝に出てくる出来事や登場人物にまつわるエピソードが筆者ならではの立ち位置と視点から紹介され、本書をより深く読み進めるためのヒントが提供されています。
また、河合隼雄財団のウェブサイトでは、あたたかいまなざしと親しみやすい言葉で本書の魅力が紹介されています。
『河合隼雄自伝ー未来への記憶』が新潮文庫より増補・復刊されます | 一般社団法人河合隼雄財団
本書は基本的に、スイス留学から帰国した三十六歳までのところで終わっている。過去の人間関係については語れるが、現在の人間関係については語れないということが大きいのかもしれない。幸い『文藝別冊・河合隼雄』に掲載された「未来への記憶の続き」(河出書房新社『私が語り伝えたかったこと』所収、二〇一四年)を本書では補うことによって、二〇〇一年までの活動は織り込まれることになった。その後には、集大成の仕事というべき『神話と日本人の心』(岩波書店、二〇〇三年)の出版とまたもや思いがけないこととしての文化庁長官就任が待っている。そして残念ながら、これもまた思いがけないことに、文化庁長官在職中に河合隼雄は脳梗塞で倒れ、その後の闘病と多くの人の祈りにもかかわらず、意識が回復することなく、二〇〇七年七月十九日に亡くなったのである。
この突然の最後のために、河合隼雄は語られないことを一層多く残したかもしれない。しかしそれは、われわれの未来へのためのポテンシャルであって、本書が、そして河合隼雄の他の作品が、多くの読者にとっての「未来への記憶」となるように願いたい。
(「今を生き、未来を残した人、河合隼雄」河合俊雄(臨床心理学者)」より)
『河合隼雄自伝―未来への記憶―』
著者:河合隼雄
発行:新潮社/2015年5月
価格:810円(税込)
判型:文庫版401頁
ISBN-10: 4101252343
ISBN-13: 978-4101252346
鎌田東二教授の論考が収められた『戸隠信仰の諸相』が出版されました
長野県長野市にある戸隠神社より『戸隠信仰の諸相』(2015年5月発行)が出版されました。この第一章に鎌田東二教授が論考「戸隠の山と水のコスモロジー」を寄稿しました。
長年、 宗教哲学、民俗学の視点から聖地研究に取り組み、各地の聖地、修験道をみずから探訪し続けている鎌田教授が、実際にフィールドワークをおこなった記録をもとに戸隠信仰の歴史を紐解き、豊かな実践生態智を継承してきた戸隠山修験道の再発見と再興を提唱しています。
立冬の朝日が戸隠神社奥社の随神門の真上から射してくるという話を聞いた。そこでそのご来光の瞬間を確認して、そのような参道設計や随神門の建造をした戸隠信仰の形と修験者たちの技術とそれを支える世界観を実地にフィールドワークすることからこの問題を考察したいと考え、立冬(一一月六日)を少し過ぎてはいたが、平成二六年(二〇一四)一一月十日早朝、戸隠神社奥社の随神門からご来光を仰ぐことにした。(中略)
この戸隠山は日本の山岳修験の山で一番怖い山であると思う。特に、修験道の行場としては戸隠山の「蟻の戸渡り」ほど怖いところはないのではないか。かつて肝を縮めながらも、象徴的な「死と再生」の悦楽を以って独り「蟻の戸渡り」を渡ったことがある。
そんなことを想い出しながら、各所で法螺貝や石笛を奉奏しながら奥社に近づき、九頭龍社の前で祓詞奏上後、石笛・横笛・法螺貝の三種の楽器を奉奏し、その後、奥社で大祓詞奏上後、法螺貝を奉奏した。
終わって振り返って向かいの山を見ると、すでに朝日は右上に昇り、眩い光を一面に注いでいた。いつしか時は七時半になっていた。(「はじめに」より)
「戸隠の山と水のコスモロジー
ー奥社参道・杉並木の設計技術とその思想及び精神性ー」鎌田東二
はじめに
一 戸隠神社奥社参道杉並木と天海と天台系修験道
二 乗因の山王一実神道と戸隠山縁起
三 戸隠曼荼羅と生態智
おわりに 〜九頭龍コスモロジーの再興と再発見〜
阿部准教授の論文が『Human Brain Mapping』に掲載されました
阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)と、2014年度までこころの未来研究センターに日本学術振興会特別研究員として在籍していた伊藤文人東北福祉大学特任講師らの執筆した論文が、学術誌『Human Brain Mapping』Vol.36 に掲載されました。
本研究は機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、人間が意識的に知覚することのできない「閾下刺激」に対する価値判断の神経基盤を調べた研究です。閾下刺激であっても、後に選好される刺激に対しては、特異的な脳活動が生じることが明らかとなりました。
Ito A, Abe N, Kawachi Y, Kawasaki I, Ueno A, Yoshida K, Sakai S, Matsue Y, Fujii T. Distinct neural correlates of the preference-related valuation of supraliminally and subliminally presented faces. Human Brain Mapping 36: 2865-2877 (2015)
○Abstract
Recent neuroimaging studies have investigated the neural substrates involved in the valuation of supraliminally presented targets and the subsequent preference decisions. However, the neural mechanisms of the valuation of subliminally presented targets, which can guide subsequent preference decisions, remain to be explored. In the present study, we determined whether the neural systems associated with the valuation of supraliminally presented faces are involved in the valuation of subliminally presented faces. The subjects were supraliminally and subliminally presented with faces during functional magnetic resonance imaging (fMRI). Following fMRI, the subjects were presented with pairs of faces and were asked to choose which face they preferred. We analyzed brain activation by back-sorting the fMRI data according to the subjects' choices. The present study yielded two main findings. First, the ventral striatum and the ventromedial prefrontal cortex predict preferences only for supraliminally presented faces. Second, the dorsomedial prefrontal cortex may predict preferences for subliminally presented faces. These findings indicate that neural correlates of the preference-related valuation of faces are dissociable, contingent upon whether the subjects consciously perceive the faces.
河合教授が監訳した『ユング『赤の書』の心理学 - 死者の嘆き声を聴く』が出版されました
河合俊雄教授が監訳をおこなった『ユング『赤の書』の心理学 - 死者の嘆き声を聴く』が、2015年6月、創元社より出版されました。
元型的心理学の創始者であるジェイムズ・ヒルマンと『赤の書』編者であるソヌ・シャムダサーニによる連続対話全記録の翻訳書です。2010年に刊行された日本語版『赤の書』の監訳ならびに2014年に刊行された『赤の書 テキスト版』の監訳・訳を手がけた河合教授が今回も監訳をつとめ、まえがきを執筆しています。
本書の内容については、訳者による詳細な解説があるので、ここではいくつか重要と思われることだけを強調しておきたい。ジェイムズ・ヒルマンはユング以後の最も有名なユング派の分析家で、特に「元型的心理学」の提唱者として、個人を超えたこころを強調してきた人である。『赤の書』には全く父親や母親は登場せず、ひたすらフィレモンやサロメなどの様々なイメージの人物像とのやり取りや対話から成り立っているので、まさにヒルマンの意に沿うのである。
『赤の書』には、いわゆるユング心理学の概念は全く登場せず、それどころか「無意識」という言葉さえ使われていない。ひたすらイメージの展開があるだけである。そこにヒルマンは非常に共鳴する。こころがどのように表現されるか、それになるべくそのまま沿っていく。『赤の書』にはまさにそのような姿勢が見られるのである。またヒルマンは物語も強調していて、それは河合隼雄の物語論に通じるところがあるかもしれない。
しかし心理学は生の表現につきないところが特徴的である。それをヒルマンは「リテラル」(字義通り)でないものと言う。
(「監訳者まえがき/河合俊雄」より)
出版社の書籍ページでは、監訳者まえがきとシャムダサーニによる序文、第一章の一部、訳者あとがきを読むことができます。こちら
○書籍データ
ユング『赤の書』の心理学 - 死者の嘆き声を聴く
著:ジェイムズ・ヒルマン、ソヌ・シャムダサーニ
監訳:河合俊雄
訳:名取琢自
出版社:創元社(2015年6月)
単行本: 290ページ
ISBN-10: 4422115928
ISBN-13: 978-4422115924
出版社の書籍ページ
Amazon.co.jpの書籍ページ
河合教授の講演論文が収められた『Hazardous Future』がDe Gruyter社より出版されました
河合俊雄教授の講演論文が収められた書籍『Hazardous Future ー Disaster, Representation and the Assessment of Risk』が、De Gruyter社より2015年3月に出版されました。本書は、東日本大震災が起こった2011年、同じく震災体験のあるポルトガルのリスボンで開かれた、リスク社会に関する国際ワークショップ(International Conference "HAZARDOUS FUTURE")の記録です。
河合教授は、東日本大震災後のこころのケアの活動を報告し、また何が、どのように物語られるのかから、人々のこころで起こっていることを分析しました。後のいくつかの論文につながっていった、最初の発表です。
Toshio Kawai
Big Stories and Small Stories after a Traumatic Natural Disaster from a Psychotherapeutic Point of View
1 Listening to Stories
2 Life and Death
3 Coincidences
4 Experience Sharing: Psychological Time
5 Psychotherapy and Small Stories
6 The Birth of New Big Stories
7 Necessity of a New Story: Conclusion
○Book Information
Hazardous Future
Author: Isabel Capeloa Gil, Christoph Wulf
Publisher: De Gruyter (March 13, 2015)
Language: English
Hardcover: 298 pages
ISBN-10: 3110406527
ISBN-13: 978-3110406528
Amazon.com の書籍ページ
清家理助教の著書『医療ソーシャルワーカーの医療ソーシャルワーカーの七転び八起きミッション』が出版されました
清家理(上廣こころ学研究部門)助教の著書『医療ソーシャルワーカーの医療ソーシャルワーカーの七転び八起きミッション』がメジカルビュー社より出版されました。
『医療ソーシャルワーカーの医療ソーシャルワーカーの七転び八起きミッション』
○本の概要
著者:清家 理
出版社:メジカルビュー社
定価:2,160円(税込
A5判 216ページ オールカラー
2015年3月30日刊行
ISBN978-4-7583-0389-7
○本の紹介
この本は、医療ソーシャルワーカー(MSW)として実践と研究を重ねてきた中で、実践の一区切りとして執筆した、学位申請論文「医療ソーシャルワーク機能の実証的研究―地域医療現場をフィールドに―」を土台にしています。
MSWは、主に医療現場で、病気を機に多岐にわたる「生きづらさ」を抱えてしまった老若男女と向き合い、生きづらさの解決に向けた黒子役を担っています。生きづらさを抱えた方々の思いの尊重、その人らしさを尊重した対応の大切さは、日々、臨床現場の方々から、熱く語られています。これは、医療倫理学や社会福祉学では、意思決定支援と自律の尊重、パーソンセンタードケアといった理論や概念に該当します。しかし、日々の支援の中で普遍的に変わらないものが明確にされない限り、多くのMSWの努力は、「支援効果等、根拠が示されていない」と片づけられてしまいます。そのためには、調査で量的および質的分析をしながら、支援経過や内容、クライエントの変化を丁寧に追う必要がありました。この本では、まず医療ソーシャルワークの理論と医療福祉政策の動向を整理しました。その上で、経済的な課題、認知症や終末期に伴う生きる場所や生きていく術の課題に対するMSWのアプローチ内容と専門性について、探索しました。
そして、この本の末尾に記載した今後の課題について、一歩先に進んだものが、2014年10月から京都市内で始めた、『孤立防止のための互助・自助強化プログラム開発プロジェクト -くらしの学び庵-』です。「支援する人―支援される人」の関係で、パターナリスティックな関係ではなく、個々人の強みや良さを信じる、引き出しあえる、いわば真の「自律」のあり方を模索し、そして検証する―このような『実践と研究の折衷』を極めていきたいと思っています。
なお本書は、京都大学総長裁量経費人文・社会系若手研究者出版助成を受けて刊行しました。
<清家理助教(上廣こころ学研究部門)>
内田准教授による東日本大震災後の報道ならびにジャーナリストの感情経験を検証した論文が『PLOS ONE』に掲載されました
内田由紀子准教授らがセンターの「東日本大震災プロジェクト」にて実施した東日本大震災の報道内容分析ならびにメディアの記者の方々への質問紙調査を実施した研究が、オンラインジャーナル『PLOS ONE』に掲載されました。
書誌情報
Uchida, Y., Kanagawa, C., Takenishi, A., Harada, A., Okawa, K., & Yabuno, H. (2015).
How did the media report on the Great East Japan Earthquake? Objectivity and emotionality seeking in Japanese media coverage. PLoS ONE, e0125966.
メディアが震災についての客観的な報道をする上での難しさに直面していたことを検証しています。研究1では震災後半年間のテレビや新聞の内容分析をおこない、メディアは客観的な事実情報を伝える傾向が高かった一方で、キャスターや記者のコメントは、感情的なところに訴えるものも見られたことを分析しています。また、研究2では115名の記者への調査を実施し、震災時の報道において記者たちは客観性を追求しようとされていたものの、実際に報道された記事に対しての客観性に対する自己評価は必ずしも高くなく、特に原発事故の報道の客観性担保が難しいと感じられていたという結果が報告されています。また、記者が取材活動を通じて感じた罪悪感や悲しみなどのネガティブな感情が、報道内容の客観性についての自己評価を下げる要因となっていたことなどが検証されています。
論文は下記リンクよりダウンロードできます
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0125966
『Psychologia』2014年第57巻4号に内田准教授、竹村連携研究員の編集による特集号が掲載されました
国際心理科学誌『Psychologia』2014年第57巻4号(2014年12月/発行:プシコロギア会)特集号が刊行され、内田由紀子准教授・竹村幸祐連携研究員編集による特集「Regional Communities」ならびに論文が掲載されました。
特集号では内田准教授と竹村幸祐連携研究員(滋賀大学准教授)が責任編集者となり、こころの科学をマクロな視点から展開するための「地域研究」の必要性を解説(Editorial, p225-228)し、タイでの心理学調査(Hitokoto et al., 2014)、ボツワナでの人類学的フィールド調査(Zi, 2014)、新潟でのアクション・リサーチ(Kusago & Miyamoto, 2014)、水産業普及指導員とソーシャル・キャピタル形成についての論文 (Takemura et al., 2014) が掲載されています。
Psychology basically focuses on psychological and behavioral mechanisms at an individual level, but it also needs to explore macro level and collective phenomena. Especially in social psychology and cultural psychology, researchers have investigated group process, organizational behavior, and the mechanisms of cultural/instuitutional effects on psychological functions. Among them, studies on regions and local communities have become more important than before. For example, after the severe damage from the Great East Japan earthquake, people in Japan found out the power of social networks in regional communities. However, we have not fully elucidated what constitutes the important component of "region," which is a rather obscure concept. Sometimes we can say it is a platform of community. We can also define it as geographical neighborhood that shares certain ecological contexts. To provide the current insight of regional studies more clearly, this special issue of Psychologia includes a collection of papers that conduct regional studies from a multidisciplinary approach, including psychology, anthropology, and action research.
("EDITORIAL: REGIONAL COMMUNITIES" by Yukiko UCHIDA and Kosuke TAKEMURA)
鎌田教授の講演録が『龍谷大学アジア仏教文化研究センター 2014年度全体研究会プロシーディングス』に掲載されました
鎌田東二教授の講演録「神道から見た仏教」と講演の概要が、2015年3月に発行された『龍谷大学アジア仏教文化研究センター2014全体研究会プロシーディングス』に掲載されました。
アジア諸地域における仏教の多様性とその現代的可能性の総合的研究を進める同センターの2014年度第1回研究会(開催日:2014年10月21日/於:龍谷大学大宮学舎西黌2階大会議室)において、鎌田教授は神道研究者の視点から日本における仏教と神道との関わりについて研究発表をおこない、双方に作用する「生態智」をキーワードに考察。石笛の実演もまじえながら、長い歴史のなかで「心のワザ学」としての仏教と「生態智文化」として現れた神道の相互補完体制ができあがり、「地主神との協力関係なしには仏教の日本定着はあり得なかった」と強調しました。
2014年度 第1回 全体研究会「神道からみた日本仏教」
鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター教授)
【報告の概要】
鎌田氏は,まず大前提として,神道がどのような特性を持つのかを数々の事例を挙げながら紹介した。
神道は,山・岩・木・滝などの自然物そのものがご神体となり,人間がそれに対して信仰を持つという構図を持つ(那智大社など)。その自然物は,時として荒ぶる力を持ち,時として神様として崇められる対象となる。この神と人間の構図は,日本古代から存在し,万葉集の枕詞に「ちはやぶる神(霊がものすごいスピードで荒ぶって発現する)」という言葉で表現されるように,文化の中に息づいている。その「神」というものに対しての畏怖,畏敬の念というのが根幹にあり,祭りと祈りの信仰体系を作り,そこに様々な生態系的な智慧というのを宿してきたといえる。
上述の神道の本質について触れたのち,鎌田氏は,縄文時代の遺跡から出土する「石笛(いわぶえ)」を吹いた。
(『龍谷大学アジア仏教文化研究センター2014全体研究会プロシーディングス』より)
研究会の概要は、同センターウェブサイトで閲覧できます。下記リンクよりご覧ください。
こころの未来叢書『愛する者は死なない』『愛する者をストレスから守る』(カール・ベッカー編著)が出版されました
こころの未来叢書『愛する者は死なない―東洋の知恵に学ぶ癒し』『愛する者をストレスから守る―瞑想の力』の二冊が2015年春、晃洋書房より出版されました。
2009年に出版された『愛する者の死とどう向き合うか―悲嘆の癒し』の続編にあたる『愛する者は死なない―東洋の知恵に学ぶ癒し』は、こころの未来研究センターでカール・ベッカー教授が企画し実現した海外の著名な研究者らによる講演および研究報告をまとめ、学術専門誌『Death Studies』に掲載された記事の翻訳も合わせて収録した一冊です。『愛する者をストレスから守る―瞑想の力』は、ベッカー教授が取り組んできた「ストレス予防研究と教育」研究プロジェクトにおいて、ストレス予防・軽減のための瞑想や瞑想に関連する東洋的技法について様々な角度から研究をおこなった成果を奥野元子研究員と共にまとめています。
『愛する者は死なない―東洋の知恵に学ぶ癒し』
カール・ベッカー 編著
駒田 安紀 監訳
発行 晃洋書房
判型 四六
刊行 2015年3月
価格 1,620円(税込)
ISBN 978-4-7710-2535-6
Amazon.co.jpの書籍ページ
○本の概要
死別の悲しみは消えることはない。しかしそれをあるがままに受け入れ、悲しみと共に生きる。それこそが目覚めた人間の姿ではないか。「死の日常性」を忘れてしまった我々が、悲しみと向き合い「死」を受容する為の方法を考える。
『愛する者をストレスから守る―瞑想の力』
カール・ベッカー・奥野元子 編著
発行 晃洋書房
判型 四六
刊行 2015年3月
価格 2,268円(税込)
ISBN 978-4-7710-2543-1
Amazon.co.jpの書籍ページ
○本の概要
子どもから大人まで、ストレスは現代社会を生きる上で避けて通れない問題である。瞑想は私たちのストレス軽減のための、こころのエクササイズといえる。日本人の智慧である瞑想に、こころと身体の健康のための秘策を探る。
鎌田教授の共著書『宮沢賢治の切り拓いた世界は何か』が出版されました
鎌田東二教授の共著書『宮沢賢治の切り拓いた世界は何か(笠間ライブラリー―梅光学院大学公開講座論集)』が2015年5月、笠間書院より出版されました。
東日本大震災後、宮沢賢治の作品があらためて注目されています。本書は、近代日本文学研究者で梅光学院大学大学院客員教授の佐藤泰正氏が編者をつとめ、宮沢賢治の文学とその人生に様々な角度から光をあて、賢治の世界の真髄を探った新たな書です。鎌田教授は「分子の脱自ー宮沢賢治のトーテミズム、その堕落と飛行」というタイトルで、賢治の表現世界と彼の魂が発した「心象スケッチ」の意味について独自の視点から考察。最晩年の小説『疑獄元兇』を冒頭で取り上げて父子の関係性にせまると共に、類いまれなる「原始宗教的な根源感覚」を持ち、「『ドリームランド』の『実在』を視、確信していた確信犯」である賢治の発信する作品が持つ、人間世界を超越した透明性と哀しみと力について解説しています。
そのような苦の現実世界に、あえて「願ひによって」墜落し、落下してきた者たちがいる。そんな「いちばん強い人たち」は、地湧の菩薩であり、墜落する天人なのだろう。そして、彼らが墜落する「ドリームランド」の「実在」を視てきた自分も、そこに属する者である。そうである、と思う。いや、そうでありたい。そして、その「人たち」と共に、「人人と一緒に飛騰」していくこと、それがこの世における自分の仕事であると覚悟する。
「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」(『農民芸術概論綱要』「序論」)からだ。だから、「僕もうあんな大きな暗の中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいはひをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行かう。」(『銀河鉄道の夜』)と決意する。
だが、カムパネルラはいない。ジョバンニは孤独だ。独りだ。独りで行かねばならぬ。「堕ちるために又泳ぎ切るために」。
宮沢賢治が一貫して伝えているメッセージは、悲しいけれど、そのようなひとりぼっちの「独行」である。保阪嘉内と訣別し、最愛の妹としを喪い、「願ひ」と共に行ける人を失くした。その喪失の中であっても、しかしさらにその先まで歩まなければならない。ジョバンニが、グスコンブドリ(グスコーブドリ)が、一郎が、三郎が行かなければならないのは、そのような孤独な道行だ。
(「分子の脱自ー宮沢賢治のトーテミズム、その堕落と飛行」鎌田東二 より)
『宮沢賢治の切り拓いた世界は何か(笠間ライブラリー―梅光学院大学公開講座論集)』
編者:佐藤泰正
執筆者:原子朗、鎌田東二、北川透、山根知子、木原豊美、加藤邦彦、佐藤泰正
発行:笠間書院/2015年5月
価格:1,080円(税込)
判型:四六判・並製・カバー装・218頁
ISBN-10: 4305602644
ISBN-13: 978-4305602640
鎌田教授の著書『図説 地図とあらすじでわかる!山の神々と修験道』が出版されました
鎌田東二教授の著書『図説 地図とあらすじでわかる!山の神々と修験道』が2015年5月、青春出版社から出版されました。日本の聖地文化を長く研究テーマとし、自ら東山修験道での修行を重ねる鎌田教授が、日本独自の習合宗教文化である修験道と山岳信仰について、深く分かりやすく解説した最新著作です。
○内容紹介
富士山・高野山・出羽三山・金峯山・立山・御嶽山・恐山・高尾山...。日本人はいつ、どのようにして「山」を崇めるようになったのか。観音信仰、羽黒権現、火渡り、護摩焚き、鎖禅定...知られざる山岳信仰の源流をたどる。
『図説 地図とあらすじでわかる!山の神々と修験道』
著者:鎌田東二著
発行:青春出版社/2015年5月
価格:1,210円(税込)
判型:新書版192頁
ISBN-10: 4413044533
ISBN-13: 978-4413044530
河合教授が解説を執筆した『河合隼雄の読書人生-深層意識への道』が出版されました
河合俊雄教授が解説を執筆した『河合隼雄の読書人生-深層意識への道』が、2015年4月、岩波書店より出版されました。2004年に刊行された『深層意識への道』を改題し、河合俊雄教授の解説を付けて復刊されたものです。
河合隼雄財団のウェブサイトでは、本書の構成や読み解き方が分かりやすく紹介されています。下記リンク先にアクセスしてお読みください。
『河合隼雄の読書人生-深層意識への道』
著者:河合隼雄著
発行:岩波書店/2015年4月
価格:994円(税込)
判型:A6.並製・272頁
ISBN:978-4-00-603285-2
大塚研究員の論文が『The Quarterly Journal of Experimental Psychology』に掲載されました
大塚結喜研究員の論文「High-performers use the phonological loop less to process mental arithmetic during working memory tasks」が、2014年11月付で『The Quarterly Journal of Experimental Psychology』に掲載されました。
○論文の内容
これまで複雑な暗算(たとえば複数桁の数字同士の繰り上がりのある足し算)では、音韻情報を短期的に保持するワーキングメモリの音韻ループと情報の操作を担うワーキングメモリの中央実行系が必要であることが知られてきました。しかし本研究で暗算成績の低い成人グループ(低成績群)と暗算成績の高い群(高成績群)を比較したところ、低成績群は音韻ループと中央実行系を使用していましたが、高成績群は中央実行系だけを利用している可能性が示されました。この結果から、中央実行系で情報をうまく操作して音韻ループでの短期保持をせずに済む方略を利用することが、暗算で高成績をあげるのに重要な可能性が示されました。(大塚結喜)
Otsuka, Y., and Osaka, N. (in press). High-performers use the phonological loop less to process mental arithmetic during working memory tasks, The Quarterly Journal of Experimental Psychology.
http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/17470218.2014.966728#abstract
Abstract
This study investigated the effects of three working memory components--the central executive, phonological loop, and visuospatial sketchpad--on performance differences in complex mental arithmetic between individuals. Using the dual-task method, we examined how performance during two-digit addition was affected by load on the central executive (random tapping condition), phonological loop (articulatory suppression condition), and visuospatial sketchpad (spatial tapping condition) compared to that under no load (control condition) in high- and low-performers of complex mental arithmetic in Experiment 1. Low-performers showed an increase in errors under the random tapping and articulatory suppression conditions, whereas high-performers showed an increase of errors only under the random tapping condition. In Experiment 2, we conducted similar experiments on only the high-performers but used a shorter presentation time of each number. We found the same pattern for performing complex mental arithmetic as seen in Experiment 1. These results indicate that high-performers might reduce their dependence on the phonological loop, because the central executive enables them to choose a strategy in which they use less working memory capacity.
河合教授が解説を執筆した『河合隼雄セレクション「出会い」の不思議』が出版されました
河合俊雄教授が解説を執筆した『河合隼雄セレクション「出会い」の不思議』が、2015年3月、創元社より出版されました。河合隼雄京都大学名誉教授の著作6冊が文庫化され、「創元こころ文庫 河合隼雄セレクション」として同時刊行された一冊です。河合教授は解説を執筆すると共に、6冊それぞれの巻末に掲載されている「シリーズ刊行によせて」において、河合隼雄セレクション全体の紹介をおこなっています。
河合隼雄財団のウェブサイトでは、本書の味わい方やシリーズを読みすすめるポイントなどが分かりやすく紹介されています。下記リンク先にアクセスしてお読みください。
河合隼雄セレクションのご紹介 Part 1 「出会い」の不思議
創元社より〈河合隼雄セレクション〉として6冊の文庫が刊行されました
出会いと別れの不思議
河合俊雄
本書は、二〇〇二年に出版されたエッセイ集『「出会い」の不思議』の文庫版である。『中央公論』の巻頭言として一九九七年〜一九九九年に連載されていた第Ⅰ章の「言葉との出会い」を中心としつつ、第Ⅱ章では「人との出会い」、第Ⅲ章では「本との出会い」、第Ⅳ章では「子どものこころとの出会い」、第Ⅴ章では「新しい家族との出会い」、最終章では「こころの不思議との出会い」というように、さまざまな形の出会いとして各章がまとまっている。
心理療法家である著者にとって、出会いというのは非常に本質的なものである。心理療法は、たとえば芸術家が自分の作品を作っていったり、実験をする研究者が実験対象を選んだりするように、自分のほうからクライエントを選ぶわけにいかない。どのようなクライエントと一緒に仕事をしていくかは、その出会いから成り立っている。したがってどれだけセラピストがすぐれていても、相手が何をもたらしてくれるのかによって治療がうまくいかないことがあるし、また逆にいかにセラピストに力がなくても、出会った相手がすぐれていたり、うまく動いてくれたりしてよくなることがある。それどころか組み合わせが絶妙でよくなることさえもある。まさに出会いの不思議であって、これは心理療法の本質に関わるのである。
したがって本書も、出会ってくる人や本によって著者は驚かされ、それを楽しみ、さらにそれをうまく生かすことによって展開していくのが特徴的である。そして「まえがき」に著者が「オモロイ」という関西弁を用いているように、出会ってくることを著者がこころから楽しみ、おもしろがっていることが、この本を魅力的にしている。
(解説より)
『河合隼雄セレクション「出会い」の不思議』
著者:河合隼雄著
発行:創元社/2015年3月
価格:1,026円(税込)
判型:文庫版並製328頁
ISBN:978-4-422-00056-5
鎌田教授が企画・編集した『講座スピリチュアル学 第3巻 スピリチュアリティと平和』が出版されました
鎌田東二教授が企画・編集をおこない、小林正弥千葉大学人文社会科学研究科教授、千葉眞国際基督教大学教授、内田樹神戸女学院大学名誉教授らと執筆した『講座スピリチュアル学 第3巻 スピリチュアリティと平和』が、2015年4月、ビイング・ネット・プレスより出版されました。
講座スピリチュアル学のシリーズ本は全7巻で、2016年8月までに刊行される予定です。第1巻「スピリチュアルケア」、第2巻「スピリチュアリティと医療・健康」、第3巻「スピリチュイアリティと平和」、第4巻「スピリチュアリティと環境」、第5巻「スピリチュアリティと教育」、第6巻「スピリチュアリティと芸術・芸能」、第7巻「スピリチュアリティと宗教」という構成で、「こころとからだとたましいをホリスティック(全体的)に捉え、生き方や生きがいなどの生の価値に絡めて考察しようとする学問的探求」という考え方のもと、様々な分野で活躍する第一人者らがそれぞれの専門からテーマについて論じていきます。
第3巻において、鎌田教授はテーマを平和にした経緯について。「自然災害や人的災難が多発する「乱世」の現代社会において、あらためて「平和の術(アート・オブ・ピース)」を問い直す」ことを執筆陣らと共に考えたことを述べ、「社会のケア」あるいは「人間関係や集団間のケア」の問題を考察する一冊にまとめた旨を企画編集者として紹介しています。自身の章では「日本の平和思想ー『国譲り』問題を考える」という題にて、二宮尊徳の「推譲」、『古事記』の「国譲り」、『日本書紀』の「憲法十七条」などを取り上げ、日本古来から人々の精神に流れ受け継がれてきた思想をもとに、平和と平安の実現に向けた考え方実践策とを提案しています。
二〇〇七年一一月、本巻執筆者の小林正弥、千葉眞たちとともに「地球平和公共ネットワーク」(Network for Global Public Peace)を結成した。「地球的公共性の観点に基づいた平和ネットワーク」の結成を目標とし、「多様性の尊重に基づく、ゆるやかな自発的結合」をはかった。「理性と感性、知性と精神性・芸術性・身体性、生活世界と公共世界とを結びつけ」、志す方向として、(1)「いのち(生命)」の安らぎと喜びが感じられるような地球平和と公共世界を築いていく、(2)生活者の視点に立ち、足元からの知恵を生かして、地球平和と公共的価値を創造していく、(3)個の自立と多様な他者との共同性をともに尊重し、地球平和のためのゆるやかな友愛ネットワークを公共的に築いていく、(4)日本国憲法第九条の「戦争放棄・永久非戦」という地球平和の理念についてその文明史的意義と公共的価値をいっそう力強く世界の公論に訴えていく、(5)地球平和の実現のために平和大綱を作成し、非暴力的な公共的活動を行い、生きていることの喜びと楽しさを共に味わうことのできる平和の術(ワザ/アート・オブ・ピース)を創造していくことなどをめざすことを掲げた。
だが、残念ながら、この流れは大きな運動とはならなかった。しかし、二〇一五年春、私たちはその時の同志たちとともにもう一度「平和の術(アート・オブ・ピース)」を問い直す課題を共有した。それが本書である。(「はじめに」より)
『講座スピリチュアル学 第3巻 スピリチュアリティと平和』
企画・編・著:鎌田東二
著:鎌田 東二、小林 正弥、阿部 珠理、千葉 眞、板垣 雄三、阿久津 正幸、小倉 紀蔵、服部 英二、内田 樹、金 泰昌、山脇 直司
出版社:ビイング・ネット・プレス
初版発行: 2015年4月
四六判 並製
定価:1,800円+税
ISBN 978-4-908055-03-4 C0310
Amazon.co.jp の書籍ページ
『講座スピリチュアル学 第1巻 スピリチュアルケア』が出版されました
『講座スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』が出版されました
『人体科学会第24回大会「身心変容と人体科学」』シンポジウム報告集が刊行されました
鎌田東二教授が大会会長を務めた「人体科学会 第24回大会」(主催/人体科学会、後援/こころの未来研究センター、協力/身心変容技法研究会)の報告集『人体科学会第24回大会「身心変容と人体科学」』が刊行されました。本大会は、2014年11月29日・30日に稲盛財団記念館3階大会議室で開催されました。
○企画趣意・挨拶 京都大学こころの未来研究センター教授・宗教哲学 鎌田東二
人体科学会は、23年前の1991年に設立されました。学会のホームページ上ではこう記載されています。
「現代の社会では科学技術や経済発展が顕著な反面、精神の不安、モラルの衰退、愛の喪失といった心理的危機が広がっているようです。私たちは東西の文明の古い英知を現代において問い直すという立場から人体科学会を設立しました。(中略)
このような人体科学会の四半世紀に及ぶ活動の中で、今回、京都大学稲盛財団記念館で、「身心変容と人体科学」をテーマにしたのは、これまで行ってきた、こういう人体科学会の開催の課題に、身心変容という観点から答えたいと考えたからです。
つまり、この第2領域、東洋の身体観、修行法、気などを1の領域と結ぶような「身心変容」を、人体科学の領域の中で、事例研究と脳科学的なサイエンス的研究を通して切り結ぶ。
事例研究の方は、チベットの瞑想を中心に永沢哲先生に、太極拳については倉島哲先生に、また、日本の独自のヴァートセラピーという整体については藤守先生に発表してもらって、その発表を踏まえてカール・ベッカー先生にコメントしてもらいます。
そのようなかたちで、第1部を私が司会進行しながら、身心変容のフィールド学と位置づけ、事例を中心に置きながらの検討を進めていきます。
その後、休憩の後に、松田和郎先生の司会の下で、身心変容と脳科学のセッションを行います。河野貴美子先生、齋木潤先生、どちらも生理学や認知科学など、脳波の研究をされてきています。その観点から発表してもらって、鮎澤聡会長にコメントしてもらって、総合討論に引き続いていきます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『人体科学会第24回大会「身心変容と人体科学」』シンポジウム報告集
発行日:2015年2月25日
発行者:人体科学会第24回大会実行委員会
<実行委員会>
顧問:カール・ベッカー
実行委員長:鎌田東二
副実行委員:和田和郎
事務局:奥井遼・小西賢吾
表紙デザイン:大西宏志
内田准教授と福島研究員の論文がドイツの学術書『Forschung fordern』に掲載されました
内田由紀子准教授と福島慎太郎研究員(上廣こころ学研究部門)らの共著論文が掲載された学術書『Forschung fördern: Am Beispiel von Lebensqualität im Kulturkontext』が、2015年2月、ドイツのUVK社より刊行されました。日本文化における幸福感の特徴を欧米との比較研究から検討し、グローバル化と日本人の幸福感について考察と展望をおこなっています。
Uchida, Y., Ogihara, Y., & Fukushima, S. (in press). Interdependently Achieved Happiness in East Asian Cultural Context. A Cultural Psychological Point of View.
In G. Trommsdorff, & W. R. Assmann (Hrsg.), Forschung fördern. Am Beispiel von Lebensqualität im Kulturkontext . UVK Verlag., Germany.
○Abstract
Recent cultural psychological studies have suggested that there is considerable variation in how people feel and conceptualize happiness and wellbeing. Particularly in Japan, compared with European American cultural contexts where wellbeing is achieved through personal attainment or self-esteem, wellbeing is construed as balance and harmony and it is achieved collectively and interdependently. We will further discuss the cultural construal of wellbeing during globalization.
『身心変容技法研究』第4号、『モノ学・感覚価値研究』第9号を刊行しました
鎌田東二教授が代表研究者を務める「身心変容技法の比較宗教学-心と体とモノをつなぐワザの総合的研究」の研究年報『身心変容技法研究』第4号ならびに「モノ学・感覚価値研究会」の研究年報『モノ学・感覚価値研究』第9号が刊行されました。年報は全てPDFで公開しています。下記リンクよりダウンロードしてご覧ください。
閲覧・ダウンロード:表紙(4MB) 目次・巻末(1MB) 本文(9MB)
身心変容技法研究会は、多彩な研究メンバーによる最新の臨床心理学、精神医学の臨床研究や認知科学、脳神経科学の実験研究等を結びつけ、身体と心との相互的な関わりをワザやモノを媒介として様々な角度から分析し、「心の荒廃の時代」を突破するための理論と実践を提示することを目指しています。2014年度は、15回の定例公開研究会、大荒行シンポジウム、6回のフィールドワーク、毎月2回の定例分科研究会がおこなわれました。年報では、研究会での発表内容のほとんどが網羅されており、この一年で進められた研究の全容を知ることができます。
□身心変容技法研究会ホームページ
http://waza-sophia.la.coocan.jp/kennkyuukai.htm
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
(表紙:宮城県気仙沼市大島亀山山頂、2014年5月2日、撮影:鎌田東二)
「モノ学・感覚価値研究会」は、「モノ学の構築―"もののあはれ"および"もののけ"から"ものづくり"までを貫流する日本文明のモノ的創造力と感覚価値を検証する」を正式名称および副題とし、「『モノ』と人間、自然と人間、道具や文明と人間との新しい関係の構築可能性」をみつめ、「人間の幸福と平和と結びつく『モノ』認識と『感覚価値』のありようを探りながら、認識における『世直し』と『心直し』をしていく」ことを大きな目標としています(研究紹介より)。年報は、「第1部:こころのワザ学」「第2部:第五回東日本大震災関連プロジェクトーこころの再生に向けて」「第3部:身心変容技法の比較宗教学」の3部に分かれ、第2部には2011年から始まった「震災関連プロジェクトーこころの再生に向けて」のシンポジウムの講演録が、第3部には大荒行シンポジウムの講演録が収められています。
□モノ学・感覚価値研究会ホームページ
http://mono-gaku.la.coocan.jp
河合教授の講演録が『ユング心理学研究』第7巻2号に掲載されました
河合俊雄教授の講演録「ユング派心理療法の新しい可能性」が、学術誌『ユング心理学研究』第7巻2号(2015年3月10日/日本ユング心理学会編)に掲載されました。
河合俊雄「ユング派心理療法の新しい可能性」『ユング心理学研究』Pp69ー87,創元社、2015
講演録は、2014年3月2日に京都テルサで行われた第3回日本ユング研究所研修会の全体講演をまとめたものです。クライエントの症状が変化し、科学性や効果が強調され、また心理療法がアウトリーチ(現場に出向くこと)になっていく中で、震災支援での経験も踏まえて、イメージという方法論の新しい可能性を論じたものです。
阿部准教授の総説「不正直さの個人差を生み出す脳のメカニズム」が『Clinical Neuroscience』Vol.33 02月号に掲載されました
神経領域を扱った医学誌『Clinical Neuroscience Vol.33 02月号』(発行:中外医学社/2015年2月)に、阿部修士准教授の総説「不正直さの個人差を生み出す脳のメカニズム」が掲載されました。
「社会脳―Social Brain」がテーマとなった同誌2月号において阿部准教授は、昨年『Journal of Neuroscience』に掲載された自身の論文をはじめとするこれまでの研究成果の紹介やfMRI装置を用いた実験手法の解説をまじえながら、人間の正直さ・不正直さを生み出す脳のメカニズムに関する研究の背景と今後の展望を述べています。
-------------------------------------------------------
阿部修士 (2015)
不正直さの個人差を生み出す脳のメカニズム
Clinical Neuroscience 33 (2): 159-161 (中外医学社 東京)
-------------------------------------------------------
これまでの脳機能画像研究と限界点
近年のヒトの脳の研究においては,陽電子断層撮像法 (positron emission tomography:PET)や機能的磁気共鳴 画像法(functional magnetic resonance imaging:fMRI)といった脳機能画像法の進歩に伴い,心理学的な課題を行なっている最中の脳活動を画像化することが可能である. 21世紀に入ってからは,不正直さ,すなわち嘘の神経基盤の研究が飛躍的に増加しており,多くの研究成果が報告されている.(中略)
しかし,これまでの嘘の神経基盤に関する研究の多くにおいては,嘘を科学的に研究する上では見過ごせない重要な問題点が残されている.それは実験に参加している被験 者が,実験者から嘘をつくよう明示的に指示されていた点にある.嘘をつくことが実験という特殊な環境で正当化さ れていれば,被験者は嘘をつくことによる緊張感もなければ,罪悪感も生じない.本来,嘘は相手にばれないように つこうとするものであり,嘘をつくことが相手にあらかじめ把握され,かつ許容されている状況では現実世界における嘘とはいえない.したがって,「真実とは異なる回答をする」という点は比較的容易に実験的検討が可能であるが, 自発的な嘘の神経基盤にアプローチするのはそれほど簡単ではない.
こうした背景のもと,近年の研究では Greeneらが開発したユニークな実験パラダイムに基づいた研究が報告されている.筆者らは最近,彼らのパラダイムを応用した研究によって,不正直さの個人差を規定する脳のメカニズムの一端を明らかにしたので,本稿にて紹介する.
(総説より)
□関連ページ
Clinical Neuroscience Vol.33 (15年) 02月号 社会脳 ―Social Brain(中外医学社ウェブサイト)
阿部准教授の論文が『Journal of Neuroscience』に掲載されました(2014.8.6)
河合教授の『村上春樹の「物語」ー 夢テキストとして読み解く』が台湾で出版されました
河合俊雄教授の著書『村上春樹の「物語」夢テキストとして読み解く』(新潮社/2011年)が、中国語(繁体字)に翻訳され、2014年12月に台湾で出版されました。
同書は、村上春樹のベストセラー『1Q84』(新潮社/2009年)を中心とする一連の作品を夢分析の手法から内在的に捉えたユニークな書です。日本で出版された2011年以降、ユング派分析家が独自の視点で論じる村上春樹小説論として話題を集めています。河合教授の書籍は各国で出版されており、2001年には『ユング ― 魂の現実性(リアリティー)』(講談社/1998年)が中国にて翻訳出版されています。今回は台湾での出版となり、大手の通販サイト「博客來」をはじめとする書店のサイトで試し読みも可能です。
出版社の書籍ページ(台湾のサイト)
台湾のショッピングサイト「博客來」の書籍ページ(台湾のサイト)
日本語版『村上春樹の「物語」夢テキストとして読み解く』の書籍ページ(新潮社)
河合教授の講演録が収められた『わが師・先人を語る 1』(上廣倫理財団 編)が出版されました
公益財団法人上廣倫理財団が開催する「上廣フォーラム」の8つの講演がまとめられた書籍『わが師・先人を語る 1』(上廣倫理財団 編)が、2014年11月、弘文堂より刊行されました。同財団とこころの未来研究センターが2014年1月に共同開催した『上廣フォーラム~日本人の生き方 「わが先人・師を語る」京都大学知の伝統』で河合俊雄教授が講演した「河合隼雄との三度の再会」をはじめとする3つの講演も収録されています。
それぞれの学問分野で優れた業績を上げた碩学(学問を広く深く修めた人物)達が、その研究人生で影響を受けた先人や師について語った講演8つは、現代を代表する知のエキスパートが自身の歴史において大きな気づきや学びを与えてくれた偉大な人物の姿を、豊かな言葉と想いで語った貴重な記録となっています。
師としての河合隼雄について話してほしいという講演を頼まれて、非常にありがたい話だとは思ったのですが、一度はお断りしました。というのも、河合隼雄の学問的評価とか紹介とかなら可能であっても、まだまだ個人的に河合隼雄について話すことはできないと思ったからです。自分にとってはあまりに大切であったり、ことばにならなかったりするものです。また人から見て、父である師について語るのは変なのでは、無理があるのではと思われるかもしれません。下世話な興味しか抱かれないのではないかという危惧もあります。さらには、肉親による回顧は、暴露的なものか、表面的な美辞麗句かという両極になりがちです。ある一部しか話せないというのは、誠実ではないかもしれないとも思います。
しかしそれにもかかわらずにこうして講演を引き受けたのは、語っていかねばならない責任が自分にはあると思ったからです。それに少しでも河合隼雄という人を伝えていきたいという気持ちも強いです。それでそれなりに話していく筋を見つけたので、それに沿って話していきたいと思います。
(「河合隼雄との三度の再会」河合俊雄 より)
○内容紹介
●八人の碩学が語る師弟関係の妙。
高名な学者、現在活躍している第一線の研究者には、学問上そして人生の師・先人と仰ぐ人がいる。
彼らはいかに師・先人を求め、どのような交流によって高みに導かれたのだろうか。
現代の碩学8人が先人・師との貴重な体験や心の交流を語り、師を求め自らを高める奥義を明かす。
●目次
村井 實(教育学) :ペスタロッチー先生、長田新先生と私
熊野純彦(倫理学) :和辻哲郎と私
斎藤兆史(英語学) :新渡戸稲造の教養と修養
島薗 進(宗教学) :安丸良夫先生と私
中西 寛(政治学) :髙坂正堯先生の日本への思い
河合雅雄(霊長類学):今西錦司先生の仲間たちと私
河合俊雄(心理学) :河合隼雄との三度の再会
富永健一(社会学) :尾高邦雄先生と私
○書籍情報
『わが師・先人を語る 1』上廣倫理財団 編
・発行: 弘文堂(2014/11/4)
・四六判 306ページ
・定価(本体2,000円+税)
・ISBN-10: 4335160771
・ISBN-13: 978-4335160776
□関連ページ
上廣倫理財団との共催で「上廣フォーラム~日本人の生き方『わが先人・師を語る』京都大学知の伝統」を開催しました
公益財団法人上廣倫理財団
熊谷准教授の編著『Bhutanese Buddhism and Its Culture』が出版されました
熊谷誠慈准教授(上廣こころ学研究部門)が企画・編集をおこなった『Bhutanese Buddhism and Its Culture』(ブータン仏教とその文化)が、2014年12月、Vajra Publicationsより出版されました。同書には、ダムチョ・ドルジ内務文化大臣(ブータン王国)の巻頭言を皮切りに、カルマ・ウラ所長(王立ブータン研究所)、フランソワーズ・ポマレ研究ディレクター(フランス国立科学研究所)などの著名なブータン学者の論考が載録されています。本センターからは、熊谷准教授、松下賀和研究員、安田章紀研究員が寄稿しています。
ブータンといえば「国民総幸福(GNH)」という政策が有名ですが、この政策のみならず、ブータン文化全般の根底に仏教の思想が存在しています。熊谷准教授は、2012年1月より、王立ブータン研究所(Centre for Bhutan Studies)と共同で「ブータン仏教研究プロジェクト」(Bhutanese Buddhism Research Project)を進めてきました。本書は、同プロジェクトの中間報告として、ブータンの仏教と文化を、宗教学、人類学、開発学、教育学など多角的な視点から考察した研究書です。
○書誌情報
書名:Bhutanese Buddhism and Its Culture
著者:Seiji Kumagai(編著)
出版社:Vajra Publications
本体価格:40 USD
ページ数:250
初版発行:2014年12月1日
ISBN-10:9937623235
ISBN-13:978-9937623230
○目次
-Foreword by Damcho DORJI (Minister, Ministery of Home & Cultural Affairs)
-Introduction Seiji KUMAGAI
[Chapter 1. Nyingma School]
- Karma URA "Longchen's Forests of Poetry and Rivers of Composition in Bhutan: "The illuminating map - titled as forest park of flower garden - of Bumthang, the divine hidden land" composed in 1355 by Longchen Ramjam (1308-1363)"
- Akinori YASUDA "A Study of Rgyud bu chung Discovered by Pema Lingpa"
[Chapter 2. Drukpa Kagyu School]
- Gembo DORJI "The Lho-Druk Tradition of Bhutan: The Arrival and Spread of Buddhism"
- Karma URA "Monastic System of the Drukpa Kagyu ('Brug pa bka' brgyud) School in Bhutan"
- Thupten Gawa MATSUSHITA "Introduction to the Theory of Mahāmudrā by the Founder of Drukpa Kagyü, Tsangpa Gyaré Yeshe Dorje (1161-1211)"
[Chapter 3. Other Schools]
- Françoise POMMARET "Bon in Bhutan. What is in the name?"
- Seiji KUMAGAI "History and Current Situation of the Sa skya pa School in Bhutan"
[Chapter 4. Buddhist Culture]
- Lungtaen GYATSO "A Note on the Concept of Happiness and Prosperity"
- Akiko UEDA "Understanding the Practice of Dual Residence in the Context of Transhumance: A Case from Western Bhutan"
- Elizabeth MONSON "Alternative Voices: The Unusual Case of Drukpa Kunley ('Brug pa kun legs)"
- Riam KUYAKANON KNAPP "Contemplations on a Bhutanese Buddhist Environmental Narrative"
- Dendup CHOPHEL and Dorji KHANDU "Byis pa'i dpa' bo: The Dance of Youthful Heroes"
Amazon.comの商品ページ(英語サイト)
出版社の書籍紹介ページ(英語サイト)
鎌田教授の論考が『大阪保険医雑誌』に掲載されました
鎌田東二教授の論考が、大阪府保険医協会の発行する『大阪保険医雑誌』No.579(2014年12月号)に掲載されました。
本号の特集「宗教と医療」では、研究者、宗教者、医師、看護師など多様な執筆者がそれぞれの専門領域から宗教と医療との関わりについて寄稿しています。鎌田教授は、「日本の風土と宗教心」というタイトルにて、日本が持つ独特の文化と自然の多様性に着眼し、神話の世界や日本の国土の特徴、神仏習合文化の歴史などを紐解きつつ、こうした日本の風土のなかで練り上げられた「生態智」を医療に結びつけ、生態智に根ざしたケアサイクルの確立を進めることを提唱しています。また、鎌田教授自身の取り組みの一例として、『講座スピリチュアル学 』シリーズを企画編集、出版開始した経緯と活動のプロセスを紹介。既に刊行した2巻までを紹介し、「心のケア」から「スピリチュアルケア」への展開の具体的な進行、すなわち「宗教と医療」の合流の一里塚であることを提示しています。
日本の風土と宗教心 ー 鎌田東二 京都大学こころの未来研究センター教授
医療の現場においても、今後、「生態智」に根ざしたケアサイクルの確立が求められる。日本の「スピリチュアルケア "spiritual care" 」は、「ナチュラルケア "natural care-healing through nature"」を含む「風土臨床」(加藤清)と連結しながら、日本列島の多様な「声」を聴きとり、「草木言語」が「草木国土悉皆成仏」に向かっていく長い道のりを辿っていかなければならないのだ。
それが、大国主神という医療神(癒しの神)と医王と呼ばれたブッダや薬師如来と現じた仏性とが出逢ってきた国の「宗教と医療」の合流点ではないだろうか?
わたし自身は日本の「宗教と医療」を合流する試みとして、つい先ごろ、『スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』を企画編集し出版したばかりである。ここに言う「スピリチュアル学」とは、こころとからだとたましいの全体を丸ごと捉え、それを生き方や生きがいなどの生の価値に絡めて考察しようとする学問的探究を指す。
(論考より)
『大阪保険医雑誌』 | 大阪府保険医協会ウェブサイト (目次はこちら PDF)
内田准教授が第3章を執筆した『文化を実験する: 社会行動の文化・制度的基盤 』が出版されました
内田由紀子准教授が第3章を執筆した『文化を実験する: 社会行動の文化・制度的基盤 』が、2014年10月、勁草書房より出版されました。
「フロンティア実験社会科学」シリーズの一冊として刊行された同書は、山岸俊男 一橋大学国際経営研究科特任教授(北海道大学名誉教授)の編集により、内田准教授のほか、竹村幸祐滋賀大学准教授、増田貴彦アルバータ大准教授などセンターでの研究実績のある研究者を含む8名の執筆者がそれぞれの分野から最新の研究成果と知見を紹介しています。内田准教授は、第3章「文化変容と心の適応」を担当し、文化心理学の理論的背景、日本の変化とグローバリゼーション、制度的環境の変化、心の新しい文化への適応プロセスと今後の展望などについて幅広い知見から解説しています。
第3章 文化変容と心の適応
文化は具象物ではない。したがって, これが文化です, と示すことはできない. しかし私たちは「文化の中を生きている」という実感を持っている. 日常生活は文化的な習慣に彩られ, 人々は文化的ツール(たとえば言語)を使って他者とコミュニケーションをとっている. さらに, 文化はある一定の連続性を保ちながら, いっぽうで様々な環境要因あるいは文化同士の相互交流を通じて, 流動的に変化している. たとえば私たちは源氏物語や平家物語を読んで, 1000年前に生きた人々の心と現代の日本人の心に通底する何かを感じることもできるし, 時代による違いにも気づかされる.
文化心理学の研究では, 主に比較文化研究のデータを通じて「文化はどのように心の性質をつくりだし, また, 心の性質がどのように文化を再生産するのか」を明らかにしてきた(詳しくは増田による第1章参照). ここでいう「心の性質」は認知, 自己, 対人関係の基盤, 感情などである. 中でも文化的習慣や価値観によって形成される「自己」や, 「人一般についての理解のモデル」である「文化的自己観」についての理論がもたらしたインパクトは大きく(北山, 1998: Markus & Kitayama, 1991), その後日本文化における相互協調性, 北米文化における相互独立性に対応する心のあり方が検証されてきた. (中略)
本章では, 文化変容と心の適応について, 文化心理学の領域に限らない様々な証左をもとにして検証し, 今後文化変容の問題についてどのような取り組みが可能であるのか, その展望を述べてみたい.
(「はじめに」より)
『文化を実験する: 社会行動の文化・制度的基盤』
・編著:山岸俊男
・発売日:2014年10月25日
・判型・ページ数:A5判・216ページ
・定価:本体3,200円+税
・ISBN 978-4-326-34917-3
内田准教授の論考が『人間生活工学』に掲載されました
内田由紀子准教授の論考が一般社団法人人間生活工学研究センター(HQL)の発行する『人間生活工学』Vol.15 No.2(42巻/2014年9月発行)に掲載されました。論考は「特別寄稿」として巻頭に掲載され、内田准教授は「日本の「幸福」を考える」というタイトルで、文化・社会心理学者として取り組んできた幸福感の文化比較研究や幸福度指標をめぐる各国や日本の動き、国民総幸福の理念を提唱するブータンの特徴などを解説しています。
日本の「幸福」を考える ー 内田由紀子 京都大学こころの未来研究センター
1. はじめに:幸福の文化差
私たちにとって幸福とはどういうものだろうか. 生活の充実, 良い人間関係, やりがいのある仕事, 健康でいることなど, 様々なことが思い浮かぶ. もちろん全てがそろっていれば言うことはないが, 人生はそううまくいくことばかりでもない. いったい人々の日々日常の充足とはどこから得られるのだろうか.
日本が高度成長期に生活の充足と経済発展を求めたのは「日々の幸せ」と「人生の充実」を得るために違いないが, 一方で私たちの生活を豊かにしてくれているものが何もない時代にもきちんと幸福は存在していた. 考えてみれば幸せはとても不思議な概念である.
2. 文化と幸福
私がはじめに着手したのは文化心理学の立場による比較研究で, 日米において「幸せな人はどのような人か, そこには文化差があるのだろうか?」というものと, 「幸せの意味は文化によって異なるか?」という, 二つのラインの実証研究であった.
(論考より)
「人間生活工学」 Vol.15 No.2 | 一般社団法人 人間生活工学研究センター(HQL) (目次など詳細が掲載されています)
『講座スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』(企画・編/鎌田東二、執筆/鎌田東二ほか)が出版されました
鎌田東二教授が企画・編集をおこない、やまだようこ京大名誉教授、大井玄東大名誉教授、黒木賢一大阪経済大学教授らと執筆した『講座スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』が、2014年12月、ビイング・ネット・プレスより出版されました。
講座スピリチュアル学のシリーズ本は全7巻で、2016年8月までに刊行される予定です。第1巻「スピリチュアルケア」、第2巻「スピリチュアリティと医療・健康」、第3巻「スピリチュイアリティと平和」、第4巻「スピリチュアリティと環境」、第5巻「スピリチュアリティと教育」、第6巻「スピリチュアリティと芸術・芸能」、第7巻「スピリチュアリティと宗教」という構成で、「こころとからだとたましいをホリスティック(全体的)に捉え、生き方や生きがいなどの生の価値に絡めて考察しようとする学問的探求」という考え方のもと、様々な分野で活躍する第一人者らがそれぞれの専門からテーマについて論じていきます。
第2巻において鎌田教授は、テーマを医療・健康にした経緯について、東日本大震災という大きな出来事を契機に、「震災後の社会を、一人ひとりがどう生きぬいていくかという喫緊の深刻な実存的問題にまず取り組むべき」と考えたことを述べ、現代の医療、日本人の古来からのこころ観、いのち観について多角的な視点から問いかけ考える一冊にまとめた旨を紹介しています。また、終章では本巻の締めくくりとして、「スピリチュアリティと日本人のいのち観」というテーマで、『古事記』『日本書紀』などの神話の時代から日本人がみつめてきた「いのち」のありよう、仏教者の「いのち観」「健康観」、鎌田教授自身が提唱する「スパイラル史観」などを取り上げながら、「医療」と「健康」と「生き方」に関わる視座を提示しています。
「いのち」という「まるごと」の受け止めを要請する存在のあり方を日本の宗教文化の幾つかの局面から見てきた。「いのち」が「すこやかであること」、それがどのような事態であり、存在様態なのか。気の遠くなるような多様性を本領とする「いのち」を「まるごと」受け止めるためには、どのような心の構えや生き方が必要となるのか。本終章の「はじめに」で述べた東京大学で始まった死生学の探究はその作業工程であり、高野山大学のスピリチュアルケア学科や日本スピリチュアルケア学会の創設も同様である。
スパイラル史観を提唱してきたわたしからすると、この様相は中世の「メメント・モリー(死を想え!)」を想起させ、いよいよ現代が中世的な時代に突入したことを感じさせる。終末論や末法思想が流行した中世社会が総体的にそうであったように、時代も事態も環境もますます悪化し劣化していく。人類社会が好転していく兆しも材料もない。そのような希望の途絶えたかに見える社会の中で、希望を、光を見つけて、生きる力にしていくためにはどのような視力と想像力が必要になるのか。それには歴史を串刺しにして先を見る視力と想像力が必要であろう。 (「おわりに」より)
『講座スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』
企画・編・著:鎌田東二
著:山本竜隆・帯津良一・上野圭一・浦尾弥須子・大井玄・長谷川敏彦・やまだようこ・黒木賢一・黒丸尊治・鎌田東二
出版社:ビイング・ネット・プレス
初版発行: 2014年12月
単行本: 285ページ
定価:1,800円+税
ISBN-10: 4908055025
ISBN-13: 978-4908055027
鎌田教授が寄稿した『乳房の文化論』が出版されました
鎌田東二教授が論考を寄稿した『乳房の文化論』が、2014年11月に淡交社より出版されました。
本書は、20年以上の歴史をもつ乳房文化研究会で発表された論考から13編がまとめられた一冊です。「特に人文科学の面における優れた論考」のひとつとして、鎌田教授の「チチとホト─乳房の日本文化史」が収められています。古くから、母性やエロティシズムの象徴とされてきた乳房、女陰の宗教文化史について、鎌田教授は神話や信仰の世界でそれらが大切にされてきた意味と具体的事例、自然のなかで信仰的シンボルとして創造された「チチ」「ホト」を図版で紹介しながら、宗教学、民俗学の視点から論考しています。
以前、ポーラ文化研究所発行の『i s』という雑誌が「文化としての乳房」(66号、1994年)という特集を組んだ時、私は日本思想史の観点から「乳房の森」という一文を書いた。
一般的に言って、乳房は人類文化にとって「母」を象徴する身体部位としてある。その証左に、『万葉集』において「母」にかかる枕詞は「たらちね」である。「たらちね」とは「垂れる乳の根」を差す「垂乳根」と表記する。が、「垂れる」という字は当て字で、乳房が垂れているという意味ではない。「垂乳根」とは「乳の満ちあふれる根源」という意味である。というのも、「垂れる」とは「足るを知る」の「足る」と同語源で、「満ちあふれる」とか「充満する」という意味だからである。(中略)
同時に、男性にとって女性の乳房は、母的な根源的生命の次元だけではなく、蠱惑(こわく)や誘惑の対象となり、エロティシズムや性と結びつく。「母」の象徴としては誕生や養育や生命を意味するが、同時にそれは、成長した男にとっては、蠱惑する性的シンボルとも文化的チャームを持つ身体部位ともなり、さまざまなメタファーとしてはたらく。それは時には、目も眩む眩暈(げんうん)的なセックスシンボルとしてはたらく。この強烈な力と作用とは何なのか?
そこには、生成する産出力に対する畏怖と神秘が含まれている。
(「チチとホト─乳房の日本文化史」論考「はじめに」より)
□書籍情報
『乳房の文化論』乳房文化研究会/編
出版社:淡交社
四六判 328頁
定価:本体2,052円
発売日:2014年11月25日
ISBN:978-4-473-03980-4
河合教授が解説を執筆した『河合隼雄の幸福論』が出版されました
河合俊雄教授が解説を執筆した『河合隼雄の幸福論』(PHP研究所)が、2014年9月に出版されました。河合隼雄京都大学名誉教授が東京新聞と中日新聞に寄せた59のエッセイが集められており、もとは1998年に『しあわせ眼鏡』という題で海鳴社から出ていたものがスタイルを新たに復刊しました。
心理学者として多くの人や出来事に関わってきた著者は、さまざまなエピソードを紹介しながら「幸福」について綴っています。軽妙な語り口のなかに、はっとさせられる生き方のヒントが数多く詰まっており、読み進めるうちに心がほぐれ、いつしか「幸福は、人生の一副産物にすぎないのではないか」という著者の言葉がすっと心に染み通ります。河合俊雄教授は、本が作られ復刊に到った経緯をはじめ、著者の「幸福」をめぐる豊かな考察の裏側にある心理学者としての姿勢、エッセイが書かれた90年代という時代について解説し、本の味わいをより深くしています。
「幸福論」とは言っても、これは決してある幸福観を体系的に展開したり、ましてやそれを読者に押しつけたりするものではない。「はじめに」にあるように、心理療法家である河合隼雄からすると、何らかの意味で不幸な状態にあって、そこから脱却して幸福を求めている人に会うことが多い。その意味で「幸福」とは何だろうと考えざるをえない。しかし何をもって幸福というのか、そもそも幸福とは大切なのか、まさに「深く考えはじめると難しくなる」のが幸福の特徴とさえ言える。
それに対して本書は、著者が様々なことを経験していく中で、幸福ということをそのつど考えていったものである。(中略)
具体的な経験を元にしていくのは、幸福についての興味深いアプローチであると思われる。というのも抽象的に幸福論や幸福観を扱っても、それはしょせん「絵に描いた餅」にとどまるのではなかろうか。われわれは常に自分自身の限られた人生の中で、幸福を見出していかざるをえない。その意味で具体的な経験を手がかりにして幸福について考えていくのはすぐれた方法であろう。そこには必然的に具体例による制限が加わり、また著者の人間が関わってくる。さらにこれは、心理療法における「事例研究」の大切さを常に強調していた河合隼雄の姿勢にもつながる。
(「《解説》河合隼雄の幸福論」より)
『河合隼雄の幸福論』
著者:河合隼雄著 《臨床心理学者》
発行:PHP研究所/2014年9月
価格:1,296円(本体価格1,200円)
判型:新書判並製
ISBN:978-4-569-82108-5
出版社の書籍紹介ページ
Amazon.co.jpの書籍ページ
河合隼雄財団:『河合隼雄の幸福論』のご紹介(書評が読めます)
鎌田教授と河合教授の対談が載った『にほんのきれいのあたりまえ』が出版されました
鎌田東二教授と河合俊雄教授の対談が載った書籍『にほんのきれいのあたりまえ』(編集:きれいのデザイン研究所、発行:フィルムアート社)が、2014年10月に出版されました。
本書は、花王株式会社と東京藝術大学美術学部デザイン科が、日本のデザイン文化を考えるプロジェクトの成果に様々な分野で活躍する専門家たちのインタビュー等を加えて作り上げた一冊です。鎌田教授と河合教授は、3章「変わりゆくきれい」のなかで「日本のこころと未来 きれいが動かすこころと共に」というテーマで対談しました。神道の精神に根付く「きれい」は「清浄」という意味に通じるとして古事記や日本書紀を紐解きながら紹介する鎌田教授、西洋とは異なる美の倫理が存在し、箱庭療法など日本人のこころと美意識に呼応した方法でおこなわれる心理療法が日本にはあるという河合教授。日本人の精神世界と現代までの変化について、神話、ユング心理学などそれぞれの専門からの知見と考察をまじえながら、未来のこころのあり方について語り合っています。
本の装丁や中身もきれいな本です。興味のある方は、ぜひご覧ください。
『にほんのきれいのあたりまえー新しいくらし方をデザインする』
日本文化に深く浸透する「きれい」を読み解く、生活・文化・デザイン考。
「未来につながるものづくり」を考える、花王×藝大のプロジェクトの集大成!
きれいのデザイン研究所=編
発行:フィルムアート社
発売日:2014年10月16日
四六判・並製|264頁|ISBN 978-4-8459-1447-0|価格:1,300円+税
【一般公募型連携プロジェクト研究成果】内田准教授の共著論文が『PLoS ONE』に掲載されました
内田由紀子准教授が医学研究科と共同実施した糖尿病治療と心のあり方についての日米比較研究の成果が論文公刊され、国際科学雑誌『PLoS ONE』に2014年10月15日付で掲載されました。
"Social orientation and diabetes-related distress in Japanese and American patients with type 2 diabetes," Kaori Ikeda, Shimpei Fujimoto, Beth Morling, Shiho Ayano-Takahara, Andrew E Carroll, Shin-ichi Harashima, Yukiko Uchida, and Nobuya Inagaki, PLOS ONE, online October 15, 2014,
本研究は、こころの未来研究センターの一般公募型連携プロジェクトで内田准教授が受け入れ教員となり、京都大学医学部附属病院の池田香織特定助教、大学院医学研究科の稲垣暢也教授、高知大学医学部の藤本新平教授、本センターにも2009年から2010年に滞在していた米国Delaware大学のBeth Morling准教授らと共に進められました。糖尿病の外来患者を対象とする質問紙調査をおこない分析した結果、日本においては身近な他者からのサポートが、糖尿病患者の心の負担を軽減する要因となっていることが明らかになりました。(論文はオープンアクセスジャーナルですので、どなたでも読むことができます。こちら)
論文公刊のニュースと詳しい内容は、京都大学の公式ウェブサイトにおける「研究成果」ページで研究者の写真、コメントと共に紹介されました。ぜひ合わせてご覧ください。
研究成果:糖尿病患者の心の負担に日本人特有の要因の存在 -協調性を重視する文化の影響- - 京都大学
内田准教授が寄稿した『女性研究者とワークライフバランス: キャリアを積むこと、家族を持つこと』が出版されました
内田由紀子准教授が論考を寄稿した『女性研究者とワークライフバランス: キャリアを積むこと、家族を持つこと』が、2014年9月に新曜社より出版されました。
本書は、日本心理学会が発酵する一般向けの学会誌『心理学ワールド』第52号から57号に掲載されたコラムと、第76回日本心理学大会でのワークショップ「研究者のワーク・ライフ・バランス:いろいろな子育てのかたち」をベースに、5人の心理学者がそれぞれの結婚、育児、研究との両立、社会との向き合い方、気持ちの持ちよう、パートナーとの関わりなどについて綴ったユニークな本です。論考の最後にはそれぞれの配偶者のコラムも掲載され、パートナーの目線からの意見も合わせて読むことができます。
2003年に結婚し、一児を育てながらこころの未来研究センターで研究活動に取り組む内田准教授は、自身の結婚、出産、育児について、パートナーや家族と共に苦心と工夫を重ねながら、自分たちの仕事と暮らしに適したスタイルを編み出していった経緯を詳しく紹介しています。配偶者のコラムでは、みずから育児休業を取り妻を支えた夫側の育児観や、夫婦それぞれが納得して家庭環境を築き上げるために議論を重ねることの重要性などが説かれており、読みごたえのある内容となっています。
遠距離結婚生活の中での育児と研究生活 内田由紀子
この書籍を手にしておられるのは研究者のワークライフバランスの問題に、社会的・学術的あるいはごく個人的な感心を持っているひとではないだろうかと思います。そしてその中にはこれから結婚や出産を控えているひと、あるいはその希望を持っている人が含まれていると思います。
私自身が結婚し、子どもを産む前にいちばん聞きたかった話しはなんだろうと考えてみると、「身近な、けれどもロールモデルになる」話しでした。「子育てと研究の両立はパワフルにこなしています。第三者にも誰にも頼らず自分たちでバリバリ仕事をしながら子どもを(しかも三人や四人)育てました」というスーパーウーマンの話を聞いても「ああ、自分には無理だ......やめておこう」と尻込みするだけだったからです。むしろ、普通の人が普通に苦労しながら、それでもなんとかなるのかどうかを知りたかった。(中略)
家庭生活と研究生活のバランスの取り方は、家族の関係性や事情によることであり、他人の話がどれぐらい情報価を持つかはよくわかりません。人の話は人の話に過ぎない中で、第三者の体験談が役に立つとすれば、ライフスタイルの一つのオプションを知ることで、自分の「常識」や「こうあるべき」の再評価をする機会となることにあると思います。遠距離生活も、夫の育児休業も依然として日本社会の本流とは言えませんが、私の経験を一つのカウンターケースとして呈示できればと思います。
(「1 はじめに」より)
□書籍情報
『女性研究者とワークライフバランス――キャリアを積むこと、家族を持つこと』
仲真紀子・久保(川合)南海子 編
出版社:新曜社
A5判並製144頁
定価:本体1600円+税
発売日:2014年9月17日
ISBN 978-4-7885-1406-5
『講座スピリチュアル学 第1巻 スピリチュアルケア』(企画・編/鎌田東二、執筆/カール・ベッカー、鎌田東二ほか)が出版されました
鎌田東二教授が企画・編集をおこない、カール・ベッカー教授、島薗進東京大学名誉教授・上智大学グリーフケア研究所特任所長、井上ウィマラ高野山大学教授らと執筆した『講座スピリチュアル学 第1巻 スピリチュアルケア』が、2014年9月、ビイング・ネット・プレスより出版されました。
講座スピリチュアル学のシリーズ本は全7巻で、2016年8月までに刊行される予定です。第1巻「スピリチュアルケア」、第2巻「スピリチュアリティと医療・健康」、第3巻「スピリチュイアリティと平和」、第4巻「スピリチュアリティと環境」、第5巻「スピリチュアリティと教育」、第6巻「スピリチュアリティと芸術・芸能」、第7巻「スピリチュアリティと宗教」という構成で、「こころとからだとたましいをホリスティック(全体的)に捉え、生き方や生きがいなどの生の価値に絡めて考察しようとする学問的探求」という考え方のもと、様々な分野で活躍する第一人者らがそれぞれの専門からテーマについて論じていきます。
鎌田教授は、第1巻の「はじめに」において、講座スピリチュアル学の全体像を示し、刊行の経緯やスピリチュアルの定義、第1巻の構成について解説しています。カール・ベッカー教授は、「第一部 スピリチュアルケアと宗教・医療」にて「スピリチュアル・ケアとグリーフケアと医療」というテーマで執筆。長年に渡る調査研究をもとに、死を前にした患者の受容プロセス、家族への悲嘆ケア、従事者による介入の種類等について現状の問題や将来的な課題も含めて論じています。終章では再び鎌田教授が「スピリチュアルケアと日本の風土」というテーマで「スピリチュアル」や「スピリチュアリティ」、「スピリチュアルケア」を考えるにあたっての大前提となる日本文化のバックグラウンドを概観。日本の風土的特徴や『古今和歌集』『古事記』などの文化遺産から見た日本人の精神性などに焦点をあてながら、歴史的文脈をたどり、「生態智」に根ざした日本独自のスピリチュアルケアのあり方について考察し、第1巻を結んでいます。
「講座スピリチュアル学」と「スピリチュアルケア」
本書『スピリチュアル学第一巻 スピリチュアルケア』は、「スピリチュアル学と銘打った全七巻シリーズの第一巻目として編集された。
「スピリチュアル学」とは、こころとからだとたましいの全体を丸ごと捉え、それを生き方や生きがいなどの生の価値に絡めて考察しようとする学問的探求をいう。また大変重要なことであるが、この世界における人間存在の位置と意味についても真剣に問いかける姿勢も保持している。そのような意図や方向性を持ちつつ、心については心理学、体については生理学や神経科学(脳科学)、魂については宗教学や神学といったような、従来の細分化された専門分野に限定されてきた学術研究の枠を取っ払って、こころとからだとたましいと呼ばれてきた領域や現象をホリスティック(全体的)に捉えようとしたのが本シリーズである。(「はじめに」より)
『講座スピリチュアル学 第1巻 スピリチュアルケア』
企画・編・著:鎌田東二
著:伊藤高章、高木慶子、島薗進、窪寺俊之、谷山洋三、カール・ベッカー、井上ウィマラ、大下大圓、滝口俊子
出版社:ビイング・ネット・プレス
発売日: 2014/9/5
単行本: 285ページ
定価:1,800円+税
ISBN-10: 4908055017
ISBN-13: 978-4908055010
河合教授の論文が『日本病跡学雑誌』(日本病跡学会発行)に掲載されました
河合俊雄教授の論文「ユング『赤の書』における近代意識とその超克』が、日本病跡学会の発行する機関誌『日本病跡学雑誌』第87号に掲載されました。
第60回 日本病跡学会総会
●シンポジウム
「ユング『赤の書』における近代意識とその超克」 河合俊雄
病跡学という観点からすると、この『赤の書』がユングの精神的危機をきっかけとして成立してきたことが興味深い。それはユングが書いているように,「精神病」や, あるいはもっと正確にいうと統合失調症のリスクがあったものなのであろうか。あるいはどのような病理的な状態にあったと考えられるのであろうか。(中略)
ユングの体験した精神的危機, またその結果として『赤の書』に示されてきたイメージは, 統合失調症に特徴的なものとして理解されるのであろうか。これについて, 大部分はすでに刊行された拙論によりつつ, それを病跡学の視点からも考察し直し, さらに新たな観点を付け加えていきたい。(論文より)
河合教授と小木曽研究員の論文が『Analytical Psychology in a Changing World』に掲載されました
河合俊雄教授、小木曽由佳日本学術振興会特別研究員それぞれの論文が『Analytical Psychology in a Changing World: The search for self, identity and community』(Routledge/Edited by Lucy Huskinson, Murray Stein)に掲載されました。
Description:
How can we make sense of ourselves within a world of change?
In Analytical Psychology in a Changing World, an international range of contributors examine some of the common pitfalls, challenges and rewards that we encounter in our efforts to carve out identities of a personal or collective nature, and question the extent to which analytical psychology as a school of thought and therapeutic approach must also adapt to meet our changing needs.
The contributors assess contemporary concerns about our sense of who we are and where we are going, some in light of recent social and natural disasters and changes to our social climates, others by revisiting existential concerns and philosophical responses to our human situation in order to assess their validity for today. ーー
Analytical Psychology in a Changing World will be essential reading for Jungian and post-Jungian scholars and clinicians of depth psychology, as well as sociologists, philosophers and any reader with a critical interest in the important cultural ideas of our time.
http://www.routledge.com/books/details/9780415721288/
VIEW INSIDE THIS BOOK(本の一部をご覧いただけます)
2. Big Stories and Small Stories in the Psychological Relief Work after the Earthquake Disaster: Life and Death ーーToshio Kawai
11. The Red Book and Psychological Types: A qualitative change of Jung's typology ーーYuka Ogiso
阿部准教授の論文が『Journal of Neuroscience』に掲載されました
阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)の論文「Response to anticipated reward in the nucleus accumbens predicts behavior in an independent test of honesty」が、8月6日付で『Journal of Neuroscience』に掲載されました。
以下、論文の概要です(記者発表資料より掲載)。
「どうして正直者と嘘つきがいるのか? -脳活動からその原因を解明―」
論文タイトル:Response to anticipated reward in the nucleus accumbens predicts behavior in an independent test of honesty
掲載誌:Journal of Neuroscience
著者:Nobuhito Abe (Kyoto University), Joshua D. Greene (Harvard University)
掲載日:2014年8月6日(米国東海岸時間)
□論文の概要
世の中には正直者と嘘つきがいますが、どうしてそのような個人差があるのかはわかっていません。今回の研究では、機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging; fMRI)と呼ばれる脳活動を間接的に測定する方法と、嘘をつく割合を測定する心理学的な課題を使って、正直さ・不正直さの個人差に関係する脳の仕組みを調べました。
その結果、報酬(今回の研究ではお金)を期待する際の「側坐核(そくざかく)」と呼ばれる脳領域の活動が高い人ほど、嘘をつく割合が高いことがわかりました(図1)。さらに、側坐核の活動が高い人ほど、嘘をつかずに正直な振る舞いをする際に、「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」と呼ばれる領域の活動が高いこともわかりました(図2)。
今回の研究は、側坐核の活動の個人差によって、人間の正直さ・不正直さがある程度決まることを示した、世界的にも初の知見です。
大塚研究員の共著『自己を知る脳・他者を理解する脳 ――神経認知心理学からみた心の理論の新展開』が出版されました
大塚結喜センター研究員の共著『自己を知る脳・他者を理解する脳 ――神経認知心理学からみた心の理論の新展開』が2014年7月、新曜社より刊行されました。
「社会脳シリーズ」第6巻にあたる同書は苧阪直行京都大学名誉教授の編集により、大塚研究員をはじめとする8名の執筆者がそれぞれの分野から最新の研究成果と知見を披露しています。大塚研究員は、第6章「心の理論の脳内表現」を担当し、「心の理論の脳内基盤」、「Eネットワーク」、「人称問題」などについて執筆しています。
自分のことは自分が一番よく知っていると思いがちですが、本当にそうでしょうか? 自分を知ることは他者を理解することより難しいかもしれません。本巻では、自己と他者の意識はどのように脳内で表現されているのか、「他者の心」を推測する心のはたらきである「心の理論」の脳内メカニズムはどのようなものかを、脳イメージングを駆使したさまざまな研究を通して紹介します。自分の手ではないゴムの手の模型が、あたかも自分の手であるかのように感じられるラバーハンド実験や、意図や攻撃、情動の脳メカニズムの探索、他者と同調する脳を2台の脳スキャン装置を連動させて観察する実験など、今回も興味のつきない内容です。
(出版社による書籍紹介より)
『自己を知る脳・他者を理解する脳 ――神経認知心理学からみた心の理論の新展開』
・編者:苧阪直行
・発売日:2014年7月25日
・定価:本体3600円+税
・四六判上製320頁+カラー口絵15頁
・ISBN 978-4-7885-1397-6
鎌田教授の報告文が『災害と文明ー東日本大震災と防潮堤問題を考えるー報告書』に掲載されました
比較文明学会が2013年9月に開催したシンポジウム『災害と文明ー東日本大震災と防潮堤問題を考えるー』の報告書に、鎌田東二教授の報告文が掲載されました。
東日本大震災の被災地では、復旧・復興過程において海岸線に巨大な防潮堤が建設されることが決まり、すでに着工されています。比較文明学会では、この「防潮堤問題」について中長期的に検討し、文明の未来を構想する手がかりを探るためのプロジェクトを立ち上げ、第一回のシンポジウムをおこないました。鎌田教授は、シンポジウムの報告書に「生態智を宿す聖地文化と文明の欲望に孕むコンクリート巨大防潮堤」というタイトルにて追加報告文を寄稿。巨大防潮堤について、日本に古くから息づく「自然に対する深く慎ましい畏怖・畏敬の念に基づく、暮らしの中での鋭敏な観察と経験によって練り上げられた、自然と人工との持続可能な創造的バランス維持システムの知恵と技法」を宿す聖地文化の構造と機能を無視する施策として、強く非難すると共に、「自然災害が頻発する時代に『生態智』を宿す聖地文化を活かすことのできる緑の文明の構築を未来に向かって強く建設していくべきである」と提案しています。
「生態智を宿す聖地文化と文明の欲望に孕むコンクリート巨大防潮堤」 鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター)
日本列島の中で生きていく際に、「聖地」は一つの備えと祈りと覚悟の担保物件であり、安全のスペアであった。つまり、聖地という聖なる場所は、自然災害の避難地として用意されたのである。日本列島という特異な風土の中で育まれた日本の聖地文化は自然災害の鎮めや防災・減災や警告と密接に結びついている。(中略)
日本の聖地文化の具体事例といえる延喜式内社が、自然災害の襲来に対する防災・安心・安全装置や拠点でもあったことを指摘することができる。つまるところ、日本の聖地文化とは、日本列島の地質・地形・風土の中から生まれた「生態智」すなわち「自然に対する深く慎ましい畏怖・畏敬の念に基づく、暮らしの中での鋭敏な観察と経験によって練り上げられた、自然と人工との持続可能な創造的バランス維持システムの知恵と技法」を深く宿しているのである。
そのような地質・地形・聖地文化の構造と機能を無視するかのように、東北被災地沿岸部に何百キロにわたって一律にコンクリートの防潮堤が建設されつつある。暴挙であり、歴史から学ぶことのない態度であるといえる。
(報告書より)
□比較文明学会のウェブサイト
http://www.jscsc.gr.jp/index.do
鎌田教授の講演録が『日独文化研究所シンポジウム<生と死>』に掲載されました
日独文化研究所が開催した公開シンポジウム「生と死」の講演を収録した書籍が刊行されました。鎌田東二教授は、同シンポジウムで「神道の生死観―いのち、来るときと去るとき」という演題で講演しました。神道の成り立ちと真髄、神道的生死観の様相について、『古事記』をはじめとする様々な物語や伝承を紹介しながら、古代、中世、近世、近代と順を追って詳しく解説。日本文化と神道との関わり、生態智などに象徴される神道的な考え方が、いかに日本人の精神と生活に脈打ち現代日本の礎を築き上げてきたか、ダイナミックに考察しています。
なお、鎌田教授のほかには、八木誠一東京工大名誉教授、佐藤康邦放送大学教授、谷徹立命館大学教授、鷲田清一大谷大学、大阪大学名誉教授、秋富克哉京都工芸繊維大学教授、中井吉英関西医科大学名誉教授、丸橋裕兵庫県立大学教授らが講演者に名を連ねています。
「神道の生死観―いのち、来るときと去るとき」 鎌田東二
本論に与えられたテーマは、「神道の生死観」であるが、そこでの根源語は、「むすび」と「ひらき」である。「むすび」とは、いのちを生成するはたらき、対して、「ひらき」とは、開放するという意味ばかりではなく、その反対に、解散するとか消滅するとか無くなるという含意も持っている。例えば、「おひらきにする」と言ったら、おしまいにする、解散するという意味合いである。とすれば、無くなるということは単なる消滅ではなく、もう一つの世界へ開いていくという意味合いも持っているということになるが、この生死観を古くからの大和言葉を使って言えば、「むすびとひらき」であると考えるのである。
このような「むすびとひらき」観を神道的生死観の核と捉えつつ、次に、古代神道の生死観、中世神道の生死観、近世神道の生死観、また近代の神道とかかわる学問的探究の生死観の流れの対局をトレースしておきたい。そしてその対局図を踏まえて、そもそも神道とは何か、また神道と日本文化とはどのような接点とつながりを持っているのか、あるいはまた神道は日本文化をどのように支えてきたか、神道は日本文化の中にどのような形であらわれているのかについて言及してみたい。(講演録より)
○書籍情報
『日独文化研究所シンポジウム<生と死>』
編・発行:公益財団法人 日独文化研究所
発売 こぶし書房
発売日: 2014/7/30
価格: 2200円+税
http://www.nichidokubunka.or.jp/kankou2.html
阿部准教授と伊藤研究員の論文が『Brain and Cognition』に掲載されました
阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)と伊藤文人日本学術振興会特別研究員の共著論文「The neural basis of dishonest decisions that serve to harm or help the target」が、『Brain and Cognition』90号に掲載されました。
Abe N, Fujii T, Ito A, Ueno A, Koseki Y, Hashimoto R, Hayashi A, Mugikura S, Takahashi S, Mori E (2014)
The neural basis of dishonest decisions that serve to harm or help the target
Brain and Cognition 90: 41-49
http://www.journals.elsevier.com/brain-and-cognition/
(論文の紹介/著者より)
人間は自分の利益のために、他者を傷つけてしまう「利己的な嘘」をつく場合もあれば、他者を思いやって「利他的な嘘」をつく場合もあります。今回の研究ではfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて、この二種類の嘘の意思決定に関わる神経基盤が異なることを明らかにしました。以前に報告したHayashi et al. (2014) の論文では、これら二種類の嘘に対する俯瞰的な道徳判断の神経基盤を報告しましたが、今回の論文では自分自身の意思決定に関わる神経基盤を報告しました。
.
河合教授の講演録が『ユング心理学研究 第7巻 第1号 ユング派の精神療法』に掲載されました
河合俊雄教授の講演録が『ユング心理学研究 第7巻 第1号 ユング派の精神療法』に掲載されました。2013年6月に京都大学百周年時計台記念館で開催された日本ユング心理学会第2回大会のプレコングレスに登壇した鷲田清一氏(大谷大学教授、大阪大学名誉教授)の基調講演において、河合俊雄教授は全体の進行役ならびに指定討論者として、伊藤良子学習院大学教授と共に鷲田氏とディスカッションをおこないました。本書には講演のエッセンスと討論の記録が掲載されています。
当日の様子は下記のレポート記事でもご覧いただけます。
「身殻と身柄―<ひと>をめぐって」河合俊雄教授が日本ユング心理学会第2回大会プレコングレスに登壇しました - ニュース:こころの未来研究センター
『ユング心理学研究 第7巻 第1号 ユング派の精神療法』
○内容紹介
精神科医にしてユング派分析家の武野俊弥氏が「ユング派の精神療法とは何か」という本質的な問いをめぐって自説を展開した講演録を巻頭に収録。とくに、近年進歩が著しい脳科学が精神療法全般に及ぼす影響を論じたくだりは、心理学の今後を考えていくうえで示唆に富む。哲学者の鷲田清一氏を招いて行われたシンポジウムの記録では、「身体」に関する鷲田氏の問題提起を受け、心の病理やその臨床など多様な観点から議論が展開される。(学会ウェブサイトより)
○書籍情報
・書名:『 ユング心理学研究 第7巻 第1号 ユング派の精神療法』
・編者:日本ユング心理学会編
・定価:本体2,000円+税
・刊行年月日:2014年6月10日
・ISBN:978-4-422-11496-5
・判型:A5判 186頁
大塚研究員の論文が『老年精神医学雑誌』に掲載されました
大塚結喜センター研究員(認知心理学)の論文「高齢者のワーキングメモリ」が、日本老年精神医学会の準機関誌『老年精神医学雑誌』25巻に掲載されました。
大塚結喜(2014)高齢者のワーキングメモリ,老年精神医学雑誌, 25, 498-503
<抄録>
ワーキングメモリは高齢者の記憶システムの中でも最も衰えている記憶機能のひとつである.その原因は脳の前頭葉の衰退にあると考えられてきたが,近年のニューロイメージング研究では前頭葉だけでなく,ワーキングメモリーを支える脳内ネットワークが高齢者と若年者では異なっている可能性が指摘されている.本論文では,高齢者のワーキングメモリを支える脳内ネットワークを検討したニューロイメージング研究について紹介する.
鎌田教授の論文が『文明の未来』(東海大学出版部)に掲載されました
鎌田東二教授の論文「生態智と平安文明」が、2014年5月に刊行された『文明の未来 いま、あらためて比較文明学の視点から 』に掲載されました。
本書は、比較文明学会創立30周年を記念して出版された論文集です。第一部「いま、生態系と文明系を問う」、第二部「いま、生態智と文明智を問う」、第三部「いま、比較文明の方法論を問う」、第四部「文明の過去から未来を透視する」という四部構成になっており、鎌田教授の論文「生態智と平安文明」は第二部に収録されています。鎌田教授は、二十一世紀最大の課題である地球環境問題を克服し、持続可能な還流的「世界平安都市」「平安文明」をデザインしていくために不可欠な智として「生態智」を取り上げ、先駆者である南方熊楠、宮沢賢治らの足跡や東日本大震災後の歩みを紹介しながら、未来の文明の足掛かりとなる道筋について考察しています。
生態智と平安文明 鎌田東二
いつの時代にも苦悩や悪や不安が絶えることはなかったが、二一世紀初頭の今日、現代文明の負の遺産がこれまでにはないような「累積赤字」を積み重ねていることに誰しもが深い不安と惧れを感じている。(中略)
これまでの「収奪文明」がもたらしてきた地球的危機を解決し、持続可能な還流的「平安文明」(循環調和型の平らかで安らかな、平和・安心・安全・安寧の文明)を創造していくことが求められているが、そのためには「生態智」文化の再発掘と再布置・再構築が欠かせないだろう。「生態智」とは、「自然に対する深く慎ましい畏怖・畏敬の念に基づく、暮らしの中での鋭敏な観察と経験によって練り上げられた、自然と人工との持続可能な創造的バランス維持システムの技法と知恵」である。そうした「生態智」の事例と思想を、「平安京」と呼ばれて千年以上にわたり「みやこ」として維持してきた物質的基盤(水、食料、燃料、材木、ゴミ問題、人の流れ)と技術的基盤(芸術、技芸、学問)と精神的基盤(宗教、象徴性、呪術性、霊性)の中から探り当てて、未来の「平安文明の創造」に活かすモデルとも歴史都市事例ともしてみたい。その際、「生態智」思想の探求と実践例として、南方熊楠と宮沢賢治という二人の「K・M」の取組事例を検討しつつ、未来モデルを構想してみることにする。(論文より)
○書籍情報
『文明の未来 いま、あらためて比較文明学の視点から 』
編集:比較文明学会30周年記念出版編集委員会
出版社: 東海大学出版部
発売日: 2014/5/15
単行本: 318ページ
価格: 3000円+税
ISBN-10: 4486019830
ISBN-13: 978-4486019831
内田准教授の論文が『Japanese Psychological Research』に掲載されました
内田由紀子准教授の論文「You were always on my mind: The importance of "significant others" in the attenuation of retrieval-induced forgetting in Japan」が、日本心理学会の発行する英文学術誌『Japanese Psychological Research』に掲載されました。
本論文では「検索誘導性忘却」という記憶研究のパラダイムを用いて、欧米とは異なり日本文化においては、「友人」や「家族」などのいわゆる「重要な他者」が「自己」と同様の効果を持って「忘却の耐性」を引き起こすことを示しています。
Yukiko Uchida, Taiji Ueno,& Yuri Miyamoto. You were always on my mind: The importance of "significant others" in the attenuation of retrieval-induced forgetting in Japan. Japanese Psychological Research. 21 APR 2014. DOI: 10.1111/jpr.12051
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jpr.12051/abstract
○Abstract
Research on memory has demonstrated that remembering material can cause forgetting of related information, which is known as retrieval-induced forgetting (RIF). Macrae and Roseveare identified "self" as one of the boundary conditions of this effect in the Western cultural context, showing that RIF was eliminated when material was encoded to be related to the self (known as self-referential effect), but not to significant others. In this study, we predicted and found that significant others could be another boundary condition in Japanese cultural contexts in which self and agency are more interdependent or conjoint; RIF was observed neither under best-friend-related encoding nor under family-related encoding in Japan. The effect of significant others is found uniquely in Japanese cultural contexts, suggesting that the cultural model of self has significant power in the spontaneous system of memory.
ベッカー教授の共著『現代文明の危機と克服』が出版されました
カール・ベッカー教授の共著書『現代文明の危機と克服 地域・地球的課題へのアプローチ』が、2014年4月、日本地域社会研究所・コミュニティ・ブックスより出版されました。
人文社会科学系の研究者らによるサステイナビリティに関する論考がまとめられいます。ベッカー教授は、「仏教の立場から考える環境倫理と企業倫理」というタイトルで執筆。現代日本の環境問題や社会システムの課題を乗り越えるために日本に根付いた仏教的視点をもとに考察、提言をおこなっています。ほかに東京工業大学大学院教授の桑子敏雄氏(哲学・倫理学)、茨城大学准教授の原口弥生氏(環境社会学・環境政策論)、元京都大学東南アジア研究所研究員、国立ブータン研究所客員研究員で現ロンドン大学東洋アフリカ研究学院フェローの宮本万里氏(人類学、地域研究)など、多彩な執筆陣が名を連ねており、多角的でグローバルな視点からサステイナビリティの問題について知り、考えることのできる一冊です。
○内容紹介
深刻な地域・地球環境問題に対し、人間はいかなる方向にかじを取ればよいか。新たな文明の指針はどこ見出せるか。科学・思想哲学・宗教学・社会学など多彩な学問領域から結集した気鋭たちがサステナビリティを鍵に難問に挑む。
○書籍情報
『現代文明の危機と克服 地域・地球的課題へのアプローチ』
著者名:木村武史、カール・ベッカー、桑子敏雄、原口弥生、櫻井次郎、柏木志保、宮本万里、箕輪真理、松井健一 著 出版社:日本地域社会研究所
単行本: 235ページ
出版社: 日本地域社会研究所 (2014/4/11)
ISBN-10: 4890221441
ISBN-13: 978-4890221448
発売日: 2014/4/11
定価: 2,376円(2,200円+税)
清家助教の論文が『Geriatrics Gerontology International』に掲載されました
清家理助教(上廣こころ学研究部門)の共著論文「初期認知症患者および家族への多職種恊働による教育的支援プログラム開発研究ーー認知症の確定診断直後の患者および家族の学習ニーズと意識変容からの考察(Developing an interdisciplinary program of educational support for early-stage dementia patients and their family members: An investigation based on learning needs and attitude changes)」が、老年医学会の国際誌『Geriatrics Gerontology International』に掲載されました。
論文は、オンラインで読むことができます。下記リンクにアクセスしてご覧ください。
Aya Seike, Chieko Sumigaki, Akinori Takeda, Hidetoshi Endo, Takashi Sakurai, Kenji Toba. Developing an Inter-professional Program of Educational Support for Patients and their Family Members in the Early Stage of Dementia -An Investigation Based on the Learning Needs and Attitude Changes of Patients and their Family Members -, International Journal of Geriatric Gerontology, In Press, 2014.4
○Aim
The National Center for Geriatrics and Gerontology has begun to provide educational support for family caregivers through interdisciplinary programs focusing on patients in the early stage of dementia. These interdisciplinary programs have established two domains for the purpose of "educational support": cure domains (medical care, medication) and care domains (nursing care, welfare). In the present study, we examined the learning needs and post-learning attitude changes of patients and their families who participated in these programs in order to assess the effectiveness of an interdisciplinary program of educational support in each of these domains.
○目的
国立長寿医療研究センターでは、認知症確定診断直後(以下、初期と定義)の患者、家族を対象とした支援プログラムの提供を開始した。この支援は、キュア領域(医学・薬剤)、ケア領域(看護・福祉)で構成され、多職種恊働によるプログラム提供を「教育的支援」と定義した。本研究では、効果的な教育的支援プログラムの構成要素を探索するため、初期認知症患者や家族の学習ニーズと学習後の意識変容について検証した。
Geriatric Gerontology International
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ggi.12263/full
河合教授が編集、解説を寄せた『青春の夢と遊び』(著・河合隼雄)が出版されました
河合俊雄教授が編集、解説を寄せた『青春の夢と遊び』(著・河合隼雄)が岩波現代文庫より出版されました。
○内容紹介
「内なる青春」についてよく知ると,中・高年の人生が面白くなる――。これまで中年、老年、そして子供の生き方を論じてきた著者が、豊かな臨床体験を基に挑んだ青年論。文学作品を素材に、青春とは何か、青春の現実、夢、遊び、性、挫折、死、青春との別離などを論じ、人間としての成長、生きる意味や力について考える。(解説=河合俊雄)(全六冊完結)
・出版社:岩波書店
・発行:2014年4月16日
・体裁:A6.並製・248頁
・定価(本体 920円 + 税)
・ISBN978-4-00-603259-3 C0136
普及指導員についての研究論文(著者:竹村連携研究員・内田准教授・吉川教授)が『PLoS ONE』に掲載されました
こころの未来研究センターの教員提案型プロジェクトで実施された研究論文(竹村幸祐連携研究員・現滋賀大学経済学部准教授、内田由紀子准教授・吉川左紀子教授)"Roles of extension officers to promote social capital in Japanese agricultural communities." が、国際科学雑誌『PLoS ONE』に掲載されました。
論文は、国内の農業普及指導員を対象にした大規模な社会心理学の手法に基づく調査結果をまとめたもので、農業普及指導員の農村コミュニティでの「つなぐ」力についてソーシャル・キャピタル(社会関係資本)という観点から分析しています。
論文掲載のニュースは農業の総合月刊誌『技術と普及』5月号(発行:全国農業改良普及支援協会)にも掲載されました。
「【Topics】日本の普及指導員の仕事を世界へ発信 〜『農をつなぐ仕事』研究論文が海外学術雑誌に掲載〜」
『技術と普及』(全国農業改良普及支援協会)のウェブサイト
なお、オープンアクセスジャーナルですので、どなたでも論文を読むことができます。下記リンクにアクセスしてご覧ください。
Takemura, K., Uchida, Y., & Yoshikawa S (2014). Roles of extension officers to promote social capital in Japanese agricultural communities. PLoS ONE 9:
e91975. doi:10.1371/journal.pone.0091975
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0091975
河合教授の共編著『遠野物語 遭遇と鎮魂』が出版されました
河合俊雄教授の共編著『遠野物語 遭遇と鎮魂』が2014年3月、岩波書店より出版されました。編者は河合教授と赤坂憲雄学習院大学文学部教授で、執筆者に今石みぎわ東京文化財研究所研究員、田中康裕京都大学大学院教育学研究科准教授、岡部隆志共立女子短期大学教授、歌人の川野里子氏、猪股剛帝塚山学院大学准教授、岩宮恵子島根大学教育学部教授、三浦佑之立正大学大学院文学研究科教授らが名を連ねています。
【掲載情報】
YOMIURI ONLINEの書評サイト「本よみうり堂」に、本書が紹介されました。(2014.5.1追記)
『遠野物語 遭遇と鎮魂』 河合俊雄、赤坂憲雄編 |本よみうり堂>書評>短評
本書は、主に民俗学と臨床心理学とによる『遠野物語』の共同研究をベースとした論集である。そのきっかけとなったのは、二〇〇七年九月十三日に赤坂憲雄さんに行っていただいた「『遠野物語』の心的構造」と題する、京都大学こころの未来研究センターでのセミナーである。赤坂憲雄さんとは梅原猛先生の文部省重点領域研究チーム「文明と環境」で、一九九〇年代のはじめに知り合ったが、久しぶりの再会であった。セミナーの夜に京都の町に飲みに行った際に盛り上がって、『遠野物語』についての学際的な研究会をはじめることが決まったのである。(中略)
二〇〇八年三月四日を第一回として、ほぼ年二回のペースで八回の「遠野物語研究会」を行った。ユング心理学の側では、河合の他に田中康裕さん、岩宮恵子さんがコアなメンバーとなり、民俗学の側では赤坂さんの他に、国文学の三浦佑之さんが重要なメンバーとなった。第三回は「オシラサマと河童」、第四回は「山男・山女」などのように、テーマと読む話を決めて行うことも多かった。(中略)
このような初期の成果は『季刊 東北学』第二三号(二〇一〇年)におけるいくつかの論考となって結実した。しかしこの研究会は、二〇一一年三月十一日に東北を襲った大震災によって大きな転回点を迎える。その後の九月に開かれた第八回研究会で、三浦佑之さんは「遠野物語と三陸」という題で発表し、第九九話とその類話を取り上げてくれた。そしてそれにつながる形で二〇一二年一〇月に島根大学で開かれた、岩宮恵子さんを大会委員長とする日本箱庭療法学会で「物語と鎮魂」と題するシンポジウムが開かれ、赤坂憲雄さん、三浦佑之さん、河合俊雄というこの研究会の中心メンバーがシンポジストを務めたのである。このようにして、この論集のもう一つの大きなテーマである「鎮魂」が前面に現れてきた。
このような流れを踏まえて、この論集ではまず第一部は「遭遇」をテーマにしている。第二部はさらに物語から展開していったテーマが、実際の心理療法、歌謡、遊びなどとの関連で扱われている。そして第三部では、明治三陸大津波に関連する第九九話についての三浦佑之さんの論を元にしつつ、さらにその話についての三人の論考を集めて、「鎮魂」をテーマとしている。
(「はじめに 河合俊雄」より)
○目次
はじめに 河合俊雄
Ⅰ 「遭遇」という主題
出会いのトポス ー 描かれた山と人間 今西みぎわ
『遠野物語』と意識の成立 ー 河合俊雄
近代と前近代の狭間で消え去るお話たちのお話 ー 「狼」話群からみた「遠野物語」の意識 田中康裕
Ⅱ 物語の豊饒を継いで
異人は遊ぶ 岡部隆志
抒情詩としての『遠野物語』ー もう一つの言葉の可能性をめぐって 川野里子
「語ることのできないもの」 ー 物語と共同性 猪股剛
異界につながる物語の力 ー 『遠野物語』と心理療法 岩宮恵子
Ⅲ 鎮魂の物語 第九九話を読む
九九話の女 ー 遠野物語と明治三陸大津波 三浦佑之
和解について 赤坂憲雄
福二の三度の喪失 田中康裕
九九話におけるインターフェイスと振り返り 河合俊雄
あとがき ー 新たな読みの作法は可能か 赤坂憲雄
○書誌情報
・出版社:岩波書店
・発行日:2014年3月28日
・四六判・並製・カバー・276頁
・定価(本体 2,500円 + 税)
・ISBN978-4-00-025953-8 C0095
上記「はじめに」の全文と第一章の本文の途中までを岩波書店のサイトで「立ち読み」できます。ぜひ下記リンクにアクセスのうえ、お読みください。
『水木しげる漫画大全集 神秘家列伝(上)』に鎌田教授の解説が掲載されました
漫画家・水木しげる氏の作品を完全収録した大全集の一冊『水木しげる漫画大全集 神秘家列伝(上)』(講談社/2014年4月3日発行)に、鎌田東二教授の解説が掲載されました。解説では、鎌田教授自身が日常で水木しげる作品の霊性とその一族の世界に接しているエピソードや、本書に収録されたスウェーデンボルグ、ミラレパ、マカンダル、明恵、安倍晴明、長南年恵ら6人の神秘家それぞれについての作品を読み解くポイントが紹介されています。
「◎解説 わたしは日常的に、水木しげるさんとその一族の世界に接している」鎌田東二(宗教学者・民俗学者・神道ソングライター)
わたしの研究室の窓際に水木しげるさん発案の「谷蟆(たにぐく)」の人形が置いてある。タニグクとは『古事記』の出雲神話に出てくるヒキガエルのことで、スクナヒコナのことはクエビコに聞けと諭す媒介者の役割を果たしている。そのタニグクが全身緑色で、しかも赤フンドシをしていて(わたしはフンドシも緑だが)、わたしそっくりだと評判なのだ。
研究室は二階にあり、駐車場を隔ててすぐ南には京都大学病院精神科の病棟と研究室がある。シャッターを開けていると外からもタニグクの姿がよく見える。これは島根県美保神社の近くの出身の方からのプレゼントである。二〇〇〇年の夏、水木しげるさんを招いて美保でトークセッションを行った時に地元の人が見つけてくれたのだった。そのタニグクがわたしの研究室(国)を「霊的防衛(国防)」してくれていることになる。(中略)
そんなわけで、わたしは日常的に水木しげるさんとその一族の世界に接しているのだ。
さて、本書は、その水木しげるさんが世界中の「神秘家」を探訪するという、「神界(探訪者)のフィールドワーク」漫画である(わたしも同名の著作を書いたことがある)。
(解説より)
鎌田教授の編著『究極 日本の聖地』が出版されました
鎌田東二教授の編著『究極 日本の聖地』が、4月14日にKADOKAWA中経出版より出版されました。
宗教哲学、民俗学、日本思想史、比較文明学など幅広い研究分野で数々の著書を出し続けている鎌田教授の最新刊は、長年の聖地研究で蓄積された知見とデータが凝縮された聖地理解のための指南書です。人生の節々で「聖地感覚」を経験したという鎌田教授は、日本列島における聖地文化を様々な角度から研究し、『現代神道論ー霊性と生態智の探究』(春秋社、2011年)や『日本の聖地文化ー寒川神社と相模国の古社』(創元社、2013年)、『聖地感覚』(角川学芸出版、2013年)など聖地に関する編著書を多数発信してきました。本書では、聖地のなりたちから意味づけ、役割と機能をダイナミックかつ分かりやすく解説し、実際に聖地を歩いた経験に基づいて厳選した聖地情報などを、豊富なデータと写真、図説と共に紹介しています。聖地を知る手がかりとして、また、実際に聖地を巡るガイドとしても活用できる一冊です。
○内容紹介
<この国の源泉へ 心と身体が目覚める聖地50選>
聖地-そこは心に霊感を与え、大いなる存在と出会うことができる空間である。日本人は往古から聖地を巡礼することで魂を浄化し、生命力を活性化してきた。本書は魂の再生するための骨太聖地巡礼ガイド。
○出版社より
<これぞ本物の聖地本だ! >
『古事記』をテキスト無しの口述記録で現代語訳して大ヒットした『超訳 古事記』の著者が贈る新感覚の聖地本! パワースポットブームで神社や寺院参拝が人気になる中、聖地空間が持つシステム、生態智、環境学までを語る。40年以上国内外の聖地を巡礼しつづける著者が本気で選んだ極上の聖地50選。
○書籍情報
『究極 日本の聖地』
著者 :鎌田 東二(編著)
本体価格:1,800 円+税
ページ数:320
初版発行:2014年4月14日
ISBN:978-4-04-600271-6
○目次
はじめに 「聖地」に目覚める
第1部 聖地を探る-聖地の秘密
第1章 聖地誕生~聖地の起源
第2章 聖地顕現~聖地の拡大
第3章 聖地機能~聖地の役割
第4章 聖地三密~出雲・熊野・伊勢
むすびに 日本の聖地文化と聖地感覚
第2部 聖地を歩く
第1章 巡礼霊場をたどる
第2章 神道の聖地
第3章 仏教の聖地
第4章 修験道の聖地
第5章 沖縄・アイヌの聖地
第6章 新宗教の聖地
あとがき
河合教授、畑中助教、長谷川研究員らの共著論文が『箱庭療法学研究』に掲載されました
河合俊雄教授、畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)、長谷川千紘研究員(上廣こころ学研究部門)らの共著論文が、2014年3月、日本箱庭療法学会の発行する『箱庭療法学研究』に掲載されました。
「発達障害へのプレイセラピーによるアプローチ--新版K式発達検査2001を用いた検討」(箱庭療法学研究, 26(3), 3-14)
本論文は、「子どもの発達障害への心理療法的アプローチプロジェクト」の研究成果をまとめたものです。当センターのプレイルームにて受け入れた9つのプレイセラピー(遊びを用いた心理療法)の事例について、6ヶ月間のセラピーの前後で発達検査の指数にどのような変化がみられるかを実証的に検討しました。発達障害の子どもには自分を定位するための安定した軸をもちにくいという特徴が見られましたが、プレイセラピーのなかで何セッションにも渡って一つの作品を作り上げたり、共同作業やずれを通して自分とセラピストとの差異に気づいたりすることによって、「焦点」や「境界」が生まれ、子どものこころに軸が獲得されていく様子が見られました。そして、セラピーのなかでこのようなテーマに取り組んでいくことが、左右弁別や文章組立てなどの発達課題の通過と関連していることが示唆されました。
<報告:長谷川千紘研究員(上廣こころ学研究部門/2014年3月まで)>
河合教授の論文が『箱庭療法学研究(特別号)』に掲載されました
河合俊雄教授の論文が、日本箱庭療法学会の発行する『箱庭療法学研究(特別号)』に掲載されました。
「震災のこころのケア活動--縁と物語」(箱庭療法学研究, 26(特別号), 1-6)
河合俊雄教授が委員長を務める「日本箱庭療法学会 日本ユング派分析家協会合同震災対策ワーキンググループ」は、東日本大震災被災地の小中学校への訪問や病院での事例検討会などを通して、臨床心理士や養護教諭といった「ケアする人」をケアする活動を続けてきました。このたび、その記録が「箱庭療法学研究第26巻特別号」として発刊されました。
本論文は、その巻頭に掲載されたものです。被災地訪問を継続するなかで「こころのケアやストレス対処のための何かの方法やノウハウを教えたり、押しつけたりするのではなくて、語りに耳を傾けるという物語のケアがこころのケアとなるのではなかろうか」と述べ、「物語」を一つの視点として呈示しています。そして、震災などの「大きな物語」から、個々人の悩みや心理学的テーマといった「小さな物語」へいかに語りが移行していけるかがこころのケアにおいて重要なポイントであることが指摘されています。
<報告:長谷川千紘研究員(上廣こころ学研究部門/2014年3月まで)>
□日本箱庭療法学会のウェブサイト
http://www.sandplay.jp/
□日本ユング派分析家協会のウェブサイト
http://www.ajaj.info/
熊谷准教授の共編著「Current Issues and Progress in Tibetan Studies」が出版されました
熊谷誠慈准教授(上廣こころ学研究部門)の共編著「Current Issues and Progress in Tibetan Studies」が、神戸市外国語大学から出版されました。
本書は、熊谷准教授らが2012年9月に神戸市外国語大学にて開催した、Third International Seminar of Young Tibetologists(第3回国際若手チベット学会)の発表者の中から選ばれた30名の若手研究者たちの論稿を集めた論文集です。本書には、宗教学、哲学、言語学、人類学、社会学など、多岐にわたる分野の若手研究者が、チベットをテーマとした論文を提出しており、チベット学という学術分野の持つ学際性を際立たせています。
書誌情報は以下のとおりです。
Tsuguhito Takeuchi, Kazushi Iwao, Ai Nishida, Seiji Kumagai and Meishi Yamamoto (eds.): Current Issues and Progress in Tibetan Studies: Proceedings of the Third International Seminar of Young Tibetologists, Kobe 2012 (Journal of Research Institute, vol. 51), Kobe: Kobe City University of Foreign Studies. 2014.
阿部准教授と伊藤研究員の共著論文が『Brain Research』に掲載されました
阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)と伊藤文人日本学術振興会特別研究員らの共著論文が、脳神経科学の国際ジャーナル『Brain Research』(vol.1556, 27 March 2014)に掲載されました。
この論文では、他者を傷つけてしまう「悪い嘘」と、他者を思いやってつく「良い嘘」が道徳的に許容できるか否かを判断する際の脳のメカニズムを調べた研究です。fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いた実験によって、この二種類の嘘の道徳判断は異なる神経基盤によって実現されていることが明らかになりました。
論文の詳しい情報は、ジャーナルのウェブサイトをご覧ください。下記リンクからアクセス可能です。
Hayashi A, Abe N, Fujii T, Ito A, Ueno A, Koseki Y, Mugikura S, Takahashi S, Mori E (2014)
Dissociable neural systems for moral judgment of anti- and pro-social lying
Brain Research 1556: 46-56
URL:http://dx.doi.org/10.1016/j.brainres.2014.02.011
○Abstract
Pro-social lying, which serves to benefit listeners, is considered more socially and morally acceptable than anti-social lying, which serves to harm listeners. However, it is still unclear whether the neural mechanisms underlying the moral judgment of pro-social lying differ from those underlying the moral judgment of anti-social lying. We used functional magnetic resonance imaging (fMRI) to examine the neural activities associated with moral judgment in anti- and pro-social lying. During fMRI scanning, subjects were provided with scenarios describing a protagonist׳s anti- and pro-social lying and were then asked to judge whether the protagonist׳s act was morally appropriate. The behavioral data showed that anti-social lying was mostly judged to be morally inappropriate and that pro-social lying was mainly judged to be morally appropriate. The functional imaging data revealed dissociable neural systems for moral judgment in anti- and pro-social lying. The anti-social lying, which was judged to be morally inappropriate, was associated with increased activity in the right ventromedial prefrontal cortex, right middle frontal gyrus, right precuneus/posterior cingulate gyrus, left posterior cingulate gyrus, and bilateral temporoparietal junction when compared with the control condition. The pro-social lying, which was judged to be morally appropriate, was associated with increased activity in the right middle temporal gyrus, right supramarginal gyrus, and the left middle cingulate gyrus when compared with the control condition. No overlapping activity was observed during the moral judgment of anti- and pro-social lying. Our data suggest that cognitive and neural processes for the moral judgment of lying are modulated by whether the lie serves to harm or benefit listeners.
清家助教の共編著『認知症なんでも相談室』が出版されました
清家理助教(上廣こころ学研究部門)の共編著『患者さんとご家族から学ぶ 認知症なんでも相談室』が、3月20日にメジカルビュー社より出版されました。
本書は、認知症に関する知識(病気のこと、治療方法等)から、予防方法、介護方法、終末期の対応まで、実生活で応用できるアドバイスをQ&A、コラムなどで分かりやすく解説されたものです。今回、本書に出てくる120のQuestionは、認知症を持つ方やそのご家族の声に基づいています。巻頭に掲載された「病期/情報・相談内容一覧」では、認知症を持つ方やご家族の質問に当てはまるカテゴリーがひと目で分かるようになっており、社会参加、医療倫理といった新たな分類項目も追加されました。また、認知症を持つ人のこころをケアし、回想法の実践につながる「俳句かるた」(作成者:鳥羽研二国立長寿医療研究センター病院長他)のアイデア紹介など、多彩なページ構成となっています。清家助教は、書籍全体の編集に携わり、社会資源(医療・福祉)の活用、終末期に関する章など多くの項目を執筆、編纂しました。
書籍の序文、目次、Q&Aの一部を出版社とAmazon.co.jpのページで読むことができます。下記リンクよりご覧ください。
○書誌情報
『患者さんとご家族から学ぶ 認知症なんでも相談室』
国立長寿医療研究センター編
監修 鳥羽 研二、編集 武田 章敬、清家 理
定価 2,940円(本体 2,800 円+税)
B5判 168ページ 2色(一部カラー)
2014年3月20日刊行
ISBN978-4-7583-0487-0
○目次
キーワード索引
病期/情報・相談内容一覧
1 予防 認知症にならないためには?/Q01〜12、番外編
2.受診前 認知症かも? と思ったら/Q13〜23、コラム01
3.診断前 認知症かどうかはどう調べるの?/Q24〜25
4.診断後 えっ? 認知症! さて,どうしよう!/Q26〜49、コラム02〜05
5.認知症にはどんな治療があるの?/Q50〜105、コラム06〜16
6.小康状態期 認知症とうまく付き合っていくために!/Q106〜114、コラム17
7.終末期 穏やかに送り出してあげるために/Q115〜120、コラム18
内田准教授の共著論文の概要が京大ホームページに掲載されました
内田由紀子准教授と、京大教育学研究科大学院生の荻原祐二さんによる共著論文「Does individualism bring happiness? Negative effects of individualism on interpersonal relationships and happiness.」の概要「個人主義的な人は、親しい友人の数が少なく幸福感が低い -日本社会の個人主義化がもたらす負の側面を示唆-」が、京都大学の公式ホームページに掲載されました。
ページでは、研究者のコメント、研究概要、詳しい研究成果が記されたドキュメントファイル(PDF)、書誌情報などをまとめて参照いただけます。下記リンクからご覧ください。
個人主義的な人は、親しい友人の数が少なく幸福感が低い -日本社会の個人主義化がもたらす負の側面を示唆- | 京都大学:お知らせ(2014.3.19)
◇関連情報
内田准教授の共著論文が『Frontiers in Psychology』に掲載されました(2014.3.20)
内田准教授の共著論文が『Frontiers in Psychology』に掲載されました
内田由紀子准教授と京大教育学研究科大学院生の荻原祐二さんによる共著論文「Does individualism bring happiness? Negative effects of individualism on interpersonal relationships and happiness.」が、2014年3月、心理学系のジャーナル『Frontiers in Psychology』に掲載されました。
Ogihara, Y., & Uchida, Y. (2014). Does individualism bring happiness? Negative effects of individualism on interpersonal relationships and happiness. Frontiers in Psychology, 5: 135.
○Abstract
We examined the negative effects of individualism in an East Asian culture. Although individualistic systems decrease interpersonal relationships through competition, individualistic values have prevailed in European American cultures. One reason is because individuals could overcome negativity by actively constructing interpersonal relationships. In contrast, people in East Asian cultures do not have such strategies to overcome the negative impact of individualistic systems, leading to decreased well-being. To test this hypothesis, we investigated the relationship between individualistic values, number of close friends, and subjective well-being (SWB). Study 1 indicated that individualistic values were negatively related with the number of close friends and SWB for Japanese college students but not for American college students. Moreover, Study 2 showed that even in an individualistic workplace in Japan, individualistic values were negatively related with the number of close friends and SWB. We discuss how cultural change toward increasing individualism might affect interpersonal relationships and well-being.
日本とアメリカの大学生を対象に調査をおこなった本研究では、アメリカにおいては個人主義傾向と親しい友人の数や幸福感には関連がなかったものの、日本において個人主義傾向が高い人は、親しい友人の数が少なく、幸福感が低いことが分かりました。さらにこの関係は、日本において個人主義的で競争的な制度を導入している企業で働く成人においても同様であることが分かりました。
この研究結果から著者らは、「日本社会の個人主義化が進む中で、個々人が個人主義社会で必要な心理・行動傾向を身に付けることが必要ではないか。同時に、個人が孤立しないような社会的な制度や場を設計することが効果的ではないか」とコメント。「今後は、個人主義傾向が対人関係や幸福感に与える影響について因果関係を含めたより具体的なプロセスの解明を行うことが必要。そのことにより、対人関係の不振によって生じる社会問題(ひきこもり、無縁社会化など)の解決・予防にも貢献することが可能と考えられる」と展望しました。
なお、論文(英語)は、オンラインで全文をお読みいただけます。下記リンクからご覧ください。
◇『Frontiers in Psychology』ウェブサイト
http://journal.frontiersin.org/Journal/10.3389/fpsyg.2014.00135/full
船橋教授の共著論文が『Nature Neuroscience』に掲載されました
船橋新太郎教授と、オックスフォード大学の渡邉慶研究員(2012年2月までこころの未来研究センター研究員)の共著論文「Neural mechanisms of dual-task interference and cognitive capacity limitation in the prefrontal cortex」が『Nature Neuroscience』に掲載されました。論文では、2つのことを同時にしようとした時、それらが干渉しあってエラーの増加や反応時間の延長(二重課題干渉)が生じる仕組みを明らかにしています。サルを用いた実験の結果、2つの異なる課題が脳に働きかけるものの、神経細胞が互いに干渉しあい成績が悪くなることが分かりました。
論文は、2014年3月2日よりオンライン掲載されています(Abstractは無料、本文閲覧は有料。下記論文タイトルのリンクよりアクセス可能です)。
Kei Watanabe and Shintaro Funahashi (2014), Neural mechanisms of dual-task interference and cognitive capacity limitation in the prefrontal cortex, Nature Neuroscience, doi:10.1038/nn.3667
■メディア掲載情報
この論文掲載に関するニュースが、下記の報道機関によりウェブで公開されています。ぜひ合わせてご覧ください。
「二兎追う者は一兎を得ず」を脳で解明(ナショナルジオグラフィックニュース/2014.3.9)
京大、2つのことを同時にしようとしてうまくいかない理由を解明(マイナビニュース/2014.3.6)
内田准教授の論文が『Journal of Happiness Studies』『季刊・環境研究』に掲載されました
内田由紀子准教授の幸福感研究に関する論文が3本、『Journal of Happiness Studies』(発行:Springer)ならびに『季刊・環境研究』(発行:日立環境財団)に掲載されました。
Uchida, Y., Takahashi, Y., & Kawahara, K.
Changes in hedonic and eudaimonic well-being after a severe nationwide disaster: The case of the Great East Japan Earthquake. Journal of Happiness Studies, DOI 10.1007/s10902-013-9463-6
→ Abstract はこちら(発行元のページ)
Hitokoto, H., & Uchida, Y.
Interdependent Happiness: Theoretical Importance and Measurement Validity. Journal of Happiness Studies, DOI 10.1007/s10902-014-9505-8
→ Abstract はこちら(発行元のページ)
内田由紀子
東日本大震災後の幸福:震災がもたらした人生観と幸福感の変化 環境研究, 172, 83-91.
→ 『季刊・環境研究』の目次はこちら(発行元のページ)
Uchida, Takahashi, & Kawaharaによる論文 "Changes in Hedonic and Eudaimonic Well-Being After a Severe Nationwide Disaster: The Case of the Great East Japan Earthquake" は、東日本大震災後に、被災地域以外に住む20代~30代の若者の幸福感や人生観がどのように変化したのかを、1万人以上を対象に震災前後で実施した大規模調査により検証しています。震災後、自分の幸福を判断する際に震災のことを思い浮かべた人たちは周囲への結びつきや感謝の念により幸福度が上昇し、一方で悲しみの感情も増加していました。逆に、震災について思い浮かべなかった人たちについては、震災前と比べて幸福度や感情に変化はみられなかったことが示されました。なお、この論文のデータならびに他の関連研究を含めて概説しているのが、『季刊環境研究』に掲載されている論文「東日本大震災後の幸福:震災がもたらした人生観と幸福感の変化」です。
Hitokoto & Uchidaによる論文 "Interdependent Happiness: Theoretical Importance and Measurement Validity" では、これまで測定されてこなかった「協調的幸福感」という概念に着目、測定尺度を開発し、国際比較あるいは国内での地域比較を通じて、妥当性を検証しています。これまで「獲得志向的」な幸福に対する概念に基づいて測定されてきた幸福感について、他者との協調や人並み感、自分だけではなく周囲も幸せであることなど、新たな幸福のあり方とその測定方法を提唱しています。
畑中助教の論文が『箱庭療法学研究』に掲載されました
畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)の論文「発達障害におけるイメージの曖昧さ-ロールシャッハ・テストにおける「不確定反応」から」が、『箱庭療法学研究』第26巻第2号(発行:日本箱庭療法学会)に掲載されました。
畑中千紘(2013)発達障害におけるイメージの曖昧さ-ロールシャッハ・テストにおける「不確定反応」から. 『箱庭療法学研究』第26巻第2号 29-40
○ABSTRACT
本研究は, ロールシャッハ・テストを素材に発達障害のイメージの在り方の特徴を描き出そうとするものである。予備的分析の結果, 反応の中核をなす概念が不確定である「不確定反応」が発達障害のイメージの特徴として導き出された。「不確定反応」の出現個数について147名の発達障害群, 49名の神経症群, 47名の大学生群のデータについて検討した結果, 発達障害群に有意に多くみられることが明らかとなった。「不確定反応」の曖昧さには広いバリエーションが示されたが, これは彼らの夢や語りにも共通していることが指摘された。また, 「不確定反応」に示されるイメージの曖昧さは, 対象に焦点を合わせるための主体が不明瞭で, 視座が不安定になるためと考えられた。
畑中助教は、この論文について、「これは、発達障害の特徴を『イメージのあり方』から捉えようとするものです。発達障害の人のもつイメージを心理検査から調査すると、奇異な見方や崩れた見方はほとんどみられず、むしろ『焦点づけの弱さ』が特徴的であることが明らかとなりました。その独特の話し方や考え方から発達障害の方は誤解されやすいところがありますが、彼らの生きる世界を本質的に理解できるような研究を進めていきたいと思っています」とコメントしています。
なお本論文は、上廣こころ学研究部門における臨床心理学領域のプロジェクトの一つである「大人の発達障害への心理療法的アプローチ」の研究成果です。
吉川教授、入来教授らが分担執筆した『最新 心理学事典』が出版されました
吉川左紀子教授と入来篤史センター特任教授が分担執筆陣に加わった『最新 心理学事典』が2013年12月、平凡社より出版されました。
1957年刊行の第一版、1981年の第二版に続き、およそ30年ぶりに刊行された最新版の心理学事典となる本書は、総ページ数944、見出し項目488に及び、心理学の基礎から最新の成果までが網羅された一冊です。吉川教授は「顔の認知 / face recognition(p62〜63)」を執筆担当し、「顔の認知の特徴」「顔の認知プロセス」「顔の表象」について解説しています。また、入来篤史センター特任教授は、「認知的ニッチ構築 / cognitive niche construction」を担当、認知的ニッチ構築の概念からニホンザルが道具を使用する実験例や仮説を巡る理論などを紹介しています。
『最新 心理学事典』
○内容紹介
定評ある10万部超のロングセラー『心理学事典』の30年ぶりの最新版。新たに項目選定し、全項目新原稿。最新の成果や時代に即した新項目をとりいれつつ、基本をおさえた本格的総合事典。本文中の重要用語は太字で明記し、欧文も併記。項目相互の関連性がわかる「体系項目表」を完備。和文・欧文をあわせて1万4000余の充実の索引。
○分野と主な領域
1.「理論」学史・研究領域・一般用語
2.「方法」方法論・研究法・測定・数理統計学・多変量解析
3.「生理心理学」感覚・脳科学・神経系・神経病理
4.「知覚」感覚・精神物理学
5.「学習」条件づけ・動物実験法
6.「言語」言語獲得・コミュニケーション
7.「認知」思考・記憶・情報処理
8.「感情」情動・意志・表情
9.「性格」気質・人格・自己・思想
10.「臨床」精神分析・心理療法・異常心理学・精神障害
11.「社会」社会的影響・集団・対人関係・文化
12.「教育」学校心理学・教授学習・教育評価
13.「発達」発達原理・発達期・知能・発達支援
14.「法心理学」犯罪・非行・証言・虐待
15.「産業心理学」組織経営・人事評価・応用心理学
16.「進化心理学」比較行動学・霊長類・生態心理学
○DATA
・出版社:平凡社
・2013年12月発行
・B5判上製/ケース入り/総944頁
・定価 19,500円+税
・ISBN978-4-582-10603-9
鎌田教授が序文を執筆した『私の宗教』(ヘレン・ケラー著)が出版されました
鎌田東二教授が序文を執筆した書籍『私の宗教』(ヘレン・ケラー著、高橋和夫 鳥田恵 訳)が未来社より2013年12月に出版されました。
盲ろうあという障害を背負いながらも類いまれな才智と努力により生涯、文筆活動と社会福祉活動を精力的におこなった伝説の人物、ヘレン・ケラーは、科学者・神秘家のスウェーデンボルグを信奉していたことが後に知られるようになりました。本著は、ヘレン・ケラーの宗教観、スウェーデンボルグの思想との出逢いとその教えについて、彼女自身が読者へのメッセージを託しながら記した著書の翻訳本です。鎌田教授は序文「視力を超えた視力」において、スウェーデンボルグの神秘家としての道のりや彼の見たとされる霊的世界と三種の天使について解説し、大乗仏教との類似性にも触れながら、ヘレン・ケラーが「あらゆる視力を超えた視力」で見つめ発したメッセージが、現代の私たちにどのような意味を持つのか深く考察しています。
「視力を超えた視力」鎌田東二
「三重苦」を克服した偉人ヘレン・ケラーの名を知らない人はいない。とりわけ、サリヴァン先生の指導の下、初めて「水」という言葉を体験した時の話は全世界の人々に名状し難い感動を与えた。
そのヘレン・ケラーがスウェーデンボルグの深い信奉者であったことを知る人は少ない。かくいう私も本書を読むまでその事実を知らなかった。本書を読んで私は驚き、考えさせられた。感覚世界の中で目に見えない領分をよく知っている人は、真に目に見えない超感覚的世界の実在をよく知ることができるのかと。(略)
ヘレン・ケラーは述べている。「あらゆる種類の障害は、当人がみずからを開発して真の自由を獲得するように勇気づけるための、愛の笞(むち)ということになります。それらは、石のように堅い心を切り開いて神からの高尚な贈り物を自分の存在の中から見つけ出すために、私たちに手渡された道具なのです」と。
真の自由と真の知性と真の霊性に到る「愛の笞」や「道具」として「障害」があるというヘレン・ケラーの洞察は、肉体的「障害」のみならず、精神的にも霊的にも環境的にも何重もの「障害」に覆われているかに見えるわれわれ自身と文明のあり方に一条の光明を与えるであろう。そして「あらゆる視力を超えた視力」を通して私たちの全存在が世界を視、世界と関わり始めることを彼女の生涯と本書は強く促し勇気づけるのである。(序文より)
○目次
視力を超えた視力(鎌田東二)
第一章 恩人ヒッツ氏の導きで
第二章 他界を見た天才科学者
第三章 スウェーデンボルグの肖像
第四章 「聖言」の秘められた意味
第五章 天界の生活
第六章 神は愛なり
第七章 歓びこそが生命
第八章 障害は神から与えられた試練
訳者あとがき
・出版社:未来社
・2013年12月25日発行
・単行本 四六判上製 200ページ
・定価:本体1,800円(税別)
・ISBN 978-4-624-10046-9
(出版社の情報より)
鎌田教授の著書『歌と宗教 歌うこと。そして祈ること』が出版されました
鎌田東二教授の新刊書籍『歌と宗教 歌うこと。そして祈ること』が、ポプラ社より出版されました。
宗教学者として言霊思想、聖地論、神仏習合思想、霊性思想などの研究に取り組み、幅広い活動とフィールドワークを通して、「言葉」「場所」「生命」が生み出す超越性の仕組みやこころの有り様を探求する鎌田教授は、「神道ソングライター」として15年に渡り活動しています。自身の研究と歌い手としての集大成ともいえる本書において、古事記、万葉集、古今和歌集から般若心経、聖書まで、神と人の歴史と共にありつづける「歌」の起源やその力を縦横無尽に掘り下げ、ほとばしる知見と壮大な思想で綴って(歌って)います。
『歌と宗教 歌うこと。そして祈ること』
○内容紹介
人間は歌うために生まれてきた。歌とは命そのものであり、命は歌なのであるーー。スサノオ神話や古今和歌集、聖書から黒人霊歌まで。古来より歌は宗教と深い関わりがあった。世界の宗教と歌との繋がりとは何か。歌の起源、そして歌の持つ力とは何か。神道ソングライターとしての活動15周年を迎える気鋭の宗教学者、鎌田東二がその歴史と秘密を明かす!
「この機会に、改めてわたしにとって歌とは何かを問いかけることができた。『いのちの応答』というのがその答えだが、そのいのちは、さまざまな形と声を持っている。そしてそれは、ひとときも休むことなく歌いつづけ、変容しつづけている。
オウム真理教事件と酒鬼薔薇聖斗事件、神戸からの祈り、鳥山敏子の一声、『犬も歩けば棒に当たる』ようにして、これらの事件や出来事や言葉にぶつかることによって、縁あって、『即身成仏』とはほど遠い、『即身成歌人』となった。『神道ソングライター』という、うたびとになった。」(あとがきより)
○目次
序章 わたしが歌うようになったわけ
第1章 日本の歌の起源と精神
第2章 人類の発祥と宗教と歌
第3章 読経と歌
第4章 歌うことと祈ること
終章 人に笑われるリッパな神道ソングライターに
(各章に西行 VS 東行 歌合戦1縲鰀6)
・出版社:ポプラ社
・2014年1月7日発行
・単行本 246ページ
・定価:本体780円(税別)
・ISBN 978-4591137802
(出版社の情報より)
千石研究員の講演録が収録された『「臨床仏教」入門』が出版されました
千石真理研究員の講演録が収録された『「臨床仏教」入門』が、白馬社より出版されました。本書は、仏教教団60余宗派などで構成される全国青少年教化協議会(略称・全青協)の創立50周年記念刊行物で、2013年に東京大学仏教青年会会館ホールで開催した臨床仏教師養成講座一期の10講座および開講記念シンポジウムの講演録などが収められています。
千石研究員は、東大での開講記念シンポジウム「現代社会と臨床仏教」ならびにパネルディスカッション「なぜ今、臨床仏教なのか」にパネリストとして登壇。13年間に渡りアメリカ・ハワイ州でチャプレンとして活動してきた経験談とともに日本の現状・課題について話し、今後、仏教チャプレンや臨床仏教師が定着するためには「医療従事者と同じ方向性で取り組むこと」「(人が病気になってからではなく)元気な頃からの仏教教化に努めること」「宗派を越えたネットワークづくりと信頼・絆を深めること」などの必要性を訴えました。また、パネルディスカッションや質疑応答では、実際に経験した患者・家族とのやりとりや、自身がライフワークとして取り組む内観療法での実践例なども取り上げ、具体例を数多く紹介した内容が収められています。
『「臨床仏教」入門』
○内容紹介
「生老病死に寄り添う仏教」の提案 ーー 仏教者による様々な社会活動が模索されている中、人生のあらゆる場面で人々の悩みや苦しみに寄り添う活動を展開する僧侶・学者らによる実践に基づいた注目講座をまとめて収録した。新しい仏教者の動きに、いま、注目のまなざしが注がれ始めていることを実感させる「動き出した仏教者たち」の熱い声が感動を呼ぶ。
○目次
▼現代社会における臨床仏教師の役割―臨床仏教の検証(神仁)
▼不登校・ひきこもり問題―さまよう若者(和田重良)
▼路上生活者に学ぶ―共に生きる社会をめざして(吉永岳彦)
▼医療現場に関わる宗教者―ターミナルケア(大河内大博)
▼足湯と傾聴から見えるもの―仏教と災害支援(辻雅榮)
▼つながる宗教者―ネットワーキング型支援の可能性(島薗進)
▼過疎化・自死・孤独死―「無縁社会」から「有縁社会」へ(袴田俊英)
▼教誨師から見たこころと社会―なぜ犯罪は起こるのか?(深井三洋子)
▼宗教が苦となる現場―「破壊カルト」に走る人びと(楠山泰道)
▼開講記念シンポジウム―現代社会と臨床仏教(千石真理、藤尾聡允、ジョナサン・ワッツ、蓑輪顕量、神仁)
▼パネルディスカッション―なぜ今、臨床仏教なのか(同上)
▼全青協活動と臨床仏教(齋藤昭俊)
・出版社:白馬社
・2013年11月15日発行
・編A5判上製 312ページ
・定価:本体2500円(税別)
・ISBN 978-4938651961
(出版社の情報より)
吉川教授が分担執筆した『認知心理学ハンドブック』が出版されました
吉川左紀子教授が分担執筆した書籍『認知心理学ハンドブック』が、2013年12月に有斐閣より出版されました。
認知心理学の概念や理論を網羅し、最新の知見がまとめられた本書は、認知心理学の広がりと深みを理解し活用できる手引書・事典となっています。10の領域に分類され、合計173項目で構成されており、吉川教授は、第7部「感情・動機」の「 [7-3] 感情の表出とその理解」を担当。見開き二頁で「ダーウィンの表情論」「表情表出」「表情の認知」について解説しています。
『認知心理学ハンドブック』
○内容紹介
「認知心理学の広がりと深み」ー 学会の総力を結集し、認知心理学の全体像を173項目でカバーした手引書・事典。各項目を、基本的な概念や理論から新しい重要な概念や理論まで、最も適切な執筆者が見開き2頁・4頁で明解に解説。座右の1冊として、レポート・論文作成のための基礎資料として。
○目次
第1部 歴史・方法・理論
第2部 知覚・感性
第3部 注意
第4部 記憶・知識
第5部 思考
第6部 言語
第7部 感情・動機
第8部 社会的認知
第9部 発達・学習・教育
第10部 臨床
・出版社:有斐閣
・2013年12月発行
・A5判並製カバー付 438ページ
・定価 3,675円(本体 3,500円)
・ISBN 978-4-641-18416-9
(出版社の情報より)
河合教授、畑中助教による『大人の発達障害の見立てと心理療法』が出版されました
河合俊雄教授が田中康裕教育学研究科准教授と編・著者を務め、畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)が第7章、第13章を執筆した『大人の発達障害の見立てと心理療法 (こころの未来選書)』が創元社より11月11日に出版されました。本書は、上廣こころ学研究部門における臨床心理学領域のプロジェクトの一つである「大人の発達障害への心理療法的アプローチ」の研究成果がまとまった一冊です。
河合教授は「第Ⅰ部 概説」において、近年増える大人の発達障害について社会的背景を説明し、その大きなキーワードとして「主体のなさ」に着目。主体の成立へとつながる心理療法的なアプローチの具体的な事例を紹介しつつ、その可能性を探り、本書の全体像を明らかにしています。第IV部「社会・文化的背景」では「家族関係の希薄化と密着化」というタイトルで、心理療法からみた日本社会における家族関係の変化と個の主体の喪失について考察。「あとがき」では各章のポイントと執筆者のねらいをまとめています。
畑中助教は、「第III部 アセスメント」の「第7章 発達障害のロールシャッハ・テストにおける不確定反応――主体と対象の確定の試み」と、「第IV部 社会・文化的背景」の「第13章 発達障害の時代における自己の現況と変遷――ミクシィからフェイスブックへ」を執筆。第7章では、ロールシャッハ・テストの実験結果から「不確定反応」という指標を取り上げ、発達障害の人の主体性の弱さを明らかにすると共に、その現われ方を分析し、発達障害理解のための手がかりを提示しています。第13章では、ミクシィとフェイスブックという日本におけるソーシャルネットワークサービスの人気の変化に注目し、それぞれの特徴の違いから、現代のネット社会と個人の主体のあり方の変化をみつめ、考察しています。
『大人の発達障害の見立てと心理療法 (こころの未来選書)』
○内容紹介
近年増加が指摘され、治療も困難とされる大人の発達障害に対して、どのような見立てを持ち、どのようにアプローチすればよいのか。描画や箱庭、夢分析を用いた数多くの心理療法の試みと、発達障害の背景にある社会・文化的要因の考察を通じて、従来の「主体」を前提とした心理療法モデルに代わる、「主体」の成立を図る新たなアプローチを提示する。さまざまな問題や症状に覆い隠された大人の発達障害の核心に迫る。
(書籍紹介文より)
○目次
第Ⅰ部 概説
第1章 大人の発達障害における分離と発生の心理療法 .... 河合俊雄
第2章 未だ生まれざる者への心理療法――大人の発達障害における症状とイメージ .... 田中康裕
第II部 事 例
第3章 社交不安障害と診断された20代女性との心理面接――絡まりがほどける時 .... 安念直子
第4章 発達障害傾向のある男性との心理面接――夢分析における「私」が立ち上がるプロセス .... 西谷晋二
第5章 アスペルガー障害と診断された10代男子との面接過程――分離の契機という観点から .... 橋本尚子
第6章 産婆としての心理臨床――母と息子が個々の心を実感したプロセス .... 渡辺あさよ
第III部 アセスメント
第7章 発達障害のロールシャッハ・テストにおける不確定反応――主体と対象の確定の試み .... 畑中千紘
第8章 発達障害的世界の理解のために――描画・箱庭等の表現媒体を通じて .... 石金直美
第9章 風景構成法に見る大人の発達障害の心的世界 .... 長野真奈
第IV部 社会・文化的背景
第10章 家族関係の希薄化と密着化 .... 河合俊雄
第11章 「発達障害増加」と言われる裏側にあるもの――絵本の代わりにタブレット .... 岩宮恵子
第12章 現代におけるユビキタスな自己意識――サイコロジカル・インフラの消失と発達障害 .... 田中康裕
第13章 発達障害の時代における自己の現況と変遷――ミクシィからフェイスブックへ .... 畑中千紘
註および文献
あとがき .... 河合俊雄
・出版社:創元社
・刊行年月日:2013/11/11
・ISBN978-4-422-11226-8
・判型 A5判 210mm × 148mm 256頁
※出版社の書籍ページでは、河合教授による概説の一部とあとがきの全文をお読みいただけます。下記リンクよりアクセスしてご覧ください。
鎌田教授の講演録が『比較文明』に掲載されました
鎌田東二教授の講演録が、比較文明学会の学会誌『比較文明 第29号』に掲載されました。鎌田教授は、2012年11月17日に京都大学稲盛財団記念館で開催された比較文明学会第30回大会で、原田憲一京都造形芸術大学教授、松本亮三東海大学教授と共に「みやこと災害の文明論」(司会:阿部珠理立教大学教授) に登壇し、「持続千年首都・平安京の生態智」という演題で講演しました。その講演録全文が掲載されています。
「みやこと災害の文明論<講演会> 京都大学稲盛財団記念館、二〇一二年十一月十七日 司会 阿部珠理 講演者 原田憲一・鎌田東二・松本亮三」
「持続千年首都・平安京の生態智」鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター)
私の研究のキーワードの一つは「生態智」で、原田憲一さんたちと一緒にまとめた『平安京のコスモロジー』(創元社、二〇一〇年)の中でもその概念を展開しました。その「生態智」とは、「自然に対する深く慎ましい畏怖・畏敬の念に基づく、暮らしの中での鋭敏な観察と経験によって練り上げられた、自然と人工との持続可能な創造的バランス維持システムの技法と知恵」であるとわたしは定義しました。ここが肝心な点ですが、まずもって、「自然に対する深く慎ましい畏怖畏敬の念」があって、それをもって、「暮らしの中での鋭敏な観察と経験」によって磨きをかけ、錬磨された「自然と人工との持続可能な創造的バランス維持システムの技法と知恵」。
そのような「生態智」という観点から平安京を見ていったときに、平安京が何故一〇〇〇年以上も続いたということが一体どういうことなのか、「その創造的バランス維持システム」を見ていくことができる。そしてこの平安京研究から二一世紀に必要な世界平安都市モデルを構想していくことができるのではないかと考えたわけです。そこで、物づくりとか物の流れとかを含む、二一世紀の「モノ学」を構想していこうと考えました。そしてそのモノの中には、霊性を含んだモノも入る。というのも、物の怪というのは霊的怪異現象ですから。そこで、霊性を含んだ生態智や身体智、総合智をもう一回よみがえらせていって、そのような研究が世直しや心直しにつながっていきたいという願いをもって研究して参りました。
(講演録より抜粋)
河合教授の共著論文が『日本診療内科学会誌』に掲載されました
河合俊雄教授の共著論文が『日本診療内科学会誌』第17巻3号(2013年/発行:日本心療内科学会)に掲載されました。
「バセドウ病患者のカウンセリング過程にみられる特徴について ―甲状腺専門病院での実践から―」
田中美香1, 金山由美1,4, 河合俊雄1,5, 桑原晴子6, 窪田純久7, 深尾篤嗣2,8, 網野信行2, 宮内昭3(1.隈病院 心理, 2.隈病院 内科, 3.隈病院 外科, 4.京都文教大学, 5.京都大学こころの未来研究センター, 6.岡山大学教育学研究科, 7.くぼたクリニック, 8.茨木市保健医療センター)日本心療内科学会誌 17(3): 174 -179 2013
身体疾患であり、また心身症との関係も深いとされるバセドウ病のカウンセリングの特徴について検討しました。カウンセリング群の患者は一般群に比べて有意に寛解率が低く、通常の身体的治療だけでは改善の難しい患者がカウンセリングに紹介されていることが明らかになりました。またカウンセリング期間と内容について検討したところ,短期ケースより長期ケースのほうが寛解率は高くなっていました。短期ケースは一時的な安定には有効であると考えられますが、何かのきっかけで心身ともに不安定な状態をくり返す場合も多くみられました。一方,長期ケースでは,自分の内面の課題とバセドウ病とのつながりを感じ,自ら主体的にその課題に取り組むことで本症の改善につながる可能性が示唆されました。
(報告:長谷川千紘・上廣こころ学研究部門)
千石研究員のブータン訪問報告が『内観研究』に掲載されました
千石真理研究員のブータン訪問報告「ブータンに内観の源流を見つけて」が、日本内観学会の発行する『内観研究』Vol.19 No.1に掲載されました。
京都大学ブータン友好プログラム第十次訪問団員として、本年1月18日から25日までブータンを訪れた千石研究員は、現地でキャンプや民家泊、トレッキングを経験しながら数多くの町や寺院を回り、現地の人々と交流しました。輪廻転生を信じ、他者の為に祈り、確固とした死生観を持つブータン人の考え方や暮らしぶりにふれた千石研究員は、仏教思想に基づいたブータン人のこころの様相と実践生活を詳細に報告し、感想を述べています。さらに今回の訪問を通して内観の実践者・仏教研究者としての視線で現在の日本を見つめ直し、ブータンと仏教からあらためて学ぶべきことを提示しています。
「- 報告 - ブータンに内観の源流を見つけて/Discovering the Roots of Naikan in Bhutan」千石真理 著者所属:京都大学こころの未来研究センター
幸福の国、ブータンに行ってきた。筆者が研究員として勤務する京都大学では、一九五七年よりブータン王国との交流が始まり、研究、教育、社会貢献のパートナーシップの構築を目指し設立された、京都大学ブータン友好プログラムから定期的に訪問団を派遣している。筆者は、その第十次訪問団の一員として平成25年1月18日から28日まで、現地八日間の視察に赴いた。1月下旬の最も寒い時期に、標高1500メートルから3000メートルの高地を訪れ、キャンプや民家泊、トレッキングを経験した。「本当にブータンは幸せな国なのか?」当初感じていた不安や不便さも、仏教国ブータンの懐の中で、大きな安らぎへと変わっていった。
(報告より抜粋)
鎌田教授の著書『聖地感覚』が出版されました
鎌田東二教授による著書『聖地感覚』(角川学芸出版)が出版されました。2008年に刊行された単行本を文庫化したもので、文庫判あとがきが加わり、内田樹氏(神戸女学院大学名誉教授/思想家・武道家)が解説しています。聖地に関する著書や論考を数多く発表し、フィールドワークを重ねる鎌田教授による「聖地論」が凝縮した一冊です。「行者」として聖地へ分け入り聖地と対話する実践研究者・鎌田教授の姿を、内田樹氏の解説が生き生きと表しています。
本書は、「聖地感覚」という切り口から、未来の人類の生存にとって必須になる「生態学的身体知」すなわち「生態智」の在り様を探ろうとした。そのような感覚価値を身体知として受肉し、応用し、さまざまな生活のかたちにまで及ぼすことができなければ人類の未来は危ういと思っている。「パワースポットブーム」なるものが進行するそばで、アメリカ・インディアンの聖地を含めて、地球環境のバランスの「萃点(南方熊楠)」ともいえる世界中の聖地に地崩れが起こり始めているからだ。そしてそれは、人間のみならず、あらゆる生き物の、またモノの生存基盤や存在基盤を危うくするものである。事態は切迫している。とりわけ、東日本大震災「三・一一」後の今は。
(略)そうした中で生存の未来を問いかけつつ生きるとき、このかけがえのない水の惑星の中で培われてきた「生態智」が目安となり、よすがとなり、コンパスとなる。わたしたちの生存と生成の可能性と不可能性のリアルな探求を手助けしてくれる。
(「文庫判あとがき」より)
『聖地感覚』
著者:鎌田東二
発行:角川学芸出版
発売日:2013年10月25日
定価(税込): 840円
文庫判
「聖地の力の謎を求め、京都東山修験道に赴いた著者。深い森に迷い、日常の常識を手放した時、身体古層から湧き上がってきたものとは。人間を自然へと解き放つ野生の声を描く、聖地の画期的フィールドワーク!」
Amazonの書籍ページ
鎌田教授の講演論文「神話と歌にみる言霊思想」が『地球システム・倫理学会会報』第8号に掲載されました
鎌田東二教授が地球システム・倫理学会第8回大会シンポジウムでおこなった『神話と歌にみる言霊思想』の講演論文が『地球システム・倫理学会会報』第8号に掲載されました。
学会シンポジウムのテーマは「日本語のちから」でした。鎌田教授は日本の「言霊思想」について「神話と歌にみる言霊思想」という演題で講演しました。日本最古の歴史書といわれる『古事記』には原初の自然そのものの存在や現象が言葉を発する「アニミズム的言語意識」が根底に流れていました。その後、言語定型化の流れにより「宗教的言語意識」が加わることで『万葉集』には明示的な「言霊の観念」が顕在化するようになり、さらに言霊思想は『新古今和歌集』にみられるような神仏習合的な和歌・言霊を包含する「真言思想」へと発展。こうした歴史的過程を鎌田教授は数々の文献と共に紹介。現代にまで脈々と流れる「言の葉にいのちが宿っている」という日本独自の言語生命観の様相について解説しています。
神話は口承伝承されてきた物語であり、その起こりは神懸り的な神託だったのではないか。古代人はそこに、不可思議で超越的な言葉の霊妙なはたらきを感じとったのではないだろうか。
「言霊」とは、そのような言葉のくしびなはたらきとちからに対する言語感覚に発する概念であろう。
拙著『超訳 古事記』は、そのような、神話的伝承の言い伝えの世界を再現しようとした非常識で無謀なチャレンジであった。稗田阿礼が伝え来た伝承を語り、712年に太安万侶がそれを文字に起こして整序し、最終的にある編纂意図をもってまとめたものが『古事記』だとすれば、その『古事記』の世界の「原古事記」的な「伝承感覚」や「言語感覚」を探求する試みが『超訳 古事記』であった。(中略)
わたしは、神話や様々な伝承には、言葉の霊妙なはたらきとちからに対する言霊的な「感覚」が注入されていると考える。というよりも、そのような言霊「感覚」なしに、「神話」は「神話」たりえず、「伝承」は「伝承」たりえないのだと考える。
(論文より抜粋)
鎌田教授の論考が収められた『岩波講座 日本の思想 第五巻 身と心―人間像の転変』が出版されました
岩波書店が創業百年記念出版事業として刊行する『日本の思想』シリーズの第五巻に鎌田東二教授の論考が収録されました。「身と心―人間像の転変」が主題となった第五巻は、歴史の流れのなかで変遷し続けてきた日本人の精神論、身体論が様々な角度から論じられている論考集です。
鎌田教授は「身体と修行」をテーマに執筆。「『身体と修行』をめぐる『古事記』の中の『潜在思想』」、「日本仏教における身体と修行」、「『身体と修行』をめぐる日本中世」、「修験道と能の『身体と修行』」、「近世の『身体と修行』ー身心変容から等身大へ」、「近現代における『身体と修行』の問題系」という構成で、自身の研究成果をもとに日本の思想という視座のもと、日本の歴史における身体と修行論を展開しています。
「身体と修行」というテーマで「日本の思想」を捉えようとするとき、直接的には仏教(仏法)あるいは仏道修行がその主要な事例となることはまちがいない。最澄の「止観」、空海の「三密加持」、空也や源信や法然や親鸞や一遍の「念仏」、栄西や道元の「禅」、日蓮の「題目」などを、「身体と修行」をめぐる「日本の思想」とその具体的実践例として検討していくことができる。(中略)
本稿では、「日本の思想」の形成という視座から、そうした仏教や仏道思想における「身体と修行」の流れとその思想性や特質を吟味していく。その際、仏教あるいは仏道修行が日本の自然・風土・環境と歴史の中で「日本の思想」として独自の展開を遂げていくときの土壌とも触媒ともなる「潜在思想性」を、まずは『古事記』の中から掘り起こして措定しておきたい。そして次に、潜在化され可視化され意識的に実践されてきた仏教の「身体と修行」を取り上げ、さらに加えて、古事記的神道的「潜在思想」と仏教的「潜在思想」が絡み合いつつさらなる変容を遂げていく中世の和歌即陀羅尼説やほぼ同時期に隆盛をみる修験道における「身体と修行」に論及し、最後に近現代の新宗教や霊学なども視野に入れつつ「身体と修行」について試論を展開していきたい。
この論順に従いながら、「身体と修行」をめぐる「日本の思想」のかたちと力と特質を浮びあがらせてみたい。
(書籍より抜粋)
岩波講座 日本の思想シリーズ - 岩波書店ウェブサイト
『岩波講座 日本の思想 第五巻 身と心―人間像の転変』 - Amazon.co.jp
長谷川研究員と河合教授の共著論文が『Psychologia』に掲載されました
長谷川千紘研究員(上廣こころ学研究部門)と河合俊雄教授他の共著論文 " Psychological Characteristics of the NEW-FFI and the Tree Drawing Test in Patients With Thyroid Disease " が、国際心理科学誌『Psychologia』第56巻2号(2013年6月/発行:プシコロギア会)に掲載されました。
論文は、「甲状腺疾患におけるこころの働きとケア」プロジェクトの一環として、2種類の心理テストから甲状腺疾患患者の心理的特徴を検討したものです。意識的に回答される質問紙では極めて標準的な反応を示す一方で、無意識的なあり方が反映されるバウムテスト(投映描画法)では自我境界の曖昧さが示されました。そのため、心理療法では表面に現れてきにくい深いレベルまで見通していく必要があるのではないかと考察しています。
C.Hasegawa, K.Umemura, M.Kaji, N.Nishigaki, T.Kawai, M.Tanaka, Y.Kanayama, H.Kuwabara, A.Fukao, & A.Miyauchi(2013) Psychological Characteristics of the NEW-FFI and the Tree Drawing Test in Patients With Thyroid Disease. Psychologia, 56(2), 138-153
内田准教授が分担執筆した書籍『The Exploration of Happiness』が出版されました
内田由紀子准教授が分担執筆した書籍『The Exploration of Happiness: Present and Future Perspectives』(発行:Springer / 米国 / 2013年4月)が出版されました。
ビナイ・ノラサクンキット助教(ゴンザガ大学)と北山忍教授(センター特任教授・ミシガン大学)との共著です。この本は幸福感研究の国際誌「Journal of Happiness Studies」に2000年から掲載された論文の中でもっともインパクトがあり、理論的に重要であると思われる16篇が選ばれて編纂されたものです。内田准教授らが2004年に出版した幸福感の文化差について論じた論文(Uchida, Y., Norasakkunkit, V., Kitayama, S. (2004) Journal of Happiness Studies, 5, 223-239.)が心理学やそれ以外の領域からの引用が数多く、理論的貢献度の高いものとして多くの論文の中から選出されました。
Uchida, Y., Norasakkunkit, V., & Kitayama, S. (2013).
Cultural constructions of happiness: Theory and empirical evidence.
In A. Delle Fave (Ed.), The exploration of happiness: Present and future perspectives. Springer.pp.269-280.
This specially selected collection of landmark work from the Journal of Happiness Studies maps the current contours, and the likely future direction, of research in a field with a fast-rising profile. This volume, which inaugurates a series aiming to explore discrete topics in happiness and wellbeing studies, features selected articles published in the Journal of Happiness Studies during its first decade, which culminated in an 'impact factor' in 2011. As the introductory work in the series, it provides readers with a vital overview of the prominent issues, problems and challenges that well-being and happiness research has had to overcome since its appearance on the scientific stage. The journal's very success evinces both the high scientific quality of the research covered, and the steadily growing interest in a subject that draws responses from a vast range of epistemological aiming points, taking in economics, sociology, psychology, philosophy, education and medicine.
(About this book)
奥井遼研究員の論文が『教育哲学研究』第107号に掲載されました
奥井遼研究員(上廣こころ学研究部門)の論文「身体化された行為者(embodied agent)としての学び手 ーメルロ=ポンティの『身体』概念を手がかりとした学びの探求ー 」が、『教育哲学研究』第107号(発行:教育哲学会/2013年5月)に掲載されました。
からだを使ったわざの習得に関わる行為と言語のやりとりに注目し、教育における「学び」の再検討を研究課題としている奥井研究員は、本論文においてメルロ=ポンティの現象学的身体論を土台に、クロスリーの「身体化された行為者」という観点から行為論を検討。様々な議論を取り上げながら、相互交流的な「身体による学び」の作用からその先の展望までを丹念に論じています。
奥井遼(2013)身体化された行為者(embodied agent)としての学び手 ーメルロ=ポンティの「身体」概念を手がかりとした学びの探求ー . 『教育哲学研究』107号 60-78
一 「主体としての身体」と教育
二 メルロ=ポンティの行為論 ー身体は個別的なものか?
三 身体図式の組み替えとしての学び
四 言語=所作の獲得における身体の「転調」
五 学びの共同性ー個から個、から「共同作業」
おわりに ーミクロな相互行為の記述に向けて
身体化された行為者にとって学びとは、教え手との行為の編み目のなかで、自らを越え出て、自らを越え出たものを取り込みながら変容していく営みである。その学びは、絶えざる相互交流のなかにあるために、常に現在的で流動的である。とすれば、教育的な意図や、管理的な力といったものでさえ、そうした現場を活性化させる項の一つとして位置づけることができる。例えば、表象的な記号操作のみを強化するかのような「塾」という場は、「偏差値」や「受験」などの力によって方向づけられているがーーたとえそれが、かつての村落共同体や職業集団が培ってきたような参加型の教育システムとはかけ離れたものであったとしてもーー、それでも学び手は、教え子とのミクロで相互的な交流のなかにあって学習の場を行きた世界として経験しているのである。
そうした相互交流的な学びの作用は、漫然と居合わせるだけでは体感されないし、体感することによって変容していくことだろう。哲学的な記述と、身を投じた行為との、どちらに傾くともなく追求し続ける態度を徹底させることによって、そうした作用にまなざしを向けていくことが求められている。
(論文より抜粋)
阿部准教授の論文が "Neuroscience Research" と "Brain and Development" に掲載されました
阿部修士准教授(上廣こころ学研究部門)の論文が、"Neuroscience Research Vol.76-4" と "Brain and Development Vol.35-5" に掲載されました。
"Neuroscience Research" に掲載された論文は阿部准教授が筆頭著者で、「虚再認」と呼ばれる記憶のエラーに関わる脳活動を、fMRIで調べた研究結果をまとめています。"Brain and Development" には共著論文が掲載され、Prader-Willi症候群における食行動の異常と脳血流との関係を見た研究となっています。
Abe N, Fujii T, Suzuki M, Ueno A, Shigemune Y, Mugikura S, Takahashi S, Mori E (2013)
Encoding- and retrieval-related brain activity underlying false recognition
Neuroscience Research 76 (4): 240-250
Ogura K, Fujii T, Abe N, Hosokai Y, Shinohara M, Fukuda H, Mori E (2013)
Regional cerebral blood flow and abnormal eating behavior in Prader-Willi syndrome
Brain and Development 35 (5): 427-434
論文の abstract や概要は下記リンク先ページにてご覧いただけます。
Science Direct: "Neuroscience Research Volume 76, Issue 4"
Science Direct: "Brain and Development Volume 35 Issue 5"
清家助教の論文が『日本精神科病院協会雑誌』に掲載されました
清家理助教(上廣こころ学研究部門)の論文が、『日本精神科病院協会雑誌 第32巻・第6号』に掲載されました。
「診療と一体化した認知症患者および家族への早期支援介入の意義 国立長寿医療研究センター もの忘れセンター『もの忘れ教室』の取り組み」
清家理1.2 櫻井孝1 鳥羽研二1(1.国立長寿医療研究センターもの忘れセンター、2.京都大学こころの未来研究センター)
はじめに
わが国における認知症患者数は、増加の一途である。高齢者の14.4%(約400万人)が認知症であり、かつ同数の軽度認知障害患者(mild cognitive impairment: MCI)が存在すると推計される。近年、認知症予防に関する研究、診断技術や新約開発等、認知症診療をとりまく環境は大きく変化している。そのようななか、藁にもすがる思いで、認知症疾患医療センターにたどりつく患者や家族も少なくない。しかし、認知症の確定診断がついたあと、認知症の経過のなかでも生じる精神症状に、家族が翻弄されるケースもしばしば見受けられる。その結果、在宅介護の限界を超え、精神病院への長期入院を余儀なくされている。(中略)
そこで国立長寿医療研究センターでは、認知症の確定診断がついた時点から、認知症患者と家族に対する包括的な教育プログラムを提供する試み(物忘れ教室)を始めている。本実践はアクションリサーチでもある。本稿では筆者ら家族教室の概要を紹介し、初年度の結果を提示する。
(論文より)
認知症患者が増加の一途をたどる日本の認知症施策において、「早期支援機能」「早期回避支援機能」がケアの基本とうたわれるなか、本研究では、「早期支援」を「認知症の鑑別診断がついた時点で、医療(キュア)と看護・介護(ケア)がシームレスかつ包括的に提供される処方箋」と位置づけ、認知症患者と家族に対して行った包括的な教育プログラムを提供する試み(もの忘れ教室)のアクションリサーチの結果を報告しています。論文では、もの忘れ教室の実施が、参加した患者や家族に認知症への対応術や知識獲得の機会を与え、認知症への理解や生活・介護上の不安解消や意欲向上など心理面への効果をもたらした、としています。
鎌田教授の著書『「呪い」を解く』『となりのトトロ』『霊の発見』が出版されました
鎌田東二教授による著書・共著書が3冊、出版されました。2004年に出版された単行本『呪殺・魔境論』を文庫化した『「呪い」を解く』、ジブリ作品『となりのトトロ』を多彩な執筆陣が解説した『ジブリの教科書3 となりのトトロ』、作家・五木寛之氏との対談書『霊の発見』。いずれも読み応えたっぷりの書となっています。
以下、発行日順にご紹介します。
『「呪い」を解く』
鎌田 東二・著
発行所:文藝春秋
発行日:2013年5月10日
定価:770円(税込)
判型・ページ数:文庫版393ページ
●内容紹介
「「呪い」という負のエネルギーは侮れません。それは現代社会で様々な形をとって、リアルに心身を蝕んでいるものなのです。宗教学者・鎌田東二さんの『「呪い」を解く』では、その起源を解き明かしつつ、酒鬼薔薇事件やオウム真理教事件を題材に、私たちの心身の「魔境」のメカニズムに斬り込みます。「魔境」に潜む強烈なエロティシズムや狂気を極めて意識的に利用した麻原彰晃の禁断の性技法とは?自ら激しい修行を経てきた著者だからこそ明かせた異端書。」(書籍紹介より)......2004年に出版された単行本の文庫化にあたりタイトルを一新。今なお人々の記憶に強烈に残る事件を、「呪い」「魔境」「霊性」等の斬新な切り口で読み解き、新たな領域まで踏み込んだ挑戦の書です。
出版社の書籍ページはこちら
Amazonの書籍ページはこちら
『ジブリの教科書3 となりのトトロ』
スタジオジブリ・編、文春文庫・編
発行所:文藝春秋
発行日:2013年6月10日
定価:725円(税込)
判型・ページ数:文庫版336ページ
●内容紹介
歴代ジブリ作品のなかでも最も子供たちに人気のある名作を豪華執筆陣が解き明かした「トトロの教科書」。鎌田教授は「鎮守の森から見たトトロ論」と題し、「森のヌシ神」であるトトロを中心に描かれる映画の世界の背景と源流にある神々(カミガミ)の世界を宗教学・民俗学の視点から詳細に解き明かしています。
出版社の書籍ページはこちら
Amazonの書籍ページはこちら
『霊の発見』
五木 寛之・著、鎌田 東二・著
発行所:学研パブリッシング
発行日:2013年6月14日
定価:620円(税込)
判型・ページ数:文庫版309ページ
●内容紹介
「なぜ日本人は心霊や霊能者に惹かれるのか? 万物に神や仏を見出す日本的な心情についてベストセラー作家と気鋭の神道家が徹底的に語り合い、縄文時代から連なる「霊を畏れ敬う」感性を明らかにする。「心」を見失いつつある現代人の必読の書!」(書籍紹介より)......霊の存在、日本人と宗教との関わり、霊能者ブーム、神霊との交信、超能力、死後の世界など、作家・五木寛之氏による多様な問いかけに対し、鎌田教授が長年の研究活動とフィールドワークに裏打ちされた幅広い知識と説得力ある語りで掘り下げていきます。
出版社の書籍ページはこちら
Amazonの書籍ページはこちら
吉川教授がエッセイを寄稿した『ゆとり京大生の大学論』が出版されました
吉川左紀子教授がエッセイを寄稿した『ゆとり京大生の大学論―教員のホンネ、学生のギモン』(ナカニシヤ出版/2013年6月18日)が出版されました。
2012年、教養教育を見直す動きが起こった京都大学で、あらためて「大学で学ぶことの意味」について根源的な問いを抱いた学生たちがみずから本の出版を企画。現役教授や各界で活躍するOBらがそれに応える形でエッセイ、コラムを寄稿し、様々な「大学論」や「教育論」、「大学への思い」「学生への提言」が集まりました。本の前半には、益川敏英名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構長のインタビューと13人の教員らからの寄稿文、8つのコラムを掲載、後半には学生らが「学び」についてじっくりと語り合った議論を収録しています。
吉川教授は「大学で学ぶ」というタイトルで、京都大学に入学した当時に受けた教養部での印象的な授業の数々を回想。個性的な教員が繰り広げる、厳しくも面白かった授業の様子をイキイキと振り返りながら、大学での学びが人生に与えてくれたこと、知的好奇心を満たす授業や先生と出会うことの大切さについて語っています。
「大学で学ぶ」吉川左紀子
京都大学の教養教育が大きく見直されようとしている。二〇十二年の半ばごろから、国際高等教育院についての賛否両論の議論が聞こえてくるようになって、同世代や少し離れた世代の教員同士、「自分の教養部時代」や「教養の授業の思い出」について話しをする機会が増えた。
教養の授業はつまらなかった、という人もいるが、私の記憶は違う。大学の四年間を思い起こして、どの学年に戻りたいかと問われたなら、間違いなく一年生のとき、と答えるだろう。毎日、教養部の授業を受けに、修学院の下宿から吉田南の講義室に通っていた。
(寄稿文より抜粋)
『ゆとり京大生の大学論 教員のホンネ、学生のギモン』
・安達千李・新井翔太・大久保杏奈・竹内彩帆・萩原広道・柳田真弘 編 ナカニシヤ出版
・四六判・180頁
・税込定価 1575円
・ISBN978-4-7795-0777-9
・2013年6月18日発行
【主な寄稿者】
益川敏英・河合 潤・佐伯啓思・酒井 敏・阪上雅昭・菅原和孝・杉原真晃・高橋由典・戸田剛文・橋本 勝・毛利嘉孝・山極壽一・山根 寛・吉川左紀子他
ベッカー教授の論文が『British Journal of Social Work』に掲載されました
カール・ベッカー教授の論文「Social Workers Can Use Sense of Coherence to Predict Burnout of End-of-Life Care-Givers (Research Report from Japan)」が、 『British Journal of Social Work』に掲載されました。日吉(谷口)和子京都大学医学研究科博士課程、木下彩栄京都大学医学研究科教授との共著による英語論文で、2013年5月30日よりオンライン掲載されています(Abstractは無料、本文閲覧は有料。下記論文タイトルのリンクよりアクセス可能です)。
Social Workers Can Use Sense of Coherence to Predict Burnout of End-of-Life Care-Givers (Research Report from Japan)
Kazuko Hiyoshi-Taniguchi, Carl B. Becker, and Ayae Kinoshita
British Journal of Social Work (2013) 1-15 doi:10.1093/bjsw/bct086, May 30, 2013
論文では、在宅介護者の負担にSOC(: Sense of Coherence/首尾一貫感覚)が強く関係していることに注目し、日本国内の177世帯を対象にした調査において在宅介護者のSOC値が高い人ほど介護の負担が低く、測定値が低いほど負担が大きい結果を示したことを報告しながら、ソーシャルワーカーがSOC測定を利用することで、介護者の燃え尽きや家庭内での虐待等の軽減に活かせると考察しています。
河合教授が「はじめに/解説」を執筆した『こころの最終講義』(河合隼雄著)が出版されました
河合俊雄教授が「はじめに/解説」を執筆した『こころの最終講義』(河合隼雄/著)が2013年6月、新潮社より出版されました。
ユング心理学の国内第一人者であり、後年には文化庁長官として活躍し、日本の心理学および文化発展に大きな功績を残した河合隼雄京大名誉教授による講義および講演を収めた『こころの最終講義』は、「伝説」といわれる1992年の京都大学定年退職記念講義「コンステレーション」、1991年の日本心理臨床学会第十回大会での特別講義「物語と心理療法」など、反響を呼んだ6つの講義・講演が収録された貴重な一冊です。
本作の前身となる書は、1993年に岩波書店より『物語と人間の科学』という書名で出版されました。今回、文庫化にあたり収録講義の順序を一部変更、タイトルも一新して『こころの最終講義』となりました。また、新たに加わった河合俊雄教授による「はじめに」と「解説」では、それぞれの講義の要点が分かりやすく紹介されると共に、河合隼雄先生が講義を行った当時、関心を持ち取り組んでいたトピックや、知られざるエピソードの数々が披露されています。これらを合わせて読むことで、より深く、より親しみをもって「講義を受ける」ことができるでしょう。
『こころの最終講義』河合隼雄/著
・はじめに 河合俊雄
・第一章 コンステレーション――京都大学最終講義――
言語連想テストからの出発/「元型がコンステレートしている」/「自己実現の過程をコンステレートする」/一つの事例/母なるものの元型/意味を見出すということ/全体がお互いに関係をもつ/コンステレーションを私が読む/余計なことをしない、が心はかかわる/気配を読み取る/コンステレーションと物語/日本の神話をいかに語るか
・第二章 物語と心理療法
「リアライゼーション」/「語る」ということ/ストーリーは筋をもつ/詩的な言語と自然科学の言語/科学の側の反省――語りの大切さ/「文体」について/心理療法としてのミソ・ドラマ/欧米の神話と日本の物語の違い/日本人の自我/「受胎告知」のダイナミズム/事例研究の普遍性/物語と自然科学
・第三章 物語にみる東洋と西洋
第一部 隠れキリシタン神話の変容過程
宗教性/隠れキリシタンとは/『天地始之事』/創造主としての神/原罪/神話における男性と女性/日本人に受けいれ難いこと/聖書にはない話がつくられた/足の弱い子――神話とは何か/マリアのイメージ/キリストの贖罪/三位一体と四位一体
・第二部 『日本霊異記』にみる宗教性
『日本霊異記』のおもしろさ/冥界往還と夢/極楽に行った話/臨死体験の意味/現代人より深い意識のレベル/中世の日本人の罪意識/民俗的伝統の残存/身体と魂/次第に現実的になる/信用されなくなった冥界の話/現実の生活と宗教
・第四章 物語のなかの男性と女性――思春期の性と関連して――
男と女という分類/平安時代の物語にみる男と女/アニマと魂/「私」とは?/わかりにくい「性」の問題/魂の洗浄/思春期は「蛹の時代」/「性」は魂にかかわる/「アニマ・アニムス」の問題/ヨーロッパと日本の違い/『とりかへばや物語』/物語の重要さ
・第五章 アイデンティティの深化
深層心理学の仕事/アイデンティティとは/西洋人の自我と日本人の自我/自我同一性の確立と断念する力/何が「私」を支えているか/柳田国男の『先祖の話』/神様への手紙/ファンタジーをもつこと/根本的なジレンマ/自己実現の過程
・あとがき
・解説 河合俊雄
(文庫/頁数308頁/発行:新潮社)
鎌田教授が論考を執筆した『能を読む③ 元雅と禅竹 夢と死とエロス』が出版されました
鎌田東二教授が論考を執筆した『能を読む③ 元雅と禅竹 夢と死とエロス』(梅原猛・観世清和監修)が2013年5月、角川学芸出版より出版されました。
『能を読む』は、観阿弥生誕680年・世阿弥生誕650年を記念し、2013年1月より隔月出版が始まった全4巻のシリーズ本です。「新釈の現代語訳で"能を読み"、先鋭な論考で"能を解き"、演者から"能を聞く」をコンセプトに、名作128曲の解説と、識者による論考、演者をまじえた対談・座談録が収められています。
第3巻で"鎌田教授は「能を解く-論考」にて「元雅と天河」(524~533頁)を執筆しました。世阿弥の長子、元雅が伊勢で客死する2年前の永享2(1430)年、奈良・吉野の天河弁財天を訪ね「唐船」(とうせん)を舞い、阿古父尉の能面を奉納した史実をとりあげ、能と天河、元雅と天河との関係を紐解きながら、元雅の奉じた「心中所願」、元雅の作品性について、奥深く考察しています。
元雅と天河 鎌田東二
一九八四年四月四日に初めて奈良県吉野郡天川村坪内に鎮座する天河大弁財天社に詣でてから、このほぼ三〇年の間に、おそらく二〇〇回近く天河を訪れている。そのつど天河の遠さを感じるのだが、室町時代、南北朝期の永享二年(一四三〇)に、その奥深い天河に観世元雅が訪ねていって「唐船」を舞い、「尉面」(阿古父尉)の能面を奉納していることを知って以来、元雅の訪問動機が何であったのかとあれこれ想像してきた。もちろん、それを推測する資料が少ないこともあって確かな答えがあるわけではないが、その問いを核に元雅の思想と作品について考えを述べてみたい。
(『能を読む③ 元雅と禅竹』能を解く-論考「元雅と天河」より抜粋)
・発売日:2013年05月23日
・定価(税込):6825円
・A5判
・ISBN 978-4-04-653873-4-C0374
・発行元:角川学芸出版
熊谷准教授のフランス語論文が『Circulaire de la Societe Franco-Japonaise des Etudes Orientals』に掲載されました
熊谷誠慈准教授のフランス語論文「Caracteristiques de la theorie des deux verites en Inde et au Tibet」(インドおよびチベットにおける二真実思想の特性)が、論文雑誌『Circulaire de la Societe Franco-Japonaise des Etudes Orientals』(第34-36号)に掲載されました。
Seiji KUMAGAI (2013): "Caracteristiques de la theorie des deux verites en Inde et au Tibet," Circulaire de la Societe Franco-Japonaise des Etudes Orientals, Vol. 34-36, pp. 15-20.
論文は、インド仏教で成立した真理の概念区分(究極的真実と世俗的真実)が、チベット仏教に、さらにはヒマラヤの土着宗教であるボン教の中にどのように取り込まれていったのか、思想の受容過程を検証したものです。
内田准教授と福島研究員の論文が『季刊 環境研究』に掲載されました
内田由紀子准教授と福島慎太郎研究員(上廣こころ学研究部門)の論文が、『季刊 環境研究 2013/No.169』(発行:公益財団法人 日立環境財団)に掲載されました。

内田由紀子(2013). 日本文化における幸福と持続可能な社会への提言. 季刊環境研究169, 44-52.
福島慎太郎(2013)地域における重層的な境界に抱かれた幸福.季刊環境研究,169,
87~93.
「日本文化における幸福と持続可能な社会への提言」というタイトルの論文で内田准教授は、幸福度指標をめぐる知識や昨今の国内外での動向を心理学の分野から紹介すると共に、文化心理学的な視点から日本における幸福とはどのようなものかを概観し、それらをふまえた上で「持続可能な社会と幸福」について提言しています。
福島研究員は、「地域における重層的な境界に抱かれた幸福」という論文にて、個人を主体とする西洋型の幸福とは異なる「地域」内部の具体的な「間柄」によって保持される幸福に注目し、日本の農村地域に対して行った質問調査の結果の一部を概観しながら、今後の日本社会に求められる幸福の捉え方について考察しています。
『季刊 環境研究』は、環境問題に関する総合的な調査・研究を通じて環境についての正しい認識と理解を促進することを目的に設立された公益財団法人 日立環境財団が発行する機関誌です。今号は、「幸福、正義にとって環境とは何か」という特集のもと、10本の論文と1つの講演録が掲載されました。機関誌は、主な大学図書館や自治体の図書館などでお読みいただけます。
□『季刊 環境研究』のページ
http://www.hitachi-zaidan.org/kankyo/works/work02.html
河合教授と内田准教授の共編著『「ひきこもり」考』が出版されました
河合俊雄教授と内田由紀子准教授による共編著『「ひきこもり」考』(こころの未来選書)が、創元社より出版されました。
『「ひきこもり」考』は、社会心理学、文化心理学、臨床心理学、ジャーナリズムなど異なる分野の第一線で活躍する識者らが、多様な視点から「ひきこもり」を議論し、考察を試みた論考集です。河合教授、内田准教授をはじめ、ジャーナリストのマイケル・ジーレンガー氏、北山忍ミシガン大学教授(こころの未来研究センター特任教授)、嘉志摩佳久メルボルン大学教授、境泉洋 徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部准教授、ビナイ・ノラサクンキット ゴンザガ大学助教が著者に名を連ねています。
「ひきこもり」考(こころの未来選書) 河合俊雄、内田由紀子編
<目次>
・はじめに.........内田由紀子
・第1章 ひきこもり――現代日本社会の"行きづまり"を読み解く.........マイケル・ジーレンジガー/翻訳 内田由紀子
・第2章 自己矛盾のメンタリティー――ひきこもりの文化心理学.........北山忍
・第3章 ひきこもりと日本社会のこころ.........内田由紀子
・コラム 「ニート・ひきこもり」についての社会心理学的考察―― 原因と対処方略について.........ビナイ・ノラサクンキット/翻訳 内田由紀子
・第4章 「ひきこもり」と学習.........境泉洋
・第5章 日本における若者の病理の変化――ひきこもりと行動化.........河合俊雄
・第6章 臨床現場から見る「ひきこもり」......... 岩宮恵子
・第7章 ひきこもり考――三氏(ジーレンジガー・北山・河合)の議論へのコメント.........嘉志摩佳久
・おわりに――こころの自己矛盾とつなぐもの.........河合俊雄
・註および文献
(判型:A5判/頁数184頁/発行:創元社)
社会心理学と臨床心理学、それぞれの視点から多角的にアプローチ
――内田由紀子(こころの未来研究センター准教授)
本書では現在の日本社会の若者に生起している現象である「ひきこもり」について、主に社会心理学と臨床心理学の双方からの考察を試みています。現代の日本社会では、70万人もの若者がひきこもり状態にあるとされています。こうした「ひきこもり」は、一つの行動として表現される現象でありながら、その背景と心のありようは複雑で多層的です。2008年3月にこころの未来研究センターで行われたワークショップ「日本文化とこころの行方:『こもる』ことの意味」での議論を発端とし、異なる分野から一つの現象にアプローチするという、ユニークで「こころの未来」らしい書籍となりました。
ひきこもりを社会・文化的構造の要因から考察する社会心理学のアプローチと、個人の持つ来歴や個別性を深く内側から理解しようとする臨床心理学のアプローチ。前半の社会心理学的な視点(第1章:マイケル・ジーレンジガー、第2章:北山忍、第3章:内田由紀子、コラム:ビナイ・ノラサクンキット)、後半の臨床心理学的視点(第4章:境泉洋、第5章:河合俊雄、第6章:岩宮恵子)、そして第7章(嘉志摩佳久)での「ひきこもりの縦糸と横糸からの分析」という包括的視点へ、という流れの中で、それぞれが異なる立場と方法論からひきこもりを検討しているにもかかわらず、期せずして共通点が浮かび上がってきます。たとえば、新しい価値観と既存の価値観の間に生じる「自己矛盾」。あるいは共同体が失われた一方で、「狭い関わり合い」にしがみつこうとする傾向。こうしたことがひきこもり的メンタリティーの背景として重要な要素となっていることが見えてきます。
本書はタイトルに示すとおり、ひきこもりについて「考える」ことが主眼となっており、その具体的な解決や方策、あるいは原因論を呈示するものではありません。しかし、このような分析的視点が、結果的にひきこもりの実情を理解し、何らかの前進が将来的にもたらされること、あるいは「新しい日本の産みの苦しみ、あるいは新しい時代への胎動の一部として」(嘉志摩)ひきこもりをとらえなおし、新しい視点を見いだしていくことにつながればと願います。
単なる制度や居場所作りによる支援構築だけでは根本的には問題は解決しません。「場とは、自分の居場所でありながら、かつ世界とつながっていなければ」(内田)ならず、そして「境界をはっきりさせることで逆説的に外の世界につながり、出て行くことができる。そのためには、つなぎ、かつ区別することのできる他者あるいは見守り手(こころの専門家)の存在が必要」(河合)なのではないでしょうか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
書籍はアマゾンやおもな書店で販売中です。創元社の書籍ページでは、内田准教授による「はじめに」全文と、マイケル・ジーレンガー氏の第1章の一部、河合教授の第5章の一部、著者略歴をお読みいただけます。
鎌田教授の共著書『震災復興と宗教』が出版されました
鎌田東二教授の共著書『震災復興と宗教』(叢書 宗教とソーシャル・キャピタル 第4巻)が、明石書店より出版されました。
『震災復興と宗教』は、震災復興を通して、宗教がソーシャル・キャピタルとして機能しているのか、宗教がソーシャル・キャピタルを形成するのかをテーマに、研究者や宗教者をはじめとする様々な識者らによる事例報告と論考を通して考察した書です。
鎌田教授は、第Ⅲ部「宗教的ケア・復興への関わり」第11章を執筆。「民族芸能・芸術・聖地文化と再生」と題し、東日本大震災後、定期的に被災地を調査訪問し続けている活動のなかで、雄勝法印神楽や虎舞など被災地の伝統芸能が人々の努力により震災の危機を乗り越えて復興した事例をあげながら、地域社会における伝統芸能や民俗芸能の役割と聖地文化について再検討しています。
第11章 民族芸能・芸術・聖地文化と再生 鎌田東二
東日本大震災後、2011年5月を皮切りに、半年に一度ずつ、被災地沿岸部4縲鰀500キロを4度にわたり、定期的に巡ってきた。その中で、被害が沿岸部700キロほどにわたる大規模災害であることも関係して、復旧・復興の遅れていること、東北被災三県の違いや復興格差が生じていること、とりわけ、福島県の抱えている問題の構造的な深刻さなどを強く感じてきた。
だが、そうした中でも、未来社会への希望とも活力とも底力とも感じられたのが、それぞれの地域社会の中で息づいてきた「伝統芸能」や「民族芸能」の役割と働きと力であった。筆者が特に具体的な関わりを持ったのは、宮城県石巻市雄勝町の「雄勝法印神楽」であるが、津波により神楽保存会の会長を喪いながら(現在に至も行方不明)、全国からの力強い支援を得て、神楽の再興を通して地域の絆と団結と活性化を図っていく過程は感動的であり、多くの示唆と勇気を与えられた。(中略)
本稿では、そうした「神楽」に始まる伝統芸能やその芸能が行われる地域の聖地文化と再生に向かう地域の活力について、具体的な事例をあげつつ考察してみたい。
(「はじめに――震災復興と民族芸能」より抜粋)
『震災復興と宗教』 (叢書 宗教とソーシャル・キャピタル 第4巻) 稲場 圭信、黒崎 浩行 著 編集
<目次>
・総説 震災復興に宗教は何ができたのか
・1 震災救援・復興における宗教者の支援活動(仏教の活動
・神社神道の活動
・キリスト教の活動
・新宗教の活動)
・2 連携・ボランティアの動き(伝統的地域ネットワークと地域SNS
・宗教者と研究者の連携
・宗教者の支援活動調査
・大学と市民活動―東日本大震災における大正大学と学外コミュニティの事例より)
・3 宗教的ケア・復興への関わり(阪神・淡路大震災における心のケア
・台湾における震災復興と宗教―仏教慈済基金会による取り組みを事例に
・民俗芸能・芸術・聖地文化と再生
(発行:明石書店/ISBN 9784750338002/判型・ページ数:4-6・316ページ/2013年4月5日)
研究年報『モノ学・感覚価値研究』第7号が刊行されました(全頁ダウンロード可能です)
鎌田東二教授が代表研究者を務める「モノ学・感覚価値研究会」の研究年報『モノ学・感覚価値研究』第7号が刊行されました。
2006年に発足した本研究会は、「モノ学の構築―"もののあはれ"および"もののけ"から"ものづくり"までを貫流する日本文明のモノ的創造力と感覚価値を検証する」を正式名称および副題とし、「『モノ』と人間、自然と人間、道具や文明と人間との新しい関係の構築可能性」をみつめ、「人間の幸福と平和と結びつく『モノ』認識と『感覚価値』のありようを探りながら、認識における『世直し』と『心直し』をしていく」ことを大きな目標としています(研究紹介より)。
上記目標を素地に、多様な専門分野を持つ研究者や芸術家、宗教家らを研究メンバーに毎年研究会と研究調査合宿を重ね、2010年には広く一般に向けての発信として国際シンポジウム、展覧会、ワークショップ等を開催しました。その後も、モノと感覚・価値に関する研究の議論は多方面への広がりと深まりを見せ、2011年の東日本大震災を機にさらなる研究視座の発展へと進んでいます。
以下、鎌田教授による研究年報第7号刊行にあたっての言葉です。
『モノ学・感覚価値研究』第7号刊行に際して――鎌田東二
『モノ学・感覚価値研究』第7号は、2011年4月に立ち上げた東日本大震災にかかわる研究プロジェクト「震災関連プロジェクト~こころの再生に向けて」において開催した三つのシンポジウム・研究会の全記録を収めた。(中略)
本号では、この震災関連の記録以外に、鎌田東二「『こころの練り方』探究事始め その三─ 南方熊楠の『心理学』を中心に」、大西宏志「モノ学・感覚価値研究会アート 分科会/京都大学こころの未来研究センター連携プロジェクト2012年度活動報告」、 渡邊淳司「アブダクションによる世界認識とコスモロジーの改編」、上林壮一郎「グラデーションという現象とデザイン表現についての一考察」、須田郡司「石の聖地の比較研究」、 秋丸知貴「『象徴形式』としての一点透視遠近法 ─ 『自然』概念の変遷を手掛りに」の各論考を収めた。
「3・11」後の状況は厳しい。事故を起こした福島原発をどうするのか、また日本国内 の原子力発電所を中長期的にどのようにしていくのか、その議論も政策も方向性も迷走したまま、なし崩し的に経済復興・景気回復の掛け声の中に埋没しつつある。未来社会のグランドデザインも描けないまま。しかも、これまでには考えられなかったような気象現象が各地に現れてきている。すべてが事後的に「想定外」「前代未聞」とされ、根本的な解決がなされないまま、目の前に山積する短期的な課題が優先されている。先送りされた問題と課題は巨大で、どこから、どう手をつけていったらいいのか、この巨大文明システムを前にしてなすすべを見失っている。
そのような時には、やはり、歴史軸を基軸としてものを考える必要がある。空間的な諸問題が歴史的な課題としてどのように処理されてきたか、対応されているか、またどういう方向に据えられるべきか、大まかなアウトラインを描く必要があるだろう。そうした折に、たとえば南方熊楠や宮沢賢治が対峙し構想しようとしたことなどを再度考えてみることには大きな深い意味があるだろう。今、あらためて、南方熊楠や宮沢賢治のような未来透視型の思想と行動が問われていると思う。
本『モノ学・感覚価値研究』も、そのような歴史基軸に添いつつ未来を構想するミッションをもって始められた。この研究プロジェクトの正式タイトルと副題は、「モノ学の構築 ─ "もののあはれ"および"もののけ"から"ものづくり"までを貫流する日本文明の モノ的創造力と感覚価値を検証する」というものであった。わたしたちは、この研究プロ ジェクトを2006年4月にスタートさせた。それから7年が経った。これから先の問 題を再度正面から見据えて対処していく必要があるだろう。
【謝辞】本『モノ学・感覚価値研究』第7号は、京都大学こころの未来研究センター上廣こころ学研究部門の助成を得て刊行された。上廣倫理財団には心より感謝申し上げたい。
(年報より抜粋)
年報の目次は次の通りです。下記リンクよりダウンロードのうえ全てお読みいただけます。
研究年報『モノ学・感覚価値研究』第7号 <目次> ダウンロード(PDFファイル)
『モノ学・感覚価値研究』第7号刊行に際して 鎌田東二 ●001
第1部 こころのワザ学
第一章 「こころの練り方」探究事始め その三 南方熊楠の「心理学」を中心に 鎌田東二 ●002
第2部 震災とモノ学アートの試み
第一章 モノ学・感覚価値研究会アート分科会/京都大学こころの未来研究センター連携研究プロジェクト 二〇一二年度活動報告 大西宏志 ●013
第二章 アブダクションによる世界認識とコスモロジーの改編 渡邊淳司 ●029
第3部 モノ学の展開
第一章 グラデーションという現象とデザイン表現についての一考察 上林壮一郎 ●032
第二章 石の聖地の比較研究 須田郡司 ●044
第三章 「象徴形式」としての一点透視遠近法―「自然」概念の変遷を手掛りに 秋丸知貴 ●054
第4部 東日本大震災「こころの再生に向けて」シンポジウム記録
第一章 京都大学シンポジウムシリーズ『大震災後を考える』―安全・安心な輝ける国作りを目指してⅣ「大震災後の『心のケア』を考える」災害と宗教と「心のケア」―東日本大震災 現場からの報告と討議 島薗進+玄侑宗久+稲場圭信+金子昭+河合俊雄+内田由紀子+鎌田東二 ●063
第二章 第二回東日本大震災関連シンポジウム 災害時における宗教的ケアと宗教的世直し思想について 鈴木岩弓+金子昭+稲場圭信+島薗進+井上ウィマラ+鎌田東二 ●097
第三章 第三回東日本大震災関連シンポジウム こころの再生に向けて 玄侑宗久+島薗進+稲場圭信+黒崎浩行+一条真也+井上ウィマラ+鈴木岩弓+鎌田東二 ●134
書評 ●012
新聞掲載記事 ●096 ●133 ●168
(発行日 平成25年3月29日)
□モノ学・感覚価値研究会のホームページ
http://mono-gaku.la.coocan.jp
研究年報『身心変容技法研究』第2号が刊行されました(全頁ダウンロード可能です)。
鎌田東二教授(写真右)が研究代表者を務める「身心変容技法の比較宗教学-心と体とモノをつなぐワザの総合的研究」の研究年報『身心変容技法研究』第2号が刊行されました。
本研究は2011年より4年間の計画でプロジェクトが進行しています。多彩な研究メンバーによる最新の臨床心理学、精神医学の臨床研究や認知科学、脳神経科学の実験研究等を結びつけ、身体と心との相互的な関わりをワザやモノを媒介として様々な角度から分析し、「心の荒廃の時代」を突破するための理論と実践を提示することを目指しています。
プロジェクト2年目の2012年度は、8回に渡って研究会が開催され、3つのフィールドワークと1つの定例分科研究会(世阿弥研究会・月2回)が進められました。研究会では、各メンバーの研究アプローチが順次発表され、各回で活発な議論が交わされました。年報には、研究内容をまとめた論文やフィールドワークの調査概要などが全160ページに掲載され、この一年で進められた研究の全容を知ることができます。
年報の目次は次の通りです。下記リンクよりダウンロードのうえ全てお読みいただけます。
研究年報『身心変容技法研究』第2号 <目次> ダウンロード(PDFファイル)
第一部 宗教と身心変容技法
身心変容技法の起源とその展開に関する試論 鎌田東二 3
アビラのテレジアの「身心変容」の諸相―「内感」とその行方 鶴岡賀雄 20
身心変容技法としての掃除論 町田宗鳳 29
応用キネシオロジーの世界―O・リングテストは擬似科学か 棚次正和 37
社会的身心の再考―ベルクソン他の素人読みから 津城寛文 47
竜のヨーギ―ドゥクパカギュ派の聖なる快楽のヨーガ 永沢 哲 52
第二部 心と身体のワザ学
心理療法の効果と身心の変容 河合俊雄・長谷川千紘 62
研究ノート:身体に住み込む、身体から旅立つ 井上ウィマラ 67
心身変容技法はなぜわかりにくいか―太極拳を事例に 倉島 哲 75
まぶさび系色彩論 篠原資明 79
身体的自己と他者理解を可能にする神経機構 乾 敏郎 83
第三部 意識変容~瞑想とシャーマニズム
仏教における瞑想とその展開 蓑輪顕量 87
スーフィズムにおける身心変容技法 鎌田 繁 97
シャーマン太鼓の身心変容力 アルタンジョラー 106
神と演じる劇的空間―神事芸能と身心変容技法 木村はるみ 113
苔の行、あるいは身心変容技法―羽黒修験・秋の峰に関する身体論的考察 奥井 遼 123
第四部 教育と心理臨床におけるワザ
わざの学習・学習のわざ ―タクトを手がかりに 鈴木晶子 132
「関係」をめぐる攻防 ―「わざ」の継承を支える「三者関係」 川口陽徳 140
「吾に辱見せつ」を考える ―物言わぬ皇子ホムチワケの反英雄のイニシエーション・モデルを手がかりとして 高見友理 151
【報告】第9回身心変容技法研究会(1月30日開催)/第10回身心変容技法研究会(1月31日開催)
2012年度最終の研究会が、1月30日・31日の2日間に渡り稲盛財団記念館中会議室で開催されました。
■第9回「ベルクソンと身心変容技法」
▽日時:2013年1月30日(水)13時~17時
▽会場:京都大学稲盛財団記念館3階中会議室
▽発表:13:00~14:30「あいだ哲学で語るベルクソン」篠原資明(京都大学人間・環境学研究科教授・美学・詩人)
14:50~15:20 指定討論:棚次正和(京都府立医科大学医学研究科教授・宗教哲学)
15:20~17:00 総合討論・今年度の総括 司会:鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター教授)
第9回の研究会は、人間・環境学研究科の篠原資明教授が「あいだ哲学で語るベルクソン」という演題で研究発表を行ないました。1988年から提唱する「あいだ哲学」や「交通論」、「まぶさび瞑想」で知られる篠原教授は、今回の研究会で自身の著書『ベルクソン―"あいだ"の哲学の視点から』を紐解きながら、ベルクソン哲学の要といえる「時間」をキーワードに、ベルクソンの思想から身心変容技法を考察しました。指定討論として、京都府立医科大学医学研究科の棚次正和教授が発表に対するコメントを述べ、鶴岡賀雄東京大学大学院人文社会系研究科教授らを交えて議論が進められました。
研究会後の鎌田教授によるコメントは、身心変容技法研究会ホームページ「研究問答」でお読みいただけます。
■第10回「芸能と身心変容技法」(一般公開)
▽日時:2013年1月31日(木)13:00~17:00
▽会場:京都大学稲盛財団記念館3階中会議室
▽基調講演: 13:00~15:00(講演60分+討論60分)「中世の身心変容技法ー能を中心に」松岡心平(東京大学総合文化研究科教授・中世文学・能楽研究)
15:20~15:50 報告1:「神事芸能と身心変容技法」木村はるみ(山梨大学准教授・舞踊学)
15:50~16:20 報告2:「淡路島の人形浄瑠璃と身心変容技法」奥井遼(京都大学こころの未来研究センター特定研究員・教育学・身体論・淡路人形浄瑠璃研究)
16:20~17:00 総合討論 司会:鎌田東二
第10回の研究会は一般公開の形で行なわれ、はじめに東京大学総合文化研究科の松岡心平教授が「中世の身心変容技法ー能を中心に」という演題で基調講演を行ないました。能における独特の「かまえ」という身体技法にスポットを当て、能の大成者・世阿弥が確立した現代の能のスタイルまでの変遷を様々な史実と分析によって展開。能と身心変容の関係をダイナミックに考察しました。
続いて木村はるみ山梨大学准教授が、「神事芸能と身心変容技法」をテーマに巫女舞、古代の舞など舞踊と神との繋がり、舞の継承、神社を巡る巫女とそのワザの伝承について数多くの資料をもとに解説し、神と演じる劇的空間で表現される宗教的身心変容について考察しました。
2012年度の研究会の締めくくりは、こころの未来研究センターの奥井遼研究員が「淡路島の人形浄瑠璃と身心変容技法」をテーマに、淡路人形浄瑠璃を対象とした調査研究を報告。人形浄瑠璃における三人遣いの「わざ」に着目し、人形を核とする三人のつかい手による暗黙のコミュニケーションからあみ出される身体論を細かに分析しました。
研究会後の鎌田教授による3つの発表に対するコメントは、同じく「研究問答」でご覧いただけます。
【2013年度の案内】第11回身心変容技法研究会(5月14日開催)/第12回身心変容技法研究会(6月13日開催)
本年度最初の研究会「第11回身心変容技法研究会」は、5月14日に開催されます。「芸術と身心変容技法」という総合テーマで、京都市立芸術大学音楽学部の柿沼敏江教授、京都市立芸術大学美術学部の高橋悟教授が研究発表を行なう予定です。また、第12回「ベルクソン研究第二弾」は6月13日の開催予定です。詳しくは、下記リンクをご覧ください。
□身心変容技法研究会ホームページ「研究会」
http://waza-sophia.la.coocan.jp/kennkyuukai.htm
河合教授の論文が『Spring Journal』に掲載されました
河合俊雄教授の英語論文が、ユング心理学誌 "Spring: A Journal of Archetype and Culture Vol.88 Winter 2012" に掲載されました。
Toshio Kawai (2013) "The 2011 earthquake in Japan: Psychotherapeutic interventions and change of worldview" Spring 88, 47-60.
In the face of earthquake disaster both material support and psychotherapeutic intervention are necessary for individual victims. Here I would like to address a third dimension: psychology of the earthquake from a global point of view. Although Japanese people are rather used to natural disasters, the 2011 earthquake brought about such unprecedented damage that it fundamentally shocked their existing worldview. In face of unexpected damages caused by the tsunami and the ongoing danger from the nuclear power plants, people no longer trust technology and the words of politicians and scientists. Unsatisfactory interventions and explanations after the disaster evoked more suspicion. In this sense, not only those in the stricken areas but the whole of the Japanese people were deeply touched by the disaster.
Jung believed that peoples' worldview and global psychology can be studied and changed through individual psychotherapy. In his concept of the collective unconscious the collective dimension can be found in the individual psyche. If this is the case, our psychological relief work with the victims of the earthquake can shed light on the changes in the worldview.
("The 2011 earthquake in Japan: Psychotherapeutic interventions and change of worldview" 論文より抜粋)
環境災害と集合的トラウマというテーマに沿った論文・論考が集まった今号のSpring Journalで、河合教授は、東日本大震災の被災地で取り組んだこころのケアの活動やこれまでの研究をもとに、現代の災害と人々の世界観の変容、そこから生まれる新たな学びと展開について考察しています。
河合教授は論文について、次のようにコメントしています。
"これまで震災のこころのケアを続けてきたなかで、震災・津波・放射能・トラウマなどの「大きな物語」に振り回されるのではなく、個々人の具体的な問題である「小さな物語」に関わることがこころの安定のためには重要であることが確かめられてきました。しかし今回の震災によって、これまでの世界観が根幹から揺るがされたのは事実です。この論文は世界観や大きな物語の変容に取り組んだもので、これまでの地震を扱った「遠野物語」の一話、村上春樹の『神の子どもたちはみな踊る』を手がかりにして、「無常」というあり方では対処しきれないことを指摘したものです。"
なお、この論文で紹介されている被災地での心理療法にふれた内容を『箱庭療法学研究』第25巻第2号の河合教授による巻頭言「震災のこころのケアからみた心理療法・箱庭療法」でお読みいただけます(日本語・PDF)。下記リンクからご覧ください。
「震災のこころのケアからみた心理療法・箱庭療法」箱庭療法学研究vol.25(2), pp.1-2」(J-STAGE ウェブサイト/PDFファイル)
畑中助教の論文が『箱庭療法学研究』に掲載されました
畑中千紘助教(上廣こころ学研究部門)の論文が、『箱庭療法学研究』第25巻第3号(発行:日本箱庭療法学会)に掲載されました。
Hatanaka,C(2013)From Dual Personalities to Reflected Adult Consciousness in the Psychotherapy of Dissociative Identity Disorder: The Dialectic Movement between Fake and Real 箱庭療法学研究25巻3号75-90
In contrast to conventional approaches in which it is important to treat the cause of the dissociative symptom, this case of dissociative identity disorder is distinctive in the paradoxical process. Although the child personality of the patient (alter personality) was thought to be a kind of fake, it has been kept in therapy. The process in which her child personality had been one-sidedly exaggerated and emphasized dialectically led the patient to internalize the dissociated personality and have a self-relationship in the end.
("From Dual Personalities to Reflected Adult Consciousness in the Psychotherapy of Dissociative Identity Disorder: The Dialectic Movement between Fake and Real" Abstractより抜粋)
臨床心理学を専門とし、いまの時代を生きる人々のこころに宿る問題と向き合い、研究に取り組む畑中助教は、本論文で解離性障害という現代の病に対して心理療法的視点からの新しい理解について論じています。